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作品名:ORKの口伝 作者:出雲一寸

第126回   ヒソヒソモス
20120318口伝148ヒソヒソモス

この文章はフィクションです

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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝148」

ヒソヒソモス

 かつては日本中に棲息していたガの一種である。
体長8cm程度の中型のガで、
外見上はこれといって特徴のない虫である。

 名前の由来はこの虫の聴覚の鋭さからくる、
民間療法の材料としての利用の歴史から名付けられたそうである。
昔からこの虫が音に敏感なことはよく知られていた、
何故なら江戸時代に夏の花火が盛んな頃に、
大量にこの虫が死んでしまうのを目撃されていたところから、
学者たちが原因を推測して突き止めていたのである。
 それを聞いた人達の間で伝言ゲーム状態になり、
いつしかこのガの乾燥粉末を煎じて飲めば耳が良くなるとされ、
民間療法として定着したそうである。
もともとはひそひそ話が離れたところからでも聞こえるとされ、
ヒソヒソ虫と呼ばれていたことが古文献に書かれている。
現在の名前になったのは明治に入り欧化政策が進められ、
その時西洋かぶれの人達にガの部分が英語に言い換えられたと、
推測された説が一般的である。

 そしてこの利用が原因となって、
現在のこの昆虫の状況がもたらされてしまったのである。
本当に効いていようがいまいが、
耳が遠くなってしまった人達にとってはこの民間療法は魅力的、
わらにもすがる思いで手に入れようとする人も多かったらしい。
信じて飲めば起こるはずのない効果が起こってしまう、
プラシーボ効果のせいで信憑性も高まってしまった。
 そうなると起こってくるのが価格の高騰と乱獲である、
日本中でこのガが採集され薬として流通されるようになった。
さらに海外までこの話は飛び火し、
多数の密猟者を招き入れる結果と相成ってしまったのである。

 このガの採集の容易さも問題を深くしてしまった、
爆竹を鳴らしさえすれば簡単に捕れてしまうのである。
鳴らした半径5m以内で失神し地面に落ちる、
10mまでの範囲で一時的に飛行能力が低下し、
よろよろと飛んで逃げようとするので識別もしやすい。
2m以内なら即絶命してしまうほど音に敏感なのである。
 現代ならそこかしこで爆竹を鳴らしまくっていたら、
近隣住民から通報されるところだがそこは昔のこと、
ガを集めていようが注意などされるはずもなく、
田舎ではかえって害虫駆除と思われてありがたがられたのでは?
 そんなこんなで結局野生種がほぼ絶滅するまで乱獲され、
10年前に確認されたのを最後に野生種はその姿を消したのである。
 しかし良い事か悪い事かわからないが、
取れる量が減ってきた頃から薬品会社は養殖を始めていた。
その為現在でもこのガの粉末が利用されているのである。

 現在では科学的に成分分析されて、
悪化した聴覚の改善には関係が無いとされてはいるのであるが、
それでもこのガの粉末の売れ行きが衰えることはない。
たとえプラシーボ効果であったとしても、
服用した人達のおおよそ半数が症状の改善を認めているそうで、
この事実は動かしようがないものである。
 これに関しては一つの仮説が立てられており、
心因性の一時的聴覚の悪化に対して改善作用が出ているのでは、
との見方がされてはいるがいまだ確証はないそうである。

 最近養殖されたこのガを自然に少しずつ返す試みがされている、
しかしこれがなかなか放す地域の理解が得にくく、
いまいち進展が芳しくないそうである。
 見た目が綺麗なちょうちょならねぇとはその地域の人の談、
薬としては欲しいけれど側で増えて欲しくはないようである。

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この文章はフィクションです


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