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作品名:夜明け 作者:キョウ

第6回   いいコンビ?
 学校のチャイムはいくつもの種類があり一日に何回も鳴る、今そのなかでも授業に関するチャイムが一日の中で最後の音色を発している。もう数えるのもだるいこのチャイムだが、最後のこの音だけはこれで解放されることを知らせてくれるので好きだった。
「さて帰りますか。」
 素早く帰りの支度を済ませ、席を立ったところで紅葉によばれた。
「色、一緒に帰らない?そろそろ今学期のテストの事を考えてあなたの家に行こうかと思ってるの」
 そうだな、今日はもう予定もないしオレも勉強教えてもらいたかったとこだ。もちろん紅葉にだ。すこし情けない気もするけど、こればっかりは自分ではどうにもできない。
「いいぞ、じゃあ帰るか」
「「ちょぉっと待ったぁー!」」
 オレ達が帰ろうとする所を、境と咲夜が教室に響き渡るような大きな声で止めてきた 。
「なんだよ!」
「ねえ色!今日君の家行くって話し、覚えてるよね? 」
「そうだったっけ?覚えてないな〜 」
 とぼけるオレにじりじりと詰め寄ってくるバカ二人。熱いしむさいし、気持ち悪い。オレはこのあと紅葉に詰め寄る予定なのに〜。
「なんだその記憶力のなさは!鶏か?チキンなのか?なんだ?皮のまま焼くのかそれとも揚げるの?フライなのか?まあいいや!とりあえず行くよ!」

「ちょっとぉ!私を置いて話し進ませないで下さいよ〜 」
「なんだ咲夜、まだいたんだ 」
「はあ?オタクの分際で気安く話しかけないでくれる?私は色君と紅葉に話があるの、早く2次元にお帰りなさい。ねぇ色君!?」
「黙って聞いてれば好き放題言ってくれるね、いい?僕はオタクだけど決して2次元には発情しない、興味があるのはれっきとした人間なんだ!なあ色?」
 いや、もうすでに会話じゃなくなってるんですけど・・・。というかすでにこの二人は言い合いモードに突入したらしく、同意を求めてはいるものの、此方を振り向きもせずにらみ合ってギャアギャアと騒いでいる。
 これは当分終わらないだろうと思い紅葉の肩を叩いて教室に出る合図を送る。オレ達は境たちに気づかれないように・・・というかもう気づいていないので、普通に教室を出て行った。
「ふ、ふーん。まあ私には関係ないけど。まったくバカのせいで時間無駄にしたわ、で紅葉一緒に帰ろ? 」
 そこで二人はようやく自体を飲み込んだ。
「ど・・・ 」
「い、いいい!」
「どこいったぁ!」
「いないー!? 」

 オレ達の教室は3階に位置している。職員室や保健室のような公共の部屋は1階、3年生は2階、2年生は3階、1年生は4回で5階は屋上と建物としては低い構造になっている。それ以外の物理室や音楽室、運動部などの部室は特別棟と言う別の校舎が建てられており、特殊な教室はそっちに全て集約している。
 オレ達が放課後撮影するところはもちろん、こちらの特別棟の屋上を使用している。
話を戻そうか。
 オレと紅葉はすでに1階の靴箱がある入り口までたどり着いているが、境たちの叫び声はここまで聞こえてきていた。実に迷惑極まりない事態である。
「あ、あの二人やっと気付いたね」
「ああ、1階まで聞こえてくるなんて、すごくでかい声だな」
「そりゃあいつの間にかいなくなれば驚くわよ、でも確かに大きな声ね。」
「紅葉、ちょっと急ごうか。」
 ようやく靴を履き終えた紅葉の手をとり走り出そうとする。しかし二人はもう1階まで飛び降りるようにしてやって着ていた。
「え?なんで?わぁ!もう来た!色、走ろう!」
「だから言わんこっちゃない!ってぇな!もの投げるなこの馬鹿!」
「うるさい黙れ。無視して帰ろうとして、こうなったらどこまでもついて行くからな」

 あの二人も素早く靴を履き替え、急いで逃げるオレ達にゴミを投げている。実にしつこい奴等だ。せっかくこれからオレと紅葉のザ・ワールドが始まるってのに。もう存在自体が邪魔だな・・・特に男のほう。
「こら色君!紅葉を連れて行くな〜!ってか邪魔よ、このニート予備軍が!」
 うわ!二人共投げながら互いに邪魔しあってるよ〜。
「ふふっ、咲夜も元気ね。さてどうしよっか?」
「あの二人の事だ、力尽きるまで追ってくるだろ。しょうがないから校門を曲がったら止まろうか 」
「そう言うと思ったよ、それじゃあもう人踏ん張りね」
 あれ、なんかオレ信用されてる?でも今はその信用がきつい。男はみんな獣なのだよ。
 ダッシュのまま門をくぐって曲がる。壁にもたれかけるようにして、息を整える。横では紅葉がスカートをパタパタしていた。やべぇ、マジでやべぇ。同士よ、いわなくてもわかるだろ?
 二人同時に曲がってくると思ったけど、最初に咲夜が曲がってきた。境のやつ負けたのか。でもまあ、あの引きこもりにしてはよくがんばったほうだと思う。
「逃がすものですかぁ!ってあら?」
「僕を置いて行くな〜、ってあれ?ちょっ!わああああ!」
 先に曲がってきた咲夜はすぐにこちらに気がいて止まった。ところが境は勢い余って、咲夜に突っ込んだ。どうやら疲れ果てて、周りを見る余裕すらなかったのだと思う。

「ちょっと咲夜大丈夫?」
「紅葉、心配なのは咲夜だけか?面白かったけどな」
「だってあれみてよ」
「ん?あ〜どうしようか。」
 紅葉は倒れた二人を指差した。オレは二人の状況を理解するのに多少時間がかかってしまった。状況を説明すれば、二人は正面からぶつかって倒れこんだ。もちろん境が上だ。でもこれは結構まずいのではないだろうか。だって完全に抱きついてるんだもん。ハグだぞハグ!ここはアメリカか!?いや、欧米か!?
なんて心の中でさまざまな突っ込みを入れていると、咲夜が気がついた。
「いたた〜。ってえええ!?」
「あ、咲夜気付いたかおはよう。」
「おはようじゃない!色君早く助けてよ!隣で笑ってる紅葉もだよ!」
「だって咲夜が可愛いいんだもん」
「うー、ちょっと色君!」
「はいはい、わかったよ。おい境、起きろ。」
 境の顔をもって頬をぺちぺちと叩いたが、一向に起きる気配はない。
「まったく色は優しいなぁ」
「紅葉、面白いからって笑いすぎだろ。でもまあオレも十分笑わしてもらったからな、これくらいやらないと」
 さすがに下にいる人間を助けるのは無理があるから覆い被さっている境の方を動かすことにする。でも中々起きない。持ち上げようとしたが意識がない人間は結構重いのだ。だから最終手段にでることにした。
 オレは、そこらへんに転がっていた境の鞄から最近買ったばかりだというソニーさんが発売した携帯ゲームを取り出した。

「ねぇ色、なんでゲーム出すの?」
「まあ見てろって、でもこれは引くかもな」
 はは、と笑いながPSPのスリープモードを解除すると○ンハンのBGMが流れ出す。そしてそれを境の耳に当てる。
「僕も混ぜろー!!」
飛び上がるようにして起き上がる。時間にして約1秒。なかなかの反応速度だ。
「あ、起きた」
ゲームの音楽を寝ながら判断できる人間を目の当たりにした二人は驚いた顔をしていた。
「だろ?こいつあれだから・・・」

「あれ?レウスは?ラオは?・・・え〜と、どゆこと?」
「ちょっと早くどきなさいよ、このバカ!」
 境が混乱しているところに咲夜のノーモーションパンチが炸裂し吹っ飛ぶ。距離にして2、3mだった。この距離で男子を吹っ飛ばす腕力は女子高生としてどうかと思う。
「まったく、いつまで人の上で騒いでるんだか。鬱陶しいったらないよ、もう」
 殴って気分がいくらかすっきりしたのか、服の汚れを落としながら立つその姿からはそこまで怒ってない雰囲気が読み取れた。
「とりあえず境も起きたところでみなさんいいかな?」
「色、境君はまたのびてるよ・・・」
「紅葉、いいの。あんなやつ放っとこう」
「ああ、放っといて構わないよ?」

「「・・・え?」」
 またハモった、流行ってんのか?
 とにかくここで余計な問題起こされるより先に二人は先に返したほうが懸命だと思った。
 なにしろ本当に境は用事があるはずなのだから。
 そう、用事があるのは覚えてたんだ、でも何の用事が思い出せないでいるのだから説明しようがない。だからこの事に関して関係ない人は巻き込みたくはない。それが自分とどう関係していても、だ。
「ごめんな、実は本当にこいつと約束があったんだ、悪いけど二人共先に帰ってもらえると助かるよ。」
「え?でも色君紅葉との約束は?たしかにあいつとの約束があったとしても紅葉とも約束したんだからちゃんと守らないとダメだよ」
「それについては悪いと思ってる。ごめんな。今度埋め合わせするからさ」
「でも色君」
 咲夜のやつどうしたんだ?今日はやけに食いついてくるな。いつもなら俺達が離れるように仕向けてくるのに。でもきっと意図を察してくれる奴がいる、と信じている。
「私は大丈夫だから、先約を優先してよ、ね?」
 ほらな。やっぱりいた。この優等生は自分の欲望には忠実だが、他人の要求にはそれ以上に忠実なのだ。ただ、いざ自分が思う存分欲望を満たせるときがすこし怖い。
「え?でも紅葉今日は、え?」
 紅葉はかぶりを振り咲夜の手を取り帰ろうとした。
「・・・ありがとうな」
「わかってるわよ。埋め合わせについてはまた後日」
「ああ、ってあのー」
「男に二言はないでしょ?じゃあね〜」
 手で髪を後ろに流しながら踵を返す。むぅ・・・なんだかなぁ。
 ・・・最近よくこの状況が繰り返されてる、と少し思った。もちろん紅葉に後始末を任されて先に帰られてしまう状況だ。今回は意図を感じとっての行動だと思う。なぜなら気づいたとたんさっさと帰ってしまったから、あと表情を見れば幾分か理解できたから。
 ちょっと後が怖いけどまあいいだろう。結果オーライってことだ。
「さて、おい起きろ!」
 二人の姿が見えなくなり、まだ寝そべってる境を起こすために蹴りをいれようとして、やめた。こいつがすでに起きている事がわかったからだ。なぜなら足を上げた瞬間、「待ってました」といわんばかりに眼を上げて何かを言おうとしてたから・・・。やっぱバカだ。
「・・・あれが宇宙?」
 でもやっぱり言ったよこのバカは。
「ここは地球だ!」
「痛〜な。なんだよ、何も蹴ることないだろ」
「おまえが分かりにくいマイナーなギャグいうからだろうが!それやるならまずハチマキしろよ!」
 本当に境はわけのわからない・・・いや、わかるやつには分かってしまうギャグというか、ネタを披露している気がする。よくいるじゃないか、携帯電話の待ち受け画面がいい例だ。可愛い画像かと思いきや、ただのアニメのキャラだったり、かっこいい台詞を吐くと思いきやマンガの台詞だったりと色々といるはずだ。
「ったく、人が折角気をつかって黙っていたのに、それはないと思うな」
「ああ、それに関しては感謝してる。」
 境はのろのろと立ち上がり、頭を掻きながら歩き出した。
「礼なんていいって、気持ち悪いから。ほら行こうよ」
「そうだな、たしかにオレもちょっと自分言ってキモィと思ったよ」
「はは、ちがいないよ。あとあの時はハチマキしてないから」
「さいですか・・・」
 なんだか二人して笑ってしまった。それからは他愛ない会話をしながら家に足を向け歩き出す。もちろん会話の内容は秘密だ。


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