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作品名:断頭台のアーレース 作者:ブリブリ仮面

第2回   2

ジープに乗って帰る途中、私は何度もネウラールにあれは一体何の真似なのかと問い詰めたのだが、ニヤニヤしているだけで全く話を聞こうともしない。
仕方なくアジトに着いてから直ぐ様ゴローを捉まえて、あれは訓練の一環なのかそれとも他に理由でもあるのかと迫ったが相手にする気もないらしい。
私は彼らの倣岸不遜な態度に激憤し、リビングルームにあるもの総てに銃撃を加え破壊し尽くした。


「よう死刑囚、こいつぁあ器物損壊罪も加わるから死刑だけじゃあ済まねえぜ。」

『あれは軍と世界政府の命令で行ったのか。これが私に与えられた任務ではあるまいな。』

「だからなさっきお前さんが撃ち殺したセッタンはだな、同様にお前さんが殺した3人が地獄でなだめてくれてるから安心しろよ。」

『それとこれとは別の話ではないか。』

「誰しも自己正当化したいのは動物的本能なんだよ、兄弟。残虐非道な死刑囚も然り、下等なセッタンもまた然りだ。」

『いや、そうではない。先ほどの行為が国家意思によるものなのかと聞いているのだ。』

「だからなインテリゲンチャの頭でっかち、お前さんは経験を積まなきゃあならねえんだよ。」

『それは殺しのテクニックを磨き上げろという意味なのか。』

「お前さんは本当に疲れる死刑囚だな、いいから今日はもう寝ろ。」



確かに私は人殺しの死刑囚かもしれない。しかし趣味や道楽で大事な仲間を殺した訳ではない。
しかし先ほどのあの虐殺は明らかに快楽を得るための無益なハンティングを行ったのだ。
毎日この様な行為を繰り返す事を国家は望んでいるのか。

昼過ぎまで何やかやと考え込んでいたため一睡も出来ないまま起き上がった。
1階のリビングルームには3人が集まって銃の手入れなどをしている。


「よう美男子、なんだいその面は。風呂にでも入ったらどうよ。」

「昨日のレクリエーションはどうだったよ、兄弟。今日から本格的な活動に入るからよ、寝不足は命取りになるぜ。」

『また人狩りか。』

「ヒャ〜、面白いおにいさんですこと。」

「今日は俺とペアーを組んで行動するからな。それから銃の手入れは毎日欠かさずやれ。」

『私は外に出られないのか。』

「勝手にすりゃあいいが、暗くなってからが勤務時間だから明るい内に戻って来い。」

「暗くなるまでに帰って来なかったらな、食われたと思ってお祈りを捧げてやるからな、ヒッヒッヒッ。」

「この手榴弾を2つ持ってけ。ピンを抜いてから叩いて3秒後にドカンだ。」



外へ出て、テレポシステム組み込みのGPSを試してみたが、正常に機能しているようだ。
住宅街を抜けて瓦礫の市街地に入ったが猫の子一匹いない。
その代わり鼠がそこいら中にいて餌を漁っている。


気のせいかも知れないが、先ほどから何者かの不気味な視線を感じている。
いや、これは錯覚や思い過ごしではなく明らかに人の気配がある。

後ろだ・・・・・・複数の足音が確かに聞こえる。
右方向だ!!!!!凶器を手にしたサングラスの男2人がこちらに突っ込んで来る。
左側にも斧を持った奴が1人向かって来る。
後ろには・・・・・・3人いる!!!!!!ナイフを出し猛烈な勢いで突進して来る。
私は咄嗟にショルダーホルスターとバックサイドホルスターから銃を抜き撃とうとしたが、安全装置が掛かったままなので弾が出ない。
前方に全速力で駆け出し、左手にある建物の中に逃げ込んだ。

奥の方へ駆け込み壁を背にし、安全装置を外して物陰に身を潜めた。
全部で6人か・・・・・・・・しかし入り口からは誰も入って来る気配がない。
大きな2挺の拳銃を見て諦めたのだろうか。
いや、外からは何ものかが蠢いているらしい物音がする。

あれから10分以上経ったが、未だに外からは獣の気配が消えない。
奴らは持久戦に打って出るつもりなのだろうか。
しかし後2時間もすれば日が落ちて、こちらが不利になる。
考えている余裕などない。
一か八か外へ出て、早めに勝負をつけるしか道は残されていない。

入り口の両側には確実に2人以上が待ち構えている筈だ。
一気に道路へ突っ込んで入り口にいる奴らを先に片付ければ良いのだろうが、出る瞬間に刃物でやられる可能性が高い。
左右にある窓の近くにも必ず何人か張っているに違いない。
どうすれば良いのだ。


もう1時間以上が過ぎてしまった。
辺りはだんだんと闇に包まれて来ている。
やはり無茶と解っていても勝負に出るしか方法はないのだろうか。

いや、待て・・・・・・・・・そうだ、ゴローから手榴弾を渡されたのをすっかり忘れていた。
入り口にいる奴らを手榴弾で一遍に殺れば後は銃で片が付く。
ピンを抜いてからガツン、3秒でドカンだったな・・・・・・・・・・。


私は右手に拳銃を左手にピンを抜いた手榴弾を持って、忍び足で入り口に近づいた。
入り口近くには大きな机が横倒しになっており、格好の爆風避けとして利用出来る。
机の影に屈み手榴弾の起爆ボタンを押し叩いて・・・・・1・・・・・2・・・・・・・・・・。
手榴弾は丁度うまいこと入り口の外側3m辺りで大音響と共に爆発した。

外には2人倒れているのが解った。
私は一気に道路へ飛び出し、振り向き様に左右から出て来た2人を撃ち殺した。
残るは後2人だ。
恐らく建物の右側の細い道にいるに違いない。
やはりいた!!!・・・・・・・・・しかしその男はナイフを投げ捨て、両手を挙げてこちらに歩いてくる。
どんどん近づいて来るので足許に威嚇射撃をしたが、それでも近寄るのを止めようとしない。
更に何発撃ってもこっちへゆっくりと向かって来る。
既に3m手前まで、何故なんだ・・・・・・・・・・・・・・。

しまった!!!!!後ろから忍び寄って来たもう一人の奴に羽交い締めにされて全く身動きが取れない。
そして目の前にいる男は背中の方から大きな鉈を取り出し、私の頭を目掛けて振り下ろそうとしている。
最早これまでか・・・・・・・・・・・・・・・・。

しかし突然、鉈を持った男はその場に倒れ、後ろにいた奴も急に腕の力を失い横に倒れ込んでしまった。
一体何が起こったのか暫くの間解らなかったが、2人を良く見ると首から骨が飛び出している。
首の骨が一瞬にして切断されてしまった様だ。


犬の遠吠えが聞こえる。
しかしこの地上セトでは200年以上前に犬は絶滅している筈なのだが。

そして辺りをキョロキョロと見渡していると・・・・・・・・・・・・・・・
少し離れたビルの屋上に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ケルベロスだ・・・・・・・・・・・。
1頭の攻撃用サイボーグ軍事警察犬ケルベロスがいる。
私がずっと不思議そうに眺めていると、突然ケルベロスは転送されてしまった。

もしかすると私の命を救ったのは指令本部なのか。
でも今はそんな事を考えている余裕などない。
もう暗闇が迫って来ているので早くアジトへ帰らなければならない。
夜になれば更に危険度は増すに違いないだろう。


GPSを頼りにアジトへ着いた頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
そしてリビングルームへ入るなり、私の顔を見たゴローとネウラールが腹を抱えて大笑いしている。


『何がそんなに可笑しい。』

「お前の馬鹿面に決まってるだろうが、ヒーヒッヒッヒッヒッヒッ。」

「たいした大根役者だな、お前さんはよ。」

『だから何がそんなに可笑しいんだと訊いている。』

「セッタンの夕飯にされなくて良かったねえ、三枚目のおにいさん。」

「きっといい匂いがしたんだろうぜ。」

『まさか私の行動を見ていたとでも言いたいのか。』

「少しは良い薬になったんじゃねえか。」

『君たちは何もかも知っていてケルベロスを呼び出したのか。』

「いや、あれは獰猛なワン公だから俺たちの言いなりにゃあならねえ。」

『何故指令本部は死刑囚である私を助けたのだ。』

「ケロちゃんはな、ご先祖様を一匹残らず食い尽くしたセッタンに恨みがあるから勝手に仇討ちしたんだよ。ヒッヒッヒッ。」

『君たちは総てを知っているのに惚けているのではないか。』

「あのワン公の2つの首はマッハでスッ飛んで行って一瞬で骨を噛み砕く。しかし銃弾からは護っちゃくれねえから甘えんじゃねえぞ。」

『わざわざ遠吠えまでして私に知らせたのは何の為だ。』

「お前さんはなあ、何時もちょっとしつこ過ぎるんだよ。30分後に仕事を始めるから用意して置け。銃弾は持てるだけ持ってけよ、手榴弾も忘れずにな。」



私はゴローと共に、ネウラールとマミアが乗る車とは別の方向へ向かった。
今夜は車で北へ15分ほど行った地域を回るのだという。
ネオンサインが眩しい賑やかな場所に入った所で車を降りた。


「少し仕事について話しておくが、俺たちはある特定の人物を捜している。それが誰であるかは深く考えるな。
俺と離れた時はGPSを見ながら必ず100m以内を維持しろ。何か変に思ったことがあれば逐一俺に送信しろ。」

『変にとはどのような意味でだ。』

「さあ戦闘開始だ。そこのキャバレーに入って捜査するからな。」


ゴローは捜査という言葉を使っていた。これは一体何の仕事なのだ。

その2階にあるキャバレーに入ると、数10人の客と同じ位の人数の肌を露わにしたホステスが酒を飲みながら騒いでいる。
私たちは案内の男にチップを渡し出入り口に近いボックスに座ると、直ぐにビールらしきビンが4本運ばれて来た。
間もなく4人の女が私たちの両脇へ腰と胸をくっ付ける様にして席に着き、ビールをコップに注ぎ乾杯の音頭を取るのだった。
ゴローはM16A2自動小銃を右脇に抱えたまま、両脇にいる女の肩に手を遣り何か話している。
私の隣にいる女たちが話し掛けて来たので、片手を口の前で指差しながら何度も手を振った。


「なんだい、この男は唖だよ。アハハハハハハハハ。」

「聾かもしんないよ、ヒャハハハハハハハハ。」


何とでもほざけ目付きの悪いセッタン女め。
そういえばこの辺りの奴らは皆、目付きの悪い奴ばかりで綺麗な目をした者は今迄ひとりも見た事がない。
両脇の2人の女は私が聾唖だと思い込んで、勝手にお喋りしながらビールをガブガブ飲んでいる。
頼んでもいないのにビールと料理がテーブル一杯次々と出て来て、4人の目付きの悪い女たちはガツガツと豚の様に食べている。
私とゴローは一切何も口にはしていないが、そんな事お構いなしの様だ。


「おにいさんさあ、ラストまでいれば付き合ってやっても良いよ。100グラムの金貨2枚にまけとくからさあ。その代わりホテル代はあんたが払うんだよ。」


私は耳に手を遣り聞こえない振りをするのが精一杯だったが、また両隣の女たちは大口を開けて笑っている。
ゴローはさっきからずっと両方の女と話をしているが、女2人は余り楽しそうにしていないみたいだ。
そしてこっちの席に座っている女2人を手招きして両脇に座らせ、代わりに私の正面にいた女2人がこちら側に来た。

ゴローがその女たちと話し始めると、先程までとは打って変って押し黙り、悪い目付きが更に歪み険悪な雰囲気が漂っている。
左側にいた女が急ぎ足でどこかに行った。そしてゴローからテレポ通信が入った。
今直ぐに安全装置を外せと・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


すると突然残ったひとりの女が立ち上がり何か大声で喚き始めた。
私は両手に銃を持つため両脇にいる女を撥ね退け様としたが、その前に2人とも慌ててテーブルの下に蹲ってしまった。

出入り口の方を見ると、ウエイター2人と黒服の男が柱の影から拳銃とライフルを構えてこちらを狙っている。
先手を打たなければこっちが殺られる。それがこの惑星セトの掟だ。
私の両手に持ったモーゼルC96とルガーP08、そしてゴローのM16A2とS&W M29 .44マグナムが一斉に火を吹いた。
その男たち3人に向け強力な弾丸を連射して身を隠しているコンクリートをも粉々に砕き、立ちどころに3人とも撃ち倒した。
更に店内にいた客も周り中からナイフやビール瓶を手にして怒涛の様に襲い掛かって来る。
私とゴローは辺り構わず乱射し、予備の弾倉を2回も詰め替えて銃弾の雨を浴びせ掛けると、奴らの攻撃はやっとの事で治まった。

ゴローの指示に従い、私は後方に銃を向けながら外へ走り出て車まで全速力で駆けて行った。
そして車に飛び乗り猛スピードで繁華街を脱出することに成功した。


「よ〜〜し、兄弟、今夜はこれで切り上げだ、帰るぞ〜。」

『どうして銃撃戦になった。何で店の客までが向かって来たのだ。』

「帰ってから教えてやるから少し黙ってろ。」


しかし今回は相手が先に牙を剥いて来たのは明らかだ。
一体全体何に反応してあのような事態になったというのだ。
これがゴローの言った捜査なのか。

そして全速力で逃げる様にジープを飛ばして来たので、あっという間にアジトまで辿り着いた。
私はゴローに説明を求めたが、疲れているから後で話すと言ったまま風呂に入ったり飯を食ったりした挙句、ソファーの上に毛布を被って寝てしまった。

私が銃の手入れをしていると、ネウラールとマミアが帰って来た。
ソファーに座ってビールを飲み始めたネウラールは、私の顔を見ながら相変わらずニヤニヤしている。
話し掛けても只ひたすらニヤニヤしているだけで相手にする気はないらしい。
私が少しウトウトし掛けていた時、ゴローがやっと起き上がってマミアにビールを催促している。


『さっき何が起こったのか詳しい説明をしてくれ。』

「何って、あれが何時もの事よ。」

『いや、だから何で女が騒ぎ出して従業員が銃を持ち出して来たのかと聞いているんだ。』

「ビールが来るまでちょっと待てや。」

『何を言ったからあの様になったんだ。あれが捜査なのか。君の言っている捜査とは何の事だ。』

「ビールくらいゆっくり飲ませろや。」

『あの女に何を聞いていたんだ。』

「だからある特定の人物を捜してると言っただろ。」

『その特定の人物とやらの詳しい説明が聞きたいんだよ。』

「そいつは♯666とコードネームの付いたお尋ね者よ。」

『どんな容疑でそいつを追っているんだ。』

「俺たちはそこまで考える必要はない。ただそいつの居場所を突き止めれば良いんだよ。」

『虱潰しに訊き込みを行なうなど、余りにも時代遅れな捜査だと思った事はないのか。』

「それ以外に方法がないからだよ。」

『顔が判っていればスキャンすれば良いし、判らなければ薬や誘導ポリホログラムで白状させるのが最新の捜査方法ではないのか。』

「お前さんは本当に馬鹿なのかい。ここの奴らにはそれが通用しないから俺たちが命張ってやってんだよ。」

『相手が人間であれば簡単に白状する筈だが。』

「だから相手は人間じゃあねえって何度言やあ判るんだよ。奴らセッタンはな、嘘が真実で真実が嘘なんだよ。つまり頭の狂った奴らにゃあ最新の薬も電子装置も歯が立たねえって言ってんの。」

『それは本当なのか。』

「だからよ、俺たちみたいのが世界中に50万人以上もいて、そのコードネーム♯666を捜してんだよ。」

『君はその人物について・・・・・・・・・・・・・』

「まったくうるせえ野郎だな、いいからもう寝ろ。」

『知らないらしいな。』

「死刑囚に知る権利なんぞねえんだよ。お前さんは使い捨ての鉄砲玉だって事を忘れんな。解ったらとっとと部屋に行け。」

『鉄砲玉か・・・・・・・・・・・・・』


確かにその通りに違いない。


『ひとつだけ教えてくれ。どの様に言ってそいつを炙り出しているんだ。』

「キーワードはお前等のボスがどこにいるか言えって、唯それだけの単純な訊き込みだ。お前さんの場合は紙にでも書いて訊きゃあ良いんだが、残念ながらあいつらは字が読めねえ。」

『分かった。私も疲れたから今日は大人しく寝るよ。』

「よう色男、さっきからチビがウットリした目でお前を見てるのに気が付いてるかい、今晩がチャンスだよ、ヒッヒッヒッ。」

『本当に疲れる奴ばかりだな。じゃあ、おやすみ。』





翌日の夜、簡単なミーティングをしてから少し場所の離れた南東方面へ捜査に向かった。
ゴローの指示で今日はネウラールとペアを組む事になった。
ネウラールは運転している間ずっと私の顔を横目で見ながら例によってニヤニヤしている。


「あんちゃん、あたいが欲しくないかい。」

『そんなこと考えてる余裕はないよ。』

「あのチビはゴロー専用の処理器だって知ってるかい。」

『正気の沙汰ではないな。』

「お前にも権利があるから借りりゃあいいんだよ。」

『悪い冗談はやめてくれ。』

「なんだい、女房3人持ってた精力絶倫男じゃなかったのかい。」

『君には理解しにくいだろうが、近代社会の一夫多妻制と一妻多夫制はプラトニックな側面を重視した制度なんだ。』

「うんうんうん、人を殺しても何しても正当性を主張した者の勝ちだよな。」

『何も解ってないんだな。君はタカワルハラで生まれたんじゃないのか。』

「あたいは宇宙のカモメなのさ。ところでよ今晩あたりどうだい、色男。お互いに生き残ってたらの話だけどな、ヒッヒッヒッ。」

『ゴローは余り詳しく話してくれなかったんだが、♯666とは一体どんな人物なのか君は知っているか。』

「ケダモノさ。ケダモノの中のケダモノだから百獣の王って訳よ。」

『捜査員を50万人も動員するなどとは、相当深刻な背景がありそうだな。』

「お前はあたいを抱きたいとだけ思ってりゃあいいんだよ、旦那。ヒッヒッヒッ。」



まったくこの女はどんな環境で育って、どんな生き方を体験してこうなったのだろうかと思う。
年齢はまだ20歳に満たないのだろうが、瞳は清んでいるし見た目はそこそこのいい女だ。
しかしこの口の悪さと態度の悪さといったら、どう考えても現代の超文明社会にはそぐわない性悪女としか言い様がない。
同様にゴローにも同じ事がいえる。
この二人はタカワルハラ総てを隈なく探しても絶対にいない様なタイプの人間だ。
何れにしろこの惑星に棲息している生き物には驚かされ通しなのだ。



「これから売春街に訊き込みに行くからねえ、ドジ踏まないようにしっかり用意しときな。」


売春の取引などなくなってから既に200年以上になる。
この惑星では女性最古の職業と謂われる行為はまだ健在なのか。
ネウラールは2挺のサブマシンガンを首からぶら下げて両脇に持っているが、右脚のレッグホルスターにサイレンサー付22口径を隠し持っている。


「あたいの脚線美に見惚れてんのかい。生きて帰ったらお駄賃にあげてもいいよ。」

『いや、遠慮しとくよ。』



私たちは売春街の手前に車を停め、その一角にある狭い道へ入って行った。
この道には100m以上先まで数え切れないほどの女がいて、道行く男たちの腕を掴んだり抱き付いたりしている。
ネウラールは端から一人一人に声を掛けながら歩いているが、女同士では会話が成り立たずそっぽを向く女が殆どだ。
30m位歩いた所でネウラールの足が止まった。男並の背丈がある女と何やら話している。


「どうよ、儲かってるかい、お姐さん。」

「見ない面だねえ、他所もんかい。それともアレなのかい。」

「あたいはねえ恋しい初恋の男を探してんだよ。ここいらのボスって呼ばれてるって聞いたんだけどよ。」

「ああ、あんたの男なら良く知ってるよ、病気持ちで耳と鼻が落ちてなくなってる二枚目だろ。」

「そうだよ、お前から病気感染された哀れなボスだよ、売女。聞いた事あんだろ。」

「あ〜、うちの亭主が知ってるかもしんないよ。ちょっとこっち来てみ。」


その女は手招きをしながら直ぐ傍の路地に入って行った。
私はネウラールの後ろに着いて行ったが、ネウラールの右手は短いスカートの下に入れられている。

少し歩いた所で急に女が振り向いた、と同時に前のめりに崩れるようにして倒れていった。
ネウラールの右脚太腿の辺りから煙が上がっている。サイレンサー付22口径をレッグホルスターから抜かずに撃ったのだ。
そして女の両手を見ると41口径上下2連のデリンジャーが握られている。


「ほれボーっとしてないで、ずらかるよっ。」


私は全く警戒心がなく確かにボーっとしていたが、ネウラールは直感的に危険な臭いを嗅ぎ取っていたのだろうか。
急ぎ足で車のある場所まで行くと・・・・・・・・・・。


「このまま帰るにゃあ早過ぎるから、反対側に行ってみるよ。」

『君はあの女の何かに気付いていたのか。』

「刑事の訊き込みドラマじゃあないんだ。ここは戦場なんだよ、判ったかい。」


なるほどネウラールの言う通りで、ここは毎日銃撃戦が繰り広げられる正しく危険な戦場だ。
その通りを避けるようにして売春街の反対側にある通りに差し掛かった時、いきなり後方から激しい連続した銃撃が次々と加えられている・・・・・・・・・追っ手だ、車2台からマシンガンを乱射している。


「おいっ、手榴弾出しとけ。左に折れるから、車降りてやっつけるよっ。」


車は左回転しながら追っ手の来る正面方向に向いて止まった。
私とネウラールが車の後ろに身を隠しながら待ち伏せていると、窓から身を乗り出してマシンガンを構えた奴らが急ハンドルを切りながら車2台でこっちに向かってくる。

曲がり際の所に手榴弾を2発投げ込むと、2台の車はコントロールを失い左手の建物に突っ込んで行った。
私のモーゼルC96とルガーP08、ネウラールのFN P90とH&K MP7サブマシンガンは瞬く間に2台とも粉々に撃ち砕き爆発炎上させた。


「よ〜し、大勝利だあ〜、今日はこの辺にしといてヤサに帰るよ。」


大勝利には違いないが昨日から本来の目的である捜査は進んでいない気がする。
やはりここが平和な街ではなく戦場だからだろうか。

凱旋勝利の帰り道、ネウラールはいつにも増して更にニヤニヤしながらこちらに横目遣いをしている。


「ヒャッホ〜〜〜どうだよ、興奮するだろ銃撃戦はよう〜、まったく堪んねえよな〜。」

『生きていればの話だ。』

「あたいはもう我慢出来ないんだよ〜。」

『そんなにハンティングが好きなのか。』

「ああ、男狩りも好きだけどな。」


昨日からの疲労が蓄積しているようで、早くアジトに無事帰る事だけ願った。
そしてネウラールはいつもより荒っぽい運転でアジトの玄関先に車を急停車させると、私の腕を両手で掴んでリビングルームに入り、放り投げるようにソファーに押し倒した。
そしてすぐさま馬乗りになり、22口径を私の顔に突き付けるのだった。


『何の真似だ。』

「馬鹿な男だねえ、惚けんなよ、あたいが欲しいんだろ。」

『いい加減にしてくれ、疲れているんだ。』

「ふ〜ん、そうかい、じゃあ今ここで楽にしてやってもいいんだよ。」

『馬鹿を言うな、出来る訳がないだろう。』

「お前はな、あたいの奴隷なんだよ、死刑囚。いいから、言うこと聞きな。」


するとネウラールは銃を右手で顔に突き付けながら、左手で私のズボンを下ろして局部を掴みながら小刻みに手を動かし始めた。


『おいっ、ふざけるのも大概にしろ。』

「あたいを拒んだら死んでもらうよ。」

『出来るものか、さあ撃ってみろ。』

「全く馬鹿な男だねえ、もう大きくなってるよ。」


そしてネウラールは態勢を入れ替え、銃を脇腹に突き付けながら私の両足の間にしゃぶりついた。
私の口許と鼻先には女の甘い香りが漂っている。

妻たちと逢えなくなってからもう3ヶ月以上が過ぎている。
銃で脅されて無抵抗になったのではなく、人間とは意志が弱く脆い生き物だからだ。

本当はいつも心の片隅でこの女を抱きたいと思っていたに違いない。
お互いに死と隣り合わせで毎日を送らなければならない宿命なのだ。
悔いを残さずに死んで行くためには、痩せ我慢など最も卑劣な行為だろう。
この女のように人生を謳歌するのが至高の賢明な生き方といえるのではないか。

この柔らかい肌の上で死んで行く、仮令背中から銃弾を浴びたとしても後悔はしないだろう。
至福の甘い香りに包まれて死んで行く事こそが私の第二の死刑宣告なのだ。
女からの求愛を受け容れない様な態度は今後決して取ってはならない。
この女とて明日をも知れない極限状態の修羅場で戦いながら生きている。
もしネウラールが明日死んでしまったとしたら、私は気が狂ってしまうかも知れない。
このとても柔らかい肌と柔らかい唇は、神々から私への最期の贈り物なのだ。


しかしそこへ外の方から突然、闇の静寂を撃ち砕く様なけたたましいエンジン音が鳴り響いた。
大排気量の大型バイクで捜査に向かったゴローとマミアが私たちより少し遅れて帰って来たのだ。


「チッ、ゴローの奴なんて気の利かない無粋な野郎なんだよ、畜生め。」

『残念だったなネウラール、お互いにな。』

「続きは部屋行ってやるかい。」

『いや、御免蒙るよ。』

「お楽しみは後に取って置いた方が良いよな旦那、ヒッヒッヒッ。」



私にしてみれば取るに足らない些細な出来事のあっけない顛末に過ぎなかったのだが。




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