この文章は全てフィクションです。
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝137」
ネコユズ
古来から栽培されてきた柑橘の一種で、 その歴史は人類が集落営農を営み始めた時からと見られており、 その当時の年代の遺跡からこの種の種子の化石が出ている。
大変小型の樹木でどの様な場所にも生えていたようで、 ほんの少しの日光でも生き続けるようである。 日当たりがよければ通常80cm程度まで大きくなることは出来る、 しかし条件によって最小30cm四方の大きさでありながら、 樹齢50年の自生の物が見つかった事もあるそうである。 現在はこの日当たりの悪さへの耐性と小ささから、 室内ようの鉢植えとして市場に出回る事が多いようである。
花は薄緑色の小さく上品な花が数多く咲き、 屋外に置いておくとその爽やかな香りに寄せられて、 沢山のミツバチが寄り集まってくる。 鉢植えとして売られることが多いが、 このミツバチなど多くの虫を寄せる為に、 好みが分かれるとは園芸店店員の話である。
ミツバチの活躍で果実も良く実る、 自家受粉し結実するため一本だけ栽培していても実がなり、 その点は面倒の少ない植物である。 果実の大きさは通常一円玉程度の大きさで、 この大きさの実が鈴なりになりそれは見事なものである。 葉の深い緑色と熟した小さな果実の薄黄色が、 心地よいコントラストを演出し、 インテリアとして大変美しい。 この果実の大きさは全く摘果しなかった場合のものであり、 きちんと摘果した場合にはゴルフボール大の大きさになるそうだ。
名前の由来はこの果実の利用法からくるものであり、 この熟した実を置いておくとネズミよけになる、 げっ歯類に対して強い神経毒性を発揮する、 デスマウ酸カリウムを含んでいるためである。 この成分は果皮から揮発する香気成分で、 皮ごと実を転がしておくだけでネズミは近づく事ができない、 こうした毒性を発揮するのはげっ歯類に対してのみである。 人類の歴史上で穀物生産が行われ始めた頃から、 栽培されてきたのはこの様な利用法の為であると思われる。 種子の化石が発見されるのも、 決まってその他の穀物の中に混じった少量のものであり、 この利用に関する説の正しさは明白である。
しかし、 近年は冷蔵設備の発達などにより、 ネズミによる穀物の食害への対策も進歩した為、 この利用法目的の栽培面積は激減し、 園芸用としてなんとか品種が保存されている状況である。 その為、 多くのミツバチを寄せることが出来るこの植物であるが、 その蜂蜜は極めて希少なのである。 花自体が小さく採取できる蜜量も少ないので、 養蜂業を営む為には実に効率が悪い事も一因であろう。
このような状況を踏まえた心理的要因もあるのかもしれないが、 この蜂蜜の美味しさは格別である。 すっきりと後口が爽やかな甘みの中にユズ特有の香りがし、 その香りを鼻で息を吐く事でさらに愉しむ事が出来る。 極上のひと時である。
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この文章は全てフィクションです。
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