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作品名:青空 作者:黒川

第6回   6
 今週は三連休だ。土曜日に純に会って。日曜日、月曜日と加奈と温泉に行くことになっていた。仕事は忙しかったが、なんとか区切りをつけて、三連休に間に合わせた。
 土曜日、純との、いつもの待ち合わせ場所に向かった。春の暖かい日差しで温められた空気が、やさしく体を包み、冬に純と会っていた時には、生き物の気配さえしなかった街路樹の木々が、力強さを取り戻し、うれしそうに葉っぱを広げていた。
今日は、純のおばあちゃんの誕生日プレゼントを買うことになっていた。
「なにを買うか、決めてきたの」
「うん。おばあちゃんに帽子を買おうと思って来たんですけど。他になにかいいのがあればと思って、ちょっと迷ってるんです」
「そうだな、おばあちゃんだったら、案外スカーフとかもいいかも知れないよ」
「そうですね。じゃあデパートに行きましょう。いろいろ売ってるし」そう言うと歩き始めた。
 二人、デパートで純のおばあちゃんのプレゼントを物色していた。帽子やらスカーフやら、なかなか決められなかった。俺も純のおばあちゃんを見たことがなかったので、イメージが湧かなかった。
「どれにしようかな。やっぱり帽子がいいかな」純は迷っていた。
「おばあちゃんの趣味はなんなの」
「国語を教えていたせいか、趣味は俳句です」
「俳句!それは渋いな。じゃ俳句に使うようなものがいいんだろうけど、俳句ってなにが必要なんだろう」
「たぶん、紙とペンがあれば、他には特になにもいらないと思います。そういえばよく、季節を探して来るって、散歩に出かけます」
「季節を探す。いい言葉だ。散歩するなら、やっぱり帽子がいいと思うよ」
「やっぱりそうですよね」
 純は帽子をいろいろ見始めた。そして、薄水色の帽子を手に取った。どうやら決まったらしい。
「これにします。でも、おばあちゃん喜ぶかな」
「大丈夫、プレゼントは気持ちだ。その気持ちを伝えることの方が大事だよ」

純は包装してもらった帽子を大事そうに持って歩いていた。二人でとりとめのない話をしながら歩いていると「ちょっと喉が渇いたんで、ジュース買ってきます」純は、フルーツ100%と書いてある店を指差した。「なにがいいですか?」
「そうだな。グレープフルーツジュースがいいな」
「じゃ、私買ってきます。ここで待っていてください」純は、おばあちゃんのプレゼントの帽子を、大事そうに小脇に抱えながら店に並んだ。持ってやろうかと思ったが、そう言う前に純は行ってしまった。
 その店は結構はやっているらしく、年配の人から、子供まで並んで順番を待っている。若いアルバイト店員が次から次へと注文を聞いてはジュースを作っていた。次は純の順番のようだ。
 ふと空を見上げた。今日の空も青々としていた。どちらかと言うと自分は雨男だと思っていたが、純と会うときは不思議なくらい天気が良かった。遠足のときも雨が降っていたような思い出が多いし、修学旅行のときも、傘をさしながら、薬師寺の面白いお坊さんの話を聞いていたような記憶もある。
 それに、周りも「マラソン大会走りたくないから、お前絶対休むなよ」と言っていたような気もする。残念だが、楽しみな時は雨が降って、そうでない時は晴れ男だったようだ。マラソン大会は必ず走っていたから、多分そうだろう。
でも、純と会うのは楽しいことだ。なんで、楽しい時に晴れるんだろうか。「もしかして、実はこれは台風の目の中で、この後にまた土砂降りになったりして」一瞬そんな風に思った時、突然「邪魔なんだよ、どけ、変態!」とどなり声が聞こえた。
その声の主を目で追った。それは、若い男三人組だった。純と同じ位の年齢だろう。道の真ん中を三人並んで歩いているところだった。
純を見ると、両手にジュースの入ったカップを持って、下を向いて唇をかみ締めて立っていた。カップは小刻みに震えていた。おばあちゃんのプレゼントは道に落ちてしまって、汚れが付いていた。ようやくその事態が飲み込めた。純の側に行ってプレゼントとカップを取ると
「さあ、行こう」そう言ってその場を立ち去った。
 純は手で顔を覆い、下を向いて俺に寄りかかりながら、ようやく歩いていた。純を支えながら歩いていると、近くに小さな公園があったので、二人でベンチに座った。純は下を向き、手で顔を覆って泣いていた。
 公園では、子供たちが、滑り台やブランコで遊んでいた。最初、純が泣いているのを見て不思議そうにこちらを見ていたが、そのうち、また遊び始めた。
 しばらく、純を見ていた。初めて純の日常に触れたような気がしていた。純も俺にそれは見せたくなかっただろう。そのつらい気持ちは痛いほど分かった。しかも、大事なおばあちゃんのプレゼントが汚されてしまっていた。純はとても悔しかったに違いない。
「今の連中は知り合いかい」
純は小さく頷いた。
「あんな連中のことは気にしなくていいよ。人の痛みが分からない奴らはたいした人間じゃない」
 純は何も言わなかった。
「あんな連中だけじゃなくて、純のことも分かってくれる人も学校にはいるだろう」
 純はまた小さく頷いた。しばらく純はそのまま泣いていたが、やがて口を開いた。
「・・・いい人もいます。でも、ああいう人がいると・・・本当につらい・・・」絞り出すような声だった。
「いいかい、純、あんな連中に自分の将来をダメにされたら悔しいと思うだろう。負けちゃダメだ。それに、純には味方もいるじゃないか」純はちょっと頷いたが、また、手で顔を覆って泣いていた。俺はその間ずっと純を見ていた。
スタッフの一人が「子供が風邪をひいて元気がないときは、自分が代わってやりたいと思いますよ」と言っていたのを思い出した。まさしくその通りだ。今は純の悲しみ、つらさを自分が代わってやりたいくらいだ。
 たいぶ時間が立って純は顔を上げた。
「ごめんなさい」そう言うとハンカチで涙を拭いた。
「大丈夫かい」純の顔を覗き込むと、目は赤く腫れていた。
 すっかり温かくなったジュースを二人ベンチで飲んだ。純はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「純、この世の中、悪い人間ばかりじゃない。本当は、いい人間の方がずっと多いはずだ。ただ、悪い人間は人の心を土足で踏みにじっても、気にしないような連中が多い。だから、みんな、その人間を強い人間だと勘違いしてしまうんだ。本当の強さは、ポリシーを持ってそれを実行することで身に付くものさ。人の気持ちが分からない人間は、ただ自分が上になって見たような気になっているだけで、それは本当の強さじゃない。負けちゃだめだ」
「そうですよね、あんな連中に負けてられないですよね」純は力強く言った。
「でも、プレゼント汚れちゃったな」
「大丈夫、中身はなんともないよ。それに、さっきも言っただろう、気持ちだって」
「うん」純は頷いた。

 食事をして駅に向かった。今日は俺が先に帰らなければならなかった。明日、加奈と温泉に出発する予定だったからだ。
「明日もお仕事なんですか」純は聞いた。
「いや、ちょっと人と約束があってね」
「そうなんですか」
無関心を装っていたが、純は頭のいい子だ。人との約束がなんなのかおそらく分かっただろう。
改札口まで来たとき、純は言った。
「なんか、見送るのって、見送られるより寂しいですね」
 確かにそれは当たっている。子供の頃、親戚の家に遊びに行って、帰ってくる時は平気だったのに、親戚が家に遊びに来て、帰っていくのは寂しかった。
「ちなみに俺も純を見送るとき、いつもそういう気持ちになっていたんだよ」純はふっと笑顔を見せた。
 改札を通って、振り返った。
「それじゃ、またね」
「気をつけて」純は手を振っていた。俺も手を振った。
 新幹線の中で、今日の出来事を振り返っていた。純の同級生かなにか知らないが、とんでもない連中がいたもんだ。しかし、純はいい人もいると言っていた。純を理解してくれている人がいることも分かった。
 ただ、あんな連中がいたら、純も学校にいるのが苦しい時もあるだろう。でも、あんな連中に、純の将来が壊されるのは許せなかった。だから、純にはなんとかこの苦しみを乗り越えて欲しかった。決して、負けて欲しくなかった。そのために、自分が純の側にいるんだ。そう思った。

 今日もいい天気だ。車窓から見える空は雲ひとつなかった。もしかして、自分は晴れ男に変身したのかも知れない。隣で加奈は、温泉のパンフレットや、今日宿泊する宿のパンフレットを見てはしゃいでいた。
「ネットで調べたら、この宿すごく評判がいいみたい」
「しかし、お父さんよく旅行許してくれたね」
「最近無視してるの。しばらく口も聞いていない。だから勝手に来ちゃった。お母さんには友達と旅行に行くって言ったけどね」
「そう言えば、加奈はお母さんそっくりだよ。仕草も話し方も」
「結婚したお姉ちゃんは、お父さんそっくりなの。なんとなく性格も似てる。あの二人といると、私、疲れちゃって。そうそう、お母さん、あなたのこと誉めてたよ。やっぱり、頑張ってる人の顔は違うって」
「さすが加奈の母親だ、見てるところは見てるな」そういえば加奈は、俺が出張なんかで出かけたときは、帰ってきてからの顔で、悪さをしたかどうか判断している。どうやらこれも母親似らしい。
 電車を乗り継いで、途中、観光もしながら、五時には宿の近くの駅に着いた。駅の前には、古びた旅館が何軒かあり、お土産屋もあった。昔ながらの温泉街といった感じだ。
「泊まる宿はどこなんだろう」
 あたりを見回すと旅館の案内図があった。どれどれと言いながら、駅前に掲げてあった案内図を二人で見た。歩いて十分程で宿に着くようだったので、せっかくだから温泉街を歩くことにした。
 二人で、宿に向かって歩いていると、新しい大型旅館や、こじんまりとしながらも、風情のある旅館が立ち並んいる場所に出た。宿泊客と思われる女性は、旅館から借りたのか、色とりどりの浴衣に身を包んで、カランコロンと心地よい音を残しながら、楽しそうに外を歩いていた。
 そうした旅行気分に浸っていると、「ねえ、ちょっと聞いてもいい」加奈が切り出した。「近頃、なにか変わったことなかった」
「また、浮気をしていると思っているのか」
「いや、そうじゃないけど、なんとなくあなたが変わった気がするの。仕事だけじゃなくて、なんか変わった気がする。悪い意味じゃないんだけど」
 加奈は、俺の心にある純を感じ取っている。いつか言わなくてはいけないと思っていたが、純のことを、言うのは気が引けていた。
 それは、加奈が純を理解できるか不安だったし、純の秘密を自分が話すことは、純に対する裏切りだと思っていたからだ。しかし、加奈が、純の存在を感じ取った以上、加奈には純の話をしておいた方がいいようだ。
 どう言おうか考えているうち、しばらく立ち止まったままだったようだ。加奈は、俺の顔を覗き込んでいた。
 静かに息を吸い込むと、加奈に話した。
「実は、病気の男の子を助けているんだ。病名は言えないけどね」
「そんなことしていたの!」
「ああ、今まで黙っていたけど。ほら、よく俺が出張に行く町があるだろう。その近くに住んでいるんだ。ひょんなことから知り合ってね」
「そうなんだ。で、その子、直る病気なの」
「たぶん、一生直らない・・・」そう言うと、純の顔が頭に浮かんで、つらくなって、唇をかみ締めた。涙も出てきた。
「・・・でも、とっても素直な子だよ。純粋な子さ。健気に生きてる。本当に一生懸命生きてる。そんな姿を見てたぶん俺も変わったんだよ」
「どうして今まで黙ってたの」
「その子は体の病気じゃない。心の病気なんだ・・・いや、本人からすれば逆かも知れない・・・普通の人には理解できない病気だ。だから、例え加奈でも、その子の話をすることはできなかった。その子に悪い気がしてね」
「そうなの。そんなことがあったの」
加奈は、それ以上この話をしようとはしなかった。いつもふざけている俺が、真面目な顔で、しかも、涙を浮かべて話しているのを見て、それ以上聞けなかったのだろう。
 もっとも、今、俺が言えるのもそこまでだった。純に会っている時は、そう感じることはないが、他の人間に会って純の話をすると、やっぱり純は病気なんだと思ってしまう。そんな風に純を見ている自分は嫌だったし、その話をされている純があまりにも可哀相だった。
 また、色とりどりに浴衣を着た女性の集団が、カランコロンと音を立てながら脇を通り過ぎた。その音を聞いて、ようやく落ち着きをとり戻すと、また、二人歩き始めた。何も話さず歩いていたが、少し歩くと足湯があった。
「ちょっと入っていかないか」せっかくの旅行気分に水を差して悪いと思って、努めて明るく言った。
「いいね、入って行きましょう」加奈も気を遣ったのか、普段温泉に行って足湯を見ても「足だけ入ってもしょうがないでしょ」と言っているのに、今日はすんなり付き合ってくれた。
 足湯に浸かっていると、足だけ温かいと思っていたら、体までポカポカしてきた。
「初めて足湯に入ったけど、体まで温かくなるよ」加奈は驚いていた。
「いつも言ってる通りだろう。たまには俺の言うことも信用しないとな」
「今回は信用してあげる」加奈は笑いながら、両足を前後に動かしていた。

 足湯で体までポカポカになって宿に着いた。宿はこじんまりとしていたが、成る程、評判のいい宿というのは間違いないらしい。玄関は小さかったが花や植栽が綺麗に手入れしてあり、玄関の中に入っても、畳敷きの廊下や、囲炉裏がなんとも言えない雰囲気を出していた。
 この店の女将さんと思われる女性は、忙しそうにあれこれ指示をしていたが、俺たちを見ると、人の良さそうな笑顔を見せてフロントに案内してくれた。フロントの男性も手際がよく、本当に働いているのが楽しそうに応対してくれた。
「ここは、いまのところ一〇〇点満点だ。これは、風呂も料理も楽しみだよ」
「本当ね。でもここは料理がいいらしいの」加奈も期待しているらしい。
 俺たちは、畳敷きの廊下を案内されて、部屋に向かった。途中、廊下から足湯が見えた。夜はライトアップされて、とてもいい雰囲気なので、是非どうぞと仲居さんが言っていた。
 風呂は小さかったが、掃除が行き届いており、露天風呂も綺麗に配置された木々がなんとも言えず、静かな中にも雅な雰囲気を演出していた。
 料理は、地元の食材をふんだんに使い「どうだ」というような、押しつげがましいものでなく「どうぞ、お召し上がり下さい」といった、さりげなさを感じさせながらも、これが本当の贅沢かと思わせるものだった。
 当然、従業員の応対も素晴らしく、食事を終えて、すっかり満足した二人は、仲居さんに勧められた足湯に向かった。
 ヒノキで囲まれた足湯は、誰もいなかったせいもあってか、ライトアップされて確かにいい雰囲気だった。二人で今日二回目の足湯に浸かった。
 足湯に浸かって星空を見上げていると、加奈が俺の肩に頭を預けた。
「私も応援してるよ」
「何を」突然言われて、なんのことか分からなかった。
「病気の男の子のこと。ちゃんと見守って上げてね。でも、あなたが、あんなにまでその子のことを思ってるなんて、その子羨ましいな」
「その子だけじゃないよ、俺にとって、加奈は大事な人だよ・・・」続きを言おうとしたところで、アベックが足湯に入ってきた。俺
たちを見ると、反対側の一番離れたところで足湯に浸かった。加奈
は相変わらず俺の肩に頭を預けていた。加奈に続きを言いたかった
が、それはあきらめて、ずっと星空を見ていた。

 次の日の朝、女将さんと従業員の笑顔に見送られながら宿を後にした。空は昨日より雲が多いようだ。風もちょっと湿り気を帯びている。
 今日は、この温泉街の近くにある、森の散策路を通って、町を一望できる丘に登る予定だった。それまで、天気が持ってくれればと思っていた。
 駅に戻り、コインロッカーに荷物を預けて、二人は森の散策路を目指した。いつも、油臭いゴミゴミした空気を吸っていることもあり、森の中の空気はとても新鮮に感じられた。
 二十分も歩くと、温泉街と近くの町が一望できる丘に出た。雲は多かったが、遠くの山まではっきり見えた。
「すごいキレイ」加奈は驚きの声を上げた。
 同感だ。昨日の宿といい、この景色といい、今回の温泉旅行はとても満足のいくものだった。二人はベンチに座って黙って景色を見ていた。
「心が洗われるな」そんな気分に浸っていたら、加奈が突然この前の自宅での話しをした。
「ごめんね、この前は。せっかく来てくれたのに、嫌な気分にさせちゃって」
「もういいよ。気にしてないから。それに、加奈が悪いわけじゃないし」
「でも・・・なんか、あなたに悪くて」加奈は急に暗い表情になった。加奈の気持ちは分かった。加奈は俺との結婚も考えている。しかし、このままでは、二人に明るい未来はこないんじゃないか、そう思っているのだろう。だが、俺の気持ちは決まっていた。そして、昨日の足湯の続きを言った。
「加奈。結婚しよう」
 加奈は驚いた顔で俺を見た。突然だったので驚いたのだろう。しかしすぐ、笑顔を見せて、一呼吸置いて頷いた。
 二人は、しばらく黙って、この景色を見ていた。すると、隣の山にちょっと厚い雲が見え隠れしてきた。しばらくすると、その雲は厚みを増し、どんどんこちらに向かってくるようだった。
「ひと雨くるかも知れないぞ、戻ろうか」
 幸せの余韻に浸っていたい気持ちだったが、二人して駅に向かった。駅に着くと同時に空からポツポツと雨が降ってきた。
「この空も、もうちょっと気を使ってくれればいいのに」空を見上げて言った。
「そう言えば、雨男って言ってたよね」
「そうなんだよ。雨男なんだよ。いつもいい時に雨が降るんだ」
「じゃあ、今、雨が降るのは、いいことなんじゃないの」加奈は笑顔だった。
「そういう、見方もできるな」
 帰りの電車に乗り込む頃には、雨はシトシトと降り始めた。電車の中からは、もう遠くの山並みは見えなくなっていた。代わりに、車が水しぶきを上げながら走っているのがよく見えた。
 そんな味気ない車窓からの眺めもあってか、加奈は、二人で住むところはどうのとか、カーテンの色は何がいいとか、ひっきりなしに話していた。
加奈は嬉しかったようだ。俺も加奈がプロポーズを受け入れてくれて嬉しかった。後は加奈の父親をねじ伏せるだけだ。これはちょっと骨が折れそうだが、加奈のお姉さんも結婚しているんだし、時間をかければ認めてくれるだろう。
加奈を自宅に送っていった頃には雨も止んでいた。手帳を出して、来月のスケジュールを見た。手帳は来月の分までびっしりと埋まっていた。俺は、昨日加奈に純のことを話したせいか、なんとなく純に対して罪悪感を感じていた。そして、早く純に会いたかった。純の笑顔を見て、この気持ちを払拭させたかった。
 それには、目の前の仕事を一つ一つ片付けて、時間を作るしかない。手帳を閉じると「よし、やるぞ」と言った。やる気が湧いてきた。そして、手帳を上着のポケットにしまうと駅に向かった.


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