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不確かなもの「愛」
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第5回
5
「俺たちの由香利先輩」 山下は、心の中にずっとしまいこんできた思いをこのひと言に込めて言ったのだった。
健介と山下は同期の入社だった。社員研修で意気投合し、それ以来今日に至るまで親交が続いている。現在、健介の方は本社勤務、山下の方は関西の方に転勤している。たまに連絡を取り合っては酒を酌み交わし、近況を語り合ってきた。
山下の中で「由香利先輩」は憧れの女性だった。純粋に仕事に情熱をかけていた青春時代の中にあって、光り輝やく女神のような存在だった。それは、誰からも侵食されたくない思い出でもあった。 だから、健介と由香利の結婚にはかなりの衝撃を受けた。文字通り涙を呑んだのであったが、「離婚」は衝撃どころではなかった。原因を聞いて、彼は更にブチ切れたのである。長年の友ではあるが、どうしても健介を許せなかった。彼はしばらく健介と距離を置くことにした。顔を合わせなければ怒りを抑えることができたからだ。
憤懣やるかたない山下だったが、ついこの間、偶然由香利をみかけたのだ。彼女はひとりではなかった。彼女の横に長身の男性がいたのだ。ふたりは寄り添うようにして買い物をしていた。そのときの由香利の表情が生き生きとしていて美しく、山下は久々に日の光を浴びたような気持になった。ふたりは何か語り合いながら品物を手に取っていた。眼差しの優しさが二人の関係を物語っていた。
よかった!由香利先輩、今幸せなんだね。山下は心から安心した。 由香利とその男性はお似合いのカップルだなと素直に思えた。ふたりはずっと昔から一緒にいたような自然な雰囲気があったのだ。 実は、山下は、健介と由香利はどこかちぐはぐな感じがするカップルだと以前から感じていた。健介は典型的な体育会系、がっちりとした体格で喜怒哀楽がわかりやすい性格だが、由香利はきゃしゃで静かで安定した感じだ。 その男性は品がよく知性的で、ふたりでいると由香利が華やいだ雰囲気になる。
「山下く〜ん!」由香利が気づいて近寄ってきた。 「由香利先輩、お久しぶりです。あの・・・お元気そうで何よりです。」 「ありがとう。私ね再婚したのよ。あそこにいるのが夫です。」 「あ・・おめでとうございます!あの、お幸せに」 「ありがとう。山下君は順調ね。お元気でね。」 「あ、は、はい。ありがとうございます!」
久しぶりに聞く由香利の溌溂とした声にどぎまぎしながら応えた。由香利は会釈をして男性のところに戻っていった。
よかった!離婚は先輩にとっては正解だったんだ。心の中の重いしこりが融け、山下は、青春の輝きが戻ってくるのを感じた。それから健介とも会う気になったのである。
久々に見た健介は一気に老けたように思えた。疲れ切った表情に、由香利の再婚のことは話さないほうがいいと判断したのだ。
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