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作品名:ORKの口伝 作者:出雲一寸

第112回   ダンダンムギ
この文章は全てフィクションです

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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝134」

ダンダンムギ

近年育成され始めた小麦の一種である。
もともとはこの名はあだ名であったが、
あまりにもこの種の特徴を表しているために、
今では正式名称よりもこちらのほうで呼ばれる事が多いのである。
まぁもともとの正式名称は、
開発番号で呼ばれていただけなので、
名前が付けられただけ良かったのではないだろうか。

この品種は、
ツズシコスとケロマックという小麦の品種の交配種で、
比較的安定した収量と品質を兼ね備えていた。
製粉した時の品質等もほどほどに優れていたので、
取引市場でもそれなりの人気があったのである。
しかし人気があったのも市場に出始めた初期だけで、
その後ある理由から取引が敬遠される事となったのである。

種苗メーカーから販売されている種麦から育てると、
普通の小麦と同じように製粉した物は白色であるが、
問題は自家採種して育てたものから発生したのである。
何度か自家採種をすると、
第三世代を過ぎたあたりから徐々に、
種子が黒味を帯び始めるのである。
そして世代を重ねて第七世代を迎えるころには、
漆黒の種子を実らせる事になるのである。
畑で実っているうちからパッと見ただけでも、
その他の麦と比べて色が違い、
外皮からして黒くなるのである。

もちろん、
外皮を取り除いた裸麦の状態にしても黒く、
製粉した物はまるで活性炭の粉末のようである。
しかし、
この小麦粉の味が悪いかと言うとそんな事は無く、
その他の小麦粉と食味の点では変わる事はないのである。
このことから、
一部の変わり者好きに好まれる、
かわった品種となったのである。

さて肝心の食味のほうだが、
パンにした場合の味は、
先に述べたようにその他の小麦粉と変わりなく、
まったく口の中での違和感はないのである。
しかし口の中に入れるまでの違和感は尋常ではなく、
一口目を食べ始めるまでに大変な勇気を必要とするであろう。
まず何よりもその色合いがいかんともしがたく、
その黒さはライ麦パンの比ではなく、
まるで木炭を口に運んでいるかのような錯覚に陥るのである。

私も最初の一口をかみ締めるのに2,3分かかったのであるが、
そこを過ぎればなんのことはない、
普通のパンであった。
その後はジャムやバターとの相性を試したり、
色々と楽しんだのであるが、
真っ白なバターとのコントラストが何よりも美しかったのである。

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この文章は全てフィクションです


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