Once upon a time
青木ヶ原樹海のど真ん中に、因業寺閻魔様と地獄女王もも子さんの経営する大きな2軒の焼き鳥屋がありました。 ところが、ちょっとしたボタンの掛け違いで、進駐軍の戦術核兵器を使用した総攻撃によって青木ヶ原は火の海にされてしまったのです。
しかし性格の悪い地獄女王もも子さんは、因業寺閻魔様の焼き鳥店の地下深くまで穴を掘って侵入し、店ごと崩落するような大きな落とし穴を作っていたのでした。 地上は核攻撃により焼け野原となってしまいましたが、地下トンネルが核シェルターになり、もも子さんと姉の邪教院たか子さんは命辛々トンネルから繋がる洞窟内へ避難したのです。
姉妹は備長炭を松明にして、洞窟から地上へ抜ける出口を探して地底大探検の冒険に出発しました。 でも富士山麓の地下一帯に広がる、大きくて長い迷路のような洞窟内に棲む悪霊たちが2人の行く手を阻むのでした。
「お姐様〜、寒くて暗くてこんなに怖い洞窟なんて、もうわたくしには耐えられませんですわ〜。」
「アホかよ、お主は一度氏んで地獄女王になったんじゃろうが。」
「もも子はお姐様と違って育ちが良いので怖い所が大嫌いなんですのよ〜〜〜。」
「しかし、何処まで続く泥濘ぞっ、ちゅう感じじゃな〜。
一、♪どこまで続く ぬかるみぞ 三日二夜を 食もなく 雨ふりしぶく 鉄かぶと♪♪
二、♪いななく声も たえはて 倒れし馬の たてがみを かたみと今は 別れ来ぬ♪♪
三、♪ひずめのふとに 乱れ咲く 秋草の花 しずくして 虫が音はそき 日暮空♪♪」
「あら、流石は体育会系・・・・・『討匪行』なんて、一体お姐様は何時の時代の方なんですの。」
「ところで因業寺と独尊寺のクソボンズはどうなったんかいな〜。」
「映画じゃあるまいし、閻魔大王は2度氏ぬ・・・・・・なんて事ないですわよ。」
「鬼畜進駐軍めが非核三原則は遵守してるんかい。」
「ですから、わらわの言う通りに愚民解放軍を誘致していれば良かったんですのよ。」
「じゃかましいわい、愚民解放軍なんぞ居ったら今ごろ戦国時代に逆戻りしておるわ。」
「もも子は以前これに似た洞窟探検をテレビで見た事がありますわ。確か川口隊長と隊員が海に抜ける出口を見つけますの。」
「貴公は馬鹿かよ、ありゃあ御得意のヤラセじゃろうが。」
「あら、お姐様は何て夢も希望もないリアリストなんですの。」
「いんやワシャあな、この洞窟内に必ず『失われた聖櫃』があると睨んでおるのじゃ。」
「それってハリウッド映画に感化され過ぎでは御座いませんこと。」
「そんでな、その上には鳳凰ケルビムがあってな、ワシは天下を取るのじゃ。」
「あら、なんてチャイルディッシュな妄想。」
すると、その時でした。苔に足を取られた邪教院たか子さんは転んで、滑り台に乗ったようにツルツルと下の方に滑り落ちて水溜りに頭から飛び込んでしまいました。 その姿を冷ややかな目で見ていた地獄女王もも子さんはウォータースライダーだと勘違いして、楽しそうなので自分からツルツルと滑り落ちて行きました。 2人が大きな水溜りから上がると、そこは広い部屋のような場所だと分かったのです。 そして上の方にふと目を遣ると、そこには大きな岩で出来た扉がある事に気付いたのです。 体育会系で腕力の強い邪教院たか子さんは、気合を入れて大きな岩の扉を抉じ開けてしまいました。
「お姐様、中には大きいツヅラと小さいツヅラがありますわ。」
「こりゃあ、失われたアークに違えねえ。このデカイ方は重いから貴公は小さい方を持ってけ。」
「まあ、お姐様、それでは『舌切り雀』の因業ババアと同じではありませぬか。」
「お主がこのデカイ方を持ってけるんだったら交換しても良いんだぜ。」
「欲を掻くと碌な事は御座いませんですわよ。」
「どうでも良いけど、中開けてみろや。」
「小さい方には小判が入ってて、大きい方からは魔物が出て来ますわよ。・・・・・・・あら、これは魔法のランプかしら。」
「いんや、お主なあ、その形からすると尿瓶だとワシは思うのじゃがなあ。」
「わたくしはカレールーを入れる食器だと思いましたの。取敢えず擦ってみますわ。」
もも子さんがその瓶を擦ると、あら不思議、煙りのようなものがモクモクと立って何か大きな物体が出てきました。
「我輩は〜ランプの精、ツノガアラ人である〜、ユーのご主人様であるぞ〜。ミーの願い事を3つ叶えろ〜〜。」
「あら、わたくしが願い事を叶えるんですの。なんて怠惰なランプの精なのかしら。」
「こっちのツヅラを開けようと思って居るんじゃが、蓋が固くて開きそうもねえんだよ。持ち帰ってチェーンソーでぶっ壊さにゃあな。」
「このランプは役に立たないから捨ててしまいますわ。」
「ネットオークションに出せば誰か買うだろが。」
「そうですわね、一応取って置きましょうか。でもやはり財宝はその大きいツヅラの中にありそうですわね。」
再び出口を求めて歩き出した二人でしたが、もも子さんは御姉さんが担いでいる大きいツヅラが気になって仕方ありませんでした。 姉のたか子さんに財宝を独り占めされたくないと考えた欲深いもも子さんは、ツヅラに火を点けて燃やしてしまう事に決めました。
「おいっ、愚妹もも子、さっきから後ろでカチカチカチカチ音がするけど何の音なんじゃ。」
「松明の備長炭に火を点けようとしてるのですが、100円ライターがカチカチいうだけで中々点火しなくて困りましたわ。」
「そうかいそうかい、でも何だか背中の方が段々と温かくなって来る様な気がするんじゃが。」
「お姐様、きっとツヅラの中身は濃縮ウラン型のリトルボーイが入ってて臨界点に達しているのですわ。」
「お主はアホかよ、真のオカルティズムっちゅうもんが解かってんのかよ。」
「違いますわよ、お姐様。古代マンハッタン計画によりソドムとゴモラを焦土と化した最終兵器こそが、プルトニウム型のファットマンでしたの。」
「あのなあ・・・・・・・・・アッチッチッチッ・・・・・ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「オホホホホホ、まるでタヌキのようですわね、お姐様。」
もも子さんの放った火は、あっという間にたか子さんの背負っていたツヅラを燃やしてしまいました。 ところが、ツヅラの中から変な物体が踊り出て来て、熱い熱いと言いながら七転八倒を始めたのでした。 二人とも訳が解らず唯茫然と見ていたのですが・・・・・・・・・・・・・・
「アチャッアチャッアッチョ〜、熱いじゃあねえかよ、御姐さん方よ〜〜。」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ、ミイラ男だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」
「お姐様、こいつはツタンカーメンかも知れませんわ。博物館に売り込めば高値が付きますわよ。」
「あんなあ、拙者は二代目折伏屋ナンミョウ之介と申す武家出身の辛子明太子卸問屋だっちゃん。」
「どう見ても貴殿は商人ではなくミイラ男じゃぞ。」
「聞くも涙、語るも涙の物語、ペペンペンペン。拙者の父上はな素浪人の身でな、飯が食えないので出家したっちゃん。 でも徳が低くて上人になれなかったので、故郷長崎に帰って辛子明太子商人に業態転換したっちゃん。で、拙者はその二代目のボンボンて訳だっちゃん。」
「こらっ、誰が勝手に身の上話をしても良いと言ったんじゃ。」
「でも金目当ての悪い女の結婚詐欺に騙されてな、清水の舞台から飛び降りて生きてたら願いが叶うし、氏んだら氏んだでまた願いが叶うって言われたっちゃん。 それで氏ななかったんだけど、全身打撲で包帯グルグル巻きにされたっちゃん。その女は拙者が入院してる間に店売り払って小判全部持ち逃げしたっちゃん。」
「それがどうしたっちゅうんだよ、ミイラ男。」
「そんでね一文無しになった拙者は生きる望みも無くなって、青木ヶ原を彷徨い歩いてたっちゃん。そんで落し穴に落ちて出られなくなったからツヅラに入って即身仏になったっちゃんよ。」
「そうかいそうかい、じゃあ達者でな。風邪ひかないように気い付けろや。」
「あ、待ってよ、拙者も連れてってちゃん。お友達のグラバーとシーボルトの話もしてあげるっちゃんよ。」
「着いて来るのは勝手じゃがな。ところで貴公の背番号666てのは何か意味でもあんのかよ。」
「後で教えてあげるから、細かい事は気にしない方が良いっちゃん。」
3人は洞窟内をひたすら歩き続け、次の日の朝方になってやっと出口を発見しました。 そして国道まで出てタクシーを拾い、新幹線で東京市に向かうため近くの駅まで行こうとしたのですが、身分証明書とクレジットカードがなければ載せてくれないと運転手が言うのです。 ぶっ千切れてしまった邪教院たか子さんと地獄女王もも子さんは、運転手を袋叩きにしてタクシーを乗っ取り駅に行きました。 ところが駅員に聞くと、昨日から新幹線も空の便も身分証明書とクレカを持ってない人にはチケットを売ってくれないのだそうです。 食事にハンバーガーを買おうとしても、コンビニで買い物をしようと思っても店員の誰もが皆同じ事を言うのでした。 交番に行って事情を聞いてみると、カードの代わりに静脈認証データを届出するのが一番良いと言うのです。
そしてそのお巡りさんに昨日から世界を揺るがせている驚愕の事実を知らされたのです。 それは世界各地に覇権主義の愚民解放軍が軍隊を派遣して、各国軍と対峙しているのだと云う事でした。 最も近接するこのブリブリ列島も例外ではなく、報道によると一触即発の危険性を孕んでいるとの情報が飛び交っていたのです。
一体全体、邪教院蛇蝎院姉妹が洞窟内にいる間に一体何が起こったというのでしょうか。
To be continued.
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