この文章は全てフィクションです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝112」
アサギザクラ
読んで字のごとく浅葱色の桜である 浅葱色とは ネギの葉の様な緑がかった薄い藍色のことである これは全く新しい品種でいまだに世界に一本しかない 大変希少な桜である
この桜の生まれた経緯は全くの偶然である 世界中の生物の遺伝情報を保管しようとして作られた 遺伝情報保管研究機関で保存栽培されていた桜が 隔離されていたにもかかわらず ミツバチの進入を許してしまったために 受粉交配してしまい生まれたそうである 職員が結実した果実を趣味で栽培していて開花した時に 初めて他家受粉していることに気づいた このように計画的に交配したわけではないので 元の品種も全く分からず 同じ物を人工交配で作る事は DNAの解析を行わなければならないようである ただほかの種との交配で出来たかどうかは確定ではなく 突然変異の可能性もあり 解析結果がまたれているのである
今現在 花を咲かせている成木は一本しかないが 幸いな事に挿し木で増やされた苗が在り 需要が在れば随時増殖させていく準備は整って居るそうであるが いかんせん肝心の需要があまり無いそうである この品種を使って研究資金の慢性的な赤字を解決しようと 園芸関連会社に連絡を取り インターネットでアンケート調査をして見たところ あまりにも反応が悪く 商品化の話はお蔵入りになってしまったそうである この為 肝心要のDNAの解析に当てる資金も当然のごとく削られ ほぼ放置状態で在るそうな
花の色のせいで需要が無いのであれば 果実の方で需要を見出して見てはどうかとの意見も出たが こちらの方も全く期待の出来る物ではなかった 自家結実した果実は黒っぽく小さいもので 尚且つ どんなに熟させても甘味が乗る事も無く どうにもこうにも利用のしようがないために こちらの方も廃案となってしまったそうである
この様にせっかく偶然に生まれてきたこの品種だが あまりに需要が無いため 挿し木で作った苗も引き取り手が無く 処分されてしまったそうである 結局残っているのは最初に職員が趣味で育てた一本だけとなり 非重要案件としてこの種のDNAの解析も後回しにされている もちろん 遺伝子の研究過程で偶然出来た植物を 何の調査もせずに施設の外に出して 職員の私有地に植えておくことも出来ないため 研究所に移され 一本で寂しく生えているのである いつか誰かの耳に入り目に留まることがあれば この桜も多くの人に見てもらえる時も来るかもしれないのである 淡い色合いで美しいのだが 桜として見た場合やはり違和感が在るのだろう
ちなみに実がなった時にお邪魔して 一粒頂いて見たのだけれど 確かに商品にはならない果実であった 唇がすっぽ抜けるほどの渋さで 下の感覚を元に戻すまで三回も歯ブラシで舌を磨いた 大失敗 残念な事である ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この文章は全てフィクションです
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