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作品名:明日に栄光あれ 作者:yuu?

第2回   仲間
 よくよく考えると、成功なんかしそうにない気がしてきた。
 ここにきて、冷静な判断と当然の良心が脳を刺激する。
 今はうどんを食べながらいい○もを見てクスクス笑っている。なんだ結局なんにもやってねーんじゃないかって思ってるそこのあなた。全くもってその通りだ。
 朝からずっと、強盗グッズを眺めながらいろいろ考えていたが、煮詰まってきてどうしようもなくなっていた。一応、一連の流れをもう一度シミュレーションはしていた。

 タオルを巻いて突っ込む → 「手を上げろ、金を出せ!」と言いながらはさみを突き出す → 「このかばんに入れろ!」旅行カバンをカウンターに乗せる → 自転車で逃げる。

 流れは完璧だと思う。訂正しよう。流れ、だけ、は完璧だ。
 冷静になると、こんなにうまくいくわけないと思う。一つ一つを検証していこう。
 まずタオルから、実際に頭に巻いてみた。頭と口のところを隠すために二枚用意して、目のところだけ隠れないようにしたのだが、欠点があった。それは欠点だらけということだった。
 ちょっと動くとすぐに目のところが隠れてしまい、何も見えなくなってしまうという致命的な欠陥もさることながら、口のところの空気がこもって苦しくなる。なので、口元のタオルを緩めてしまう。しかしそうするとすぐに解けてしまうので、顔を隠す目的が果たされていなかった。何より、わざわざ緩めなくてもすぐに解ける時点でダメダメだった。
 そしてはさみ、これも問題だった。はさみを持って、鏡の前に立ってみた。頭にタオルを巻き、はさみを持った自分の姿を客観的に見て、まず大笑いしたことが問題だった。マヌケすぎた。インパクトのかけらもない。純粋な笑いから泣き笑いになりつつ、これはいかんなという判断が下った。
 そしてカバンなんだが、ぶっちゃけかさばりすぎた。新聞紙を札束に見立て、カバンに詰めて持ち歩いてみたのだが、ガラガラとカバンを引っ張る姿はどう見てもトラベラーだった。今からやろうとしているのはバーグラーである。どこへ行こうというのかね? とム○カ風の男に突っ込まれた気がした。
 そして自転車なんだが、今の旅行カバンを乗せるスペースがないこともあるが、ボロイので基本的にスピードが出ない。それなりの自転車だったら、車くらいに追いかけられても逃げ切る自信はあるのだがごめんうそ根も葉も根拠もない虚言です。車というか、パトカーに追いかけられたらまず逃げられそうになかった。
 そんなことをしていて、気づいたらお昼になっていたというわけである。レトルトの生うどんが冷蔵庫にいくつか保存してあるので、その一つを温めて食べているのだ。うどん大好き。
 これは自分流なのだが、うどんにタコを入れて食べるのが好きなのだ。茹でたタコの歯ごたえが好きで、たまに贅沢したい時はこうして茹でタコを入れている。うどんもすでに出来上がり、熱々のタコを乗せてテレビの前に座り、スイッチを入れる。
 そしてのんびりテレビ見て笑いながら、うどんをすすっていたのである。
 ぼんやりした頭に大好きなタコうどん(命名者は自分)を食べることにより、脳みそが活性化したのか、いいことを思いついた。
 今の自分に足りないものがあるということだ。
 さっそく電話して、足りないものの補充に努めることにした。



「これから何やるんすか〜先輩? ってかこれなんすか?」
 この第一声から先輩に対する敬意ゼロな会話をするのは、私が前働いていたところにいた後輩である。
 名前は川本洋平、年齢は僕より下で大抵仕事を一緒に組まされた奴でもある。
 はっきし言って仕事じゃ使えない奴だった。報告書作って来いって言ったら、意味の分からない文字の羅列が並んだ、汚い手書きの報告書を持ってきた。それは結局、自分で書き直すことになった。他にも、客先に会いに行く時でも、こいつの遅刻が原因で取引がうまくいかなかったりした時もあった。ちなみに、遅刻の原因は緊張しすぎで朝まで眠れなかったという。気持ちはわかるが、失敗しちゃなんの意味もない。
 そんなこんなもあって、自分がリストラされた原因の一端を担っている奴でもあり、同様にこいつもリストラされたので仲間にはうってつけだと思った。
「お前さ、今何やってんの?」
「俺っすか〜? 今はバイトしてますよ〜」
「生活苦しくないか?」
「う〜ん、まあ正直苦しいっすね〜」
「そうか、だったらさ、これからちょっと銀行強盗しようと思うんだけど、君どう?」
「銀行強盗っすか〜。ぱねぇっすね」
「だろ、成功したら一気に大金持ちだぜ?」
「まじっすか! いいっすね!」
「どうだ? 俺といっしょにやらないか?」
「あ〜、けど俺、銀行強盗なんてやったことないっすよ」
 どっかで聞いたセリフだな。
「大丈夫だろ。きっとうまくいくって」根拠ないがな!
「そうっすか〜。だったらいいっすよ〜」
 そんな具合で、仲間ができた。仲間が出来たことに満足した僕は、とりあえず酒盛りを提案した。
「いいっすね〜。今日明日はちょうどバイトも休みなんで付き合いますよ〜」
 そして酒盛りが始まった。部屋中酒臭い匂いに満たしながら、先の見えない恐怖を紛らわせる。
 一攫千金を夢見て……っていうか、気持ちの上ではすでに強盗が成功しているつもりになっていた。酒が足りなくなったから、とりあえずまた買ってきた。大金が手に入るんだから、これくらいの出費なんてはなくそみたいなものだろう。
 弱い僕は早々に寝たが、後輩は結構飲んでいるようだった。
 まどろんでいく意識の中、ガブガブト酒を飲む後輩の姿が目にうつる。
「お前……他人の金だからってそんな……飲む……な…………」
 僕はそのまま気を失った。
 ついでに来月の食費も失った。


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