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作品名:断頭台のアーレース 作者:ブリブリ仮面

第8回   8
連邦司令本部にどの様な意図があるにしろ、取り敢えず拷問は免れたので善しとして置こう。
なるべく余計なことは考えずひたすら西を目指し、一刻も早くヒルズ地域を抜け出すよう心掛けるべきだ。
囚人護送車が収容所に到着しなければ警戒態勢が布かれ、直ぐさま追手が迫って来るのは判り切っているからだ。

有難いことに新品の端末機は、詳細地図と位置情報が使用出来るようセッティングされている。
私の現在位置からゴグランドシティーの境界線までは直線距離で5km程ある。
しかし、幾つもの山道を抜けて行かなければならないので、実際には倍以上の時間が掛かりそうだ。
更に境界付近一帯には、必ずや鉄条網と地雷原が敷設されているであろう事も考慮に入れなければならない。

既に二時間以上も道なき道を彷徨い続けているが、殆ど境界線との距離は縮まっていないのが分かった。
先程から上空には、低空飛行でサーチライトを点けたヘリの姿が目立つようになって来ている。
そして、運良く境界線まで辿り着いたとしても越えられるかどうかは定かではない。

護送車を捨ててきた事が今更ながら悔やまれる。
地雷原を闇雲に突っ走るくらいならば、道路へ出て車を奪い検問を強行突破した方が生き延びる確率は遥かに高い。
夜明けまで余り時間は残されていない。暗い内に正攻法で勝負を仕掛けてみるべきだろう。

500m先にハイウェイがある。端末機にはそこから8kmの距離に検問所らしきマークが出ている。
山を一気に下ると、目の前に四車線の道路が現れた。しかし全く車の影は見当たらない。
待てど暮らせど猫の仔一匹通らず、東の空は徐々に赤みを帯びて来ている始末だ。
夜が明けたら再び山道へ逆戻りしなければならない羽目に追い込まれるのか。

いや・・・・・遠くの方から微かにタイヤの軋む音が聞こえてくる。
ヘッドライトのはっきりと見える距離まで近づいたが、軍用車ではなく大型の乗用車らしい事が分かった。
ヒッチハイカーの真似をしても止まってはくれるとは思えない。ここは一芝居打つ必要がある。
フラフラッと車道を歩きながら、車が通る直前によろめき倒れる手が最も効果的だ。

車は後方50m辺りをゆっくりと走っている。あと数秒後が勝負の分かれ目か。
ヘッドライトが私の姿を捉え、前方に大きく影を映し出した。今がチャンスだ、轢かれても止む無し。
右手でホルスターを握り締めながら勢い良く車道の真ん中に倒れ込んでみた。
不思議な事に車は急ブレーキを踏む様子もなく、ゆっくりと私の身体の直前まで来て停車した。

ドアを開ける音と共にドライバーは車外へ降りたらしい。そして靴音が近付き、頭の直ぐ横で歩を止めた。
どうやら短めのスカートを身に纏った女性ドライバーのようだ。
天は私を身捨ててはいなかった。
ホルスターからルガーP08を抜こうとしたその時・・・・・・・・・・・・


「相変わらず田舎芝居がお上手ですわね、冠木さん。ウフフッ。」


そんな馬鹿な。この特徴ある喋り方・・・・・・この甘ったるい声の主は明らかにマリアではないか。


「そろそろ夜が明けます。時間がないのでさっさと車に乗って下さいな。」

『マリア・・・・・・・何で君が此処へ・・・・・・・』

「ぐずぐずしてないで、後ろへ乗ってスーツに着替えてちょうだい。」

『私がいるのを知ってたのか。』

「貴方、ドブネズミみたいな臭いがするわよ。とっとと乗って着替えて下さいな。」

『行く先も知れないタクシーに乗せるつもりなのか。』

「貴方は境界線を越えなくちゃいけないんでしょ、だったら早くして。」


やはりマリアの口っぷりからすると何もかも知り尽くしているらしい。
仕方なしに後席へ乗り込みスーツに着替えることにしたが、この女は一体全体何者で、誰の命令に従って此処へやって来たというのだ。
ルームミラーにはマリアの淫靡で物欲しげな両眼が映し出されている。


「検問所に向かうから、サングラスをして髪の毛も整えて、悠然と構えていてちょうだい。」


車は先程までとは異なる猛スピードでハイウェイを突っ走り始めた。
ほんの数分で検問所が見えてきたが、遮断機の両脇にはマシンガンを手にした兵士が3名いる。
マリアがカードと書類を取り出し兵士のひとりに見せると、その兵士は私に一瞥をくれただけで呆気なく遮断機は開かれた。
検問所がどんどん遠ざかって行く。何事もなく見事脱出に成功したようだ。
しかし、この逃走劇も連邦司令本部の描いたシナリオに間違いないのは分り切っている。


「ゴグランドシティーの比較的穏やかな場所まで送って行きます。後は御自分で頑張って下さいね。」

『君は一体何者なんだ。何某か組織の命令を受けて活動しているエージェントなのか。』

「冠木さんはアクション物がお好きみたいですわね。あたしは或る方に依頼されただけなんですよ。それが誰かは聞かない方が身のためです。」

『頼まれれば凶悪な強姦殺人犯の逃走も手伝うのか。』

「貴方にはあんな大逸れたことなんて出来ないでしょ、ウフッ。」

『随分と軽はずみな行動だな。強姦魔の私が君を犯した上に殺して、車を奪うかも知れないとは考えなかったのか。』

「それが本望だったら勝手になさればいいじゃないですか。」

『君がそう望んでいると受け取っても良い訳だな。』

「そんな勇気なんかないくせに・・・・・・・」

『そうではない、誰に頼まれたのか聞いているんだ。ゲーリングか。』

「存じ上げませんわ。」

『どうしても惚け倒すつもりだな。』

「貴方は妄想癖がお有りになるから。」

『その誰かがクロッカワーじゃないのは充分に承知している。問題は君が憎むべき敵か真の味方かと云う事なんだ。』 

「敵味方の区別は相関関係に置かれているとお考えにはなれませんの。」

『私は理屈を捏ねてるんじゃなくて、真実を知りたいだけだ。』

「何も知らないのが一番仕合せなのかもしれないよね。」

『私だけが蚊帳の外だから言ってるんだ。』

「だから、それが至上の仕合せだと言ってるのに。」

『やはり無駄だったか。』

「無駄の始まりは生まれてきた事です。」

『なるほどね・・・・・・・・それで、これから君はあの屋敷に帰るのだろうけど、怪しまれたらどうするつもりなのか聞きたい。』

「御自分の心配だけされていればいいんじゃないかしら。」

『マリア・・・・・・・私には君という人が解らない。』

「それはあたしの言う台詞よ。」


辺りはすっかり明るくなり、周りにはゴグランドシティー特有の壊れかけたビル街が建ち並んでいる。
マリアにはもう何も尋ねないことにしよう。これ以上嫌われてしまうのも心苦しい。
それよりも、こんな若い女性まで巻き込んで利用しようとする連邦司令本部に対して、強い憤りの念を禁じ得ない。

マリアと視線を合わせないように歩道を眺めていると、車が進むに連れて歩行者が段々増えて来ているのが分かった。
近くに繁華街があるのだろうか。人の往来が激しくなった所で、マリアは周囲を注意深く窺いながら車を停めた。


「ではお別れです、冠木さん。この辺りには武器を持っている者は少ないのですけど、充分にお気を付けて下さい。」

『つまらない詮索ばかりしてしまったので申し訳なく思ってるよ。』

「違うの、あたしの・・・マリアのことを忘れないで下さいね。どうかご無事で・・・・・・・」

『まさか私の問題だから依頼を引き受けたんじゃないだろうな。』

「ずっと想ってた・・・・・・・マリアの気持ちはずっと・・・ずっと変らないよ・・・・・・・さよなら・・・・・・・」

『でも私はずっと愚かな人間のままだ。』

「マリアは絶対に諦めないから・・・・・じゃ、また・・・・・・・」

『君も気を付けて帰るんだよ。』

「うん・・・・・・・」


マリアは行ってしまった。
まるで永遠の別れみたいに涙ぐんで・・・・・・・絶対諦めないとは言っているが。
私は彼女に何もしてあげられないのに・・・・・・・逆に助けられるとは思いも寄らなかった。
総ては連邦司令本部の悪意に端を発している。それに加えて鈍感な私が火に油を注いでいる。
いや、もうこの事は冷血漢になり切って忘れるよう努めなければいけないだろう。

頭を冷やして今後の身の振り方を考えてみると、やはりマゴグのグループを探して一緒に行動するのが最も安全なのかもしれない。
しかし、マゴグとルミターナは無事逃げ延びることが出来たかどうか心配だ。


『ケイコクスル スミヤカニ マシンヲサドウサセヨ ケイコクシュウリョウ』


何だこれは・・・・・・・・・・ショルダーケースから音が出ているようだが。
そうだ、あの時ケルベロスが運んできた得体の知れない小さな機械か。
片手に隠せる程度の丸くて平たい真っ黒な物だが、どこをどう弄っても蓋は開きそうにない。
太陽が眩しくて良く見えないが、両面の真ん中が蒼白く点滅している気がする。

 
『サイシュウケイコク ニフンイナイニ サドウサセナイバアイ ハンケイゴキロガ ショウメツスル サイシュウケイコクシュウリョウ』


こいつは何を言っているんだ。これは強力な小型爆弾だとでもいうのか。 どうやれば作動させられるのか説明も無しか。
もう1分以上経ってしまった。もしかすると2箇所の青い点滅にヒントがあるのかも知れない。
青い光の両端を親指と人差し指で強く押してみたが・・・・・何も変化がない。
両手の親指で両端を・・・・・・・・・・・


『ショキセッテイユウコウ フルインストールカイシ』 


一体何が始まるというんだ。両親指が吸い付いた様に機械から離れなくなってしまっている。
そして両腕を何かが移動し、胸と腹の周辺が急激に熱くなりつつある。一体何が・・・・・・


『エムブイビー インストールシュウリョウ スベテノマシンセッティングカンリョウ 
カウントダウンサドウジカン シンパイキノウテイシゴ ジュウビョウ ジッコウハンケイゴキロ ゴブウンヲ』


MVB・・・・・・・・・Micro Vaccum Bomb・・・・超小型燃料気化爆弾・・・・・・・・・
連邦政府はこんなものまで実用化していたのか。
しかも破壊力は戦術核レベルであり、威力半径5km程度で済まされるものではない。 
あの黒い物体が無くなっているが、私の体内に全機能を移植してMVBを起動させる為の装置だったようだ。
私の死後カウントダウンが始まり・・・・10秒で・・・・・・・・・・・・・

馬鹿げている・・・・何が御武運をだ・・・・・・・・・・
遂に連邦司令本部は気が触れたのか。
人間爆弾など製造して何を面白がっているのだ。
テロリストはテロリストらしく自爆して死ねとでも言いたい訳か。
しかし、これは私の死後に起こる事なので自爆テロとは多少解釈が異なる。
敵も味方も巻き込んで玉砕・・・・・連邦司令本部は何が目的で・・・・・・・・・・

既にセットされてしまった運命から逃れる術はない。
これも死刑囚故に課せられた宿命と諦めるべきなのだろうか。

キグチ大尉は惑星間全面戦争を望んでいる。
それはゲーリングとて同様の思惑を抱いている筈だ。
連邦政府は私を利用し、戦乱の火蓋を切ろうとしているに違いない。

死刑囚を使って行われる陰謀・・・・・・・・・・・
そのストーリーは他ならぬ私自身が、これから監督の指示通りに演じることで総てが明らかにされる。
ここは流刑地や強制収容所などではなく戦場そのものだったのだ。
今更気付いても人間凶器に改造された後では遅きに失したという訳か。
しかし、秒読みが始まる時間に私は存在していないのだから後の事は全く無関係だ。


誰にも迷惑の掛からないよう、人里離れた場所で生涯を終えるのが最も道理に適っている。
だがそんな感傷に浸る猶予など鬼畜本部は与えてくれる筈がない。
毒喰わば皿まで・・・・・・・・・・
この呪縛から逃れられぬ運命なのであれば、一層の事奴らの策略に乗って引っ掻き回す方が天晴れな死に様を晒せる。

何人たりとも恣意で利用するつもりなど毛頭ないが、マゴグやルミターナにしても所詮は泥棒一味でしかない。
この惑星に棲んでいる人間とは、過去に選別を受けた棄民の子孫であると自分に言い聞かすべきなのだ。
仮に私が絶命して半径5km以上が消滅した所で、この惑星の上では微々たる範囲に過ぎない。

連邦政府が何を恐れているのか今の私に理解する事は不可能だ。
科学力と軍事力ひとつ取っても、火星と地球では比較にならない程の技術格差があるにも関わらず双方は開戦を望んでいる。
罷り間違って戦争が始まったとすれば、持久戦に持ち込む場面など全く有り得ない大人と子供の喧嘩で終わる。
通常の殲滅戦であれば勝負の行方は目に見えているが、連邦政府には大きな障壁が立ち塞がっていると判断するべきだ。
その秘密を白日の下に晒さない限り、私は死んでも死に切れない憤激に駆られる事だろう。

双方の隠し事を暴く役割こそが、私に与えられた使命だと勝手に思い込んでいれば良いのだ。
そうでも思わなければこれから先、一日たりとも生きて行けなくなってしまう。
誰に何と言われようが、他人様から後ろ指差されようが、図々しく生き残る意志こそが神々の御心にも適うに相違ない。


例の装置を手にしてからというもの、かなり長い時間この歩道に立ち尽くしている。
衛星テレビでは再び私の顔写真が大々的に放映されている筈である。
ここも安全な場所ではないので余りぼんやりとしてはいられない。
そして、頼れるものといえば結局の所マゴグのグループ以外にないのだ。
追っ手を振り切るため一刻も早くグループに合流しなければならないだろう。
しかし端末で位置情報は掴めるのだが、ここがどこなのかは見当も付かない。
地道に靴の底を磨り減らしてマゴグのグループを探すより方法はなさそうだ。


諦めの気持ちと開き直りが綯い交ぜになり、少し冷静さを取り戻したので自分自身の噂が気になり出してきた。
そこで朝の衛星ニュースを観てみると、凶悪な脱走犯と化した私の顔写真やビデオが至る所で放映されている。
端末機で会話をするとの情報も報じられていた為、これからは迂闊に立ち話も出来そうにない。
極悪な連続レイプ殺人犯が、警察官二名の首を残忍な手口で断って脱走したそうだから。

見知らぬ者とは筆談で済ますのが最も賢明だと考え、適当な物はないかと商店街を物色してみる事にした。
そして雑貨屋の看板を目にしたので中へ入り、あちこち探し回った末やっと筆記具を手に入れた。

雑貨屋を出ると、その脇にはハンバーガー・ホットドックカフェと描かれた屋台がある。
もう丸一日以上食べ物らしい食べ物は摂っていないので、少し休みながら失った体力を取り戻そうと思った。
早速ボールペンを取り出し、メモ用紙にモーニングチーズバーガーセットと書いて注文した。
出来合いのパンに中身を挟んだだけの粗末なモーニングセットは手にするとひんやりしている。
コーヒーはそこそこの味と香りだったのだが、チーズバーガーを口にした時に言い様のない違和感を感じた。
明らかにこのハンバーグの中身は豚肉と鶏肉の他に魚肉が多く混ざっている。
そこでメモ用紙に、これは魚肉バーガーなのかどうかと書いて小柄な店主に見せると・・・・・・


「おー、世の中には味覚の鋭いお客さんもいるんだねえ。うちの店じゃあ、鳥・豚の他に魚も入れてんだよ。
でも仕入先はちゃんとした所だから、変なものは混ざってないんで心配しなくていいよ。
スラム街の屋台で注文すると共食いになるけどさ、ヘッヘッヘッ。」


ここは無法地帯でもあるし、法律で制定でもしていない限り露店などこの程度の商売であることは承知の上だ。
ただ、私は今まで食べ物の味に余り敏感ではなかったので、今日になって急に気付いたのが不思議でならないのだ。
疲労が蓄積して、少々頭と味覚がおかしくなっているのかも知れないが。

まあまあの味がするコーヒーをもう一杯頼んでのんびりと飲んでいた所、暇そうだった屋台に客が群がってきた。
その中でコーヒーを注文した男の一人に見覚えがあるのだが、何処で遇ったのか思い出せない。
誰だったかと考え込みながら、屋台の横の方からサングラス越しに目を凝らして見ていると、相手も視線に気が付いたようだ。
男は私を横目で見遣りながら立ち去ろうとしている様に思えたが、片方の手を見ると人差し指で手招きをしながら歩いている。
変な趣味を持った男やも知れぬと疑いを抱きつつ、私も訊きたいことがあったので仕方なしに着いて行かざるを得なかった。

男は人気のない路地裏に入ったかと思うと、振り向きざまに・・・・・・・・・


「おめえカブラギだろ、そうだろ、なっなっ、間違いねえよな。全くとんでもねえ野郎だぜ。
御頭と姐御がすげえ心配してなさるからよ、案内すっから黙って着いて来な。」


ああ、今になってやっと誰だか分かった。この男は泥棒一味の幹部の一人だった奴だ。
金塊強奪の現場でも一緒に行動していたが、ありふれた人相なのでどうしても思い出せなかった。
男は車で近くのガンショップへ買い物に来た帰り、コーヒー屋台に立ち寄ったのだという。
少し回り道をしながら車で10分ほどの所にマゴグとルミターナはいるらしい。
こちらからマゴグのグループを探す手間も省けたし、これで心配の種もひとつ消えたことになる。

なるほど用心の為か、男は細い道を右に左に幾度も折れて車を走らせている。
車は20分近く走ったのだろうか、以前と似たようなビルの地下駐車場へ入って行った。
中には前と同様のテント村が出来上がっている。そして暫く車で待つように言われた。
周りにあるテントをキョロキョロ見ていると、突然奥の方から数十名の者達が駆け足でやって来た。
先頭にはマゴグとルミターナがいる。そして皆で車を取り囲み、頭を拳骨やライフルで叩くなど手荒い歓迎を受けた。


「よく戻って来やがったな、首狩り族の大将。俺はもう駄目だと思ってたんだぜ。
まあいい、これから歓迎パーティーやっからよう、こっち来いや。」

「あのさあ、その素敵なスーツは女がコーディネートしてくれたのかい、素敵なおにいさん。」

『いや、頭の悪い犬が咥えて来てくれたんだよ。』


そして恒例になっているらしい乱痴気騒ぎが始まった。
私とて例外とはいえないが、彼らも相当な酒好きが揃っているらしい。
でもこんなドンチャン騒ぎをする程、私のどこがそんなに歓迎されているのだろうか。
それが多少引っ掛かっていたので、ひたすら飲み食いに打ち興じているマゴグとルミターナに尋ねてみることにした。


『私のために歓迎パーティーをしてくれるのは嬉しいけど、仲間の一人が還ってきただけの話ではないのか。』

「あのなあ、おめえは何にも分かってねえんだなあ。ヒルズ地域から脱走や脱獄をした奴なんざあ今までに只の一人もいねえってぇことよ。
ゴグランドシティー住民の殆どが脱走事件を知っててだな、おめえは今日から英雄になってるってぇこった。
ところでよ、おめえはどうやって二人もギロチンにして脱走して来たんだい。」

『まあな、凶暴な犬に助けられたとでも想像してくれ。』

「あら、素敵なワン公だねえ。ファッションコーディネートも一人前に出来るしさあ。」

「今じゃあ犬も想像上の動物になっちまったけどよ。まあ堅い話はいいからよう、ジャンジャンやってくれや。」


二人ともすっかり上機嫌で、込み入った話は余りしたくなさそうな雰囲気だ。
私としてはこのまま泥棒稼業を続けていても良いのかとか、追っ手の動向や鬼畜本部が今後如何なる策を講じて来るか等々で頭が一杯なのだが。
更に、私の命が絶たれたと同時に、仲間も道連れにしなければならない宿命を背負わされてしまっている。
やはり今回の宴も気分良く酔い痴れる訳には行きそうにない。
生殺与奪の権など誰にもないし、未来永劫その権利は如何なる者の手にも渡してはならない。


せめてもの愚かな願いが許されるなら、私を全知全能の神と崇め奉って貰えればと欲するのみだ。












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