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作品名:宇宙人 作者:黒川

第1回   1

 僕は実家に帰るため、自宅を朝早く出かけて電車を乗り継いだ。そして、この駅で汽車を待っていた。電車じゃない、汽車だ。実家まではあと二時間程かかる。実家に帰るのは二年ぶりだ。子供の受験やら何やらで、なかなか実家に帰れなかったが、今回は特別だ。子供達はクラブ活動や補習で忙しく、そうなれば妻も、自宅を離れる訳にはいかず、僕一人で実家に帰ることにした。
 東京の大学を出て、そのまま東京の会社に就職した。大手とはいかないまでも中堅の食品メーカーで、いつも飲食店やスーパーを回っては自社商品のセールスを行っている。東京に出てきてかれこれ、二十五年近くなるだろうか。
山間部の田舎育ちのせいか、たまに山に出かけてみたくなる。子供が小さいときは、一緒に長野や群馬方面にキャンプに出かけて行ったが、最近では、家族それぞれ忙しくて、旅行はディズニーランドに日帰りで行く位になってしまった。
 妻とは、同じ会社で知り合った。妻も長野の山間部出身で、どうやら考え方が、僕とは似ているところがあったし、一緒にいるとホッする気がした。今は、近くのコンビニでパートをしている。マンションのローンもあるし、家で三食昼寝付きというわけにはいかない。まあ、良くも悪くもごくごく普通の家庭だと思う。
今回の帰省は、前々から行く予定だった。家族が行けないことは予想していたが、一人でも行くつもりだった。別に親が病気になった訳じゃない。まだ、元気で暮らしている。でも、今回はどうしても、帰りたかった。自分の故郷をもう一度目に焼き付けておきたかったからだ。

 裕太が言った。「ほら、あそこだ」
「いた!」勝也は大きな声を出した。
「シー。逃げるから、大きな声だすな」
 僕たちは、夏休みといえば、この沢によく三人で魚取りに来ていた。三人は仲良しで、春は、近くの山で冒険ゴッコ、夏は魚取りに、テレビでやっていたコンバットごっこをして遊んでいた。
コンバットは、いつも誰がサンダース軍曹をやるかじゃんけんで決めていた。一番負けたやつが、ドイツ兵の役だった。僕は、しょっちゅう負けていたので、よくドイツ兵の役をしていた。そのせいか、コンバットを見ると、何故かドイツ兵に親しみを覚えていた。 
秋は、落ち葉で、飛行機を作ったり、船を作ったりして、誰が、一番飛ぶかとか、誰の船が一番早いか競争をしていた。冬は、カマクラを作ったり、雪合戦をして遊んだ。よく、野球もやった。野球は三人では少ないので、上級生や下級生と一緒にした。
 ちなみに、同級生の男の子は全員で三人、つまり、今ここにいる、裕太と勝也、そして僕、浩介の三人だけだ。女の子は、幸恵ちゃんと、久美子ちゃんの二人だ。全員で五人しか同級生はいない。全校生合わせても三十六人しかいない、ちっちゃな小学校だ
僕たちは三年生だった。でも、人数が少ないので、一つ上の四年生と同じ教室で勉強をしていた。いわゆる複式学級というやつだ。担任の先生は三郎先生といって、まだ、先生になって三年しかたっていないそうだ。父ちゃんの話だと、若いうちは、最初にこういう田舎に行かされるみたいだと言っていた。
 確かに、ここは田舎だ。山にグルリと囲まれて、一番近くのデパートまで車で一時間半はかかる。いや、山に囲まれているのではなく、山の中で生活している感じだ。ご先祖様は、わずかな平地を見つけては田んぼや畑を作ったようだ。とっても苦労したことは容易に想像できる。でも、僕たちにとっては、ここが世界の中心だと思っていたし、この世界しか知らなかった。
一回家族と東京に行ったことがある。人が大勢いて、車はだくさん走っていて、驚いた思い出がある。その時、後楽園球場に行って、巨人阪神戦を見た。その試合で、阪神の田淵選手がホームランを打って大喜びした。
裕太も勝也も巨人ファンだったが、僕は阪神ファンだったので、帰ってきて自慢げに話をした。二人とも、でもその次の試合は、王選手がホームランを打って巨人が勝ったんだぞって、負け惜しみを言っていた。

「ほら、逃げちまったじゃないか」裕太は勝也に言った。
「ごめん、あまり大物だったから、でかい声出しちゃった」
「しょうがない、もっと上に行って、探してみるか」裕太は上流を見た。
「でも、そろそろ、絵を描かないと、宿題間に合わないよ」
「ああそうだ、今日は絵を描きにきたんだった」
もうすぐ夏休みも終わるので、今日は、本当は魚取りじゃなく、宿題の絵を描きにきていたのだ。
この場所は、学校から歩いて十分くらいの、道路から外れて、ごつごつした岩にか囲まれたところで、すぐそばに沢が流れていた。沢は、あと三百メートルも行けば、川にぶつかったが、川は流れが速いので、僕たちはいつもこの沢で遊んでいた。ここから遠くの山を見ると、緩やかな稜線のところや、岩肌がごつごつしている険しい山が折り重なるように見えて、自然の偉大さ、雄大さが感じ取れる、子供ながらにも感動する場所だった。
「浩介は、描き終わったのか」勝也が聞いた。
「もうすぐだよ。あと、空を塗れば終わり」
「いいなあ、俺なんか習字と、夏休みの友と、絵と、自由研究と、昆虫採集やらなくちゃいけないのに」
「ってことは勝也、お前、なにもやってないってことじゃないか」裕太が言った。
「じゃ、裕太、お前は終わったのか、宿題」僕は聞いた。
「あと、絵と、昆虫採集で終わり。えへへ、どうだ勝也」
「嘘、じゃ、俺だけ。魚取りしてる場合じゃないな。俺も絵描こう」
 そう言って勝也は、絵を描き始めた。裕太はもっと、上流に行きたかったようだが、勝也が絵を描き始めたのを見て、あきらめて絵を描き始めた。
 描き始めてすぐ、勝也が言った。
「終わった」
僕と裕太はうそだろうと思いながら勝也の絵を見た。それは、一番上は青、一番下は茶色、真ん中に緑が塗ってあるだけの、まるで、どこかの国の国旗みたいな絵だった。僕と裕太は笑ってしまった。
「勝也、それはひどいぞ、そんなの持ってたら、三郎先生に怒られるぞ」
「いいんだ、これで。どうせ、俺は頭悪いし」
 勝也は、確かに、頭は良くなかった。だが、鉄棒と跳び箱は得意だった。鉄棒をやらせたら、いつまでもクルクル回っていたし、跳び箱なんて、まるでオリンピックの選手のようだった。裕太は一番体も大きく、成績も良かったので、僕たち三人のリーダー的存在だった。
僕は、成績は普通で、まあ、そんなに特徴がある方ではなかった。ただ、足は一番速くて運動会ではいつも一等賞だった。しかし、同級生の男子は三人だったので、裕太も勝也も、二等賞と三等賞は貰えた。

 勝也は絵を描き終わって、ごろんと仰向けに寝転んだ。僕も、勝也と同じように「終わった」と言って仰向けに寝転んだ。
空は青く、雲はパンや自動車やくじらみたいな格好をして悠然としていた。風は沢の水に冷やされて、さわやかな涼風となって、ほおをなでていった。山の木々や草は青々と茂り、力強く、そしてむせかえるような緑の香りを発していた。そして、沢の水と、風に揺らされた葉っぱが心地よい音楽を奏でていた。それらが合わさって、ここは、まるでこの世の楽園のような雰囲気をかもし出していた。
裕太は「ちきしょう、いいな、お前ら」と言いながら、一生懸命絵を描いていた。そのうち、裕太も絵を描き終わったらしく「終わった」と言ってあお向けに寝転んだ。
 うとうとしてきたと思ったら、裕太が大声を上げた。
「UFOだ!」
「どこどこ?」僕と勝也は飛び上がって空を見上げた。青白い光がカクカクと変な動きをしている。
「あ・・・あれ、変だよ、あの動き、テレビでやってたUFOの動きと同じだ」僕は驚いた。
裕太も驚いているようだった。「やばいぞ、こっちに来るよ、逃げろ!」
僕たちは、一生懸命走った。しかし、その光はどんどんこちらに近づいてきた。
「もう、だめだ」そう思ったとき、UFOはひときわ明るい光を放った。そして、大きな音とともに、僕たちの近くに落ちたような気がした。

 はっと気が付くと、僕たちは、さっき寝ていたところに三人並んで寝ていた。今のは夢だったのか。僕たちは、随分走って逃げたような気がするけど。僕は裕太と勝也を起こした。裕太と勝也もハッとして起きた。
「裕太、お前UFO見なかったか」僕は聞いた。
「見た、俺、もう死んだかと思った。勝也お前も見ただろう」
「俺も見た。あれはUFOだった」
 僕たちは、怖くなってしばらく動けなかった。
「どうする、その辺に宇宙人がいたら、俺たち、食べられるかも知れないぞ」勝也は本当に怖がっているようだった。僕たちの想像している宇宙人は、いわゆるタコの親分みたいなもので、よく、漫画に出てくるやつだ。そんな宇宙人を想像したら、食べられると思っても不思議じゃない。
 しばらくして裕太が言った。
「あれだけ、勢いよく落ちたんだから、きっと、宇宙人も死んでるよ。そうだ、落ちたところを調べに行こう」
「俺は、やだよ、だって怖いもん」勝也は怖がっていた。
「じゃ、浩介、お前と俺で見てこよう。勝也はここで待ってろ」
「いや、みんな行くなら俺も行く」
 結局三人で、UFOが落ちたと思われるところに恐る恐る行ってみた。ソーっとススキの影から顔を出して見てみたが、UFOが落ちた形跡はなかった。
「おい、なんにも、ないじゃないか。やっぱり夢だったのか」裕太が言った。
「なんにもないよ。・・・あれ、これは何だろう」勝也は腕時計のようなものを見つけたようだ。それは、見たこともないような時計だった。これはきっと宇宙人が落としたものだと思った。
「こんな時計見たことないぞ。見てみろよ、数字が浮き出てるみたいだ。宇宙人が落としたものに違いないぞ」裕太が言った。
「だけど、UFOはどこにいったんだろう。どこにもいないよ」僕は辺りを見回した。
「きっと、修理して、また飛んでったんだよ」勝也はほっとしているようだ。
「そうだ、きっとそうだ」裕太も同調した。
その時、近くで足音がした。僕たちは心臓が止まる思いだった。その足音は、ずんずんこっちに近づいてきた。やばい、逃げなきゃ、そう思っても体が動かなかった。他の二人も、同じように固まっていた。
「そこでなにしてんだ」それは、近くに住んでいる「きのこ爺さん」の声だった。
きのこ爺さんは、いつもきのこの話をして、秋になると、背中に背負った籠に、きのこを一杯入れていたので、僕たちはそう呼んでいた。でも、きのこ爺さんにはいつも怒られていたし、仕掛けた罠にかかった、うさぎやタヌキを食べていると聞いていたので、僕たちはきのこ爺さんのことは嫌いだった。
「そこでなにしてんだ」
「ちょっと探し物をしてたんだよ」僕は答えた。
「さっき、この辺にUF・・・じゃなくて、なにか落ちなかった?大きな音がしたとか」裕太が聞いた。
「大きな音なんかしなかったぞ。お前ら悪さばかりしてるから、山の神様が怒って、キツネを使って脅かしたんじゃないか。ははは」と言って、きのこ爺さんは行ってしまった。
 それを聞いて僕たちは、顔を見合わせた。
「おかしいぞ、やっぱりあれは夢だったんじゃないか」勝也が言った。
「そんなはずはないよ、この時計見てみろよ。こんな時計は見たことがないぞ。これは、宇宙人が落としていったものに違いない」裕太は否定した。
勝也は、また、びくびくして「もしかしたら、宇宙人がこの時計探しに来るかもしれないぞ。この時計、俺いらない、裕太にあげる」裕太に時計を差し出した。
「俺も、いらない、浩介お前持ってろ」
「やだよ・・・そうだ、これは、宇宙人が探しにきたとき、すぐ分かるように、どこか見つけやすいところに置いておこう」
「名案だ、そうしよう」裕太は、勝也から時計を受け取って、辺りを見回した。
「あそこに置こう」ちょうど大きな岩にぽっかりと穴が空いているのを裕太は指差した。あそこなら、雨が当たっても濡れないだろう。
 それから、僕たちは、時計を岩に置くと、急いで、絵を取りに戻り、そそくさと家へ帰った。その時、僕たちは、これは三人の秘密だぞ、絶対だれにも言うなよといって指切りをした。

帰り道、ヒグラシが「カナカナカナカナ・・・」と鳴いていた。この季節は、ヒグラシの鳴き声が家に帰る時間を教えてくれた。まもなく太陽は向かい側の山に隠れて見えなくなるだろう。
夜になれば、この辺は街灯もなく真っ暗闇になる。そうすると、フワー、フワーっと小さい光があっちこっちに光始める。この辺はホタルが見れるのだ。それは、光のダンスとも言えるもので、幻想的で神秘的なダンスだ。しかし、それを見ていると、いつの間にか蚊にさされて、いやな思いもしなければならないのは唯一残念だった。
僕は裕太と勝也と別れて一人で歩いていた。宇宙人がきたらやだなと思いながら歩いていると、後ろから、耕運機の音が聞こえてきた。それは、こっちに向かってきていた。後ろを振り向いた。
「じいちゃんだ」僕は、じいちゃんに駆け寄った。そして、耕運機に乗った。よかった、これで家まで無事に帰れる。じいちゃんは、田んぼで仕事をした帰りだった。
僕はじいちゃん子だ。父ちゃんも母ちゃんも仕事に行ってたので、いつも、学校からかえるとじいちゃんしかいなかった。ばあちゃんもいたが、ばあちゃんは、体が悪くてずっと寝たきりだった。じいちゃんも僕を可愛がってくれたので、僕はじいちゃんが大好きだった。
じいちゃんは、終戦を中国で迎えたらしく、帰ってくるのに大変だったといつも言っていた。
僕は「日本は戦争に負けたの」と一回だけ聞いたことがある。じいちゃんは、ちょっと厳しい顔になって
「あの戦争は、負けてよかったんだ。ただな、隣の同級生も、その隣の同級生も、みんな戦争で死んじゃったんだよ。そういう人達がいて、今の日本があるってことは忘れるなよ」と言った。そして、じいちゃんは仏壇の上のおにいちゃんの写真を指差して
「あの人はな、ばあちゃんのおにいちゃんなんだよ。でも、その戦争で死んでしまったんだ。アッツ島というところでな」
「そう、だから、じいちゃんは婿みたいなもんなんだ」ばあちゃんが言った。
 そういえば勝也の父ちゃんも婿って言っていた。遊びに行くと
「婿は気苦労が多くて、髪の毛がなくなるんだ」と言っていったのを思い出した。じいちゃんを見て納得した。
 仏壇の上のそのおにいちゃんの写真は、夜になると、とっても怖かったが、自分の家族だと分かって、その話を聞いてからは怖くなくなった。
 耕運機の荷台には犬の三太夫がいた。僕が生まれたときから飼っている柴犬だ。犬を利口とおバカに分けるとすれば、ちょっとおバカな方だ。ただ、タヌキが家の前の畑の野菜を食べにきたときは「ワンワン」吠えた。そのときと、じいちゃんの猟のときは役に立っているようだ。じいちゃんの言うことは聞くが、僕は、自分より下だと思っているのか、まったく、言うことは聞かない。
「なんだ、今頃まで遊んでたのか」
「宿題をしていたんだ。ほら、これ」
「ああ、絵を描いてたのか。ここは、いつも、魚を取ってくるところだな。どうだ、今日は取れたか」
「きょうは、取れなかったんだ」
「なんだ、浩介が取ってきた魚で、一杯やろうと思ったが、今日は無理か」

 家に着くと、父ちゃんも母ちゃんも帰ってきていた。父ちゃんは普段は優しいが、怒ると怖かった。母ちゃんはなんだかんだと口やかましかったが、やっぱり優しかった。
「浩介、宿題終わったのか?」父ちゃんはビールを飲んでいた。
「うん、あと、昆虫採集やれば終わり」
「どうだか、夏休みの友だって、ところどころ抜けてたし、もう一回よくみてごらん」母ちゃんは、あまり信用してないらしい。
 母ちゃんは、夕ご飯を作っていた。この匂いは!
「やった、今日はカレーだ」小さい頃はカレーがなによりのごちそうだった。僕が住んでいたところでは、店が近くになかったので、時々移動スーパーが物を売りに来ていた。移動スーパーは来ればすぐ分かった。大音量で都はるみの歌を流していたからだ。
そうすると、みんなぞろぞろ出てきて、あれやこれやを買っていた。当然カレーも肉もその時に買うのだ。野菜は、自分の家の周りで作ったものを食べていた。形は悪かったが、トマトなんて、砂糖が入っているかと思うくらい甘かった。
「いただきます」この当時は当然のように家族揃って食事をしていた。ばあちゃんも寝たきりだったが、食事のときはみんなと一緒に食べていた。
「うめー」久しぶりのカレーは、とても美味かった。父ちゃんとじいちゃんは、いつも、酒を飲んでから御飯を食べていた。僕は食べるのが遅かったので、いつもは、父ちゃんとじいちゃんが酒を飲んで、御飯を食べ終わると同時に食べ終わっていた。でも、カレーの時は違った。僕は、一番早く食べ終わった。しかもおかわりをして。
そうだ今日は土曜日だ
「ねえ、じいちゃん。チャンネル回していい?」
「ああ、いいよ」
チャンネルの主導権は、じいちゃんにあった。でも、僕がお願いすると、たいていチャンネルを回してくれた。その頃のテレビはチャンネルを変えるとき、まるいつまみを回すタイプだった。だから、チャンネルを変えるとは言わず、チャンネルを回すと言っていた。
 土曜日はなんといっても「八時だよ全員集合!」これしかない。学校でも、志村けんや加藤茶のものまねは大はやりだ。ものまねがうまいと、ちょっと偉くなったような気がしたもんだ。今は、いろんな番組が見れるけど、当時は民放が一局しか見れなかったので、「八時だよ全員集合!」はとっても楽しみだった。
じいちゃんや父ちゃんが、面白いと思っていたかは分からないが、まさに家族全員で全員集合だ。
 僕は、いつも九時には寝ていた。こんな田舎じゃ塾なんてない。都会の子供は、夜遅くまで塾に行っていると聞いて、可哀相だなと思ったもんだ。ただ、都会の子供が僕らの話を聞いたら、塾がなくて可哀相だと思っていたかもしれない。
おやすみと言って、僕は腹巻をして部屋に行った。夏でも、朝方は冷えるので腹巻をしないとお腹をこわしてしまうからだ。そして、蚊取り線香に火をつけた。この匂いは、夏になると思い出す匂いだ。 
寝ようと思ったら、今日のUFO事件を思い出した。もし、宇宙人が時計を探しにきて見つからなかったら、僕たちを捕まえにくるかも知れないぞ。考えただけで身震いした。けれど、毎日きちんと九時には寝ていたので、体がそういう作りになっているのか、ふっと宇宙人のことが、頭から離れたとき、いつの間にか寝てしまったようだ。

 朝起きると、みんな、起きていた。父ちゃんもじいちゃんも
「ああ、腹減った」と言っていた。
「母ちゃんは?」
「母ちゃんは、ご飯を取りにいっている、もうすぐ帰ってくるぞ。おっ、帰ってきたようだな」父ちゃんは、舌なめずりをした。
 そこには、裕太と勝也が母ちゃんに縄で縛られて連れて来られている姿があった。
「母ちゃん、なにしてんだよ」
母ちゃんは父ちゃんと同じように舌なめずりをして
「お前たちが、時計を盗んだから、食べてやるのさ」と言って、僕の方に向かってきた。
「ウワー」僕は逃げようとしたとき。母ちゃんに頭を叩かれた。
「ほら、早く起きなさい、ラジオ体操におくれるよ」
ああ良かった、夢だった。
 ラジオ体操に行くと、裕太も勝也も来ていた。さっき見た夢のことを話したら、
「俺も昨日怖くて眠れなかった。勝也はどうだった」
「俺は、すぐ寝たよ。俺はちっちゃいから。最後に食べられると思ったんだ」
「いいなあ、お前は」裕太はあきれた顔をした。


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