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作品名:星の語り手 作者:時野裕樹

第8回   名も無き追跡者(ネームレス トレイサー)
 ルーファスが玄室から外へ飛ばされてから数分後、二人の男女がその場所を訪れた。
 男のほうは赤い鎧に赤い外套を纏った銀髪の男であり、その特徴的な尖った耳と、鋭く青く澄んだ瞳から彼がエルフ族であることが容易にわかる。
 一方女のほうは背中に青い翼を持つ有翼族の少女である。大抵の場合、有翼人は白か黒の翼を持つ者であり、この少女の青い翼は非常に珍しいと言える。そのあどけなく愛らしい黒い瞳、首の後ろで編みこまれ可愛らしく纏まった黒髪も非常に印象的である。

 さてルーファスがいた玄室は全てが吹き飛んで跡形も無くなっていた。後には円状の大きな窪みとところどころにまだ炎を上げている建物の残骸があるだけである。 
「あらまあ、逃げられちゃったみたいですねぇ、将軍。全部焼けちゃってなんにも残っ て無いですよお」
 周囲を飛び回りながら有翼人の少女は言う。これを聞いて将軍と呼ばれた男は悔しげに顔を歪める。
「くそっ、さすがに逃げ足が速いな。あの女の娘だけのことはある。ドゥーニャ、ここ には何か奴の痕跡が残ってないか?」
 ドゥーニャと呼ばれた少女はふるふると首を振り、
「残ってるわけないじゃないですかあ。そんなミスをリーネはしませんよお。
 それより、彼女の空間を見つけて、こじ開けちゃいましょうか?今ならまだ間に合
 うかもしれませんよお」
 ドゥーニャは男からの返答を待ちきれないとでもいうように、彼のすぐ傍に下りてきて指示を待つ。男はほとんど表情を変えず、
「ふむ、君の提案はうれしいが、リーネはすでにこちらの世界との接続を絶ってしまっ
 ているだろう。今から彼女自身を捕まえるという選択肢は除外した方がいい」
 この返答にドゥーニャはがっかりしたのかがくりとうなだれる。男はそんなドゥーニャをみて、くすりと笑う。
「まあ、リーネの方は諦めるにしても、問題は彼女と接触したもう一方の人物だ。ドゥ
 ーニャ、そいつの存在情報については とれているのだろうな?」
 これを聞くとドゥーニャはこれを聞くと目を輝かせ、えへんと胸を張って、自身ありげに答える。
「はい、もちろんですよぉ将軍。『命名の書』の第H1290185号。名前は
 ルーファス。眼色は薄茶色。頭髪色は黒。存在危険度については区分C。
 ……なんか普通の人間の青年っぽいですね」
「馬鹿者。リーネと接触した時点で前の危険度などあてにならん。危険度をAに引きあ
 げるように後でプライムに言っておけ」
 これを聞いてドゥーニャは目を丸くする。
「へっ?えっ、Aですかぁ?そんなたかが人間の小僧にAなんてやりすぎですよお
 将軍。またプライムさんに馬鹿にされちゃいますよお」
 勘弁してくれとでも言うようにドゥーニャは唇を尖らせた。
「奴のことなど気にするな。奴がそういう判断を下すならば、奴がそれだけの男だった というまでの話だ。……ところで、肝心のその青年の現在座標についてはどうなって
 る?」
 ドゥーニャはしばらく言い兼ねていたが、やがて思い切って切り出した。
「それがですねえ……、消えちゃいましたあ♪」
「何? 消えただと?」
「はい、さっきからトレースしてるんですけど、もう該当する人物自体いないっぽいん ですよねえ…。私も多少の小細工なら見破る自身あるんですけど。もしかして口封じ に殺しちゃったんですかね?」
「…可能性としては無いわけでは無いが。あの娘もこちらの計画の進行状況については 察知しているはずだ。そろそろ一勝負仕掛けてくる頃だろう。この周囲から得られる だけの情報を集めるんだ。ルーファスとやらはおそらくこの世界のどこかで生きてい
 る」

 とその時だった。彼らの方向に何人かの足音が近づいてくる。見ると村人と思われる男たちが、農具や狩猟用の弓などを手にしてこちらに向かって来ていた。あっという間に彼らは十数人の男たちに周りを囲まれる。

「お前さん達は何者だ?」
 村人たちの中で最も老齢だと思われる男がこう切り出す。おそらく村長といったところだろう。これを見て将軍と呼ばれる男はにやりと笑う。
――……これはちょうどいい。
「ドゥーニャ、存在情報を」
「はい、この近くにあるセロという村の村長、名前はセルバンです」
「突然すみません、セルバンさん。私は赤き盾という組織の者で、ウムラウトの名も無 き影が1つ。それ故に周りからはただ単に『将軍』と呼ばれてましてねえ。何ともそ
 っけないと、そう思いませんか?」
 セルバンは一度に自分に浴びせられる情報に対応しきれずにおどおどする。
「赤き盾? ウムラウト? …何故私の名前を?」
「いやいや、別にすぐに理解する必要は無いですし、むしろもう理解できるだけの時間 はあなたにないでしょう。だってあなたには私たちにここにいたルーファスという少
 年について知りうる限りの情報を伝える。そのための時間しか残されて無いんですか らね」
 とたん男の周りの空間が歪む。と、村人のうちの一人が突風のような強い力に跳ね飛ばされて宙を舞う。彼の体は思い切り木に打ちつけられてその場に倒れ、動かなくなった。
「きっ、貴様何を!!?」
「私は非限定存在。あなた方のようにその存在、能力を縛られることがないのですよ、
 ねえ、人間族のセルバンさん。さあ、ここにいる皆さんが全てただの肉塊と化す前に
 話すべきことを話してもらいましょうか」
 彼の見えない力が再び村人たちに向かって振りかざされた。




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