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作品名:ORKの口伝 作者:出雲一寸

第90回   アサギザクラ
この文章は全てフィクションです
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝112」

アサギザクラ

読んで字のごとく浅葱色の桜である
浅葱色とは
ネギの葉の様な緑がかった薄い藍色のことである
これは全く新しい品種でいまだに世界に一本しかない
大変希少な桜である

この桜の生まれた経緯は全くの偶然である
世界中の生物の遺伝情報を保管しようとして作られた
遺伝情報保管研究機関で保存栽培されていた桜が
隔離されていたにもかかわらず
ミツバチの進入を許してしまったために
受粉交配してしまい生まれたそうである
職員が結実した果実を趣味で栽培していて開花した時に
初めて他家受粉していることに気づいた
このように計画的に交配したわけではないので
元の品種も全く分からず
同じ物を人工交配で作る事は
DNAの解析を行わなければならないようである
ただほかの種との交配で出来たかどうかは確定ではなく
突然変異の可能性もあり
解析結果がまたれているのである

今現在
花を咲かせている成木は一本しかないが
幸いな事に挿し木で増やされた苗が在り
需要が在れば随時増殖させていく準備は整って居るそうであるが
いかんせん肝心の需要があまり無いそうである
この品種を使って研究資金の慢性的な赤字を解決しようと
園芸関連会社に連絡を取り
インターネットでアンケート調査をして見たところ
あまりにも反応が悪く
商品化の話はお蔵入りになってしまったそうである
この為
肝心要のDNAの解析に当てる資金も当然のごとく削られ
ほぼ放置状態で在るそうな

花の色のせいで需要が無いのであれば
果実の方で需要を見出して見てはどうかとの意見も出たが
こちらの方も全く期待の出来る物ではなかった
自家結実した果実は黒っぽく小さいもので
尚且つ
どんなに熟させても甘味が乗る事も無く
どうにもこうにも利用のしようがないために
こちらの方も廃案となってしまったそうである

この様にせっかく偶然に生まれてきたこの品種だが
あまりに需要が無いため
挿し木で作った苗も引き取り手が無く
処分されてしまったそうである
結局残っているのは最初に職員が趣味で育てた一本だけとなり
非重要案件としてこの種のDNAの解析も後回しにされている
もちろん
遺伝子の研究過程で偶然出来た植物を
何の調査もせずに施設の外に出して
職員の私有地に植えておくことも出来ないため
研究所に移され
一本で寂しく生えているのである
いつか誰かの耳に入り目に留まることがあれば
この桜も多くの人に見てもらえる時も来るかもしれないのである
淡い色合いで美しいのだが
桜として見た場合やはり違和感が在るのだろう

ちなみに実がなった時にお邪魔して
一粒頂いて見たのだけれど
確かに商品にはならない果実であった
唇がすっぽ抜けるほどの渋さで
下の感覚を元に戻すまで三回も歯ブラシで舌を磨いた
大失敗
残念な事である
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この文章は全てフィクションです


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