また始まった。 アパートの右隣に住む見るからに頭の弱そうな女子大生は、毎晩毎晩彼氏を自室に招きいれては行為に及んでいる。アホか。犬や猿でもそんなにするかよ。 今日の俺は機嫌が悪かった。バイト先のコンビニでまた外国人に英語で話しかけられたのだ。相手に悪意はあるわけもない。茶色い髪に緑の目。肌は女子にも羨ましいといわれるほど白い。俺の見た目100%外国人だ。 「ア、アイドンットスピークイ、イングリッシュ、ソーリー」 うつむいて片言英語を話す俺を見ながら、同じバイトの女子高生ユリがくすくす笑う。 「ケンさん、私代わりますよ」 ユリは帰国子女だ。今でもとっさの時は日本語より先に英語が出てしまう、とこの前休憩中にマフィンを食べながら偉そうに喋っていた。 「彼、ケンさんが話した英語は通じてなかったみたいですよ」 笑顔で本物外国人を送り出したユリは、何事もなかったように肉まんを補充しながらそう言った。 「黒いカラコンいれちゃえば、少しは日本人に見えるんじゃないですかねぇ?」 ユリの言葉にはあからさまに悪意があったが、俺は気付かないふりをしてあははと笑った。
「畜生!」 俺はベッドの上に寝転びながら思い切り壁を蹴った。ボロアパートの薄い壁はダイレクトに振動を伝えたらしく、女子大生の行為の声が止まった。でも数秒もしないうちに男とともに笑う声が聞こえた。「やっばぁい。超うけるぅ」 知るか。勝手にやっとけ。できちゃった結婚でもなんでもして、安定期にはいったら挙式して、苦労して出産して、でもすぐ旦那に浮気され、シングルマザーとしてキャバクラにでも働きながら『私シンママだけど頑張ってます』的なオーラを出して生きていきやがれ。でも子どもだけは絶対不幸にすんなよ、マジで。キャバクラでもフーゾクでもいいから、子どもの前だけではどうかいい母ちゃんでいるんだぞ。 「・・・って俺なんで人の人生応援してんだ・・・」 俺の父ちゃんはイギリス人だが、俺の母ちゃんを孕ませたあとすぐ姿を消したらしい。母ちゃんは岩手の山奥で畑を耕しながらたった一人で俺を育てた。そんな母ちゃんの血銭を踏みにじりながら大学に通った俺は、卒業後就職した会社をすぐ辞め、今はだらだらとバイト生活をしている。 「あんたからハーフを取ったら、なんにも残らない」 大学の頃付き合っていた彼女からそう、言われた。 知るか。
コツン、コツン、コツン。 隣のアホ女子大生も寝静まった午前一時、アパートの階段をあがるヒールの音がした。 リリーさんだ!俺はベッドから起き上がった。 俺は玄関ドアの前に立ち、耳を澄ませた。リリーさんは今、階段を登りきった。少し鼻歌。そして尻軽女子大生の部屋を横切り・・・
「ケーンちゃーん、起きてんでしょー」 チャイムの音と同時にリリーさんのしゃがれた声が聞こえた。 ドアを開けるとそこには瓶ビールをラッパ飲みしながらリリーさんが立っていた。 「飲も♪」 上機嫌に微笑むリリーさんの真っ赤な口紅の周りにはうっすらと髭が生え始めていた。
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