Once upon a time
ある処に因業寺閻魔大王様の経営する地獄の焼き鳥屋ヤマラージャという屋号の焼き鳥屋さんがありました。 コングロマリット企業オニーグループ会長である因業寺閻魔様は、地上にも焼き鳥チェーンのフランチャイズ展開を企画して第一号店の開店準備に追われていました。 ところがそこへ強力なライバルが出現して、因業寺閻魔様のお店の真向いに焼き鳥屋ヒルズビルの建設を始めたのです。
実はその焼き鳥チェーン店を率いる総帥とは、性格が悪くて地獄に堕ちたあの蛇蝎院もも子さんだったのです。 ヴァルハラでドイツオペラの声楽と指揮法を学んでいた蛇蝎院もも子さんは、男たちを幻惑するセイレーンの如き美しい歌声とその類い稀なる美貌を地獄女王ヘル様に高く評価されたのでした。 そして御隠居の身となる決意をした高齢のヘル様は、もも子さんと養子縁組の永年契約を結び、めでたく二代目地獄女王を蛇蝎院もも子さんが襲名されたのです。
蛇蝎院もも子さんはウインナーやフランクフルトソーセージよりも炭火焼き鳥が何にもまして大好物でした。 そこで自分専用の焼き鳥店を作ろうと企画したのですが、同様に性格の悪い姉の邪教院たか子さんと悪いオツムも似ているので出店計画がバッティングしてしまったのです。 因業寺閻魔会長と営業部長の独尊寺唯我くん、そして雇われ店長の邪教院たか子さんはもも子さんの営業妨害に対して大変立腹し日々闘いの火花を散らしていました。
お互い相手の店に冷凍の鶏を放り投げてガラスを割ったり、夜中になると炭火を投げ付けて放火したり妨害工作を繰り返しながら12月中旬の同じ日、両店とも何とか新装オープンに漕ぎ着ける事が出来たのです。 そして今まさにメギドの丘に於いて炭火焼き鳥世界最終戦争の火蓋が切って落とされようとしていました。 でも地獄の焼き鳥屋ヤマラージャ本店の目の前にお店を出した性格の悪い二代目地獄女王もも子さんは相変わらずオホホホと高笑いしていたのです。
「200万円のパーティー券は即日完売。コンパニオンのプロフィール写真を添えて個室有りと書いただけですのに、愚民代表のスケベジジイどもが亡者のように押し寄せてきますわよ、ホホホホホ。」
「ちょ〜〜〜っと待ったあァァァァァァァァァァァ、余の辞書にはゲルマン食文化に焼き鳥無しと書かれておるぞ〜〜。」
「あら、独尊寺のお坊ちゃま、欧州では今お魚のすり身が主食になりつつあるのを御存知ないのかしら。」
「こらっ、愚妹もも子、ワシの縄張りを荒らすとは何事じゃい。欧州からわざわざ喧嘩売りに来たんかい。」
「あら、お姐様、この村は外資なくして存立不可能なのは今や常識じゃありませんこと、ホホホホ。」
「蛇蝎院よ、焼き鳥屋にパーティーコンパニオンを何百人も揃えるなんて拙僧には理解出来んのじゃわ。」
「わらわのお店はVIP専門高級焼き鳥店ですの。其の方のお店みたいに鬼婆の従業員では利益が上がりませんのよ。」
「おいっ、愚妹もも子、個室の中にはビデオとシャワーと回転ベッドでも付いてるのかい。」
「それは当たり前では御座いませんの、お姐様。後、ジジイが泣いて喜ぶスケベ椅子も標準装備してますのよ、ホホホホホ。」
「チミねえ、それって今どき古過ぎるファッション焼き鳥ヘルスではなかろうか。貴殿の焼き鳥商法はセコいんだわ。」
「企業家は常に愚民のニーズを逸早くキャッチして商品化しなければ敵対する会社に負けてしまいますの。お解りになりまして因業寺閻魔殿。」
「こらっ、愚妹もも子、パーティー券200万円ちゅうのは霊感商法で年寄りを騙して東南アジア製仏壇でも売ったんか。」
「勘違いしないでくださいな、お姐様。開店記念レセプションにお呼びしたお客様は、オポッポ首相を筆頭とする閣僚の方々と上下両院の愚民代表と道州知事の皆様ですのよ。 特にオポッポ首相は鳩料理フレンチと捕鯨と鯨食い絶対反対で、犬鍋猫鍋食を村民に推奨されている立派な焼鳥家なのですわ。 今回は閣僚の皆様が大好きな東亜風の雉料理フルコース、即ち雉の丸焼き・雉の生き胆・雉の活け造り等を召し上がって頂く事で付加価値の高い演出が為されてますの。」
「こらっ、愚妹もも子、焼き鳥は素材と塩加減で決まるんじゃ。ワシの店は総て厳選した最高級素材と最高級の紀州備長炭を使用しておる。」
「あら、わらわのお店では閣僚の皆様の強っての願いで中華製備長炭で焼かなければなりませんの。品質が悪いので火の熾りが良くありませんけどメタノールをぶっ掛ければ変わりないですわ。」
「蛇蝎院よ、それでは詐欺と変わらんのではあるまいか。」
「それがお客様のご希望ですので仕方ありませんのよ。お酒も戦後闇市で飲んだバクダンの味が忘れ難いらしいので、医療用エタノールと工業用メタノールをカクテルにして召し上がって頂きますの。 ところで、わらわのお店の経営方針はさて置いてそちの店のレセプションには誰が参るのじゃ。」
「拙僧は日本痙攣団体連合会会長でもあるので主要メンバー全員と、東証一部上場企業の財界トップ全員を招いておる。 来年度から日本痙攣団体連合会の会合は総てこの焼き鳥ヤマラージャ本店で開く事が決定して居るのじゃ。」
「あら、財界トップといえば棺桶に片足突っ込んだジジイばかりではありませんこと。わらわのお店の個室有り看板を見ただけで心の臓が止まって氏んでしまいそうですわね、オホホホホホ。」
「しかし蛇蝎院よ、5時に開店してから一人も客が来ないのはどうしてなんじゃ。もう7時を過ぎてるのでピークになっても良さそうなもんじゃがなあ。」
「あら、そう言われてみたら、わらわのお店にもまだ誰もいらしてないみたいですわね。どうしたのかしら。」
「おいっ、愚妹もも子、貴公は招待状や案内状をブリブリ郵政公社経由でちゃんと届けたのかえ。」
「案内状とか招待状というと何の事ですの。御迎え状でしたら宅急便で届いている筈ですわ。」
「こらっ、幾ら相手が余命幾許もない年寄りだからって焼き鳥を食わせる前にお迎えに行っちゃあいかんだろが。」
「わたくし最近はラテン語と古代ノルド語しか喋っておりませんので、御迎え状で良いのかと思いましたわ。」
「おいっ、営業部長の独尊寺クソボンズ、お主はどんな招待状を送ったんじゃ。」
「余の辞書に書かれてある通り、血の池地獄と針山地獄の案内状を送ったのじゃがね〜。」
「それじゃあ誰も来る訳なかろうが〜。今直ぐ全員に電話して呼び出し掛けろや、ボケ〜。」
しかし午後9時になっても10時になっても、お客様はどちらの店にも姿を現しませんでした。 そして風俗営業法の規定する時刻まであと残り僅かとなってしまったのです。
「変ですわね〜、皆さん近くに来てらっしゃるのにどうしてお店まで辿り着けないんでしょうね〜。」
「こらっ、愚妹もも子、そいつらから電話はあったのかよ。」
「全員の方とお電話でお話ししましたわ。でも何回も掛けている間にバッテリー切れで誰とも通じなくなってしまったのですわ。 オポッポ首相と最後にお話した時は、とても寒い寒いと仰られた後とても眠い眠いと仰ってそのまま不通になってしまいましたの。」
「それってオポッポは何処から電話して来た訳よ。」
「お店の直ぐ近くだとは仰ってたんですけど道に迷ったのでしょうかしら。地図は同封してあるので場所が解らない筈はないんですのよ。」
「ワシも全員に詳細地図を送ってあるので道に迷うとは考え難いのじゃがなあ。」
「チミたちねえ、みんな道路に車を停めてここまで歩いて来る途中で迷ったんでしょ。」
「だからな因業寺、解り易い地図を渡してあるんじゃて。道に迷うはずがなかろう。」
「あのねえ、そうじゃなくて、どうしてチミたちは揃いも揃ってこんな所に出店しようと思った訳なの。」
「都市部の繁華街は物価が高いしな手続きも面倒だから、ここだったら土地も広いし勝手に焼き鳥屋でも何でも作って良いと思ったんじゃわ。」
「お姐様の仰る通りですわよ。それに加えてこの辺は霊験新かと云うか、辺り一帯が霊気の彷徨い漂う素晴らしい環境だから選びましたのよ。」
「で、チミたちはどうして車が入って来れないのに大きな駐車場なんか造った訳よ。」
「ワシはヘリポートにもなると考えたんじゃがな。愚妹もも子はどうなのよ。」
「わたくしは行く行くは滑走路を作って、ジャンボ機やエアバスも離着陸可能なハブ空港にする予定でしたの。」
「ちょ〜〜〜っと待ったあァァァァァァァァ、お前ら馬鹿姉妹の脳味噌は完全に膿んでいると余の辞書には書いてあるぞ〜〜。」
「なんじゃいワレ〜〜〜、このクソボンズ〜、文句あるんだったら外出ろや、オンドリャ〜〜〜〜〜。」
「お姐様、やはりこの小僧はタレに漬けて炭火で焼かなければ性格が直りませんのですわ。」
時刻はとうとう午前0時を回ってしまい、未だにお客さんは一人も来ていませんでした。
「まったく時間も守れない様な奴らだから国民から不信を買うんだわ。」
「今頃みんな寒さで凍えて氏んじゃってるかも知れないですわね。」
「あのね、チミたちね〜、一言だけ言わせて欲しいんだけど、なんで青木ヶ原樹海のド真ん中に焼き鳥屋を出店しちゃった訳なのよ。」
「だから、さっきから説明しておるじゃろうが。お主は耳が遠くなったのかよ。」
「因業寺は頭が悪いから企業経営には不向きなんですのよ、お姐様。」
「愚か者め〜、余の辞書にはお前らに付ける薬はないと書かれておるぞ〜〜〜。」
「あら、そういえばさっき電話でこの小僧と同じ事を仰ってた方がいらしたのを思い出しましたわ。確かあの方は国防長官のウポッポさんでしたかしら。 ・・・・・お前に付ける薬はない、東富士演習場の着弾地点をお前が渡した地図に従って樹海のど真ん中に変更する様に命令を下して置いた、マルヒトマルマル時を楽しみに待ってろ、ザマ〜みやがれ・・・・・・とか。 ウポッポさんは凄く眠いと仰った後プッツリ連絡が途絶えてしまったのですが、わらわには意味が解りませんですわ。」
その時でした。空から耳を聾せんばかりのガラガラガラガラという雷の様な大音響が無数に響き渡ったのです。
「あら、季節はずれの物凄い雷みたいですわね。」
「こらっ、独尊寺のクソボンズ、へそを取られないように隠しとけよ。」
ところがところが、この大音響の正体は陸自の99式自走155mm榴弾砲ロングノーズと203mm自走榴弾砲サンダーボルトから一斉に発射された砲弾だったのです。 次々と降り注いで来る砲弾の雨は2軒の焼き鳥屋の周辺を破壊し尽くしました。 応援に駆けつけた空自もF−15JとF−2Jが、新開発のクラスター爆弾をテストするために200機以上で猛爆撃を敢行しました。 更に興奮した進駐軍がF−22ラプターとF−35ライトニングIIを全機発進させ、勝手に戦術核兵器を青木が原樹海一帯に遠慮会釈なく撒き散らしたのです。 因業寺閻魔様たち4人が大量殺戮兵器による攻撃だと気づいた時、青木ヶ原は一面火の海地獄と化していました。
「プギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャプギャ〜〜〜〜〜」
果たして、因業寺閻魔大王様と邪教院たか子さん・地獄女王蛇蝎院もも子さん・独尊寺唯我くん達は無事逃げ延びる事が出来たのでしょうか・・・・・・・・・・・・・・。
To be continued.
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