この文章は全てフィクションです
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「オレヴァホ・ラフ・クノダイスキーの口伝129」
マッディ アシッド
一部の種のアヒルの糞からとる事が出来る、 酸性物質の名称である。 名前の由来はその性質から付けられた物であり、 どれほどろ過しても精製しても、 決して取れる事のない濁りから名づけられた物である。 漢字に直せば「濁酸」と表記される、 もとの名のように泥のように濁った液状物質である。 この物質は大変臭気が強く、 保存されている容器の蓋を開けるときは、 必ず換気扇の近くで開けないと危険である。 うっかり換気扇を回さずににおいをかいでしまうと、 失神する可能性が非常に高いのである。 もちろん、 換気扇からの排気にはきちんと浄化フィルターを通すのが、 肝心である。
この物質を含んだフンをするアヒルの品種は、 「クニマィウー」「ヤィサラキィ」の二品種である。 これらのアヒルはどちらも肉食嗜好が大変強く、 植物性のえさはあまり食べないのが、 ほかのアヒルとの顕著な違いである。 もともと食肉用として選抜された品種に、 肉の成長効率を上げるために肉食嗜好に調教したものである。 そしてこれをさらに何世代も繰り返し、 品種の特性として固定する事に成功したのである。 そしてこの二品種が出すフンの中にはいつの間にか、 新しい酸性物質が含まれるようになってしまったのである。
この様にマッディアシッドは、 完全に人間の手で作り出された物質である。 精製して抽出していない、 フンに含まれている状態であっても、 その臭いはその他の鳥類の出すフンの中でも格別である。
これらのアヒルの飼育業者は、 飼育場に入る時にはマスクをせずに入る事が出来ない位である。 これほどまでに臭い思いをしてまで、 なぜこのアヒルを飼うのだろうかと、 ギモンに思う方も多いと思われる。 そこはやはり、 メリットのほうが大きいからとしか言いようが無い。 この二品種は短期間で成長し、 食肉に加工できる筋肉の部分が非常に多いのである。 さらに、 フンの臭さを知っている者からすると信じられないが、 肉自体の味は非常に上品で淡白なのである。 淡白であるがゆえに、 肉自体のうまみを味わうタイプの調理法よりも、 味のしっかりしたソースで食すのがおいしい食べ方のようである。 臭いもしないため、 ゆでて和え物にしたりするのもいい食べ方のようである。
問題はフンである。 そのあまりの臭いのきつさに、 焼却以外の処分の方法がないのである。 鶏のフンならば、 鶏糞堆肥として当たり前のように利用されているが、 このフンは完熟させてもまだ強い臭気が残るのである。 試験的に利用してもらった農家からは、 「離れた畑からでも臭いがついて帰ってくる」 「袋詰めのものを開けると目にしみる」 「この堆肥をまいた日は食事が出来なかった」 などの苦情がよせられた。 このため有効だと思われていた農業利用の道は、 断念せざるを得なかったのである。 今現在の利用法は、 焼却熱による公共設備の暖房や給湯などであるが、 焼却場に運ぶルート上の住民への補償が何よりの問題であった。 今はルート上の住民に、 これらのアヒルの加工肉を定期的に配給する事で、 納得してもらっているようである。
ちなみに私もこのアヒルを飼ってみたことがある、 もちろん食肉用として。 しかし、 食用に適するまで育てる事が出来なかったのである。 あまりにも近所から苦情が出たためで、 泣く泣く飼育業者に引き取ってもらったのである。 もちろん、 しっかりと育ったやつを解体してもらい、 食べる事はできたのであるが。 味はうわさどおり上品にして淡白、 まったく無駄の無い肉の味であった。 その時はたまたま、 ラズベリーのソースがあったのでそれで食したが、 たぶんどの様なソースでも、 おいしく食べる事が出来るのではないだろうか。
しかし食べながら思ったが、 この肉が本当にあのフンを出していたアヒルの物とは、 とても信じらない。 おいしいものを食べようと思うと、 やはり何か代償が必要なのかもしれないと思ったのである。
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