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作品名:青空 作者:黒川

第9回   9
 俺は、会社に行っても、純のことが頭から離れなかった。そして、あてもなく、うろうろしていたとき、ホワイトボードに書かれたスケジュール表が目に入った。
「これだ!」
 今日は、例の探偵事務所に定期点検に行く日だ。それは、別のスタッフが行く予定だった。
「今日は、俺がここに行くから、君はこれをやってくれ」そう言うと、直ぐ上着をつかんで、探偵事務所に向かった。目的は定期点検じゃない。純のことを調べてもらいたかったのだ。
 探偵事務所に着いたが、どうやら、所長の吉田はいないらしい。代わりに年配の女性事務員が「どうぞ」と言って、事務所に入れてくれた。まもなく所長は帰ってくるとのことだった。
今は定期点検なんてどうでも良かったが、仕方なく各パソコンを見て歩いた。
事務員から「そういえば、そこのパソコン、なんだか最近動きが遅いんですよ。ちょっと見てもらえますか」とお願いされたので、そのパソコンをチェックしていたとき、吉田が帰ってきた。俺の顔を見ると「なんでお前が来ているんだ」。そんな目で見た。
女性事務員が、「そこのパソコン最近調子悪いんで、見てもらってたんです」と言うと、吉田は「今日は、社長自ら大変だな」と言って、自分のデスクに座ったが、ちらちらとこっちを見ていた。俺は、早く片付けて、本題に移りたかったので、吉田の目は無視してパソコンをチェックしていた。
そのうち吉田は、ああでもない、こうでもないと言いながら、脇に来て雑談を始めた。ちょっと黙っててくれと思ったとき、来客があった。吉田は、事務員に相手をするように言ったが、どうやら、吉田ご指名の客らしい。ちょっと困ったような顔をしながら「そこのパソコンは大丈夫だから、適当に切り上げてもらっていいよ」と言って応接室に入っていった。
俺は吉田が応接室に入って行くのを見て、また、パソコンと向かい合った。なんだ、なんてことはない、このパソコンにデータが多すぎるだけじゃないか。容量オーバーだよこれは。そう思って、席を立とうとしたとき、そのパソコンに、自分の名前のフォルダがあるのを見つけた。
「あれ?なんで俺の名前があるんだ」
そういえば、あの吉田の態度、なんか気になる。それを見るのは本当は契約違反だが、気になった俺はそのフォルダを開いた。
 そこには、見慣れた景色の写真が写っていた、そして、二人の男女が、公園で抱き合っている写真も貼り付けてあった。事務員が「どうですか、直りましたか」とこちらに来たので、それをあわてて閉じた。
「容量オーバーですよ。データが増えすぎたんですね。ハードディスクを増設するか、別のパソコンにデータを移せば、すぐ直りますよ」
 事務員は「助かりました」と言って、コーヒーを持ってきてくれた。そして、気を使ってくれたのかいろいろと話しを始めた。そのうち、姑の話や夫の愚痴に話が移った。適当に相づちを打っていたが、頭の中は、今見た写真のことで一杯だった。
 あれは、純が、あの公園で俺に抱きついていた時の写真だ。なんで、こんな写真がここにあるんだ・・・
「分かった」。全てが繋がった。吉田は、俺の調査を依頼されたのだ。それで、尾行してあの写真を撮った。もちろん、面識のある吉田が俺を尾行するはずはない。この探偵事務所の誰かが俺の後をついて来たんだ。依頼者は、あの馬鹿親父だ。
 馬鹿親父は、俺の素性を探っていたのだ。そのうち俺が毎月あの町に行き、純と会っているのが分かった。そして、その決定的な証拠を突きつけて、俺と加奈との関係を終わらせようとしたのだ。
怒りがこみ上げてきた。俺が純に抱いている感情は、あの馬鹿親父が思っているような、不純なのもじゃない。なにも分からないくせに、なにが、自分の胸に手を当てて考えてみろだ、自分こそ自分の娘を信じられないダメ親父のくせに。勝ち誇ったような顔をしているのだろうが、実は、娘を不幸にしていることに気付いていない、正真正銘の馬鹿親父じゃないか。しかし、残念なことにシナリオは馬鹿親父の書いたとおりに進んでしまっている。俺は奥歯をぎゅっと噛み、眉間にしわをよせて目を閉じた。
 俺の顔が急に怖くなったからか、事務員は「あの、私、なにか失礼なこと、言いましたでしょうか」と俺の顔を覗き込んだ。
ハッとわれに帰った。
「いや、よく分かりますよ。姑さんと同居じゃ大変でしょう」
「そうでしょう。やっぱりそう思いますよねえ」そして、また適当に相づちを打っていた。
しかし、あの写真を見れば、誰が見ても俺が他に女がいると思われても仕方ないだろう。やっぱり、加奈には純のことをきっちり言っておくべきだったか。だがそれはもう遅い。今言っても言い訳にしか聞いてもらえない。それより、今は純のことが心配だ。
 そんな俺の気持を分かっていない事務員は、話が止まらなかった。吉田が応接室から出て、客を見送るまで話続けていた。
「終わったのか」吉田が言った。
「ええ、事務員さんに、やり方を話しておきましたよ」
「ちょっと、話があるんですが、いいですか」応接室を見て言った。吉田は、フーっとため息をつき、しょうがないといった顔をし
て応接室に案内した。
 話を始めたのは吉田の方からだった。
「君は、見てしまったのか」
「ああ、見ましたよ。あれは間違いなく俺です。依頼者も大体想像がつきます」
「そうか・・・分かっているとは思うが・・・」
「誰にも言いませんよ。もちろん、その依頼者にもね。それに、話しというのは、そのことじゃないんです」
「えっ?」
「俺は、吉田さんに、ある人間の調査を依頼したいんです。頼れるのは吉田さんしかいないんです」
吉田は、なんだそうだったのかといった顔をした。
「で、いったい誰を調べて欲しいんだ」
「あの写真に写っていた人物です。はっきり言うと、俺は、毎月一回その人物と会っていました。でも、家の電話番号以外、なにも分かっていないんです。今、知りたいのは、その子がどこに住んでいるのか。どうしたら、連絡がつくのか。それだけを知りたいんです」
「なんだって。調査担当の話だと、長い付き合いのようだと言っていたが・・いや、それは余計なことだな。ちょっと、待っててくれ」
 吉田は、そう言うと応接室を出て行った。帰ってくると、一枚のメモを机の上に置いた。
「君の知っている電話番号はこれか?」
「えっ、どうして分かっているのですか」俺は驚いた。
「調べてあるからさ」
 その電話番号は、携帯に登録されている番号と同じだった。
「そうです。この番号です。今は、いくら掛けても出ませんけど。他に分かっていることはないのですか」
「他に分かっているのは名前だけだ。依頼は、名前と電話番号、それと人間関係だったはずだ。人間関係は、君も知っているから説明する必要もないだろう。おそらく、担当は住所も調べたと思うが、今、新婚旅行で海外に行っててね。しばらく、帰ってこないんだ。担当なら分かるかもしれないんだが・・・急いでいるなら、また、調べてみようか」
「お願いします。しかし、名前も調べたのですか」
「もちろんだよ・・・あれ、なんて言ったかな。えーと、何だったかな。今見てきたのに・・・」
「名前なんてどうでもいいんです。俺は、その子にもう一度会いたいだけなんです」
「そうか、分かった」
「出来るだけ早く、お願いします」俺は、吉田を見て頭を下げた。
「ところで、つかぬことを聞くが、君は、その・・・なんと言うか、そういう趣味があるのか?」吉田は目を合わさずに言った。吉田がなにを言っているのかすぐに分かった。
「そこまで分かっているのですか。でもその子とは純粋な関係です。それ以外のなにものでもありません」吉田の目を見て俺は答えた。
吉田は訳が分からないといった顔をした。しかし、その顔は明らかに俺と純の関係をゆがんだものと捉えているようだ。それはある程度予想していたが悔しかった。誰も、俺と純のことを理解してはくれないのか。
「僕は、その子と、君の関係はよく分からないし、これ以上詮索はしないよ。結果は早い方がいいんだろう。すぐ調べるよ」 
そう言うと、吉田はタバコに火をつけた。
「君も吸うか」俺にタバコの箱を差し出した。タバコをやめてもう三年になるが、差し出されたタバコを一本取って火をつけた。とにかく心を落ち着かせたかった。
 久し振りのタバコは苦かった。少し、むせる感じがしたとき、ふと頭に浮かんだことがあった。もう一回、タバコを、肺の奥深く吸い込んで、フーっと吹き出すと、吉田に話しかけた。
「吉田さん。最後にその子と話しをした時、(その依頼者から電話があった)と言ってたんですけど、よっぽど、ひどいことを言われたみたいで、その子はかなり落ち込んでましたよ」
「なんだ、電話したのを知っていたのか。まあ、君とその子の関係なら、知っていてもおかしくはないけど。担当が、依頼者は、その子にあらいざらい話しをするようだと言ってたからな。尋常な雰囲気じゃなかったと聞いているよ」
「そうでしょうね・・・」
「頼むから、この件で変な揉め事を起こさないでくれよ」
「大丈夫ですよ。吉田さんは大事な取引先ですから。余計なことはしませんよ」
「分かってくれればいいよ。とにかく、僕も急いで調べてみるから」
「お願いします」
 そう言って、俺は事務所を出た。
 事務所を出ると、我慢していた怒りを抑えることが出来なかった。
「なんてことを!」
 事務所の入っているビルの前の電柱に、思い切り右手を叩きつけて叫んだ。
 本当は、馬鹿親父が、純に連絡をしたのは分かっていなかった。
「うちの娘を騙して、ただで済むと思ったら大間違いだぞ。お前の全てをぶち壊すのは簡単なことなんだ」
その言葉を思い出して、吉田にかまをかけた。馬鹿親父が、俺と加奈の関係を壊したければ、純が、俺に抱きついている写真を加奈に見せるだけでよかったはずだ。なぜ、純のことを調べたのか考えたとき、もしかしたら、と思ったが、やっぱりそうだった。
 純は、馬鹿親父に俺と加奈の関係を話されて、最後に「いや、よかった。君のお陰で、あいつとウチの娘の縁がきれるよ」と、嫌味たっぷりに言われでもしたのだろう。
 しかも、純が男だと分かっていたら、あの馬鹿親父のことだ、純に、とんでもないことを言ったに違いない。おそらく、俺が最後に純と電話で話したのは、馬鹿親父と話した後だったのだ。だから、あの時、純の様子が変だったのだ。
「俺はそんなことで、純をどうのこうの言うことはしないのに。なんで、全部話してくれなかったんだ」唇を噛んで天を仰いだ。
 俺に会う喜びが、愛情と、自分の現実とのはざまで苦しみに変わり、ただでさえ、押せば倒れそうな不安定な状態の時に、馬鹿親父にひどいことを言われて、そして、俺と加奈の関係がダメになったと聞かされれば、純の性格からして、自分を責めて、変な考えを起こさないとも限らない。
俺は祈った。
「純。俺が会いに行くまで、バカなまねはするなよ」
 今は、とにかく純のことが心配で、馬鹿親父への怒りはどこかへ行ってしまった。
 それから、探偵事務所からの連絡を首を長くして待った。純は、本当に自分を責めて・・・いや、そう考えるのはよそう。純がそんなことをするはずがない。
俺に愛情を感じていても、どうしようもない現実が純を苦しめていた。それで、俺に会うのを避けているということしか考えられない。いや、そう考えたい。しかし、何故、おばあちゃんも電話に出ないのだろう。
「分からない!」
 机を開けて、二人の写真を眺めた。その笑顔を見て、ますます、純のことが心配になった。
ふと、机の中の名刺入れが目に入った。そしてネットで調べた。
「純愛」それは、すずらんの花言葉だった。
 それは俺に対する、純の正直な気持ちだろう。名刺入れを手に取って、両手で包み込んだ。自分のために一生懸命名刺入れを作っている純の姿が浮かんだ。
「純。一体どうしたんだ」何もできない自分を嘆いた。
俺は、純のことが頭から離れなかった。それを振り切るように、仕事に没頭しようとした。だが、どうしても純のことが気になって仕方がなかった。
それでも会社にいると、まだ、スタッフがいて気が紛れた。しかし、夜一人になるのは怖かった。純のことが頭の中に浮かんで、いても立ってもいられなくなると思ったからだ。
 加奈にも連絡がつかなかった。急に一人ぼっちになったような気がしたせいか、仕事が終わると、外で酒を飲んだ。そんなのごまかしでしかないことは分かっていたが、一人でいるよりはましだ。そして、しこたま飲んで、余計なことは考えられないくらい飲んでベッドに入った。
 それは、シトシトと冷たい雨の降る夕方だった。探偵事務所から電話があった。例の調査が終わったとの連絡だ。だいぶ待ったような気がしたが、吉田に純のことを依頼して、三日目のことだった。事務員はまもなく帰るところだったようだが、無理を言って今日取りに行かせてもらうことにした。
 探偵事務所に着くと、事務員があくびをしながら待っていてくれた。吉田はいないようだ。
「すみませんでした、勝手なお願いをして」
事務員は「気にしないで下さい。早く帰って姑の顔を見るよりはいいですから」と言って、調査資料を渡してくれた。それは、やけに大きな包み紙に包装されたものだった。
本当は、今すぐにでも、中を開けて見たかったが、それは我慢して、会社に戻って見ることにした。礼を言って、急いで会社へと向かった。
 電車は、ラッシュ時間が過ぎていたこともあって、立っている人はほとんどいなかった。片道二十分程の乗車時間なのに、そのときはとても長く感じられた。喉が渇いて、手はじっとりと汗をかいていた。
 よかった。純の住所が分かった。これでもう一度純に会うことができる。とにかく、純に会いたい。純の本当の気持ちが知りたい。あの笑顔を見たい。あの優しさに触れたい。純に伝えたいこともたくさんある。いや、もしかして、最悪の結果がここには記入されているかも知れない。そんな思いが交錯して、大学受験の結果を待つ高校生のように、落ち着かない気持ちで椅子に座っていた。
時計を何回も見た。なんで今はこんなに時間が立つのが遅いんだ。電車が駅に止まる度、ドアに向かって「早く閉まれ」と念じた。発車する度に「もっと早く走れ」と思った。
 駅に着くと人ごみをかき分けて、急いで会社に向かった。
スタッフは一人だけ残っていた。
「あ、社長、吉田さんって人から電話がありました。この番号に連絡くれって」携帯番号が書いてあるメモを受け取った。
「じゃ僕、帰ります」そういってスタッフは帰った。
 吉田の携帯に電話を掛けて、受話器を左肩とあごで押さえながら、調査資料の大きな包み紙を開けた。中からは、もう一つ小さな封筒が出てきた。それと一枚の絵も出てきた。
「この景色は、あの城から見たものだ。これは、純が描いたものなのか」
 その絵は、一目で、純が心を込めて描いたことが分かるものだった。あの時の楽しい時間が蘇ってくるような気がした。
 その絵を見ながら、小さな封筒の封を切ろうとした時に、吉田が電話に出た。
「ああ、僕だ、資料取りにきたんだってな。さっき事務員から聞いたよ。ところで資料は見たか。そうか・・・まだだったか。それには、全部調べて書いてあるよ、名前も、住所も、年齢も」
「そうですか、いろいろと、ありがとうございました」
「ああ、君の依頼だったからな。僕が直々に調査したんだ。実は、その子のおばあちゃんに偶然会って話ができたんだ。どうやら、僕の勘違いだったようだな。君と、その、少女、いや、少年の関係は、君のいう通り純粋なものだったようだ」
それを聞いて嬉しかった。分かってくれたか。
「おばあちゃんは入院していたんだ。その・・・ショックが大きかったんだろうね。それから、おばあちゃんが、依頼人はこの人ですかって聞いてきたんだ。城で撮った二人の写真を見せてもらったよ。あれは間違いなく君だった。でも、それは答えられませんって言ったんだ。そしたら、もし、この人だったら、伝えてくれって言われてね。孫は、あなたと出会えて本当に幸せだったと思います。ありがとうございましたってね。それから、最後にあなたの名前を呼んでましたって。そう伝言をお願いされたんだ。」
「・・・最後にって・・・」
「今、僕が、言えるのはそれだけだ。」
「ちょっと待ってください。純は、いや、その子は・・・」
「詳しくは・・・調査資料を見てくれ。あっ、それから、絵が入っていただろう。それは、そのおばあちゃんから依頼されたものだ。その写真に写っている人に渡してくれってね」と言って吉田は電話を切った。
「なんで・・・」
 言葉が出なかった。純は最後まで俺に助けを求めていたんだ。あの、最後の電話の時、無理してでも純に会いに行っていれば、こんなことにはならなかったかも知れないのに。
なにが正義の味方だ、なにが俺が守ってやるだ。やっぱり純は俺との関係を苦しんで・・・そしたら俺は殺人者だ。フラフラと立ち上がると、調査資料を封を開けずにシュレッダーにかけた。そして、涙が溢れてきた。
そこには、純が何故そうなったのか、純の本当の名前も、年齢も、性別も全部書いてあっただろう。だが今の俺には、いや、いままでの俺にもそれはどうでもいい事だった。ただ純がいてくれればそれでよかったのだ。
 涙は止まらなかった。人間は泣いて涙を流すことで、苦しみや悲しみから、解放されるものだと思っていた。それは違っていた。泣けば泣くほど、悲しみが増幅する場合もあることを知った。もう見れない純の笑顔、もう触れることのできない純真な心、もう戻れない楽しい日々、純が俺に言った一言一言、俺が純に言った一言一言、純に言えなかった「ありがとう」、そして、最後に俺の名前を呼んだときの純の気持ち。それが、グルグルと回って、まるで、ポンプのように、悲しみを送り続けているようだった。
 どのくらい、そこに動けないままいたか分からなかった。俺は、またフラフラと歩いて机に座った。そして、机の中の写真を見た。その隣には、純にもらったすずらんがかたどられた名刺入れがあった。写真の中の二人は、何も知らないかのように、楽しそうに俺を見ていた。その背景は、純が描いた絵と同じ景色だった。
 その時、俺は気付いた。そうか、俺は純を愛していたんだ。純が男だということが頭の片隅にあって、まるで、土砂降りがあたっている窓ガラスのように、俺の目もゆがんでいたんだ。俺はそれに気付かなかった。そうだ、俺は純を愛していたんだ。俺が純に言いたいことは「ありがとう」じゃない、本当に言いたかったことはそのことだったんだ。それは、初めて、俺が純との間にあった壁を飛び越えた瞬間だった。しかし、それを伝えることはもはやできない。純に「さよなら」も言っていない。今は、ただただ、楽しそうな二人を見て泣くことしか出来なかった。
 この悲しみは、いったいいつまで心に厚い雲のように覆いかぶさって、雨を降らせるんだろう。一生俺の心に晴天は訪れないかもしれない。


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