白い砂浜に静かに寄せる波。揺らめきながらきらきらと反射する光。 千里浜なぎさドライブウェイ − 砂浜を車でドライブ出来る場所として人気の観光スポット。夏ともなれば海水浴やドライブに訪れる人で渋滞するほど賑わう場所だが、5月の今頃は訪れる人は少ない。最近では砂浜の侵食が酷く、シーズン以外では車の走行できる箇所も限られてまい、隣の海浜道路を走る車が目に付く程度で砂浜を走る車は数える程のとても閑散としている。 森下健一 42歳 建設機械のレンタル会社に勤めている。隣の七尾市にある営業所の所長として赴任していたが、今年新たにこの羽咋市にも営業所が出来たのを機に2店舗を会社から任せられるようになった。健一は、幼い頃からこの砂浜から眺める景色が大好きで、特に太陽が沈む時、西から東に向かって橙色から赤紫色、青紫色、葵色、漆黒とグラデーションに染まる空はまさに圧巻と思えるほどだった。家庭を持った今は子供と休日に訪れるのが健一の楽しみだったが、春先までは風も冷たく今日が今年初めての海となった。 「パパ、いくよ。」娘のさやかは、今年小学校5年生になった。明るくてとても優しくクラスの人気者だった。今日は、お気に入りのビーチボールを持って来たのである。健一は、さやかが投げたボールを受け止めると優しく投げ返した。「あ!」健一が投げた瞬間、風に煽られボールはさやかの頭の上を超えて転がっていった。それでも、さやかはハシャギながらボールを追いかていった。ボールが転がった先に20代半ば位の女性が海を見つめながら佇んでいた。よく見ると目には薄っすらと涙が見えた。 「お姉ちゃんどうしたの?」「泣いてるの?」さやかだった。優しいさやかは、学校でも泣いている子を見つけると声を掛けるような娘だった。少し驚いた様子の女性もさやかの姿を見て微笑んだ。「ありがとう。でも、大丈夫よ。」「目に砂が入っただけだから。」そう言うと、足元のビーチボールを拾ってさやかに渡した。「どうも、すみません。」後ろから追いかけてきた健一だった。娘が失礼な事を聞いてしまったと思い謝った。「いえ。」女性は静かに答えた。そこにさやかが「パパ、目に砂が入っても大丈夫なの?」と聞いてきた。「えっ!」思わず健一と女性は顔を見合わせ微笑んでしまった。 「どちらから?」健一が女性に聞いた。「東京です。」女性が答えた。すると健一は「この時期に来られる方は珍しいですね。今頃は波音ぐらいしか楽しみはないですから。」そう言うと2人は海の方を見つめた。さやかが、痺れを切らしたように「パパ、早く続きやろう。」とせがむので、健一は軽く会釈を交わしながらもといた場所に戻っていった。女性は健一達に背を向けるように歩き始めた。健一は振り返り彼女の背中を見つめていると、さやかが「どうしたの?パパ。」「早く続きやろうよ。」と、急き立てるように甘えてきた。健一は「ごめん、ごめん。」と言った後、「さやか、喉渇かないか?」「コンビニでジュース買おうか?」と聞くとやったとばかりにさやかは喜んだ。「ようし、車まで競争だ。」2人はハシャギながら車へと向かった。
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