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作品名:ORKの口伝 作者:出雲一寸

第66回   ピクルスイカ
この文章は全てフィクションです
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝88」

ピクルスイカ

地下水を使った灌漑農法の過剰による
塩害対策のために育種されたスイカの一品種である
大変小ぶりでかわいらしいスイカで
大きさは大体ソフトボール大くらいである
おおよそ一般に見られるスイカのように
食用部分が赤くなることは無く
白色かうっすらと緑がかった色である

この植物の作られた目的から当たり前のことであるが
性質は好高塩分土壌
土の表面が白くなるほどの塩害発生地帯であるほうが
元気良く育つので
別名{ミラクルボール}と呼ばれ塩害地帯では
非常に喜ばれているのである

スイカでありながら成長に要する水分量が少ないのも
優れた特徴である
地表を満遍なく濡らす程度の雨が降れば
一気にツルを伸ばし葉を茂らせる
この時葉の付け根からも根を張るばかりでなく
茎や葉の裏の細かい毛からも水分を吸収すると同時に
溶けた塩分もまとめて吸い上げ
果実に蓄積するのである
こうしてこのスイカに塩分を吸い上げてもらうことを
三回程度繰り返すと
その他の作物がまた作れるようになるのである
4回目の作付けが成功した例は今のところ報告されてないが
これは高塩分土壌を好むピクルスイカには
土地が適さなくなるから当然ではある
こうして地質が元に戻った農地ではあるが
以前と同じように地下水灌漑農法では
同じことを繰り返すのは明白であるため
ピクルスイカと同様の乾燥に比較的強い作物を選ぶことが
肝要ではないであろうかと思う

このピクルスイカ
食料としてもなかなか優秀である
収穫直後からすでに塩味が効いており
そのまま食べても浅く塩漬けにした瓜のような味で
そこそこ美味い
ただ少し青臭いのは如何ともし難い所ではあるが
酢漬けにしてピクルスにしてしまえば
青臭さの問題はきれいに解消される
ちなみに名前もここから名づけられたのである

こうして色んな面で良い作物であるが
いかんせん塩害という非常事態に対して育種された品種
収穫量が低く経済作物にはなりえないのである
さらにF1品種で親同士も作り勝手が悪い為
この先世界で塩害が解消されていくにつれ
この作物はいずれ姿を消していくのであろう
一部の研究施設などで品種標本として残るのみになるのは
時間の問題である
人間の後始末をしてくれた植物が日陰に追いやられて
無くなっていくであろう事は
少し悲しい事である
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この文章は全てフィクションです


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