メールボックスを開けると、『鑑定』というフォルダに
今日は３通の新着メールが振り分けられていた。
玲子さんの『鑑定』フォルダには 毎日何通かのメールが届く。
恋愛や仕事や対人関係の悩み、自分探しの独り言、
さらにはお墓の建て方や迷子猫探しといったさまざまな内容が、
文章が全部疑問符で終わっていたり
顔文字満載だったり、読みやすい端的な文章で書かれていることもあれば
改行なしの超長文で延々とつづられていたりする。
文体はバラエティに富んでいるが どのメールも目的は同じだ。
玲子さんは占い師をやっている。
チェックのパジャマ姿ままの大きなマグカップの砂糖もミルクもしっかり入った
カフェオレをずるずるすすりながら、玲子さんは『鑑定』フォルダを開けた。
今日届いたメールのうち、２通が新規の相談、１通は２度ほどメールのやりとりを
している葵ちゃんからだった。
『みやび玲子先生
こんにちは 葵です。
暖かいお返事をいただけて感激しています。
私の悩みは、おっしゃる通り専門機関を訪ねるべきことなのでしょうが
まだまだ私にはその勇気がありません。弱虫の葵です。
自分のありようについて考えるために
先生にたくさんお話を聞いていただきたいのですが、
私はメールを打つのが苦手でいつもすごく時間がかかってしまいます。
できればお目にかかって直接お話を聞いていただけたらと思っていますが
いま仕事で地方に行っています。
来週東京に帰りますので何曜日でも構いませんから午後から
お時間をいただけませんか？
お返事をお待ちしています。
Ｐ．Ｓ：ブログ、いつも楽しく拝見しています。
葵こと山城耕造』
葵ちゃんは男性ばかりの職場にあってもしかしたら自分は生まれ間違って
男性の体をしているんじゃなかろうかと悩んでいた。
そういうことは占うより医者に行った方がよいのだが、この件に限らず
悩みや迷いや疑念を抱える人の中には真実を目の当たりにする前に
占い師に相談しようとする人が多い。
葵ちゃんもそういう一人だった。
思いっきり男らしい本名が嫌いなのか、「葵と呼んでください」と言うので
玲子さんは葵ちゃんと呼んでいた。
寝癖のついた頭をぼりぼり掻きながら玲子さんはブログに何書いてたっけ？と
まだ完全に醒めていない頭で思った。
一番新しい記事が最近更年期障害が出てきたらしく急に暑くなったり
動悸がしたりして困るということだったのを思い出した途端にばちっと目が醒めて
それって改めて読んでいますと言われるとかなり情けない内容だぞと
額に指を当ててしょっぱい顔になった。
首筋にじんわり汗が出てきたが、これが更年期のせいなのか恥じたためなのか
どっちだかよく判らなかった。
まぁいい。今さらどうなるもんか。
もしかしたらその記事だけ読んでないかもしれないし。
玲子さんは手帳をめくって来週は火曜日の午後が空いていることを確認した。
壁のはと時計が ぽっぽ！と鳴いて１０時だと告げた。
玲子さんの朝はだいたい遅い。
|
|
