「さて、色、屋上に行こうか」 いつものように授業が終わると境が屋上にオレを誘った。オレ達の授業は毎日6時間目まであって、授業のペースもなかなかのものだ。一つ、他の学校とは違って授業時間は他校と違い40分なのだ。それでも6時間あるわけだから授業中は常に聞いていないと簡単においていかれるのが現状だ。だが頭がいいやつ、毎日勉強している奴はそこまで心配するほどじゃあない。でも結構ハードな学校ってことは分かってもらえたと思う。 そんなこんなで時間にして下校のHRが終了してから1時間経過した15時50分、16時まであと10分といったところでオレは屋上に上がり境をまつ。これもいつも通りだが境は16時まで残り5分のとこで望遠鏡とデジカメを首からぶらさげて来た。望遠鏡は自分で持ってきたものだけど、いつもは物理の教師に頼み物理実験室に置かせてもらっている。もちろん特定の人物と、その教師以外はその教室を自由に出入りできない。これは余談だが置かせてもらうときになにやらその教師と取引したらしいのだが、未だに教えてもらってはいないが大体は想像できる。 なぜかって?物理実験室が4階で女子更衣室は3階だからさ・・・。バカだ、ここはバカの住む土地だ!もういっそのこと新聞の一面を飾るがいいさ!
「さて、じゃあ色頼むよ」 準備が整えた境がいった。 「はいよ、まあご期待くださいな」 オレは境からカメラを受け取り、太陽を撮っていく。境は望遠鏡で太陽を観察する作業。その作業に二人が始めたころ、後ろでは二人の女子が話しながら屋上に入ってくる音がした。扉が閉まる音と同時に日が沈み始め、夕焼け特有の明るさを月が侵食していった。 それはもうすごいとしか言えないような感覚に襲われる。オレ達の空は赤色に染まっているけど、月が太陽を食べ始めると太陽の近くから闇という名の暗黒が広がり始めた。でも空はまだまだ赤く、紅く真紅に染まっている。そして月が太陽を全部飲み込んだとき、オレ達の世界は「夜」に変化した。オレはこの風景が好きだが苦手だ。この月が太陽を食べるというのは、実際には美しい光景だ。太陽の影であるはずの月が主を裏切り食べていき、本当に言葉に表せないほどまでにきれいな空なんだ。でもオレはいつ見てもすごいが気味が悪くなって仕方がなかった。 ふと、そんなことを思っている自分自身が気持ち悪くなり、苦笑した。
「すごいね」 最初にこの変化が終わりの直後の沈黙を破ったのは後ろで咲夜とずっと喋ってた紅葉だった。 「そうだね。あたしも毎日見ているけど、まだすごいと思ってる」 「そうだろう、そうだろう。この屋上は危ないという事で立ち入り禁止になっているんだからね。色以外でここに入る事ができるのは君達だけなんだ、感謝してくれるとありがたいよ」 「境、お前に共感してくれるやつがいて興奮してるのはいいけど、ちょっと五月蝿いよ。」 「なんだ、最近色は冷たいな。でもまあ僕のブログの手伝いをしてくれてるんだ。多めに見ようじゃないか。じゃあ僕はこれを片付けてくるから校門でまっててくれ」 「うん」 オレ達3人は屋上の鍵を閉め屋上から出て行った。空を見上げれば、もう「夜」ではあるが、まだここからだと月と太陽が重なっているのが見える。つまり太陽はまだ空に浮かんでいるってわけ。いつからかわからないけれど、人々は、そんな昼から夜にかけてのこのほの暗い時間帯の事を人は「夜光」と呼んだ。それは夕焼けと夜の間にできた新しい呼び方だった。 「ところで色君、境のブログって?」 校舎の中をあるきながら咲夜が聞いてきた。 「あれ?言ってなかったっけ?あいつあの月のことを独自で勉強、研究してそれをブログに載せてるんだよ。まあ核心の部分は伏せてあるけどね」 ふ〜ん。と言ってそれっきり興味をなくしたように黙り込んだ。なんだ?興味あったんじゃないのか? 「ってことは今日はもう用事ないよね?色」 「ああ、もうないから紅葉に付き合うよ。ところで今日は何を作るのかな?」 「う〜ん、そろそろ中華に挑戦しようと思っているの。それで今回は「酢豚」にするつもりなんだ」 「そう、じゃあ咲夜を送ったら行こうよ。」 「ちょっとぉなんですかそのラブトークは!境がいないからってやめてもらえません?まったく、色君が紅葉をゲットしてからいうもの、昔のような覇気が紅葉からどんどんうしなわれていってるじゃないですか!この色情魔がーー!」 あー五月蝿い、この女はほとんどテンション高いなぁ、しかも色情魔って名前が被ってる分、性質の悪い冗談だし。まったく、いつもどうやってこのテンションを維持してるのか不思議なとこだ。今度聞いてみよう。それにしても紅葉に覇気なんてものが存在していたとは初耳だぞ。
校門でまつこと3分。境と合流し下校した。カップラーメンができるのと境を待つこことはほぼ同じくらい意味を持っている。 「ところで境、ブログってなにさ?」 「あ?咲夜にはおしえない〜」 「はぁ?何言っちゃってるのこのバカは。ちょっと色君、教育が足りないんじゃなくって!?」 「オレにふるなよ!こいつは教育なんて手の届かないところに存在する超自然生物なんだから」 「ああ!?色、僕はお前の下僕でもなんでもないんだぞ?」 「そうだったの?」 「そうだったの?」 「そうだったの?」 思わず3人とも同じ台詞ではもってしまった。ああ、こいつの存在っていったい・・・。 「紅葉さんまで、も、もうお前らなんて知ら〜ん!!」 あ〜あ、泣いて帰っちゃったよ。 「で、咲夜どうする?」 「なにがぁ?ま、まさか境を追いかけろとでも?勘弁してくださいよ〜、家で何してるかも分からないようなオタクを慰めたって何の意味もないじゃない」 「勘違いをありがとう。さっき言ってた境のブログだけど家でみるか?」 「ああ、そっちですか。今からですか?ん〜いえ、遠慮しときます。これから二人のラブっぷりを見せ付けられても溶けるだけですから。」 「それよりも買える前にスーパーよらなきゃあね」 お、紅葉ナイス!オレ自身まじで忘れてたぜ。 「う、無視ですか。とりあえず私は帰るね。それじゃあお二人さん、また明日ね〜」 「ああ、また明日」 「おやすみ咲夜、また明日ね。」 そういうとバビューンと走って帰ってしまった。だが、咲夜が走って行く方向は自分の家の方向ではなく、さっき境が走っていった方向だった。そしてそれを紅葉が見逃すはずもなかった。 「あ、そうそう、早くしないと境君帰っちゃうよ〜」 あ、こけた・・・。咲夜は起き上がったと思うと肘をすりむいたのか、痛そうに手でさすり、こちらを振り向かずに境の帰っていった方向へ走り出した。たくましいなぁ。 「なあ紅葉さん?」 「んどうした?」 「さっきのまじ?」 「咲夜が境君のこと?どうだろうね。実際そんな話は一度もでてないんだけど、私と話してる時以外は・・・ね」 なるほどぉ〜あの水と油がねぇ、世の中不思議なもんだ。でも一つ問題だな。あの境が3次元の女の子に興味を抱くかどうか・・・それが一番の問題だ。 「それはおいおい解決するとして、そろそろ行こうか」 「そうだね、そのこともおいおい・・・ね」 そう、紅葉は苦笑いした。 それからオレ達は二人でスーパーに買い物をした。けれど料理は明日にしようということになり、オレは紅葉を送っていった。その日の夜、オレはなぜか咲夜が転んだ場所に水滴が落ちてぬれていたような跡があったような気になり、寝るまでの間頭から離れなかった。
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