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作品名:山の神 作者:黒川

第5回   真実
 孝明は、村の一番はずれにある加藤の家にいた。神社からぐるっと遠回りをして、畑の真ん中を通り二人は加藤の家に入った。
 孝明は祭りを見ているところを加藤に見つかったときは、怖くて逃げたくても逃げれなかった。しかし、加藤は俺について来い、と言っただけで、特にどうこう言うことはしなかった。孝明は黙ってついて来たのだが、その時は昼に抱いた悪感情は浮かばなかった。おそらく、祭りのときの村人と違い、人間性を残した顔だと言うのもあったのだろう。
 加藤の家は平屋建ての小さい家で、他の家のように農業を営んでいる家には見えない。玄関脇には、山で使う、かごやなたが整然と並べられており、それぞれきちんと手入れがしてあった。居間にはテレビとテーブル、そして、茶箪笥がおいてあるだけで、女気はまるでない。玄関にも女物のくつもなかったところを見ると、おそらく結婚はしていないのだろう。
しかし、と孝明は思った。何故この男は俺を自分の家に呼んだんだろうか。昼間見たときは、自分に対して何らかの特別な感情、どちらかと言えば悪意を持っているとしか思えなかったのだが。今、こうして間近に見ると、そんな風に自分を思っているとは思えない。
「確か、加藤さんでしたよね」孝明は、玄関から孝明の履いていたスニーカーを家の中に入れていた加藤に聞いた。
「知っていたのか」そう言うと加藤は茶箪笥に向かった。
「つつじ屋で見かけた時から思ってたんですが、加藤さんは俺のことずっと見てたけど、どこかで会ったことがありましたっけ?」
 加藤は何も言わず、湯呑みを二つと一升瓶を取り出すとテーブルに座った。そして、孝明の前に湯呑みを置き、なみなみと酒を注いだ。次に自分の湯呑みに酒を注いで、それを一気に飲み干し、また、酒を注いだ。
「俺は、お前がここに来るまで会ったこともなければ、話したこともないよ」つつじ屋で話している時とは違って、はっきりとした口調で話した。その声は見た目と違い、透き通って、しかも力強く、知性さえも感じさせる声だ。
「でも、いつも俺のこと見てましたよね」
「まあ、理由はこれから話す。その前にまず飲め。飲まないと、これから話すことをまともに聞けないかも知れないから」加藤はあごを上に上げて飲めと催促した。孝明は、左手で湯呑みを取り、同じように一気に飲み干した。それを見ると、加藤は、また孝明の湯呑みに酒を注いだ。
「俺が、お前を見ていたのは、お前を監視していたからだ」
「監視、なんでそんなことを」
「今から言うことをお前は冷静に聞けるか?」
「俺は、さっきから冷静ですよ」
「そうか、ならはっきり言おう。ここは呪われている。そして、お前を必要としていると言うことだ」
「先に、結論を言いましたね。だが、さっぱり分からない。まあ、あの祭りを見れば、呪われていると言われても、分かるような気がするけど。何故、俺を必要としているか分からない。俺は正義の味方でもなければ、悪代官でもない」孝明は酒を一口飲んだ。加藤は台所に行き、山菜のおひたしを持ってきた。「つまみだ。こんなもんしかなくて悪いが、遠慮なく食ってくれ」そう言って箸を孝明の前に置いた。この男、気は確かか。この時代に呪いなんてものがある訳がないだろう。ちょっとまともだと思ったが、やはり旅館の女将さんの言うとおり、少し、いや、かなり変な人間かも知れないぞ。と思ったものの、ある意味不気味な祭りに興味が沸いていたこともあり、少し話を聞いてみることにした。
「ここは・・・」湯呑みの酒を一口飲んで加藤は話し始めた。
「ここは、呪われているんだ。三人の山伏にな」
「でもそれは千年も前の話でしょう」
「そうだ。もちろん山伏は死んでいるさ。だがな、山伏の子孫は残っている。山伏の子孫はそれぞれ旅館を経営している。ここに三つ旅館があっただろう。その経営者はみな山伏の子孫さ」
「じゃあ、その旅館の経営者がここを呪っていると加藤さんは言うんですね」
「正確に言うとそうではない」
「正確に言うと?」
「そうだ。今のあいつらにそんな霊力はない。霊力を持っているのは千年前に死んだ山伏だ」
 孝明は笑いながら首を横に振った。「そんな昔話をするために俺を呼んだんですか」
「まあ、普通の人間はそう思っても仕方ないだろうな。だがな、これから話すことはお前自身にとっても重要なことだ。笑い事じゃ済まない話しなんだ。良く聞いておくんだ」加藤はたしなめるように言った。その目は真剣な目をして孝明を見つめていた。
「まず、三人の山伏がここに来て、温泉を掘り当てた。温泉を掘り当てると、三人はここに住み着いたんだ。最初は、村人の怪我や病気を治してやったりしていたようだが、そのうち、ここを自分たちの思うがままに操れる楽園にしようとした。そこで、怪しい霊力を駆使して、ここの村人を洗脳したのだ。なんでも自分たちの言うことを聞くようにな。ここで採れた作物、温泉の上がり、それだけじゃない、村の女まで自分たちのものにした。今度は、山伏は、それが自分たちの子孫まで未来永劫続くことを望んだ。そして、自分たちの霊を神社に祭り、年に一度六日間、儀式を行えと遺言して死んだんだ。お前がさっき見た祭りは、村人を洗脳するための儀式だったのさ」
「しかし、今の時代に村人を搾取するなんて出来ないでしょう」
「いや、お前は分からないだろうが、旅館で働いている従業員は僅かな給料しか貰っていない。それに、ここに住んでる人間は一人いくらと神社にお金を寄付することになっているのさ。それも小さい額ではない。最終的にはそのお金は山伏の子孫のところに行くんだがね。もちろん、人が多ければ多いほど実入りも多い。だから、ここの人間を逃げないようにするためにも、ここで生まれた人間が出て行っても、またここに戻ってくるようにするためにも、洗脳しておくことが必要なんだ。それに、あいつらは若い仲居に手を出しているはずだ。それは、単に女を抱きたいのもあるだろうが、優秀な子孫を残す意味合いもある。だがな、被害者であるはずの彼女たちはそれを誇りに思っているんだ。つまりそれも洗脳さ」
「俺は、さっき見た儀式で村人が洗脳されるとは思えませんがね」
「だから、千年前に死んだ山伏の霊力が必要になるのさ。その霊力を使って村人を洗脳させるんだ。山伏の霊力を永遠に保つためには、死んだ人間の魂が必要になる。だが、その効力は三十三年が限度のようだ。だから三十三年に一度、誰かの魂を山伏の霊に捧げなければならない。今年は前に魂を捧げてからちょうど三十三年にあたる年なんだ。昔は近くの村から人間を拉致してきたようだが、さすがにそんなことは出来なくなったので、三十三年前は、お前と同じように選ばれて温泉に泊まりに来た人間の魂を捧げたんだ」
「それで、三十三年目の今年は、俺の魂を捧げると言う話しなんですね」孝明はぐいっと湯呑みの酒を飲み干すと立ち上がった。「ごちそう様でした」孝明は、加藤に背を向けながら立ち上がった。
「俺の話を信じていないな」後ろから加藤の声が聞こえた。「ええ、信じてません。それに俺は明日帰りますから」
「これから旅館に戻れば、お前は、もうあの旅館から出ることは出来ないぞ」
「もし、俺を捕まえるなら昨日来た時に捕まえるはずでしょう」
「それは違う。それには段取りがある。今日の儀式はお前の魂でいいかどうか、山伏の霊に尋ねたものなんだ。それが終わるまではお前を捕まえることはできないさ。結果は、お前の魂でいいということになった」
「ああ、そうですか、それじゃ、俺はこのまま車で帰りますよ」
「それは無理だ。車は俺が走れないように細工した」
「えっ」孝明は振り返って加藤を見た。
「お前はもうここから出ることは出来ないんだ。お前は今日ほとんど寝ていただろう。昼にはそばを食べたはずだ。朝、昼、晩とお前の食べる料理には眠くなる薬剤を入れておいた。逃げないようにするためにな。神社にも行って中を覗いた。俺はそれも知っている。それから、これを見ろ」加藤はテレビのスイッチを入れた。そこには旅館山田の孝明が宿泊している部屋が写っていた。
「これは立派な犯罪じゃないか」
「立派な犯罪だ。だから俺がやってるんだ。旅館の連中がそんなことをして、もし、見つかったら大事になっちまうからな」
「本当に俺を監視していたのか」
「そうさ、さっきも言ったとおり俺はお前を監視していたんだ。それにお前は知らないと思うが、この儀式の時期は、いつもは客を泊めないんだ。儀式を誰にも見られないようにな。いくらシーズンオフと言っても、三軒の旅館にお前だけ泊まっていると言うのも不思議だとは思わないか」
 孝明は急にぶるぶると体が震え出した。加藤の言っているお伽話が、急に恐怖小説に変わり、表紙を突き破って孝明の喉下に食らいつくような恐怖を感じた。
「じゃあ、あんたは俺を殺すつもりなんだな」孝明はつばを飲み込んで言った。加藤は、静かに首を振った。
「俺は、お前を殺すつもりはない。出来れば助けてやりたいと思っている。いや、助けて欲しいと思ってるんだ」加藤は孝明を見つめた。
「まあ、座って話を聞いてくれ」孝明は呆然とした顔で、言われるがままにもう一度加藤の向かいに座った。
「お前は、どうしてここに来ると決めたんだ」
「ネットで適当にクリックして決めた」
「いつ?」
「日曜日に」
「日曜日は、祭りの初日だ。その時はここに魂を捧げるのにふさわしい人間が来るように祈祷していたときだ。お前は、自分で決めて来たと思っているだろうが、それは違う。お前はその時選ばれたのだ。二泊すると言ったのもお前が決めたものではない」
「そんな・・・」
「それから、旅行の前日に泥棒に入られただろう?」
「ええ。でもどうしてそれを・・・」
「お前の部屋に入ったのは俺だ」
「えっ、どうして俺の部屋に」
「俺は、あいつらに命令されて、お前がどういう人間なのか調べるためにお前のアパートまで行ったんだ。そうしたら、お前は出かけていたので、ピッキングをしてアパートに入り、いろいろ見ていたのさ」
「じゃあ、あの泥棒は」
「正確に言うと、泥棒じゃないが、まあ、それはともかく、お前が急に帰ってきたので、俺は台所から飛び降りた。そして、足を捻挫したんだ」
「山菜採りに行って転んだんじゃないのか」
「そう言うことだ。本当はお前の顔を見たかったんだが、それは出来なかった。だから俺はつつじ屋で初めてお前を見たんだ。たぶんこいつが生贄の男だなってな。だが、その時は俺も気が動転してしまったよ。お前がちらちらこっちを見るから、もしかしてこいつは、俺が逃げるときに顔を見たんじゃないかってね」
「しかし、そこまでしたあんたが、何故ここのことを俺に話すんだ」
「俺は、これでも東京大学を出ているんだ。在学中に司法試験も受かった。将来は弁護士になって弱い人間を助けてやりたいと思った。弁護士になれば苦労して大学を出さしてくれたお袋に親孝行も出来るとも思った。将来を約束した女も出来た。だがな・・・」加藤は涙を浮かべた。そして、湯呑みの酒を一口飲んで、また、話し始めた。
「だがな、洗脳されちまうと、ここに戻ってくるしかないんだよ。みんなそうだ。東京に行っても、最後はここに戻ってくる。俺達はそういう風に洗脳されちまっているのさ」
「でも、あんたは根っこまで洗脳されている訳じゃないようだけど」
「何故だかは分からないが、きっと、もともと俺の先祖はここにいた人間じゃないからのようなんだ。いつ頃来たかは分からないが、そんなに昔のことではないらしい。俺が思うに、ここの村人は、多かれ少なかれ山伏の血が入っているのさ。だから、洗脳されやすいいんだと俺は思ってる。だが、お前の言うとおり、俺はくさりきっちゃいない。俺はこれをなんとかやめさせなくちゃと思ってたんだ」
「警察には話したのかい?」
「警察?警察に行ってこんな話をしても信じちゃくれないないさ」
「しかし、俺の監視を任されると言うことは、あんたは山伏と関係があるんじゃないのか」
「俺は、ここではいかにも洗脳されてますと言う顔をしている。そして、法律の知識もあれば、弁も立つ。だから、山伏の子孫は俺を信用していろいろと俺に任せるようになったのさ。そのうち、山伏のことや儀式のことも、いろいろと話しをしたり、昔の書物も見せてくれるようにもなったんだ」
「それで俺を助けたい、いや、助けて欲しいと言うのは一体・・・」
「いいか、良く聞けよ。お前が見たあの神社にある三つの箱は山伏の霊が祭られているところだ。その前に箱があっただろう。あれには三十三年前に捧げた人間の魂が封じ込められている。建物の扉には御札が貼ってあって、爆弾が爆発しても開くことはない。火をつけられても神社は燃えやしない。だがな、三十三年に一度の魂の入れ替えの儀式の時だけ、それは開けられるんだ。そして、それが出来るのは山伏の直系のあいつらしかいない。その時、その魂が封じ込められている箱の上に、山に生えている神木の葉を置くと、その魂は即座にあの世に行って、たちまち霊力はなくなる。そうなれば、俺もお前も助かるって訳だ」
「あんたはその神木の場所を知っているのかい?」
「ああ知っている。だが、俺には取れなかった。おそらく洗脳されて、心の曇った人間には取れないんだろう。だから、もしお前が旅館から出てこなければ、俺は旅館に忍び込んでもお前を連れて来るつもりでいたんだ。お前は悪意を持っていないから、その神木の葉を取れるはずだからな」
「取れるはずだ?って確実な話しではないのか」
「俺は、昔の書物を徹底的に調べたんだ。そしたら、ここの霊峰と呼ばれる山に神木があって、その葉っぱには迷える魂を成仏させる力があるってことが分かった。山伏はそれを恐れて、神木を切り倒そうとしたようだが、とうとう出来なかったみたいだ。そのことが昔の書物に書いてあったよ。俺は、その書物を読むために古文書の勉強をしたから読めたが、あいつらはなんて書いてあるんだ、と聞いてきたから、きっと読めないんだろう。その時俺は適当に答えておいたが、こんな大事なことが書かれているのに、あいつらは全然分かっちゃいない」
「しかし、その神木の葉っぱを取れなければ、俺は殺されるんだな。本当に俺にその葉っぱが取れるだろうか」
「大丈夫だ。悪意を持っていない人間には必ず取れる。お前は、それを隠して、あいつらと一緒に神社の中に入る。お前とあいつらしか神社の中には入れないからな。お前を縄で縛ることになっているが、縛るのは俺の役目だ。ちょっとした細工をしておくから、お前がその気になれば縄はすぐほどけるようにしておく。そして、すきを見て、お前は神木の葉を箱の上に置く。そうすれば山伏の霊力はなくなり、ここも千年の呪いから解き放たれると言う訳だ。頼む。これを逃せばあと三十三年後にしかチャンスはこないんだ。力を貸してくれ!」加藤は孝明の目をみつめた。
 孝明は加藤の言葉を全て信じた訳ではない。しかし、この状況から見て、自分に残された道は一つしかない。
「この状態じゃ、俺はあんたを信用するしかないよ。どうせ走って逃げて家に帰れたとしても、拉致されるんだろうから」
「そう言うことだ。俺の足じゃ今は追いかけられないが、代わりのものはいくらでもいる」
 孝明と加藤はしばらく黙ってちびちびと湯呑みの酒を飲んでいた。孝明は、ふと、ネットで見た三十年程前にこの村で起こった事件を思い出した。
「三十年位前に、ここで起こった事件は、呪いと関係がありますね」孝明は加藤を見て言った。加藤は、それを知っていたのかと言った顔で顔を上げた。
「そうだ、あの箱の中に閉じ込められている魂は、あのカップルの男のものだ。捧げる魂は男の魂と決まっている」
「ネットで見たとき、女性はその男性に殺されたように書いてあったけど、今の話しを聞くと、そうじゃないな。きっと、ここの誰かがその女性を殺したに違いない」
 それを聞くと加藤の顔が曇った。「もしかして、あんたが殺したのか」孝明がそう聞くと、加藤の手はわなわなと振るえ始めた。
「仕方なかったんだ。あの時はそうするしかなかった。本当は男が一人で泊まる予定だったんだ。だが、この村に来たのは男と女二人連れだった。そして、その女は、今日のお前と同じようにそっと儀式を見てしまったのさ。しかも、自分の男が魂を抜き取られるのをな。女はそれを見て悲鳴を上げて逃げ出した。俺とあいつらはそれを追いかけた。女は山登りをやっていたので体力があったんだろう。ようやく追いついたのは、役場のある集落までもう少しのところだった。そして、俺は・・・声を聞き付けた駐在がやってきたから、死体を隠すまではいかず、殺人事件で世間に知られちまったがな。しかし、俺は殺す気はなかった。それは本当だ。でも、あいつらはそれを許さなかった。だから・・・」
 加藤は肩を震わせて泣いた。孝明は黙って加藤が泣くのを見ていた。しばらくして鼻水をすすると、加藤は湯呑みの酒を飲み干した。
「俺の罪も許されるものじゃない。だが、あいつらは、俺は絶対許さない。自分の欲望のためなら、人を殺すことなんてなんとも思っていない」
 その時、外で誰かが走ってくる音が聞こえた。「台所に行け」加藤は、小さく、しかし強く命令する口調で言った。
 孝明は言うとおりに台所に行った。加藤が湯呑みと、皿をテーブルの下に隠したとき、玄関のドアが開いた。
「おい、あいつは部屋に居るか?」それは旅館山田の社長の声だった。
「大丈夫ですよ。今さっき見ましたが、部屋で寝てましたよ」加藤はテレビを指差した。
「そうか、くつがなかったから、どっかに行ったかと思ったが」
「ああ、くつは部屋に置いてありましたよ。たぶん、散歩して汚れたんでほこりでも払っていたのでしょう。東京の人間は人間関係には気は使いませんが、そんなところは変に気を使いますからね」
「それならいいが。それじゃ、明日の朝食に睡眠薬を入れて、あいつを一日中寝かしつけてやるか。まったく今日はいきなり帰るなんて言い出すから、こっちはあせちまったよ。女将になんとかなだめさせたんだが。ただ、ご先祖様があいつでいいと言うまでは、一応お客様だからな、そうそう無理はできないし。でも、これで俺の役目は終わりだ。後は俺の息子の番だ。お前もこれが最後の仕事になるから、くれぐれも慎重に頼むぞ」
「分かりました」
 ばたんと玄関を閉めると、社長はパタパタと走り去った。加藤は窓からそれを眺めて社長の姿が見えなくなると「もう、いいぞ」と言って孝明を呼んだ。
「あんたの言うことは間違いないようだ」
 加藤は頷くと、地図を持ってきて孝明に見せた。「いいか、ここが神木のある場所だ。この沢づたいに上って行けば見えるはずだ」
「俺一人で行くのか?」
「途中までは俺も一緒に行く。だがな、この足じゃ神木のある場所まで行くことは出来ない。悪いが、そこからは、お前一人で行ってもらうしかない」


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