この文章は全てフィクションです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝103」
オチョボガキ
秋の味覚柿の一種 カキの中でも非常に特殊な品種である カキの品種は大まかに分けて 完全甘柿 不完全甘柿 渋柿 の三つに分類されるが このカキはそのどれにも属さない 渋が無いと言う点では甘柿の一種と言えなくは無いが 何せ果実はどんなに熟しても甘くはならないのである ではどの様な味になるのか 非常に酸っぱいのである 名前の由来もここから来ており 間違って食べてしまったときにその著しい酸味のため 口をすぼめるようすがおちょぼ口に見えるため こう名付けられたのである
この品種の由来は突然変異である もともとは普通に生えていた極一般的な富有柿であった その種から選抜育種しているとき 偶然このカキが出来たのである 播種から一年で苗の状態では甘柿と判定されていたが 初めて結実した時にその実を生食したところ 研究員たちがそろって口をすぼめ涙したそうである 突然変異したのは果実の味だけであるようで 見た目は富有柿と瓜二つで全く見分けが付かない それゆえに研究員も油断して試食したのではないだろうか
この珍妙なカキは出来た当初から 果樹園芸農家には不人気で 使い道がないとされて栽培面積は伸び悩んでいた しかし 育種した研究員の行きつけの料理屋の主人が 面白がって庭で栽培を始め 自分の店の料理に使い始めたところ 少しずつ評判が広まり始め今ではそこそこの知名度である 和食の料理屋ならば大体の場所で 味わうことが出来るのである
肝心の料理への利用のされ方だが 主に梅肉と利用法は同じである ただ梅干と違って塩漬けしたものではないので 利用時には塩味を補うことが必要である 熟したこの果実を収穫し追熟 中身がゲル状になるまで追熟させた物を料理に使う 残念なことにこのカキは晩生であるため 夏の鱧の季節には間に合わないが 近年の冷凍技術の向上のおかげで次の年の夏にも 食べることが出来るのである 完全に熟しても比較的赤みを帯びにくいため 淡い柿色のまま料理に利用できるのも強みで いろどりのバリエーションに面白い食材である
このカキの欠点としては やはり結実したときの外見が 富有柿と同じである事ではないだろうか このカキがそのまま生食用として流通することはないが 悪い偶然が重なりに重なって 何回か市場に混ざってしまったことがあったそうで 買ったばかりなのに腐りかけているといった 苦情が寄せられ 回収になったそうである この点には今後とも注意が必要なのではないだろうか
さて私もこのカキを食してみた 料理屋で梅肉と同じ使用法で食べては 美味しいのは容易に想像が付くため あえて 採りたての果実を食してみることにした チャレンジ精神は人生において重要である 結果 ・・・・・・ その日は一日中 唇アスタリスク 過ぎた好奇心は及ばざるが如しであった トホホ
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