時刻は12時ジャスト。この寒い時期にとってこの時間帯ほど活動しない時はなく、よって人がもっとも集まる時間帯でもある。そんな人に適した時間オレはというと、咲夜と境をほったらかして紅葉と遊んでいる。つまりデートなわけだ。とはいっても始業式も終わり、ようやく学校のほうが落ち着いてきたからちょっと一緒にご飯食べようって言って出てきただけだったりする。ちょっと期待から外れた。 「ん〜そろそろ普通の献立も飽きたからキャラ弁でも作るか。まず、最初ってことで猫とかどうだろう。紅葉はどう思う?」 雑誌の「サンキュ!」を棚に戻し、横で愛読書のゴルフ雑誌「Waggle」を読んでいる紅葉に話しかけてみたが、夢中になっているのが手に取るようにわかった。もちろん返事は「ん」である。 「まあ いいけど、明日の弁当はキャラ弁にしてやる」 今度は聞いてもいないようだ。ちょっとへこんだかもしれない。でもまあ、まだかかりそうだから飲み物を選ぶことにするとしよう。 「えーと水とレモンティーっと、ん?この音楽なんだっけ?」 飲料類のエリアのところで知っている音楽が流れた。誰の新曲だろうか、テンポがよく曲も詩もそこまで悪くない。むしろ心地いいかもしれないがどこかで聞いたことがあるけど思い出せない。ヤバい、まじで気になってきた。 「アニメ「Moon Die」の主題歌「太陽の時間」」 「あ〜それかぁ・・・え?うわ!?」 白衣を着た男性が横を通りながらボソッと呟いた。まじで大丈夫かあの人?かなり危ないんじゃないか?見た目30代いってるみたいなのにあのアニメ知ってるなんて。 「さて説明しよう。なにを隠そうこの色は意外にも現在放送中のアニメを全て見ているのだ。ただアニメが好きではない、というのが謎なんです。」 急に後ろから声をかけられて体がビクッとなり、後ろを振り向くと、驚かせたことに成功した紅葉がいた。もちろん満面の笑顔である。 「あのなぁ紅葉。確かアニメは見るが何も全部みてるわけじゃない。たった4つだし。もちろんアニメは好きじゃなくて興味が少しあるだけだぞ?」 「はいはい、ただ面白くないから4つに減らしただけだものね?でもまあ、そーゆー事にしておきましょう。」 まったくこの子は見てもいないのによく当てるものだ、と感心してしまう自分でした。 「それであの人なんだろうね?」 「うん、色が知らないところまで知っているし、何故か白衣だし」 ちょっと不気味だからその男の人から見えない位置で紅葉と見ていると、なにやらパンかおむすびか悩んでいるらしくあたふたしていた。 「優柔不断ね 、白衣だからかな」 いや〜白衣は関係ないでしょお。 「ああ、あ!パンを買うみたいだぞ」
レジに向かって行くからやっとでていくかと思ったらレジで待っていたと思われる女性にローキックされた。実に情けない姿だろう。男としてああはなりたくないものである。 「痛そうだけど情けないね、さすが白衣!」 「・・・あ、何か言われてる。あ、パンを戻して・・おむすびに変更したぞ」 ちらりと横をみると紅葉が口に手を当てて笑いを堪えてる。てかこの状況面白いか?オレには不憫でしかたがないのだけど。 ものすごい顔で男が選んだお結びの種類を女のほうに見せる。女の方はようやく納得がいったらしく。苦笑いの店員を相手に会計を済ませた。 「あの二人やっと帰ったよ〜。」 「ああ、でもそんなに面白かったか?」 「ふふっ、どうだろうね。白衣だったけど 」 不気味に笑いながら意味ありげな言葉を発しないでくれ、オレの未来と背筋が寒いから。いやまじで。あともう白衣はいいよ・・・。 「冗談よ、とりあえず色もそれ買ってきたら?外で待ってるからさ」 「あ、ああ。ってレモンティーはオレもちですか!」 紅葉は「よろしくね〜」と片手をあげて外に行ってしまった。ちゃっかり自分の買い物は済ましてあるところはさすがだ 。 「あ、すいません。これ下さい 」 ああ、オレも情けないのかな・・・。
「色、はい150円。 」 コンビ二を出ると、外で待っていた紅葉はジュース代を差し出した。 「え?どーゆーこと? 」 「誰も奢るなんて言ってないでしょ?だから150円ね。お釣りはいらないから」 「そーゆー事ですか。じゃあありがたくもらっておこう。」 「うん。寒いから帰ろうよ」 そう言うなり手をだしてくる、ここは大人しく従いますか。 「ああ」 「熱っ!な、何?」 「悪い、ちょっとホットおしるこが離れなくて」 「もういい!先帰るから!」 紅葉は口を尖らせてズンズンと歩いていってしまった。あらら、怒ってしまった。しょうがないですね・・・ 。
あれからしばらく街を散歩していると、とある路地裏の入口でコンビニの白衣組を見つけた。 「紅葉、あれさっきの白衣コンビじゃない?」 「本当だ、でもなんであんな所にいるんだろ」 たしかに怪しい。だって中にはいるわけでも中の様子を見ている訳じゃなく、なんだか路地裏にいる誰かと話しているみたいだ。 「誰かでてきた。」 「マジ?本当だ、しかも女の子か、さらに怪しいな。あ、またあの人殴られてるし」 あの人やっぱり情けないな・・・。でもあの女の子だれだろう? (まだ早い) 刹那、脳裏に真っ白な部屋で、窓の外を見ている自分が写った。そんなはずはないと思い直した。でも・・・、そんな気がしたんだ。
「ねえ色 」 紅葉に呼ばれてはっとした。まるでぼおっとしてたよ?と言っている様な紅葉の顔が見えたが、本当にぼおっとしていたのかもしれない。あれはなんだったんだろう?もう一度記憶を辿った・・・わかるはずもなかった。 「ねぇってば」 すこし呆けていたのかもしれない。でもそれを悟られてはいけない気がした。 「わかってる。あの子だろ?」 「うん、初めて見たはずなのにそんな気がしないの。」 「そうだな、怪しい二人組に、見たことないけど知っている女の子。どう思う?」 「わかんないわよ。ただ・・・」 「ただ?」 「何もしてないのに“怪しい”と思ってる私達の方が怪しいよね」 「たしかに・・・・な」 そうだ、なにもしてないじゃないか。あの状況をみるだけならあの二人はあの子の昼食を買いにコンビニに行っただけ。こんな所だろう。そう思い直せば、本当におかしいのは自分たちなのかもしれないと思い、なんだか馬鹿馬鹿しくもなった。 「まあいいか。行こうか紅葉」 「うん、そうだね」 紅葉も気にするのをやめたのだろう。いつも通りに戻っていた。 「あ、でも色」 「どうした?まだなにかある?」 「ほら、上見てよ」 空を見上げると、すでに月が真上に来ていた。時刻は昼の1時を回った所だと思う。それにしても空にははっきりと月が見え、おかしな気分だ。だって太陽と月が同時に存在しているんだぜ?おかしな気分にならないわけないだろう? 「ね、もう3時間くらいしか遊べないよ?」 「3時間って、日が沈んだら帰るって小学生じゃあるまいし別に何時に帰っても誰もいわないだろ?」 「だめだよ〜。明日は学校だから楽しい事は全部太陽がでている時にすませたいの!ほら早く!まだまだ付き合ってほしいところあるんだから!」 さすがは優等生だ。考えることがまるで違う。でもすごく楽しそうだった。でも後3時間はあっという間に過ぎていきそうで、さっきまでの暗い感じがもったいなく思えてきた。そう・・だな、せっかくの休みなんだし楽しまないと。オレ達はまだまだ遊ぶために歩き出した。
その時向こうからあの二人組も向かってきているのがわかった。すこし気に止めておきたかったが、横にいる紅葉はすでに気にしていないようだったので、オレもそのように努めた。 「本当にこの世界でいいのか?」 「え?」 連中と交差したその一瞬、オレの耳元であの正体不明の男がささやく。耳元で囁かれたオレは、背中に悪寒が走った。気持ち悪い。とっさに振り向いたけど、二人組みの姿は消えていた。横で紅葉が何か話していると、なぜか今このときだけは紅葉のことより、さっき言葉の意味が知りたかった。 この世界?意味がわからない。どうして世界なんて曖昧なものをだしてくるのだろうか。 どうしてオレにしか聞こえない声を発したのか。ああもう!どうして?とかなぜ?ばかり頭によぎってイライラする。 (忘れろ) 「え?」 「色、どうしたの?さっきから立ち止っちゃって?」 「ああごめん。ちょっとね、行こうか」 「おー!」 男の声を聞いたときからどうやら呆けていたようだ。でもさっき、確かに男が何かを話したことは覚えている。・・・・やっぱり思い出せない。オレはその後、紅葉と別れるまでずっとそのことが頭から離れず、ずっと悩んでいた。
家に着くと疲れがどっとでた。オレはあまりの疲労感から、一直線にベッドに倒れこんだ。重たい体のまま、思案を開始する。 (いつまでここにいる?) そう一体いつまでここにいるんだ? ・・?一体何を考えていたんだろうか。なんとなく、本当になんとなくだけどオレには今日中にやらなければいけないことができたような気がする。 オレは机から紙とペンをとりだした。そこから先のことは覚えていない。
きっかけ、なんてものはほんの些細なものであり。それはオレ達もすぐわかる事だ。例えそのきっかけを覚えていなくても、この世界で起こったことには変わりない。それすらも消せないこととなった後、オレ達はきっかけから生まれた事情は振り返ることしかできないと思う。
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