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作品名:宇宙人 作者:黒川

第8回   8
 僕たちは四年生になった。そして、いつのまにか修治君のこともすこしづつ頭から離れていった。
修治君からもらった小さなピンクの小さな石は、いつも、筆箱の中に入れて置いた。これを入れておくと、修治君のように頭がよくなる気がしたからだ。勝也もそれを真似して、筆箱に入れていた。裕太はランドセルにつけてある、交通安全のお守りの中に入れていた。
「おい勝也、今日はきのこ爺さんの家のイチゴを食べに行こうぜ」
裕太が勝也を誘った
きのこ爺さんはなんだかんだと言っても、野菜や果物を作るのは上手だった。それは僕たちが一番良く知っていた。春はなんと言ってもイチゴだった。もちろん、きのこ爺さんに断って食べる訳がない。悪い言葉で言うとドロボーだ。
「よし、今日はでかいのを食うぞ」僕たちも悪いことをしているとは分かっているので、食べるのは、一人一個と決めていた。
 学校が終わると、真っ直ぐきのこ爺さんの家に向かった。ところが、今日はじいさんが畑にいた。
「お前ら、今日は俺がここにいて、イチゴ食えなくて残念だな」どうやら気付かれていたらしい。でも、きのこ爺さんは、僕たちがタヌキの件を黙っていたので、最近ちょっと優しくなった。
僕たちはなにも言わずに沢に向かった。春の日差しは柔らかで、その日差しを受けて、山の緑は少しづつ息を吹き返しているようだった。山の新芽は、なんというかフワッフワッと、赤ちゃんの髪の毛のような感じで、そこここに芽吹いていた。遠くの山を見ると、山の上にはまだ雪が残っていて、かすんだ感じにその緑が見えた。まるで、有名な画家の描いた絵のようだった。

「勝也、今日はダメだ。きのこ爺さんがいたんじゃ、イチゴは食えない」裕太が言った。
「しょうがない。でも、俺たちが食ってたのバレてたな、浩介お前ばらしたのか」
「言うわけがないよ。でも、イチゴ食べたいな・・・なんだよ、そういえば、家で作ってるんだよ。家に行けば食べれるよ」
「いや、隠れて食うから、うまさが増すんだ。まさに、隠し味とはこのことだ」最近勝也は、天然なのか、頭がいいのか分からないことを言うようになった。
「でも、春は気持ちいい」そう言うと僕はランドセルを枕にして、寝そべって空を見上げた。みんなも同じように空を見上げた。
「修治君元気かな」勝也が懐かしそうに言った。
「修治君のことだ、どこでもちゃんとやってるよ。でも、最初修治君を宇宙人だと思ってたもんな。あの時計のせいでさ」そう言うと裕太はハッとして、僕達が、宇宙人の落とした時計を置いた場所を見た。そして「あれ・・・やっぱり・・・いや・・・そんなはずは・・・でも・・・分からない」と腕組みをした。眉間にしわまで寄せて考えているようだ。僕と勝也はそんな裕太を黙って見ていた。
「解けない謎があるんだ」裕太が言った。
「修治君のママの時計はデジタル時計だというのは分かった。でも、よくよく思い出すと、ここで見つけた時計と、修治君のママの時計はまったく同じ時計だ。それに、修治君のママが時計をしていた時は、ここに時計がなかった。って言うことは・・・」
「やっぱり修治君は宇宙人だったってこと?」勝也は起き上がった。
「別にいいじゃないか、例え修治君が宇宙人でもかまわないよ。僕たち四人は友達だもん」僕は筆箱に入れておいた、修治君からもらった石を手に取り、それを眺めながら答えた。
「そうか・・・そうだな・・・浩介の言う通りだ。修治君が宇宙人でも怪獣でも、俺たち友達だもん。だけど、なんとなく気になるというか・・・」裕太はまた、腕組みをした。
「そういえば、UFO見たときもこんな感じだった。勝也覚えてるか」僕は勝也を見た。
「覚えてるよ。ほら、あそこ。あんな感じでカクカク動いていたんだよ・・・・・そうあんな感じで・・・・・やばい、本物だ!」
 僕たちは、ランドセルを持つといっせいに逃げ出した。
「逃げろー!」
 しかし、その光はグングン僕たちのところへ向かってきた。しかし一番先を走っていた僕が石につまずいて転んでしまい、勝也も裕太も僕の体にぶつかって転んでしまった。今度こそもうだめだと思った瞬間、UFOは物凄い音を立てて、僕たち三人の上に着陸した。幸いなことに、UFOの胴体と地面にすきまがあったので、僕たちは潰されずにすんだ。
 しかし、UFOは眩い光を放っており、僕は目がくらんで何も見えずUFOがどんな形をしているのかまったく分からなかった。
 目の痛みに耐えられなくなった僕はぎゅっと目を閉じた。そして、恐怖とUFOの着陸の衝撃で気を失いそうになるのを必死でこらえていると、大きな着陸音でキーンと鳴っていた耳から話声が聞こえてきた。
「どう、ここに来れるのはこれで最後だけど、宿題は終わったの?」
「うん、あとはこの絵に色を塗れば終わるんだ。やっぱり写真じゃどうしても色が分からなくて」
「この子ったら、ここに来るといつも目が輝いてるわ。よっぽどここが気に入ったのね」
「私もそうだよ。こんなに綺麗に星が見える場所はないからね」
「そうね、ここは空気もおいしいし、みんないい人だったわ。それにこの景色。また、こんなところでのんびりと生活したい。でも、もう来れないと思うとなんだか寂しいわね」
「どれ、ちょっとパパに絵を見せてごらん・・・ほお、なかなか上手に描けているじゃないか。これはみんなで遊んでいるところだね。この子たちはいつも遊んでいた友達だね」
「そうだよ。この三人が友達で、これが僕なんだ」
「そうか。みんな仲良く遊んでいたからね。でも、あの子たちは、ここがあんなことになるなんて・・・なんだか可哀想な気がするね」
「うん、だから、みんなのためにこの絵を描くんだよ。僕らがこんな素敵なところで遊んだって、忘れて欲しくないから」
「そうね、きっとみんなも分かってくれると思うわ」
「・・・この声は・・・」僕は聞き覚えのあるその声を聞くと、ほっとして、すーっと意識を失ってしまった。

「グオーン」という物凄い音と、「ピカー!」と眩しい光で僕は意識を取り戻した。
「あれ?なんでここに寝ているんだろう」気がつくと僕は左手にピンクの石を握り締めたまま寝ていた。隣では勝也と裕太が気を失っている。汗びっしょりの体を上半身だけ起こし、僕は二人の体を揺さぶった。
「おい、裕太!勝也!起きろ」
「あれ?なんでこんなところで寝てるんだ?」勝也はポカンと口を開けたまま僕の顔を眺めた。
「ふあー、なんだか耳がキンキンするな」裕太も同じように口をポカンと開けたまま空を見上げた。
 僕は立ち上がり、二人の顔を見回しながら言った。
「さっき、UFOを見ただろう?やっぱり修治君は宇宙人だったんだ。あのUFOに乗っていたんだよ」
「へっ?」というと二人は顔を見合わせた。そして怪訝な顔をして僕を下から覗き込んだ。
「どうしたんだよ。さっきのUFOのこと、あれには修治君が乗っていたんだぞ!」僕は大きな声でどなった。
 裕太はもう一度勝也の顔を見てからゆっくりと僕の顔を見た。
「浩介。お前何言ってんだ?俺たちUFOなんて見てないぞ。それにシュウジって誰だ?」
「えっ!何言ってんだよ、ここで一緒に遊んだだろう。それにさっきも修治君の話をしてたじゃないか!」
「さっきはいちごの話をしてただろう?きのこ爺さんが畑にいて食べられなかったって」勝也はそう言ってランドセルについた埃をはらった。
「俺、帰る。なんだか耳がキンキンしてさ」おでこを手で叩きながら勝也がランドセルを背負った。
「俺も」裕太も同じようにランドセルを背負った。
「ちょっと待ってよ、どうしてあんなに楽しく遊んだのに忘れちまうんだよ。俺たちと修治君は友達だろう。なあ、そうだろう!」
「浩介、お前夢でも見たんじゃないのか。俺はシュウジって奴と話した覚えもなければ、遊んだ記憶もない」裕太はそう言うと、くるっと回り僕に背を向けて歩き出した。勝也もその後に続いた。
「お前ら・・・お前ら、本当に忘れちまったのか!なんでだよ!」
僕の大声が聞こえたのか聞こえていないのか、二人は首をぐるぐる回したり、手で頭を叩きながら帰って行った。僕は二人に忘れられてしまった修治君が可哀想で、それが悔しくて涙があふれ出て止まらなかった。
 しばらくすると、ざくざくと足音が聞こえてきた。
「浩介、どうしたんだ一人で」後ろを振り向くと、そこにはきのこ爺さんが立っていた。
「じいさんは見ただろう?」
「何を見たんだ。何も見てないぞ」
「UFO見なかったの?そこには修治君もいたんだ」僕は聞いた。
「UFO?UFOなんてあるわけないだろう。それにそのシュウジというのは誰だ」
「修治君は、ほら、東京から転校してきた子だよ」
「東京から転校してきた子なんていたか?お前らいつも三人だったじゃないか」
「えっ!」
「お前、タヌ・・・いや、キツネにでもバカにされたんじゃないのか」
「そうだよ、じいさん、タヌキに騙されたとき、俺たち三人の他にもう一人いただろう」
「あの時は、三人だけだったじゃないか。なにを言ってるんだ。ついに頭までおかしくなったか」そう言うときのこ爺さんは、家の方へ戻って行った。
「どうして」僕はどうして修治君のことをみんな覚えていないのか不思議でならなかった。
「そうだ!学校に言ってみよう。三郎先生がいたら確かめてみればいい。きのこ爺さんはボケてるのかも知れないからな」僕はランドセルを背負うと学校へ走った。
 学校に着くと三郎先生が外で草むしりをしていた。
「おっ手伝いにきたのか。暖かくなってきたら急に草が生えてきてな。よし、お前も手伝え」
「今、とっても急がしいんだ。ねえ先生、修治君って覚えてるよね」
「ああ、修治な、覚えてるよ。でも、なんでお前、修治のこと知ってるんだ」
「だって友達だもん」
「友達?何を言ってるんだ。修治は俺の高校の同級生だぞ。なにか勘違いしてないか」
「勘違いしてるのは先生の方だよ。ほら、夏休みが終わって、東京から転校してきた修治君だよ」
「は?そんな子いなかったぞ。お前らの学年の男は、浩介、裕太、勝也、それだけ」
 僕はそれを聞いて唖然とした。三郎先生の顔はうそを言っている顔には見えない。どうして三郎先生まで修治君を忘れてしまうんだ。
「先生、去年の運動会の写真見せてよ」
きっと写真には僕たち四人が写っているはずだ。そう思い先生にお願いした。
「面倒くさいな、まったく」そう言うと三郎先生は職員室に入っていった。僕もそれに続いて職員室に入った。
「ほら、運動会の写真」
 ペラペラとアルバムをめくっていった。三年生の八十メートル競走のスタートの写真がある。そこには僕と裕太と勝也の三人がいっせいにスタートしている写真があった。でも修治君はいなかった。
「どうだ、お前たち三人だけだろう」

「ありがとうございました」ようやく言葉を発した僕は、とぼとぼと職員室を出た。ちょうど、そこに幸恵ちゃんと久美子ちゃんが通りかかった。
「また、三郎先生に怒られたの」幸恵ちゃんと久美子ちゃんはにやにやしていた。
「違うよ。ちょっと三郎先生に運動会のアルバムを見せてもらってたんだ。ねえ幸恵ちゃん、修治君て子分かる?」
「シュウジ君?知らないよ。久美子分かる?」
「私も知らない。でもなんでそんなこと聞くの」
「いや、なんでもないよ・・・」
 
なんでみんな修治君を覚えていないんだ。僕は学校のブランコに座り黙って下を向いていた。悔しくて、また、目から涙があふれ出た。その涙がぽたっと僕の左手にあたった。
「そうだ!」僕は、そーっと左手を開いた。そこには修治君からもらったきれいなピンク色の石があった。
「やっぱり修治君は、僕たちの友達なんだ!」僕はもう一度その石を左手でぎゅっと握り締めた。
それは、僕と裕太と勝也と修治君がここで一緒に遊んだことを証明するものだった。どうして、裕太と勝也、それにみんなが修治君を忘れてしまったのか、それは分からない。もしかすると、修治君は地球を偵察にきた悪い宇宙人かも知れない。それを隠すために最後にピカーと光ってみんなの記憶を奪ったとも考えられる。
 いやそれは違う、最後に「みんなのためにこの絵を描くんだよ。僕らがこんな素敵なところで遊んだって、忘れて欲しくないから」修治君はそう言っていた。そんな優しい修治君が悪い宇宙人なんてことはありえない。きっといい宇宙人なんだ。でも、宇宙人だってことを知られては困るから、みんなから記憶を奪ったんだ。
でも、どうして僕だけ忘れていないんだろう。僕の宇宙戦艦ヤマトが気に入ったから修治君は記憶を消さなかったのかな。確かにあれは自信作だったけど、裕太のも勝也のもかっこ良かったと思うし。
「そうか!」
 僕は、もう一度左手を開いた。
「そうか。この石か。きっと、この石を持っていたからなんだ。きっとこの石には不思議な力があるんだ」
 僕は空を見上げた。「みんな修治君を忘れてしまったけど、僕たちは友達だよね。もう会えないかも知れないけど、僕たちは友達だよね」


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