いつも僕たち四人は一緒に帰って、野球をしたり、山に冒険にいったり、コンバットごっこをして遊んだ。最初は、修治君は勝手がわからず、ただ、僕たちの真似をしたり、後をついてきただけだったが、最近は「あそこに行ってみよう」とか「僕もサンダース軍曹がやりたい」と言うようになってきた。 今日は、僕たちは学校が終わって、修治君の家にいた。修治君の家はすっかり引越しの荷物も片付いていた。 修治君のママが、ジュースを持ってきてくれた。 「いつも、遊んでくれてありがとう。最近、修治ったら真っ黒に日焼けして、ちょっとたくましくなってきたみたい。それから、修治、出かけて来るから、チョコレートでも出してあげて。みんな、ゆっくりしてってね」 「うん、分かった」修治君はチョコレートを取りに台所に行った。 「すごいな、これ、宇宙の本がいっぱいだぞ」裕太は驚いているようだ。「見てみろよ、あの、天体望遠鏡、あれは、俺の持ってるやつの五倍はあるぞ。それに、いっぱいボタンもあるし。やっぱり、宇宙人は持ってるものが違うな」 修治君は「これだったかな」といいながら、チョコレートを持ってきた。それは、ウイスキーボンボンだった。僕たちはその大人のチョコレートを食べながら、天体望遠鏡を珍しそうに見ていた。 「僕のパパ、星空を見るのが好きなんだ。ここは、すごく星がきれいに見えるって喜んでたよ。その本もパパのものなんだ」 「スゲーな、俺もこんなんで星見てみたいな」。 その時、修治君のパパが帰ってきた。 「ただいま」 「あれ、パパ、今日早いね」 「仕事が早く終わったんだよ。ママは」 「ちょっと、出かけてくるって。それから、僕の友達がきてるんだ」 修治君のパパは、黒いメガネをかけて、ほっそりとした、学校の先生みたいな感じだった。ちょうど、僕たちの学校の五年生と六年生の担任の小川先生そっくりだった。よかった、修治君のパパもいい宇宙人のようだ。でも、変身してもバルタン星人にはとてもかないそうもない。 「ああ、こんにちは」 「こんにちは」 「いい天体望遠鏡だろう。こっちに来るって決まったとき、我慢できずに買ったんだよ。いやーこっちは星がきれいで、毎晩楽しみなんだ。よかったら、その辺見てごらん。でも、太陽はみちゃだめだよ、目をやられちゃうからね」 それを聞いて、裕太が、早速天体望遠鏡を覗き込んだ。 「うわースゲー、あんな遠くのものがはっきり見える」 「見たい、見たい」僕も天体望遠鏡を覗き込んだ。本当に遠くのものが、手で届くように見えた。「でも、反対に見えるよ」 「そう、天体望遠鏡は反対に見えるんだ。君も見てごらん」脇でチョコレートを食べていた勝也に修治君のパパが言った。 勝也は、天体望遠鏡を覗き込んだ。 「本当だ、すごいな、反対に見えるし、グルグル動いてる」 「えっ、動いてる?そんなはずはないんだけど」そういうと修治君のパパは天体望遠鏡を点検し始めた。その時は分からなかったが、たぶん勝也は酔っ払っていたのだろう。 「いいなあ、こんなんで夜空を見てみたいな」裕太は羨ましそうに言った。 「今度、夜、見せてあげるよ」 「ホント」裕太はとっても嬉しそうだ。 修治君のパパは星座の本を持ってきて、あれこれ話しを始めた。それを見ていた修治君は 「パパ、僕たち宿題するから、部屋に行くね」と言って、僕たちを部屋に誘った。 「僕のパパ、星座の話が始まると、止まらないんだ。だから、部屋で遊ぼう」 修治君の部屋はきれいだった。いつもママが掃除してくれるそうだ。机には、僕たちの見たことのない参考書がいっぱいあった。それに、僕たちの見たことのないマンガもいっぱいあった。 僕たちの住んでいるところには本屋がなかった。だから、マンガを見る習慣がなかった。もちろん参考書を見る習慣もなかった。 三郎先生はあまり宿題を出すことはなかったが、今日は、漢字の書き取りの宿題を出した。宿題を終わらせてから、マンガを見ることにして、宿題を始めた。 修治君と裕太はすぐ終わった。そして、マンガを見始めた。僕も終わってマンガを見始めた。勝也は終わらなかったがマンガを見始めた。 突然裕太が言った。「そういえば、あそこの沢、水きれいになったかな。行ってみないか」 「でも、水がきれいになっても、魚は戻ってこないって父ちゃん言ってたよ」 「行ってみようよ」修治君は裕太と同意見だ。 修治君の家を出て、いつもの場所に向かった。家を出るとき修治君のパパはまだ、星座の本を読んでいた。「行ってきます」僕たちは沢へ向かった。勝也は「顔が熱い」と騒いでいた。ウイスキーボンボンの食べすぎだ。 沢に着いて、いつものようにソーっと茂みから顔を出した。水はきれいになっていたが、魚はいなかった。僕たちはガッカリした。そして、今来た道をとぼとぼ歩いていたが、勝也が、「なんで工事なんかするんだよ」と言って、道にあった石を拾って投げた。手元が狂ったのか。やばいことに、きのこ爺さんの家の窓ガラスに当たって、窓ガラスは割れてしまった。 「やべ、逃げろ」僕たちは、走って逃げた。 修治君の家の前まで来て裕太が怒った。 「勝也のバカ。なんで窓ガラスに当てるんだ」 「しょうがないじゃないか、当たっちゃたんだから」 「まあ、しょうがないよ。でも謝ったほうがよかったんじゃないかな」修治君の言うことはもっともだったが、勝也はよくきのこ爺さんに怒られていたので、頑なに拒否した。 「俺は、あの爺さんには絶対謝らない」 勝也が強く拒むので、仕方なくその日はそれぞれ家に帰った。
次の日の朝、僕たちが学校に行くと、三郎先生が僕たちを職員室に呼んだ。 「お前たち、何か隠していないか」 「・・・・・」 「昨日、石を投げてガラスを割っただろう。なんで謝らなかったんだ」 「ごめんなさい」僕たちは謝ったが、三郎先生はみんなにゲンコツを落とした。そして、学校が終わって、きのこ爺さんのところに連れて行かれた。 「ほら、ちゃんと謝れ」 「ごめんなさい」 「まったくお前たちは、悪さばかりして、また、山の神様に怒られるぞ」 きのこ爺さんは、いつものように怒っていた。僕たちはしょぼんとしてその日は帰った。 僕は父ちゃんが帰ってくるのが怖かった。そりゃそうだ、また、怒られるのが分かっているからだ。案の定、父ちゃんは帰ってくると、僕にゲンコツを落とした。 「まったく、悪さして謝らないっていうのは、どういうことなんだ」 「ごめんなさい」今日は何回「ごめんなさい」を言っただろうか。今と違って、この頃は悪いこと一回につき二回怒られた。先生と父ちゃんに一回づつだ。その度にゲンコツを落とされた。
|
|