最後まで読んでいただきありがとうございます。 私はおっちょこちょいなので、前回投稿の際、最終回のチェックを忘れてしまいました。と言う訳で、この短編を持って最後にします。
題名 「理想国家」
ようやく選挙も終わった。結果は大方の予想通りに自由党の圧勝だった。経済を発展させ、この国を豊かにするため、税金を公共事業につぎ込むのが、大きな政策の柱だと言っていた党だ。 国民は政策なんてどうでも良かった。税金をバラまき、自分の生活を豊かにしてくれる党を選んだのだ。 マスコミは選挙戦の間、政策うんぬんより、誰々は従来の支持基盤を固めただの、対立候補が急追しているだの、元総理がどぶ板戦術を取っているだのと、毎日、新聞やテレビで流していた。 役人は、そんな国民を横目に見ながら、財政支出に伴うお金の受け皿にする特殊法人の立ち上げや、自分のところでいかに予算を確保するかに頭をひねっていた。
残念なことにこの国では三百年もそういった体制が続いた。経済振興のため税金をどんどんつぎ込んだ結果、国の借金は天文学的な数字となり国は破綻した。人々は飢えに苦しみ、毎日何万人と言う人が亡くなっていった。 人口は減り続け、かつて五千万人だった人口は百人までになった。そのうち三人が国会議員、四十七人が国家公務員、残りの五十人が民間人だ。 しかし、民間人の五十人は税金を払うため死ぬほど働いていたので、いつ倒れてもおかしくない人間しかいない。案の定、翌年には民間人は全員死亡してしまった。
国家の一大事に、国会議員と役人は会議を開いた。 「これでは、税金を納める人間がいない。国会議員を一名にして、他の二人には民間人になってもらおう」公務員代表が言った。 「それはだめだ。それでは多数決ができない。わが国は民主主義国家なのだから、最低二人の国会議員は必要だ。公務員こそ人数を減らすべきだ」首相が反論した。けんけんがくがくの議論は話しがまとまらず、結局、その日の会議は閉会した。
その夜、首相と国家公務員のトップが密かに会合を持った。 「どうだろう。公務員の数を一人、つまり君一人だ。議員の数も一人にすることでケリをつけないか」首相が公務員に耳打ちした。 「おやおや、民主主義はどうなったのですか?」にんまりして公務員が首相の顔を見た。 「どうせ、この国には元から民主主義なんてなかったんだ。今更、正義の刃を振りかざしても仕方ないだろう」 「じゃ、まあ、そう言うことで」公務員は首相の顔を見て頷いた。
「我が国は、今、未曾有の危機にさらされている。よって、国会議員は首相のみ、国家公務員も一名のみとする。以上」首相は国民四十九人の前で演説をした。騒ぎは起きなかった。唯一の国家公務員は警察権力も握っている。ここで騒げば牢屋に入れられるからだ。
民間人になった四十八人は税金を払うため一生懸命働いた。しかし、激務がたたり、一人、また一人と亡くなっていった。そして最後に残ったのは、首相と国家公務員の二人だった。 「さあ、最後に残ったのは我々だけだ。ここは公正に、政策を訴え、選挙をして国民の審判を仰ごうじゃないか!」首相が握りこぶしで机を叩いて言った。 「いいでしょう。私も立候補しますよ」公務員も椅子を蹴飛ばすと、首相を睨んだ。
選挙は何年経っても決着がつかなかった。そこで、公平にくじでどちらが民間人になるか決めることになった。最初にくじを引いたのは首相だった。残ったものを国家公務員が引いた。結果は首相が民間人になると言うものだった。首相はあまりのショックにその場で心臓麻痺を起こして死んでしまった。その結果に国家公務員は涙を流しながら大声で叫んだ。 「我々の偉大な先輩がなし得なかったことを、俺は成し遂げたぞ。役人がこの国のリーダーになったんだ。これからは特殊法人をたくさん作って、天下り先を増やせるぞ。消費税だってじゃぶじゃぶ使えるし。これこそ待ち望んだ理想国家だ」
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