Warning: Unknown: Unable to allocate memory for pool. in Unknown on line 0 Warning: session_start(): Cannot send session cache limiter - headers already sent in /var/www/htmlreviews/author/11499/11319/2.htm on line 4 てんててん
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作品名:てんててん 作者:さじがね千勢

第2回   その2
 玲子さんの仕事スタイルにはメールで相談事を受け付けて返事をするメール鑑定と
直接対面で話を聞きながら占う対面鑑定がある。
外から会話の内容が聞こえないワンルームをそのために借りていて
完全予約制でしっかり相談者の話に耳を傾けるので、
常連になると占ってもらうというよりただ話を聞いて欲しくてやってくる人も多い。
そうなると占いというよりほとんどカウンセリングである。

 今日は5年も前からふた月に1回は予約を入れてくるそんな常連の一人の
若菜ちゃんが午前中の予約客だった。
 彼女は先月36歳になった優秀なプログラマだ。
目もとのきれいな美人なので寄ってくる男はいくらでもいるのにまったく相手にしない。
周りは若菜ちゃんのことを孤高の独身主義だと思っているらしいが
実は一日も早く結婚して子供が欲しいとひそかに思っている。
しかし彼女は無駄に仕事ができるばかりに周りの男が馬鹿に見えて仕方がなく、
おまけにエッチが大嫌いだ。
若菜ちゃんの願いはなかなか叶いそうにない。
 3時間近く喋ってすっきりした顔の若菜ちゃんを見送って
マンション1階のコンビニで買ったお弁当を食べ終えたら1時半を回っていた。

 4月に入ってから毎日雨が降っている。
もともと寒がりの玲子さんだが、更年期障害のお陰でこのところ世間の体感温度が
どうなっているんだかさっぱり判らない。
 玲子さんは額に汗をにじませて紫の扇子をぱたぱたしながら
パソコン画面のホロスコープを見つめて、これからやってくる葵ちゃんのことを
考えていた。

 玲子さんに相談してくるクライアントの1/4は男性だから
特に珍しいわけではないが、対面を希望する男性は多くない。

どんな人だろう。

見た目はごくごく普通の男の人かもしれないし、案外すごいイケメンかも。
メールの文面から漂う雰囲気やハードアスペクトの少ない穏やかなホロスコープからするに
身も心も女性になりたい線の細い気の弱そうな青年だろうか。
それこそ化粧してスカートはいて現れるかも知れんな。まあ それでも別に驚かないけど。

 ピンポーン
チャイムが鳴った。

「葵ちゃん?空いてるからどうぞ入ってください」

 インタフォン越しに呼びかけると3秒ほど間があってがちゃっとドアノブを
ひねる音がした。
 
 ふわっと甘い香りがした。

 今まで玲子さんが出会った誰より縦も横もでかい
小山のようなシルエットが首をすくめながら入ってきた。
眉間に皺を寄せて口をへの字に結んでいるその顔はげんこつが半べそを
こらえているようで、額に汗を光らせ紺地に『常陸錦』と
染め抜かれた浴衣を着て頭にちょんまげを載せていた。
そしてずいぶんと高い位置から玲子さんを見下ろしながら その図体に似合わない
か細い裏声で言った。

「…葵です…はじめまして…」

 あまりに予想外な葵ちゃんのいでたちに
ぽかんと口を開いてまばたきを忘れていた玲子さんは、挨拶されて
我に返り、とっさにクライアント出迎え用笑顔を作った。

「あ、葵ちゃん…いらっしゃい お、お待ちしてましたよ」

への字の口元がわなわな震えた。

「玲子センセぇ…」

 葵ちゃんが盛り土が崩れるようにいきなり泣き崩れてしまったので
玲子さんはなにがなんだか判らなくて逃げ出そうかと思った。

「あの…葵ちゃん どうしたの 泣かないで、ね?ほら…」

 おにぎりが割れて中身の具が出たみたいだ。
顔から出せるものを全部出しそうな勢いでえぐえぐ泣いている葵ちゃんを見ていて
そんな連想した玲子さんは自分で思ったことにウけて
思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえながらティッシュの箱を差し出した。
葵ちゃんは「ごめんなさい ごめんなさい」と言いながら
ぶびびびと鼻をかんだ。


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