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作品名:断頭台のアーレース 作者:ブリブリ仮面

第1回   1
この宇宙の誕生と死の瞬間を見た者がいる。



除夜の鐘なのだろうか、遠くの方に聞える鐘の音で永い眠りから覚めた。
天界タカワルハラでは200年以上も前から聴く事の出来なくなった除夜の鐘・・・・・・地上セトに到着したのか。

この太陽系には二つの日出ずる国、日本が存在する。
ひとつは21世紀まで火星と呼ばれていた現在私たちが住むタカワルハラに在り、22世紀初頭に正式な国名を高天原と変えたが慣習で日本と称する事が許されている。
もうひとつは22世紀に名称が惑星セトと変更された地球のどこか片隅に在るらしい。
私は何故ここに来なければならなかったのか・・・・・・・薬物を投与された為なのかまだ記憶が完全には戻っていない。
高天原最高裁判所の判決が下ってから、既に一ヶ月以上が過ぎている。

そうだ、確か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



[主文、被告冠木スサノオを殺人及び国家システム中枢破壊未遂、並びにリベラカルト煽動の罪により死刑に処す。但し、刑の執行を一年間猶予するものとする。]


裁判長の主文読み上げは一審二審とは異なり、執行猶予の付いたものだった。
私は覚悟を決めていたので、まさか死刑囚に執行猶予が付くとは思わなかった。
前世紀までは稀ではなかった様だが、現在の24世紀に於いては異例の措置であるらしい。

しかし私を単なる殺人者と極め付けるのは間違っている。
嘗ての同志であった、高宮ジュンイチ・森上マサヒト・遠山ユカリの3名は叛逆者として総括されたに過ぎない。
彼ら裏切り者がいなければ世界政府所有の3箇所ある惑星制御システム中枢、グランド・ゼタアナライザーの内1箇所は完全に破壊出来たのだ。
日本政府の中枢神経を破壊し世界政府が混乱している間隙を衝いて、アメリカ合衆国とドイツが所有する残り2台のグランド・ゼタアナライザーを攻撃する事も不可能ではなかった。
世界政府に雇われたイヌ3匹の存在を見抜けなかった私にも責任がある。
他の仲間たちも全員逮捕されてしまったが、裁判は別の場所で行われたらしい。
彼らは粛清に直接手を下した訳ではないが、どのような判決が言い渡されたのか非常に気懸りだ。

家に残された3人の妻、ルリコとミカとユリナが今後どのようにして生きて行くのかも心配だ。
新たな配偶者は見つかったのだろうか。
しかし彼女たちは人類を模して精密に作られたエイリアスなので、余計な心配をする必要はないのか。

私にとって不幸中の幸いは借り腹の子孫を作らなかった事だが、その事自体が私を革命闘争へと駆り立てる大きな動機の一つとなった。
この惑星では何ゆえ人間の男と女同士が直接付き合い、家庭を持って子供を作ると云う天に与えられた極々自然な行為までをも法律で禁止しているのか。
借り腹とは言っても9割以上の女性が、苦痛を伴わない人工子宮による管理出産を選択する訳だが、
着床から出産に至るまで、人工子宮内での胎児の管理が病院の主な業務になっている。
法律により胎児の数は2名以上の偶数人のみが許され、精子と卵子を提供した実の父と母に養子と云う形で引き取られて行く。
性別による産み分けは容易だが、男女比は必ず50%ずつと厳しく定められており、そのため一度に4名の男女を希望する親が多い。

エイリアスたちは病院の人工子宮ではなく、別の工場で人間と同様の期間を経て育てられるのだが、
彼らは男女ともに子育ての特殊教育を受けたプロの保育士であり看護士でもある。
この惑星タカワルハラの様々な機関でエイリアスたちは活躍しており、人類にとって必要欠くべからざる地位を有している。

彼らはそれまでのスパコンとロボットに取って代わる生物コンピューターの一環として21世紀末から開発が始められたのだが、
現在では細胞レベルに至るまで人類と酷似する、奇蹟によって創造された新人類であるともいえる。
しかし安全保障上の制約でエイリアスたちは従順である事が最優先課題であり、人類を上回る能力の付加は厳禁となっている。
彼らには人間よりも低い知能と能力が生まれた時から与えられているので、人間に逆らったり傷を負わせるような真似は絶対にしない。
エイリアスが有する地位とは、人間とペットの中間であるとの解釈がなされている。

総ての生産物は精密機械とエイリアスの手により生産されるため、人類は特に仕事をする必要性に迫られる事はない。
その代わりに18歳以上の大人には、毎週必ず10万字以上のレポート提出が義務付けられている。
形式は論文、エッセイ、小説等、自分の得意とする分野で知性を逸脱しない限りは好き放題に書く事が許され、その内容が高く評価された度合によって対価がポイント制で支払われる。
私の場合はここ10年以上に亙り週最低20万字の、主に国際政治関連の論文を提出して来たお蔭で、2つの大きな別荘と高級スカイクルージングカーを何台も持てる程の贅沢な暮しを続けてきた。

私の革命思想とは、その論文の延長線上に位置していた事は言うまでもないだろう。
しかしあの男、私の論文を読んだ事があると話していた取調べ担当の検察官が、タカワルハラを発つ前に言っていた幾つかの不可解な言葉が未だに引っ掛かっている。


「死刑囚冠木スサノオ、君には失望したよ。
私は君をもう少しましな知恵者だと思っていたんだがね。
君が所有する脳細胞と世界観とは、19世紀以前にまで遡った前時代的な化石と化しているのだ。
それが逆に近代文明社会には求めるべくもない原始的ノスタルジー思想として受け容れる者も在ったのだが、
その理論は目的意識的に創作された懐古主義ではなく、自然発生的な希求に過ぎなかったのだ。
即ち君は下等な動物的本能から、暴力革命による原始共産主義社会の実現を画策していた。
君の陳腐で荒唐無稽な革命思想とは、近代的文明社会の正常な論理に立脚しておらず、二大本能のみに根ざした物欲の発現と言っても良いだろう。
つまりはだな〜冠木よ〜、君の精神病的アナクロニズムは人間国宝並の希少価値があってだな、君は100年にひとり出るか出ないかの珍種だと私は言いたいんだよ。
君が如何にして白痴化し凶暴化へと至ったかは、再三再四に亙り行われた神経スキャン精密検査によっても解明できなかった。
これが300年以上前であったら、悪霊に憑かれたとか先祖返りしたなどと謂われるのだろうが、現在に於いては有り得ない珍事でしかないのだ。
君は将来優秀な標本とも成り得るので各部位の細胞は総て確保してある。
だから安心して地上セトと云う名の地獄へと旅立ってくれたまえ。
死刑囚に対する執行猶予とは、情状酌量の意味合いは一切含まれていない。
君は薬物による安楽死の道を閉ざされ、地上のカニバリズム地獄で八つ裂きにされ生き胆を抜かれる極刑の道へと誘なわれたのだ。
ケダモノの檻の中では保護なくして生き残れる者など唯の一人もいない。
しかしながら君は、現存する貴重な生き残りの資料である事を決して忘れてはならない。
先程から君は何か言いたそうな眼をしているが、どうやっても口が開けないのに気が付いているかね。
そう、その通りだ。君の声帯は既にもう二度と使えないようにオペが施されてある。
そんなに怨めしそうな顔をせずとも、これは我々からの餞別だと解釈すれば良い。
地上セトでは、口は災いの元だ。地上セトでは、見ざる言わざる聞かざるが生きる上での鉄則だ。
テレポ・オペレーションの通信機能は剥奪しなかったので、我々のエージェントにのみ対話は可能だ。
私からは以上だ。後は地上セトの司令官の指示に従って行動しろ。」



その直後、麻酔を打たれた私の記憶の糸は途切れてしまった。
そして今、どこかの狭い隔離室らしき場所に閉じ込められたままで記憶が甦りつつある。
人間に対する記憶デリートは深刻な副作用を引き起こすため法律によって禁じられているが、死刑囚には適用されないだろう。
同様に違法とされている架空挿入記憶も注入された可能性が高い。
希薄となった記憶の中で、あの検察官は一体何を私に求め何をさせようとしているのか、その真意を図りかねている。
地上の司令官とやらに会って対話をすれば少しは謎解きが出来るのだろうか。

ぼんやりとした頭で様々な事を思い起こしている時、隔離室のドアが開けられた。
ドアの向うには双頭の攻撃用サイボーグ、軍事警察犬ケルベロスが2頭いる。


『ツイテコイ オカシナマネヲスレバ コロス』


ケルベロスからのテレポ・オペレーションに従い、私は黙って後に付いて行った。
どうやらここは建物の中ではなく高速宇宙艇の内部らしい。しかしあの鐘の音は確かに・・・・・・・・・・・・・・。
移動用シューターに乗せられ艇内を駆け巡ったが、やはりこれは観光用高速宇宙艇の構造とは異なる軍艦らしい事がはっきりと判った。
そして考える間もなく、大きなドアの前にシューターは止まり降ろされた。
そのドアの中には更に幾つものドアがあり、一番奥にある部屋へとケルベロスに導かれて行った。


『シレイカンガクルマデ スワッテマテ』


待つこと数分後、その司令官らしき人物が現れた。
がっしりとした体つきで、黒い軍服に銀縁のサングラスを掛けたアーリア系白人男性だ。
立ち上がって軽く会釈をすると、その男は私の右肩をポンと叩き座るよう促した。
そしてその男は椅子へ座るなり口早に流暢な日本語で話し始めた。


「冠木君、地上の楽園へようこそ。宇宙の旅は如何だったかね。
私は惑星セト統轄司令官のゲーリング中将だ。君は以後、私の指揮下に置かれる。
さて、君は死刑判決を下され執行猶予の期間、永久国外追放処分となった訳だが、この地での自由が約束されたのではない事は解っているな。
君にはある任務が与えられ、それを遂行しなければならない。
しかしここは言わば地獄の一丁目だ。死刑囚である君には生命の安全は保証されない。
タカワルハラでは私たちアーリア系白人種と、君たち日本民族のみが存在し他民族は唯の一人もいないが、この地上セトは様々な人種の坩堝だ。
我々は地上セトに住む人間を、セトアン或いはセッタンと呼んでいる。
永い間行われた雑婚により、彼らの殆どはMixedbloodであり、Crossbreedでもある。
言語は3000種類以上在るが、その言語は総て未熟な2万語程度の単語で構成され、文盲率はほぼ100%に近い。
カニバリズムは慣習として未だに行われており、肉の売買も当たり前の様に常識化している。
自動小銃やロケットランチャーは露店でも簡単に購入できるが、全て20世紀の劣化コピーによるものなので絶対に使うべきではない。
君には20世紀前半に製造された旧式拳銃ではあるが、ドイツ製モーゼルC96とルガーP08を与える。
この地はまさに地獄であり、住んでいる者たちも人類にして人類に非ずと覚えて置け。
私からは以上だが、何か質問があれば聞いておこう。」

『私に与えられた任務とは一体何なのだ。』

「それは追って指示する。それから君のテレポ送信の出力は、半径100m程度に設定し直してあるので気を付ける事だ。
くれぐれも焼いて食われない様に注意したまえ。フッフッフッ、・・・・・・・・・以上だ。」


そう言い終わるか終らぬ内にゲーリングはすっと立ち上がり、足早に部屋の外へと出て行ってしまった。

やはり死刑囚である私からは、人間としての総ての権利が失われたらしい。
ものを訊ねる事も逆らう事も許されぬ、一切合切総ての権利が剥奪されたのだ。

ゲーリングの話から解ったのだが、麻酔で眠らされている間にテレポ・オペレーションのチップを入れ換えられたらしい。
テレポシステムは携帯電話に代わる画期的発明品として、開発当初は数個のチップを頭蓋骨に埋め込むタイプだったが、現在では歯に埋め込むのが一般的である。
私は奥歯2本に設置する7インチ映像投影タイプで、通信距離30km以上の高性能モデルを使っていた。
喋ることが不可能となってしまった今、欠く事の出来ない機能だったのだが。

死刑囚であっても武器が渡されるとは、この地に下り立つのは相当な覚悟を決めて臨まなければならない。
私は学生時代、射撃のクラブに所属していたが、小口径の火薬式薬莢スチール弾とガス式アルミ弾での射的だった。
現在では軍用としての価値がないため使用されなくなり、趣味的な射撃競技専用となっている。
しかし400年近く前に製造された拳銃が、今でも問題なく使えるのだろうか。


再びあの2頭の軍事警察犬ケルベロスが来た。
指示された通りに移動用シューターに乗り別の部屋へ入り、みすぼらしい20世紀の服に着替えた後、目の前に置かれている2挺の拳銃とホルスターと銃弾を自分で取るように言われた。
銃弾は200発ほどある様だ。
そしてまたシューターに少し長い時間乗せられ、比較的広いガランとして何も置いていない部屋へ入れられた。


『チジョウヘ テンソウスル オマエハ カンシサレテイル』


いよいよか、持たされたのは2挺の銃と弾丸のみ。



突然眼の前に広大な大地が出現した。
遠くの方に高層ビル群の様なものがあるらしいが、周りの建物はみな倒壊したり崩れ落ちたりしている。
至るところに無数の銃痕があり、この辺一帯が廃墟と化しているらしい。
そして人影は全く見当たらない。



「よ〜う、兄弟、待ってたぜ。」


近くには誰もいない筈だったが、振り向くと真後ろに黒い皮ジャン姿でモヒカン刈りの大男が立っている。


『お前は誰だ。』

「テレポ・オペレーションのテスト送信かい。心配するな、お前さんを取って食うつもりはない。」

『私の事を総て知っているのか。君は軍関係者なのか。』

「さあね、お前さんの事なんか興味ないんだけどな。しかしこれからは俺の指示に従ってもらうぜ。」

『君の階級を教えて欲しい。』

「ケッ、死刑囚よりは偉いってだけの話よ。それからもう一人、お前さんの後ろにいるダチを紹介しとくぜ。」


後ろを振り返ると、この男と同様に転送されて来たのだろう。赤毛の若い白人女が腕組みをしてニヤニヤしながら私を眺めている。


「中々の男前じゃないかい日本男児。あたいはネウラールってんだ、よろしくな。その図体のでかい木偶の坊はゴローって奴だ。」

『君も私の上官と云う訳だな。』

「ヒッヒッヒッ、お前は変な死刑囚だな。まあ、あたいの言う通りにしときゃあ損はないけどな。」

「そんじゃあよ兄弟、ねぐらに連れてってやるからついて来いや。」


知らない間に横の方に20世紀時代の4輪車がある。これは以前写真で見た事のあるジープといわれる物らしい。
乗り心地の悪いその車に揺られながら、ビル群のある方向へ向かって行った。


「なあ日本男児。この辺にゃあ人が住んでいないと思っただろ。ところがなウヨウヨいるんだよ。何故だか分るかい。」

「ようズベ公、ヒトじゃあなくて下等なセッタンだぜ。」

『解らない、何でもいいから教えてくれないか。』

「お前は頭悪いのか、色男。昼間っからひとりでブラブラ歩いてたら、とっ掴まって食われちまうからだよ、ヒッヒッヒッ。」

『そうだったのか。それ程までにここの人間たちは野蛮化しているのか。』

「人間様は俺たちだけだ。これからは必ずセッタンと言え。」

『分かったよ。同志ゴロー君。』

「さあ、そろそろ俺たちのヤサに到着するぜ。」



車は瓦礫の高層ビル街を通り越して一軒家の建ち並ぶ住宅街に入り、高い鉄柵に囲まれた広い敷地の鉄筋家屋に着いた。
その家の玄関先には、栗色の髪に碧味掛かった瞳の綺麗な、10歳くらいの可愛いらしい女の子がエプロン姿で出迎えている。
私の生まれた高天原でも多く見かける日欧のハーフの様だが、3人の妻たちも例に漏れないエイリアスのハーフだった。
洋風の造りになっているその家のリビングルームに土足のまま上がり、大きくゆったりとした深いソファに腰掛けた。


「それじゃあな兄弟、先ずこの地域の基本的な知識だけ話しておくがな、ここの正式名称は惑星セト・エリアEKR33_B004_synnjuckだ。
ここの奴らはジュックと呼んでいるが、範囲は適当にしか把握してないから街を外れたら別の区域だと思え。
惑星総人口は約30億で、海に囲まれたこのエリアEKRには5000万程度が住んでいる。
地上の至る所に亙って既に国家という概念はなく、暴力だけが支配する無政府状態になっている。
ここでの法と秩序とは即ち強者が揮う鞭による暴力を指すのだ。
地域の強者に跪いている奴隷だけが金を分け与えられ、他地域の侵入者による暴力から保護され生き永らえる事が出来る。
通貨は金と銀の入った硬貨のみ使用可能だ。奴らは動物的勘でその真贋を見分けられるみたいだな。
それからお前さんも良く分かってるだろうが、この惑星セトの一日の長さは25時間じゃあなくて24時間だ。
そんなとこだが、何か聞きたいことでもあれば言ってみな。」

『私のテレポシステムからカレンダー機能が削除されているのだが、今日は何月何日になるんだ。』

「2月14日だけどな、旧式の腕時計なら捨てるほどあるから好きなの持ってけ。後な、お前さんの通信は総て大気圏外から傍受されているが、
助けてくれって言っても誰も助けちゃあくれねえからな。武器と弾薬を供給してくれる程度だと思って腹を括れ。」

「どうかお助け下さいませ〜ケルベロス様〜って叫ぶんだよ、カワイイ日本男児。ヒッヒッヒッ。」

『ところでさっきから君が噛んでいるものは何なのだ。』

「フーセンガムだよ、知らないのかい、田舎者だねえ。」


ネウラールはニヤニヤしながら得意げにその風船を口から何度も出してみせた。


「それからな色男、そこにいるチビはマミアっていうメイドだ。お前の身の回りの世話をしてくれる可愛いガキだけどな、手を出すと噛み付くから攻める時は後ろから行けよ、ヒッヒッヒッ。」

『グループの仲間は君たち3人だけなのか。』

「そうだけどな、もっといい女がいるとでも思ったのかよ、兄弟。」

『いや、こんな危険な場所にひとりで留守番をさせておいて大丈夫なのかとね。』

「お〜、さすが元一夫多妻の死刑囚は心配性のフェミなんだねえ。ここはな、21世紀版のイージスシステムで護られてる要塞だから侵入者もミサイルも蜂の巣になるんだよ。
さっきズベ公が言ったようにその娘っ子は本当に噛み付くから用心した方がいいぜ。」

『私がどのような任務を与えられているのかは、勿論教えるつもりはないのだろうな。』

「ケッ、極悪人の死刑囚に任務たあ聞いて呆れるぜ。お前さんは司令官殿の言う通りに動いてりゃあいいんだよ。」

『君たちも知らされていない訳なのか。』

「やい色男、何をヒーロー気取りでいるんだい。ここの主人公はセッタンなんだよ。」

『やはり無駄だったか。』

「お前さんが生まれて来たこと自体が無駄だったとは思わねえのかい、兄弟。」

『その通りかも知れないな。』

「良い子じゃねえか。まあ、俺たちの活動は暗くなってから始まるんで、余計なこと考えねえで今の内に寝ておけ。」

「色男を部屋に連れてってやんな、チビ。」



そのチビことマミアと一緒に2階の私の寝室となる部屋へ向かった。
トイレ付きバスルームにも案内されたが、形が旧過ぎて一度では理解出来そうにない。
石鹸やシャンプーなどという前時代的産物に実際お目に掛かろうとは思ってもいなかったのだ。
二人で部屋へ入り、メイドのマミアは私が使うベッドを丁寧に整えてくれている。
この少女はメイドだからなのか、必要なこと以外は何も喋ろうとしないので私から話し掛けてみた。


『君は今幾つなのかな。』

「9歳です。」

『お嬢ちゃんはまだ小さいのにどうしてこんな所で仕事をしているの。』

「これがお仕事だからです。」

『ご両親はいるんでしょ。』

「いません。」

『亡くなったとかなのかな。』

「元々いません。」


この少女は何かが原因で笑顔を忘れてしまったのか、それとも笑顔を持たない性質なのだろうか、淡々とベッドメイクを続けている。
部屋の片付けも終わり、用事があったら何時でも自分を呼ぶようにと言って部屋を出ようとした時、私はつい妻たちにしていた習慣でマミアの頭を撫でてしまった。


「あたしに触らないでちょうだい!!!。」

『ああ、ごめんね・・・・・・・気に障ったかな。』


その後マミアは何も言わず、プイッと部屋を出て行ってしまった。
噛み付くとはこの事だったのだろうか、全く理解出来ない。
しかし私は疲れ切っていたので、あれこれと考えることもなくベッドに横になり深い眠りに落ちて行った。

ぐっすりと寝入ってしまい、目が覚めた時はもう真っ暗で微かに月明かりが差し込んでいた。
ゴローが言っていた様に、今晩から早速活動を開始するのだろう。
1階のリビングルームへ行くと3人はソファーに座って寛いでいた。


「よう兄弟、早起きだな。1時間後に出掛けるから、さっさと娘っ子が作ったメシを食え。」

『どこへ行くんだ。』

「ナイト・オブ・トーキョーツアーだよ、にいちゃん。」

「そう、このアバズレ美人ガイド付けてやるからよ。」

『今日の目的とは何だ。』

「実地訓練でな追々解って来るから心配すんな。金はふんだんに使えるから渡しておく。但しな、銃弾と女だけは絶対に買うんじゃねえぞ。」

「あと肉もな、共食いしたきゃあ勝手だけどよ、ヒッヒッヒッ。」

『銃弾はそんなに質が悪いのか。』

「詰まるくらいならまだカワイイもんよ。お前さんのいい男前が一遍に吹っ飛ぶぜ。」



口に合わない食事を無理矢理押し込んで、私はネウラールの運転するジープに乗り、前を行くゴローとマミアのジープに付いて行った。
所々に街灯が燈り建物にも明りが点いているので、無法地帯とはいえ発電所が稼動しているのだろうか。
なるほど昼間ネウラールが言っていた通り、道には人々が溢れ返り多くの露店も出ている。


「こいつらはな夜行性なんだよ。犯罪者と害虫に共通の属性を持ってるって訳さ。」


もう1時間以上ジープを飛ばしたのだろうか、海が見える所に来るとゴローの車がウインカーを点滅させて止まった。
ゴローはライフルを手にし、車から降りて来て私に訊ねた。


「お前さんの持ってる銃を見せてみ。」

『2挺あるが旧い何百年も前の物らしい。』


左脇のショルダーホルスターに入ったモーゼルC96と、背部のバックサイドホルスターに取り付けたルガーP08を出すと、ゴローは各部を繁々と見詰めている。


「いや、こりゃあな、つい最近作ったものだ。昔の物と違って銃身が焼け付く心配はないから何十発でも連射出来るぜ。
俺様のこのアーマライトM16A2とS&W M29 .44マグナムと同じ正式なライセンス生産品て事さ。」

「お前らはほんと馬鹿だねえ。セッタンを蜂の巣に出来るのは、あたい愛用のサブマシンガンFN P90とH&K MP7しかないんだよ。」

「その通りだな、頭使わなくって楽だよな、ズベ公。」

『最近とは、どこで造ったんだ。』

「知らねえなあ、ここじゃあねえのは確かだがよ。」

「よう、あんちゃん。お前の腕を見せてみろよ。」

『銃弾は誰が補給してくれるのだ。』

「あの頭の悪いワン公だよ、つべこべ言ってねえでそこいらウロウロしてる馬鹿を撃ってみろや。」

『幾ら下等だからといっても人間には変わりないだろう。』

「その内お前さんにも解るからよ。それじゃあ馬鹿どもに喧嘩売りに行くとするか。」

「セッタンを発狂させる言葉が幾つかあるんだけどな、お前にゃあ無駄だったか、おにいさん。」

「さあ、作戦開始だ、車に乗れ。装弾して安全装置は外して置けよ。」


ゴローの車に付いて行き露店が多く並ぶ繁華街のような場所に出ると、ゴローは車を降り突然ライフルを乱射し大きな声で叫んだ。


「こらァァァァァァァァァ蛆虫どもォォォォォォォォォ俺たちは文明人だあァァァァァァァァァァァァとっとと巣に帰りやがれ〜〜〜。」

「おいっ、色男、車降りて態勢を低くしろ。」


すると周りにいた人々の顔は突如として物凄い形相へと変貌し、鋭いナイフやナタなどを手にして何十人も一斉に襲い掛かって来た。
ゴローとネウラールは自動小銃を盲滅法乱射し、人々は次々と血の海に沈んで行った。
私の方にも何人か刃物を持って向かって来たので撃ち殺すしか方法がなかった。
襲い掛かって来た者たちは総て倒され、近くで傍観していた者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

ゴローとネウラールはまだ息のある者に止めを刺している。
指令本部が供給している弾丸は威力の大きいマグナム弾や、鉛の先端が平らなソフトポイント弾と凹ませたホローポイント弾だ。
頭に命中した者は頭蓋骨や顔が半分吹き飛び、至る所に腕や脚がもげて無数に散らばっている。

そして僅か1分も経たずに辺りはひっそりと静まり返った。
至近距離からの強力な銃弾の雨に晒され、ひとりも生き残っている者はいない。


しかしこれは文明人による非文明人虐殺のゲームでなければ一体何に喩えれば良いのだ。




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