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作品名:いにしえララバイ 作者:藤巻辰也

第7回   第6章安芸にて
 山と山との谷間を安芸の国に向かって、旅を続けていると、山々の紅葉が太陽の光を浴びて、晩秋の季節を感じる頃になっていた。イハレビコ達が日向の国を出てから、すでに七ヶ月を過ぎようとしていた。
 「タシト、よくここまで来たな。」
 「若、色々な人に会い、教えられ、この目で見たりしてきましたね。」
 「筑紫の国で、韓の国からの船荷を見た時は驚いた。この世にこのような品物があるのかと。金銀を装飾した勾玉や首飾り、青銅で作られた鏡、そして剣や鎧や盾である。」
 「出雲の国の弱点は、やはり肥の河ですかね。」
 「そうだのう。我々が出雲の国と戦う時、この山々を越えないと行けない。出雲の国が他国と戦う時、この山々が防御になっているかも知れない。」
 「冬になれば、この山々は雪に埋もれるのでしょう。山から攻めるより、海から攻める方法もありますが。」
 「確かに海から攻めることも出来るが、製鉄集団を我が物にすることを目的としているので、出雲の国を攻めるのはこの山を越えなければならない。」
 イハレビコは、大和朝廷を樹立させるために日向の国を出て、倭の国まで進軍することになるのだが、安芸の国と吉備の国でかなりの歳月を費やすことになる。これは、イハレビコの軍を強固にするため、軍需品を充実するため、製鉄技術を身につけるため、出雲の国を攻めていたのではないだろうか。
 イハレビコ達は、比婆の山の麓の山道を歩き、西城川の上流に沿って歩いてきたので、くたくたになり、宿舎を探していた。山を下って行くと、山の麓に集落が見えた。
 「タシト、あそこの集落で休息を取ろうか。一度探ってまいれ。」
 タシトの手下がその集落を訪ねて見ると、そこに老婆が現れて来て。
 「おぬしら、何か我が集落に用事があるのか。」
 「私達は、日向の国の者じゃが、アマテラスの神に奉納するため、伊勢の国まで行く途中である。」
 「そうか、怪しいやからかと思ったのよ。今、我が集落には老人と子供以外の男衆が居ないでのう。」
 「男衆はどうしたのですか。」
 「安芸の国では、伊予の国と戦闘状態で男衆が借り出されているのさ。」
 「男衆の代わりに女子達が、集落を守るのさ。だから、素性の知れないおぬしらに声を掛けたのよ。」
 「我らは、ただ、この集落で宿舎を探しているのですが。」
 「分かった。長老に相談してみるから、少し待つとれ。」
 「長老に話したら、長老がそなた達を泊めてくれると。」
 「ありがたい。若に報告して、案内してもらいます。」
 イハレビコ達は老婆の案内で、庄原の集落の長老の住居に着いた。
 「日向の国のイハレビコでございます。」
 「エマラビでございます。アマテラスの神に、奉納するための長旅でお疲れでしょう。ごゆるりとお泊り下され。」
 「エマラビ様、安芸の国のことを少し、教えて頂きたいのですが。」
 「何なりと聞いて下さい。」
 エマラビは、イハレビコが倭の国に向かって進軍した時にイハレビコに従うことになる。
 「安芸の国は、北は出雲の国、東は吉備の国、南は伊予の国と強国に囲まれていますね。今も、伊予の国と戦っていますよね。」
 「確かにその通りです。若い男衆が兵役に借り出されています。」
 「安芸の国の戦は、海戦が得意と聞いていますが。」
 「実を言いますと、伊予の国と海域争いで海戦が多いのです。」
 「海の戦いでしたら、この山沿いから兵を集めないでもよいのではないですか。」
 「我らは、稲作以外に山で弓矢を使って、狩りもしているので。」
 「そうか、船に弓矢のできる兵を乗せ、矢を飛ばして戦うのか。」
 「そうですね。そして、敵の船の兵士が少なくなったところで、敵陣の船に乗り込み、船を沈めてしまいます。」
 「なるほど。伊予の国との海域争いはよく分かったのですが、出雲や吉備の国とはどんな感じですか。」
 「出雲の国との戦いは、山越えの戦いになり、冬になると雪のため兵を引きます。」
 「吉備の国は、如何ですか。」
 「吉備の兵は、強いですよ。安芸の国と吉備の国とは、出雲の国と戦うために、同盟関係にあります。」
 「そうですか。吉備の兵は強いですか。」
 「出雲の国との戦いになると吉備の国に応援してもらいます。その代わりに、吉備の国が伊予の国や粟の国や讃岐の国と戦う時には、応援に行きます。」
 「よく分かりました。多祁理の宮のコトミナヒコ様を訪ねようと思いますが。」
 「多祁理の宮ですか。ここから、西の山道を行き、西南の山道を降り、海辺が見えてきたところにあります。安芸の国の政の中心地です。」
 多祁理の宮は、広島県安芸郡府中町のどこかとしか分かっていない。イハレビコが倭の国を目指した時、七年もこの宮で住まいしている。そして、イハレビコの軍が出雲の国と戦うのに庄原の集落に集結した。
 いにしえの時代には、北の山を越えたら、出雲の国であった庄原の集落は、安芸の国が出雲の国の侵略に遭って、出雲の国の領地になったりしていた。また、庄原の集落は、安芸の国が出雲の国と戦う時の拠点になっていた。しかし、冬が間近になると、出雲の国は雪で包まれるようになって、庄原の集落への侵略が出来なくなるから、庄原の集落では伊予の国の戦いに出兵していたのである。
 「イハレビコ様、我らの部族は戦闘に明け暮れています。何とか平穏な暮らしがしとうございます。」
 「出雲の国からの侵略だな。」
 「そうです。それだけではありません。伊予の国との海戦が始まったら、その戦闘にも参加せねばなりません。」
 「我が国、日向の国も同じように国が乱れている。この現実を打開して、民が平穏な生活できるような国を作らなければならない。そのためにも、アマテラス様にお会いしなければならない。」
 イハレビコは諸国を旅する間に、天つ神から与えられたイハレビコ本人の役割を徐々に理解するようになってきた。
 イハレビコ達は、早朝、多祁理の宮に向けて庄原の集落を後にし、西城川にそって林道を歩き、盆地に出てきた。三次の盆地には江の川の上流と合流しており、川幅が広くなっていた。また、稲作の収穫を終えた畑が一面に広がり、その中央に集落があった。イハレビコ達は、三次の集落で休息を取るため立ち寄ってみると、藁で包まれた一体を担いでいる行列に出くわした。イハレビコは、行列を見送りに来た初老の人に声を掛けた。
 「どうかされたのですか。」
 「川の水の恵みとお日様の恵みで、今年も豊作であったで。この集落の仕来りで収穫を終えた時に、川の神様に生け贄を捧げるのです。何れ、私の番が回ってきます。」
 いにしえの時代には、各地のよろずの神様に奉納するのに、生け贄が盛んに行われていた。その当時の日本では、アマテラスの神を代表とする天つ神、オオクニヌシを代表とする国つ神、各地のよろずの神(海の神、山の神、川の神等)がおられたことになる。
 イハレビコ達は、三次の集落を後にし、江の川の上流の林道を歩き、幾日か野宿を続けた。そして、目の前に平野部が開け、その向こうに海が見えてきた。いよいよ、多祁理の宮に近づいてきた。
 「若、あそこが多祁理の宮ですね。」
 「タシト、コトミナヒコ様にお会いして、海戦に必要な戦闘具や海戦の戦略をお聞きしようと思っている。また、海戦の現場も見ときたいものよ。」
 「若、ここでお待ちください。手下にコトミナヒコ様の居場所を探させますので。」
 タシトの命により、手下達は多祁理の宮へ向かった。多祁理の宮に着くと、伊予の国と戦闘下にあるので、宮は慌しかった。
 「コトミナヒコ様を探せとの命令だが、このような状態では、なかなか難しいな。」
 「そうだな。宮殿付近まで行って、聞くしかあるまい。」
 手下達は、宮殿付近で様子を窺っていたら、宮殿から涼しそうな顔をした人物が出てきたので聞いてみた。
 「私らは、日向の国のイハレビコ様の手下の者ですが、安芸の国のコトミナヒコ様を探していますが、ご存知ないですか。」
 「コトミナヒコ、この私じゃ。」
 「これは失礼しました。」
 「この私に何の用じゃ。」
 「出雲の国のサツミワケ様の紹介で、あなた様を探していたところです。」
 「サツミワケ様か。出雲の国の戦で和睦交渉にあたった時にお世話になった御仁か。」
 「私たちの若君が、サツミワケ様に安芸の国の海戦術を知りたいと相談したら、コトミナヒコ様を紹介されました。」
 「なるほど、海戦術か。私は和睦交渉が得意だが。今も、大君に伊予の国との和睦を進言してきたところじゃ。」
 「私達の若君が、どうしてもコトミナヒコ様にお会いしたいと。」
 「おぬしら、日向の国と言われたな。この安芸の国に海戦術を学ぶために、ここまで来られたのか。」
 「私達は、アマテラスの神に剣を奉納するために旅をしています。」
 「アマテラスの神か。よく分かった。旅の疲れもあるだろうから、私の居間でごゆっくりと過ごされよ。」
 「ありがとうございます。若を連れてまいります。」
 この当時でも、アマテラスの神に奉納すると言えば、だれも嫌う者はいなかった。いにしえの時代の宗教心は、現在の仏教やキリスト教の信者の宗教心とは違って、その当時の庶民の宗教は、太陽信仰や山岳信仰に近いものであった。キリスト教はイエスキリストの教えであり、仏教は仏陀の教えであるように、悟りを開いた個人崇拝的色合いが深いのに対して、日本古来の宗教は自然崇拝の色合いが濃いのではないだろうか。現在でも、正月に初詣として神社にお参りに行ったり、初節供や七五三や夏祭りに神社にお参りに行ったりしている。また、あまり公開されていないが、天皇家の新嘗祭等の儀式が年間に数十回あり、日本古来の祭典を想い浮かべる。だから、いにしえの時代の人々は、アマテラスの神に奉納すると言うと誰も反対しないのです。
 「若君、コトミナヒコ様を探してまいりました。これから、ご案内します。」
 「コトミナヒコ様は、どのようなお方だった。」
 「宮殿から出てこられて、安芸の大君に伊予の国との和睦を進言されたお方でした。」
 イハレビコは、海戦術をコトミナヒコから聞き出そうと思ったのに、和睦を進言するような御仁とは、少し頭を傾げた。
 多祁理の宮は、天神川が中央に流れ、船で川を下れば、広島湾に出るようになっていた。宮中には伊予の国と戦闘中とあって、兵士が慌しく往来し、天神川の船着場では戦闘の物資が運ばれていた。多祁理の宮の宮殿は、イハレビコが各地を廻って見てきた宮殿よりは、割りと質素な建物であった。
 「日向の国のイハレビコでございます。」
 「安芸の国にようこそ来られた。当家の主、コトミナヒコでございます。長旅と聞いております。当家でゆっくりと疲れをお取りくだされ。」
 「ありがたく思います。」
 イハレビコ達は、コトミナヒコの居間まで案内された。
 「コトミナヒコ様、安芸の国では、伊予の国と戦闘状態にあると聞き及んでいますが、現状は如何ですか。」
 「伊予の国が斎島を領土にするため、大崎下島と豊島に上陸して来たことによって、戦闘が始まった。そこで、倉橋島に本拠地を置く呉の部族と大崎上島を領土としている竹原の部族が、伊予の国の軍を挟み撃ちにしています。」
 「コトミナヒコ様は、伊予の国と和睦を安芸の大君に進言されたそうですが。」
 「呉や竹原の部族は、安芸の国でも海戦については一位二位を争う部族ではあるが、伊予の国も強い。たとえ、安芸の国の軍事力を行使して、伊予の国を押さえつけても、また攻めてくる。無闇な争いを避け、安芸の国の軍事力を温存しなければならない。私は弱気で、和睦を進めていない。」
 「引き際が大事だと言うことですか。」
 「よくお分かりだな。引き際には、政治力が必要なのよ。」
 「では、どのような和睦があるのでしょうか。」
 「今回の争いの伊予の国の魂胆は、呉の部族と竹原の部族の分断にある。また、呉の部族の津和地島や怒和島の侵略を防ぐことも主要な目的のひとつだ。」
 「なるほど。」
 「伊予の国としては、斎島など大した島ではない。斎島を足がかりに豊島や大崎下島を占領して、竹原の部族と呉の部族の交流を分断して、呉の部族の侵略に対処しようとしているのさ。」
 「おおよそ、伊予の国との争いの事情が分かってきました。それで、コトミナヒコ様はこれから如何されるのですか。」
 「大君の命を持って、呉の部族のカサブラミコに会うつもりだ。よければ、イハレビコ様もついてこられるか。」
 「いっしょにお供します。」
 コトミナヒコは、安芸の国でもかなりの実力者であったことは間違いない。翌日、イハレビコ達は、コトミナヒコが用意した船に乗り込み、呉の部族の本拠地である倉橋島へ向かった。
 「コトミナヒコ様、よくぞ来られた。」
 「カサブラミコ様、戦況は如何ですか。」
 「豊島に本陣を置き、伊予の軍船が現れた時に、屋久比島から我が軍船を出して、伊予の軍船を沈めているのですが。必要以上に現れるものですから。」
 「今でも、津和地島や怒和島の侵略は続けているのか。」
 「元々、津和地島や怒和島は我ら部族の領土だったのを伊予の国が取ったのではないか。取り返すために、戦ってなにが悪い。」
 「それはよく分かるが、今回の戦は津和地島や怒和島の侵略に対する伊予の国の報復ではないか。津和地島や怒和島の侵略を止めてもらいたい。」
 「それは出来ぬ。」
 「大君の命令でもか。」
 「それで伊予の国が納得するとでも思っておられるのか。」
 「これから、伊予の国に渡って交渉するのだ。大君も場合によっては、ハキマタヒメを人質に送ってもよいと仰せじゃ。その代わりに伊予の国の若君、カイセイビコを人質にするのじゃ、との仰せじゃ。」
 「あなたの言われることは分かった。さて、コトミナヒコ様は、これから如何されるのか。また、我らは如何すればよいのだ。」
 「これから、私は伊予の国に渡り、密かに伊予の国の状況を探る。あなたは、津和地島や怒和島の軍を率いて、豊島に集結し、竹原の部族といっしょに今回の伊予の国の戦の本拠地である斎島を攻めるのじゃ。そして、伊予の国の総大将を人質にするのじゃ。それからが、私の出番である。」
 イハレビコ達は、コトミナヒコの話を聞いていて感銘を受けていた。その時、コトミナヒコがイハレビコに声を掛けた。
 「イハレビコ様、私はこれで失礼します。この後は、カサブラミコについて行かれよ。私からも、よろしく伝えておくから。」
 イハレビコ達はカサブラミコの船に乗り、安芸の国と伊予の国との戦の本拠地、豊島へ行くことになった。
 「イハレビコ様、コトミナヒコ様からお聞きしたのですが、これから、アマテラスの神に剣を奉納されるそうですね。」
 「出雲の国のサツミワケ様から預かった剣ですが。」
 「私に少し見せて頂けないでしょうか。」
 カサブラミコは、剣に興味があったようで、剣の鑑定も判断できたようです。
 「この剣は、今までに見たことがありません。すばらしい品物です。安芸の国の尾道の集落のヤソニマワケと言い、剣の目利きができる御仁がおりまして、訪ねられては如何ですか。」
 「分かりました。訪ねましょう。」
 イハレビコ達は、豊島の本拠地に着いた。入り江には、軍船が数えきれないほど沢山停留していた。カサブラミコは、イハレビコ達に、竹原の部族の船が竹原の集落まで行くので、その船に乗るように進めてくれた。
 「イハレビコ様、私達の部族は漁師をしているので、日向の国辺りまで漁に行くことがあります。」
 「そうか。日向の国までか。」
 「お日様が、西に沈むのに向かって行くと日向の国まで辿り着くのです。」
 「お日様が上がる東の方は、どこまで行ったことがある。」
 「墨江の津辺りまで行きます。墨江の津には、墨江の三柱の大神が祀られています。」
 「難波の津、難波の大浦辺りまでか。」
 安芸の国や吉備の国や針間の国の瀬戸内海よりの部族では、住吉大社に祀られている墨江の三柱の大神(ソコツツノヲ、ナカツツノヲ、ウハツツノヲ)を航海の神として崇拝していました。イハレビコ当時の大阪は、難波といわれ、大阪市の上町台地だけが陸地で、その周りは海であった。墨江の津は、この上町台地の南端にあった。現在でも、大阪市住吉区に墨江(住江、澄江)という地名が残っている。住吉大社の祠は、出雲大社や伊勢神宮と同じ時代に建立され、存在していた。
 イハレビコ達が竹原の集落の入り江に着いた頃には、西日が夕陽に変わり、瀬戸内海の島々の影に隠れようとしていた。イハレビコ達は、竹原の集落で宿を取ることにした。
 イハレビコ達は早朝に竹原の集落を出発し、初冬なので海岸線も風がきつく、波も寒々しく浜辺に押し寄せてきていた。
 「若、尾道の集落のヤソニマワケ様のところにお寄りになりますか。」
 「吉備の国に入るまでに、この剣の価値を知っておきたい。吉備の国でこの草薙の剣の謎が分かるかもしれない。」
 「そう言えば、出雲の国で肥の河の問題で、吉備の国の人が、倭の国の祈祷師を連れてきたという話がありましたね。」
 イハレビコ達は海岸線沿いに歩き、海の向うに因島や向島が見えてきた頃、夕暮れどきになり、尾道の集落に着いた。いにしえの時代には、尾道は安芸の国の東の端にあり、福山は吉備の国の西の端にあった。そのため、尾道の集落では、吉備の国との交流があった。
 尾道の浜辺で、昆布の収穫をしている老婆にヤソニマワケの住居を聞いてみた。
 「婆さん、この辺りにヤソニマワケ様のお住まいがあると聞いてきたが、ご存知ないですか。」
 「ヤソニマワケ、お爺のことか。」
 「私は、日向の国のイハレビコでございます。呉の集落のカサブラミコ様の紹介で、ヤソニマワケ様にお会いするために尾道まできました。」
 「長い旅でお疲れでしょう。早速お連れしましょう。」
 「ありがとうございます。」
 イハレビコ達がヤソニマワケの住居に着いた時に海辺を見ると、海は赤く染まり、正面には、黒ずんだ向島が見えた。
 「婆さんに聞いたのだが、カサブラミコ様に私のことを聞かれて、わざわざ訪ねて来られたのか。」
 「私達は、アマテラスの神に草薙の剣を奉納するため伊勢の国に行く途中ですが、安芸の国によって、カサブラミコ様にお会いした時に、草薙の剣に興味を示され、剣の目利きに詳しいヤソニマワケ様を訪ねよと。」
 「どれどれ、早速、草薙の剣を拝見しよう。この剣は、出雲の国で作られた品物じゃ。」
 「よくお分かりで、出雲の国のサツミワケ様から頂戴いたしました剣で、アマテラスの神に奉納して欲しいと頼まれた剣です。」
 「これだけの剣は、なかなかお目にかかれない品物じゃ。何か、謂われがありそうな剣じゃ。」
 「出雲の国、肥の河の氾濫を治めるために、倭の国の祈祷師が呪文を唱え、その仰せがアマテラスの神の弟スサノヲの神を祀り、アマテラスの神に剣を奉納されよとのこと。」
 「なるほど、肥の河か。出雲の国では、あの河がよく氾濫を起こしていると、よく聞いておる。それともうひとつ、よく聞く話がある。それは、コシノヤマタノヲロチが出雲の国を攻めている話じゃ。」
 「ヲロチですか。」
 「そうよ、ヲロチよ。コシノヤマタノヲロチのコシは、高志の国(越の国、北陸地方)を意味し、ヤマタノヲロチは得体の知れない者を意味しているのじゃ。そのヲロチがよく出雲の国を攻めてきて、出雲の国が困っていると聞く。」
 「カサブラミコ様、その話を何方から聞かれました。出雲の国をもう少し知りとうございます。」
 「吉備の国、高島の宮(岡山市の児島半島沿岸の高島付近か、不明)にトヨノミソカヒコ様が居られて、その方からお聞きしたのじゃ。」
 「ありがとうございます。早速、トヨノミソカヒコ様を訪ねます。」
 「イハレビコ様、この草薙の剣にもう少し謂われを付け、剣の伯を付けなされ。」
 イハレビコ達は、カサブラミコの居間で一泊し、早朝、吉備の国の高島の宮に向けて出発した。
 なお、本書では高島の宮を岡山県倉敷市の児島地方の鷲羽山の付近と仮定します。


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