この文章は全てフィクションです
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝133」
カンシュウミカン
非常に厳しい寒さの中にこそ生育する、 柑橘類の一種である。 他の柑橘類とは樹形からして違っており、 手入れをしなければ円錐形に生長していくため、 柑橘類として分類していいのかどうか議論が活発に行われている、 植物学会注目の植物である。 この名前は和名であり、 商用に輸出するために名づけられた物である。 原産地では「リョート・リモーン」と呼ばれているのである。
この種の特徴は先に述べた樹形・樹冠の形のほかに、 寒冷地に適応した葉の形にあるのである。 その葉は寒さと積雪による枝折れを緩和するために、 針葉樹のように細く鋭くなっており、 この点でも分類学的に見て紛糾の種である。 また樹高に比べて根の入り込む深さが大変深く、 地上部が寒さの限界で枯死してしまったとしても、 地下の根から再び芽を出すのである。 この時新しい芽は、 枯死した幹の中を通り地上の幹を割って生えてくるのである。
他にも寒さに強い理由があり、 それは樹皮のコルク質層の厚みと樹液の濃度にあるのである。 幹の直径が10cmとすると、 大体コルク質層は1.5倍の15cmほどにもなり、 外気の進入を寄せ付けない。 そして氷点−16度の樹液によって厳しい寒さをしのぎ、 現在まで生き残ってきたのである。
昨今、 地球温暖化が世界で叫ばれているが、 多くの温暖化に悩む地域と正反対に、 寒冷化が進行している地域があることは、 あまり知られていない事実である。 海流と気流の吹き溜まりのようなごく限られた局地で、 この様な現象が起きているようである。 この様な非常に稀な地域でこの植物が発見されていると言う、 調査報告が研究機関に寄せられているのである。
さて、 この様な厳しい気候に特化した植物だが、 人間が利用している歴史は非常に古いようである。 原産地では古くから、 この植物の果汁を体表にワックスのように塗りつけて、 厳しい冬場を乗り越えてきたそうである。 科学的にこの果汁の成分を分析した結果、 この果汁にのみ含まれる保温・保湿成分が新たに発見された。 成分にはホカポカミンという名がつけられ、 天然の保湿・保温成分として自然派の方たちには人気があり、 これを含むボディワックスが重宝されているようである。 ハンドクリームのように使用しても、 冷え性やしもやけに対する予防策として、 非常に使い勝手のいい成分である。 この成分を含むクリームを塗ると、 体表の水分と反応して発熱し、 4から6度ほど表面温度を上昇させる。 このため、 常温の中で使用すると反対に、 熱中症の危険性が伴うので注意が必要である。
果実と言えば食べる物と思っている私なので、 もちろん食べてみようと思って味を調べてみたが、 食用とされた歴史がほとんど無いそうである。 数少ない証言を聞いてみて、 自分でも少しかじってみたところ、 味はひどい物であった。 苦辛いとでも表現すればいいのであろうか、 強い苦味を感じた後に舌をさすようなピリピリした刺激があり、 すぐに吐き出してしまった。 この様に食用にはまったく向かないが、 現地では黒焼きにして、 苦味による気付け薬としての民間療法があるそうである。 私は目が覚めるどころか、 その日は後口のために眠れなかったのである。
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