目標を失った。 だから未来がなくなった。 そして生きる意味もなくなった。 いつも自分を凌駕しているあの人が羨ましかった。 憎かった、愛していた。 それが全てだった。
「はは・・・・は」 ここで思い出すことは全て思い出したつもりだ。 オレは兄を失なった。 ここにはもうあの人はいない、もうオレの目の前には誰も居ない。 後ろなんか振り向きたくなかった。 振り向けば前を歩いている人が横たわっているから。 あの人はオレにとって目標だった。 だからオレの後ろなんかにいちゃいけないんだ! 「だったら」 前も後ろもなくなってしまえば・・・・全てが止まれば全部うまく行くはずだ。
ベッドに腰掛けている色はすでに正気を失っている眼をしている。 ベッドはかすかに湿り、色は立ち上がる。
「もういらない・・・どいつもこいつも」 色の後ろには開け放たれた真っ白な空間が広がっていた。
◇ 「これからどこ行くんだ?」 「五月蝿い、黙って歩け」 冬至は境の質問を一蹴し歩き続けたがまだ先ほどの階から移動していない それもそのはず冬至は必要以上に紅葉を丁重に扱っている風に見えた なるべく衝撃を与えないように歩き、しっかり頭部をもちなるべく体に負担を掛けないようにしている様子がはっきりとわかる 先ほどの部屋が桐矢絆をいう人物の部屋としてなぜそこに紅葉を寝かせていたのかがまだわかっていないがそれを聞いても「最も安全だから」としか答えなかった 先ほどの説明だと色と同様紅葉もこの世界にとって重要だといったがどうもそれだけではないようなきがしてならなかった そしてこの丁寧な扱い、不信に思わないわけがない、その証拠にあるけばこの階の中心にある階段まで1分と掛からない距離だが5分は経過しているところだったからだ もうすぐ階段だ、あとは一階まで降りて二人がやろうとしていることを手伝えば終わるはずだ、色はもうあんな状態だし、紅葉も眠ったままだ、残ったのはさっき言っていた「桐矢絆」という人物でこれからその人物のところへ行くのだと確信していた 目と鼻の先に階段のある場所へ近づくと向こうから何か明かりのようなものが近づいてくるのがわかった 「あの光は?」 「咲夜!もどってこい!」 身を乗り出してあの明かりの正体を見ようとした咲夜を境は叫んで止めた 「境?」 「咲夜、近づくな」 険悪な雰囲気を察した咲夜は境の後ろへ隠れる、同時に明かりが一層強くなり、光の光源が姿を現した 「・・・色」 「境、それに咲夜かひさしぶりだね・・・ああ忘れてたよおじさんたち。」 「ふん、そのまま忘れていてくれた方がよかったのだがね」 守木は「あのですね」と止めようとするが「まあいいさ」と色が言った そこへ冬至達と色の間に境が立ちふさがる 「何のマネだ、境」 「咲夜達は先に行っててください、ここは・・・オレが引き受けます」 境の口調がと声色がかすかに変化する そして咲夜達は黙って階段を降りていく
「それで?境はオレとなにをするために残ったんだ?まさかオレが敵だなんて思っているわけじゃないよな?」 「もちろん、お前は敵じゃない、だけど味方でもない、あえていうならただの障害物だ」 色は笑った、腹を抱え目を手で塞ぎ、まるで戯言をいっている境をあざ笑うかのように笑った 「ははははははははははっ!・・・はぁ、面白い事言うじゃないか!この世界じゃお前達の方が邪魔者だろうに、オレはここでやらなければならない事がある!そこをどけ」 境はかぶりをふり、言った 「全くお前は勘違いしている、ここがどんな世界か分かっていないのはお前の方だ」 「なら消えろ」 色が言い放つと色を中心として地面を白で埋め尽くし始めた これはさっきあの病室で色が発したものと同質もので、境もそれはわかっているのか一歩もその場を動かないでいる 白はどんどん地面を拒絶していき、窓にまでかかった白はそとの景色が見えなくなり、ガラスの特性をも拒絶した、そして境の足元までたどり着き、先ほどのように今日自身を拒絶し始めるはずだ そう、さきほどまでの境だったらその白に拒絶されるはずだったが 白は境だけを除いてあたり一面が真っ白な世界で多い尽くされた 「どういうことだ?」 色は驚いた、さきほどはあっけなく境を白が拒絶したのをはっきりと覚えていたし、色の白は今もその威力が衰えたわけではないからだ 「だからお前は勘違いしている」 「なに!?」 「たしかにさっきはやられたさ、でもあの時いたのは「お前の部屋」だったからだろう?だがここは違う、たしかにこの世界はお前達が作り出した世界では、オレと咲夜はあとからつけられたオプションに過ぎない、だがオレ達もこの世界を作った張本人だからな!後は簡単だ、お前がやったように今オレがお前に支配されないのは“ここ”はオレが支配しているからだ、だがまあオレにはこの程度しか出来ないがな」 と指で足元を指すとたしかに境の半径約30cm程度の円の中は白が進入できていない 「けど、それでどうなる?お前の言ったとおりならお前はすでにオレの領域には入ってこれないことになるな、だったらもしオレがこのままお前に近づき直接触ったら?たったそれだけの事だろう?」 色は境に向かって歩き出したが、境はまだ余裕のある表情で言った 「まだ、わかっていない、夢と言うのは頭が記憶を辿って見せる妄想だ、よってここは記憶を呼び覚ます事ができる世界であって、色は兄貴を呼び戻せはしない!」 そして境は手を前に掲げ目を閉じる すると境の目の前に何かの構造をした立体が現れる、それはホログラムのように徐々に姿を現していく、最初は箱のようだったがどんどん線が複雑に絡みあい、骨組みのようなものまで現れる、小さいものから多きもの、さらに細いものに太いものと様々でその姿は子供の時によくのっていたあの形に見えなくもなかった だがそんなものはおかまいなしに色は境に向かって歩みを止めない しかしそれは境も同じことで意識を集中したのか目の前で展開され、構築さて行くものはほぼその形がなんなのか分かるほどまでいった 「一体なにをしようとしている?」 境は色の言葉を無視し完成させた ハンドル、タイヤ、そしてギアのついた・・・自転車だった。 その自転車は一般的に高校生がよく乗るような形で、二人乗れるようにもなっていた 「そ・・それがどうしたぁ!」 色は驚愕し動揺したがそんなものは関係ないといわんばかりに色が走る、だが境はまだ余裕の表情を崩さない 色が気付いたときには境の右手にはカッターが握られていた 「それでオレを刺そうっていうのか?そんなものぉ!」 もう色と境の距離は五mにも満たない 色は必死に境に向かって手を伸ばした 色が触れればどちらが倒れるか目に見えている結果なのに 何故か苦しそうなのは色だった 色は迷ってはいたが止まろうとはしなかった・・・止まれなかった この世界でしか出来ない事があると思ったからだ ここならばあの日を取り戻せるだろうと思ったからだ けど色にはわかっていた ここならばあの日あの出来事をなかったことにしてやり直せるかもしれない それでもあの日から時を進めることだけはできないのだと たとえそうだとしてもここにしかできないことがあって境がそれをとめようとするならば色は自らが止まらないようにすることしか思いつかなかった 少しでも止まってしまうようならもう一度進み始められないと思ったからだった だから色は必死に手を伸ばす、必死に自分から背を向けた 「お前を・・・試す」 残りわずかと言うところで境は手にカッターを当て、まるでバイオリンを奏でるようにカッターを引いた プシャア! 境の腕から鮮血が吹き上がる 勢いよく切ったからだろうか、すこし境の顔にかかったがそれ以上に色の顔に、手に腕に赤い、紅い液体がかかった そこで色の動きが止まった もう半歩近づけば触れる程度まで近寄っていた それでも色は近づけなかった いや、動く事すらできなかった 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」 色は両手がだらんと下がるとその場に膝をつき叫んだ そう、止まってしまった もう止まらないと思っていたのに止まってしまった まだ大丈夫だと自らに言い聞かせ自分の成すべき事をしようとしたのに この自転車が・・・この赤いものに! たった目の前にある二つの物体に自分は負けてしまったのだと いや違う、こんなものに翻弄され、歩みを止めてしまう自分自身に負けてしまったのだ 気が付くと渦潮のように色と境の周りに存在していた白が周りながら色に収まっていく まるで洗面器に流れる水のように・・・
しだいに色の声は止まり 抜け殻のように崩れ落ちた 「お前は頭が良すぎた、だからあの事実を受け入れられない自分がいる反面、この世界の成り立ちを理解したお前は知ってしまった。“あの人”どこにもいないこと、ここならば“あの人”が生き返るかもしれないってことも!でもわかっていたはずだ、ここは夢なんだよ!生きている人にしか見ることができない世界だってことが!だからお前はあの時乗っていた自転車に動揺し、あの時と比べ物にならないほど少量の血でお前は簡単に理解し納得しちまったんだよ!」 境は最後に「お前がもっと馬鹿だったらここは完全にお前の世界だったよ」と言い残し色の横をすり抜けて階段を下りていき
残された色はただ一人、声にならない声で叫びながら泣く事しかできずにいた
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