20120127口伝144デカトロンカマキリ
この文章はフィクションです
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝144」
デカトロンカマキリ
体長6cm程度のカマキリの一種。 運動能力か非常に高い上にその応用力も持ちあわせており、 食料を手に入れるために種々様々な方法を使うのである。 確認されているだけで10種類程度の方法を使うため、 十種競技の選手に見立てられてこの名が付けられた。
まず何よりも普通な手段は高速走行で、 一番使われる機会の多い狩りの手段である。 その他の手段を用いる時でも、 何よりもこの基本能力の高さが生きてくる重要な能力である。 次に良く使われて観察されている方法は、 飛翔しての高高度急襲である。 この時このカマキリは太陽の方向をきちんと把握しており、 決して獲物に影を見せること無く背後から音を立てず、 滑空して襲いかかるのである。
自ら積極的に獲物を取り行く方法は上記などがある、 他には獲物が近づいてくるのを待つのも常套手段である。 まずは葉っぱなどへの擬態によって、 近づいてくる獲物を待つというポピュラーな方法。 これはハナカマキリなどその他のカマキリも多用する、 有効な狩りの方法で、 周りの環境によって体色も多少変化するそうである。 次に自ら動きを止めてしまって死体に擬態する方法がある、 この方法の利点はなによりも自分の体ひとつで出来、 動かないためエネルギー消費が少ない所である。 しかし死体に擬態するためもちろん身動きすることは出来ず、 点滴である食虫性の鳥などにそのまま食われることも度々である。
先に述べたよく使う方法の他に、 落ちている小枝を投擲する、 手頃な小石を投擲する、 高い木などから飛びかかる、 自らのカマを切り落とし餌にして釣りをする、 獲物のいる高い草をカマで切り倒して獲物を落とす、 何匹かで追い込み漁をする、 等々かなり高等な手段を用いて食料を得ようとするのである。 しかしこれらの手段はその複雑さに対して効果は薄く、 獲物に逃げられることも多い。 この様に多様な手段を用いるようになったのは、 カマキリの中でもそれほど体が大きい種ではない為、 運動能力を活かす手段の数を向上させる方向に進化した様だが、 器用貧乏に陥ってしまった様に思える。 ここで述べた方法では全くエネルギー収支が合わず、 運動能力の高さから来る代謝の高さゆえ、 餓死する個体も多いそうである。
この様な理由からこの種は現在絶滅の危機に瀕している、 すでに知られている生息地は高いレベルの保護区に指定され、 新たに発見されて場合は厳重にその位置を秘匿される。 しかし本当に重要な絶滅するであろう原因は、 この種の変化そのものにある。 どの手段をより多く使用するかの個体差がもともと高く、 エネルギー収支の悪い手段が得意な個体は、 どうしても先に数を減らして行ってしまうために、 この種の特徴である多様な食料獲得手段がなくなりつつある。
しかしこれはこの種が自然にそうなっていくためであるため、 われわれがどうこう出来る問題でもないようである。 我々人間に出来ることは、 せめて今残っている多様な狩りの方法を記録として残す事と、 この種の生きる場所を減らさないことだと思われる。 面白い生物がいるからといって大勢で押しかけて、 その場を荒らすようなことだけはしないように気を付けたい。 今は世界の映像が簡単に見られる時代である、 映像で我慢するのも自然への配慮かもしれないのである。
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この文章はフィクションです
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