この文章は全てフィクションです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝88」
ピクルスイカ
地下水を使った灌漑農法の過剰による 塩害対策のために育種されたスイカの一品種である 大変小ぶりでかわいらしいスイカで 大きさは大体ソフトボール大くらいである おおよそ一般に見られるスイカのように 食用部分が赤くなることは無く 白色かうっすらと緑がかった色である
この植物の作られた目的から当たり前のことであるが 性質は好高塩分土壌 土の表面が白くなるほどの塩害発生地帯であるほうが 元気良く育つので 別名{ミラクルボール}と呼ばれ塩害地帯では 非常に喜ばれているのである
スイカでありながら成長に要する水分量が少ないのも 優れた特徴である 地表を満遍なく濡らす程度の雨が降れば 一気にツルを伸ばし葉を茂らせる この時葉の付け根からも根を張るばかりでなく 茎や葉の裏の細かい毛からも水分を吸収すると同時に 溶けた塩分もまとめて吸い上げ 果実に蓄積するのである こうしてこのスイカに塩分を吸い上げてもらうことを 三回程度繰り返すと その他の作物がまた作れるようになるのである 4回目の作付けが成功した例は今のところ報告されてないが これは高塩分土壌を好むピクルスイカには 土地が適さなくなるから当然ではある こうして地質が元に戻った農地ではあるが 以前と同じように地下水灌漑農法では 同じことを繰り返すのは明白であるため ピクルスイカと同様の乾燥に比較的強い作物を選ぶことが 肝要ではないであろうかと思う
このピクルスイカ 食料としてもなかなか優秀である 収穫直後からすでに塩味が効いており そのまま食べても浅く塩漬けにした瓜のような味で そこそこ美味い ただ少し青臭いのは如何ともし難い所ではあるが 酢漬けにしてピクルスにしてしまえば 青臭さの問題はきれいに解消される ちなみに名前もここから名づけられたのである
こうして色んな面で良い作物であるが いかんせん塩害という非常事態に対して育種された品種 収穫量が低く経済作物にはなりえないのである さらにF1品種で親同士も作り勝手が悪い為 この先世界で塩害が解消されていくにつれ この作物はいずれ姿を消していくのであろう 一部の研究施設などで品種標本として残るのみになるのは 時間の問題である 人間の後始末をしてくれた植物が日陰に追いやられて 無くなっていくであろう事は 少し悲しい事である ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この文章は全てフィクションです
|
|