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作品名:星の語り手 作者:時野裕樹

第7回   静謐の檻 その2
「ちょっと早く起きて、ルーファス!」
 リーネに揺り起こされて、俺はぼんやりと目を覚ます。
――全く自由に寝て起きる権利ぐらい欲しいもんだ。
 俺はもう一度寝直そうとする。すると、
「起きろって言ったら、さっさと起きろ!!」
ガツッ!!
――!!?
 リーネの蹴り(まず間違いないだろう)が頭にクリーンヒットして俺は部屋中を転げ回ってもだえる。ぐらぐらと揺れ続ける視界に耐えながら俺は叫んだ。
「何しやがる、この馬鹿!! 他に起こし方なんていくらでもあんだろ!!」
「だってこっちが必死に起こそうとしてんのに起きようとしないから、イラっときちゃ ったんだもん。ってそんなことより、あんたがアホみたいに大口開けて寝てる間にち ょっとまずいことになったわ」
 いろいろとつっこみたいところはあったが、リーネの話し方にただならぬものを感じ、とりあえず気にしないことにする。
「…まずいことって何だよ」
「あいつらがあんたのところに向かってるの。私としたことがうかつだったわ。こんな に早くあんたとの接触がばれるだなんて」
 …ああ、そうか、これは何となくわかるぞ。これは俗に言う『死亡なんたら』ってやつだ。
「ってかあいつらって何だよ!? たぶん今俺は相当面倒くさいことに巻き込まれつつ あるだろ。違うか?」
「いやーしばらくこんなところで生活してて完全に平和ボケしてたんだけど、私ったら 実はまずい奴らに命を狙われてんのよね。で、そのまずい奴らがあんたのところに向 かってるのよ。よく考えたらあんたのいる空間って物理的には他から隔絶されてるの かもしれないけど、その他は開放的(オープン)なんだもんね。
 あははっ、そりゃばれるわ」
 リーネはけらけらと笑う。
「勝手に一人で納得するな! それでどうすりゃいいんだ? このままじゃ危ないんだ ろ」
「ま、そうなんだけど…。あんたの方でやってもらうことは特に何もないわ」
「へ?」
「あんたがもし失敗でもしたら逆に邪魔だし。空間同士の繋がりも術者のあんたがどう こうするより、私が外から思いっきり干渉かけて破壊しちゃった方が楽だから。   ただ私が作業に集中してる間静かにしといてくれればOK!どうできる?」
 悔しいが完全に主導権はあちらにあるらしい。
「…。だけど俺はどうやってここから逃げればいい? 外から鍵かけられてて、俺は今 ここから出られないんだ。洗いざらい吐かされた上に殺されるなんて俺は嫌だぞ」
「それについては私に任せて。ついでにあんたも存在情報を少しいじって、他の場所に 吹っ飛ばすから」
「存在情報をいじる? 吹っ飛ばす?」
「あ゛あ゛、もういちいち説明が面倒ね。存在情報をいじるっていうのはあんたをどこ かに送った時に追跡(トレース)されないようにあんたの存在自体に少し手を加える の。別に化け物にするわけじゃないからそこは安心して。吹っ飛ばすってのは言葉通 りあんたの存在を言葉に置き換えた後、別の場所で再構築するわ。ただどこに飛ばす かまでは保障できないから、もしそれで死んじゃった時のために今のうちに謝っとく ね♪」
「『謝っとくね♪』じゃねえよ。もっと安全な方法は無いのかよ?」
「何言ってんの。緊急事態よ、緊急事態。贅沢なこと言わないの」
「別に贅沢じゃねえだろ。ただこっちは五体満足で逃がしてくれって言ってるだけだ  し」
「…そこまで言うなら分かったわよ。飛ばす前に言霊一個付けといてあげるから。
 ちなみにこれについては聞かないでよ。どうせすぐに分かるから」
 どうやら他に手段も無いようだ。俺は観念する。
「わかったよ。後は全部リーネに任せる。ただ失敗だけはしないでくれよ」
「さっすが、ルーファス。思い切りがいいね。普通は尻込みするとこだよ。
 そんじゃこっちも思い切っていかせてもらいまーす!」
「おい、待って、やっぱこれめちゃくちゃ危険なの?」
「うるさいから黙って!!」
「ぐっ……」
 リーネに言われて俺は押し黙る。


……しばらくして俺は静寂に耐え切れず口を開く。
「なあ、リーネ?」
「何? まだ終わって無いわよ」
「お前が今いるとこってどこなんだ?」
「…そんなの聞いてどうすんのよ?」
「どうするって…。そりゃ会いに行くに決まってるだろ」
「場所の名前なんか知っても会いになんて来れないわよ」
 リーネはそっけなく返す。
「そんなのやってみなきゃ分からないだろ」
 しばしの静寂の後、答えは返ってきた。
「…静寂の宮殿(サイレントパレス)よ」
「また嘘じゃないだろうな?」
「何で私がこの期に及んで嘘をつかなきゃいけないのよ! 本当よ」
「そっか静寂の宮殿(サイレントパレス)か…」
「あんた一応言っとくけど、もしまかり間違って来れるようなことがあってもここには 来ちゃだめよ」
「何でだよ」
「何でもよ」
「何だよそれ…。俺が行ったらまずいことでもっ!? な、なんだ!!?」
 周りが大きく振動する。空間そのものが歪められる…。腹の中がひっくり返り、頭の中が混ぜっ返されるような超気持ちの悪い感覚に、俺はむせ返る。
「さあ準備はいい? 行くわよ!! それじゃあルーファスありがとう、
 そしてさよなら」

 今までの真っ暗だった空間が強い光で照らし出される。俺はリーネの顔が見えるのではないかと必死に目を開けようとしたが、あまりに眩しすぎて目を開けることができなかった。

 だんだんと自分の感覚が無くなっていくのを感じる。そんな中で俺の中にリーネの言葉が入ってくるのを感じる。

――そして咎人の娘は再び運命の鎖に繋がれし男を生み、
      今しばらく人々の想いの言葉の海で永き眠りに就きましょう


※※※※※※※※※※※※※※※※


「おい、坊主。起きろ」
……最近こんなんばっかだな。
 俺は目を覚まして辺りを見回す。気がつくと俺は大平原の雄大な木の元にその身を横たえていた。リーネはどうやら術を成功してくれたようだ。
 さて、声の主はと探してみるが、周りには誰もいない。
「空耳か?」
「何言ってやがる。俺様のありがたいお言葉を空耳とはいい度胸だな」
――なっ!!?
 それは他の誰でもない俺の言葉だった。俺の口から勝手に言葉が出ている。
「だっ誰だ? 人の体を勝手に操りやがって」
「操るとはこれまた失礼な。別に俺様は坊主の言葉を借りてるだけだぜ。その他は髪の 毛一本操っちゃいねえ。俺が誰かって問いだが、おいらはレイラの嬢ちゃんに
 紡がれし言霊が一つ『烈言のオルデュオ』様だ。どうだ驚いたか?」
「ってかそれ何?」
 姿無き声の主はこれには絶句したようだ。少しの間があった。
「…そうか、あの嬢さんろくに説明してなかったな。よおし、わかった。いいか、
 坊主、俺様はだな嬢ちゃんはもちろんだが、世界中の人々の想いを集めて造られし、 『生きた言葉』。それこそ超絶無双にありがたい存在だ。
 存在定義は「ねじ伏せる者」。どうだ!わかったら俺様を敬え、称えろ!!」
――どうやらとんだ勘違い野郎らしい。
「別にお前がいようがいまいが俺には何も問題は無い。むしろ迷惑なくらいだ。
 …わかったら黙っててくれないか?」
「うぉぉおい!! わかった。俺が悪かった。だからせめて“オルデュオ様”と
 呼んでくれ」
「……」
「わかった! 呼び方もオルデュオでいいから!! 無視しないでくれ!」
 リーネもとんでも無いものを俺にくっつけてくれたものだ。これではうるさくて夜もろくに眠れそうも無い。そんなことを考えていたところに再びオルデュオの奴が口をはさんでくる。
「ところでだな坊主。お前これからどこへ行けばいいかわかるのか?」
――そういえば俺は今自分がどこにいるのかもわからんのか…。
「ははっ。さては図星だな。将に今こそ俺の出番だな。いいか、待ってろ俺がこの世界 についての情報を読み取って、どこへ行けばいいのかを示してやる」
「そんなことができるのか?」
「当たり前だ。俺を含めて大抵の言霊は対象から様々な情報を得ることができる。それ こそ目の前の相手の出生から、横を通り過ぎた女性のスリーサイズまでな。どうだ
 すごいだろう」
 やっぱりコイツ、ろくな言霊ではないらしい。
「お前の微妙な例えのせいで伝わりにくかったけどわかったよ。わかったからさっさと やってくれないか?」
「おいおい、俺が優秀すぎるからって、そんなに邪険にするなよ。よおし、いくぞぉ!
 …………。よっしゃあああ!わかった!!ここから北の方向にしばらく行けば小さな 村が見えてくるはずだ!」
「ほう、…で北ってどっちだ?」
「……えっと、あの、そのですねえ。すいません、もうちょっと待ってもらえます?」
 やっぱりコイツ、超絶無双にろくでもない言霊らしい。

 こうして俺の果てしなく長く、先の見えない旅は始まった。



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