いつでも、待っていた。 誰かが此処を訪れるのを。 此処に彼女を訪う者は少ない。 深窓で大事に大事に育てられている実感はあったが、それはひどく空虚で空しい、つまらないものだった。 いつになったら、お母様は来て下さるかしら? 母恋しい、今更そんな年頃でもないかもしれないが、それでも少女は待っていたのだ。 次に来て下さるのはいつだろう。 その次はいつになるのだろう。 何ともなしにそんな事を、考えて居た。
それでも、今日の待ち人の到来を、少女は全く持って素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。 彼女の母親は入って来るなり、人払いをした。 そうして最終的にそこに残ったのは彼女の母親と、自分の乳母子だけだった。 いつも微笑んでいた母親は、その時ひどく表情が硬かった。 理由は、察していた。 だからこそ、彼女は何も言えなかった。 ただ何も言えず、母親の美しい横顔を眺めていた。
母親は、少し逡巡するような仕草を見せたかと思うと、おもむろにある事を少女に切り出したのだった。そうしてそれを聞いた瞬間、少女の表情は傍目にも分かるほどにみるみる内に青ざめていった。
「どうして……」 辛うじて呟くのがやっとだった。 「仕様ないのです、耐えなさい。あなたは陛下の娘なのですから」 彼女の母は、全く否定を受け付けないような硬質な口調で彼女にそれを強要したのだ。 「……お母様、それだけはどうか……どうか許して!!」 それはいけないことだ。 あってはならぬことなのだ。
絶望と、それ以上の哀しみに心が朽ちてしまいそうだった。
いくら待っても、母親の返答が変わらない事に少女は気がついた。 少女はだまって、母親に向けて一つ頷いた。
「分かりました、母上」
そうして、その瞬間。 彼女は彼女ではなくなったのだった。
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