「す、すびばせん・・・」 ついさっきまでとある暴漢魔(?)の暴力の末、ガクッとその場に倒れこんだ二人はすでに瀕死の状態に陥っていた・・・がそんな二人を無視し彼女達(犯人)は話し始めた。 「それで咲夜さん、まず何から話しましょうか?」 「ちょ!いきなり馴れ馴れしくしないで、私はまだあなたのこと認めたわけじゃないんだからね?」 そっぽを向いたがその顔はかすかに笑っていた。そんな一瞬を雪は見逃すはずがなかった。 「ふっ、ツンデレですか。」 「え?何?」 「いえ、何でも」 クスクスと笑う彼女を見た咲夜は「全く」とすこし愚痴るけれどフッと笑みが自然にこぼれた。 「まあいいわ、それじゃあまずこの世界の事、そして私達がどうして選ばれたのか教えてね。それから今の状況ね」 「いいでしょう」 守木雪は眼鏡を掛けなおすとまた足を組み足の上で手を組んだ。このスタイルが守木雪の話す時の姿勢なのだろうと咲夜は感じた。だが不思議と違和感がない所か同姓の目からみてもやっぱり綺麗だと思ってしまった。それからしばらく、守木雪は自分が知っている情報をできるだけ話した。カクカクシカジカ。 この世界の事。境と咲夜は本当にこの世界ではおまけで、二人を選んだのは自分達だということ。自分達はこの病院の医者だということ。そして・・・、カクカクシカジカ。 咲夜は黙って聞いていた、境と冬至はすでにそこらへんに二人仲良く(?)部屋の隅で座っていた。 「とりあえず順に話したつもりですが、今の話は大体理解できましたか?」 「え〜と、つまりここは私達の夢が重なってできて、私と境は後付け・・・つまり本当におまけだったわけね」 「そーゆー事。まあ正確には色と誰かさんの夢をベースに作っただけだよ。そして君たちはその上に乗せたオプションってわけだ」 「おいオッサン」 「僕はオッサンではない。まだ20代を卒業したばかりだ!全く君と話していると気が滅入るよ」 すると三人は同時にジト目で華霧冬至を見つめた。 「なに?君たち、何かあるならいいたまえ」 「いえ、何でも」とまた三人は同時に言うと華霧冬至は座りながらうな垂れ、なにやら床を指でいじりだして、ぶつぶつ言いだした。三人はそんな冬至を無視して話を進めていった。 「それじゃあそろそろ紅葉をさらった件について話してもらおうか」 「それは私の口から言えませんので、ほら立ってください」 守木雪は無理矢理冬至を起こし、椅子に座らせた。 「まったく雪は人使いが荒いねぇ、まあそこがいいところではあるけど。それじゃあ順を追って説明しようか、君達は「桐矢 絆」という人物を知っているかい?」 二人共、初めて聞く名前だった。自分達のクラスにはもちろんそんな名前の人は存在していないし、自分達も含め色や紅葉との関わりを持った人物とは考えづらい。それでもある程度の予測はできた。 「なるほど、その子があんた達が言っていた色ではないほうの「片割れ」だな」 「ご明察」 冬至は両手をあげ感心した。そして更に続ける。 「君たちが色君を重要人物だと考えたのはいい腺をいっていたね。実に惜しい、確かに彼はこの世界では主人公だろう、だがこの世界を考えたのは彼ではない。それは先ほどいった彼女だ」 「!!」 境と咲夜は動揺を隠すことができなかった。実は4人ともただの「役者」でしかないからだ。色を主人公だとあげたのならもちろん他は主人公を結末まで送り届ける案内人だ。咲夜はこの世界は目の前の二人を止めてしまえば元の世界に帰れると思っていたし、境はここが色や自分達の見ている夢だということまでは突き止めていたが、いつどこでどうやってこの世界を作り、迷い込んだのかがわからなかった。 だからこそ自分達よりより多くの情報を所持しているこの二人、もしくは色と色の片割れだと勘違いしていた紅葉に何かしらヒントがあるのではないか?と考えこの世界の歪を二人から探しだすことが解決策だと思っていた。だがそんな境の考えは半分程度しか当たっていない。テストで言うならばまるで平均点だ。いやそれ以下だろう。ギリギリ落第を免れる程度。 しかししょうがないことだ。色しかいないという基本的な部分しかわからない以上、そんな状況下では重要なことなどわかりはしないのだから。 (じゃあ僕は一体何を得たんだろう?) 「じゃあこれから僕達はなにをすれば?」 「全くいきなりこれか。まあいいだろう、時雨君の性格を考えればまず情報収集からだったな。本当はこんな事は僕の想定外だったのだよ」 「華霧さん」 「雪、いいじゃないか。少しは分かってほしいんだよ、僕もね。まず僕と雪と彼女は色君と紅葉君に姿をさらし、君たちにこの世界に対して不信感を与えるところまではうまくいっていたんだ。なのに君たちときたら、いつの間にかこの世界での記憶の仕方まで覚えているし、世界の理を調べてしまうし、本当に境時雨という存在は一番のイレギュラーだよ」 「でもそれは僕のせいじゃ!」 「そう、君のせいじゃない。それは僕の計算ミスだ!だから君のせいではないけど原因は君だ!いい機会だ、これから僕の狙いというのを話そうじゃない・・・かい」 そこで男は前に倒れこんだ守木雪は棒で冬至の後頭部を殴りつけ気絶させていた。ふいに咲夜は思った。 (この人、今までで何回こうやって気絶させてきたんだろう) 「全く、この人に任せるとろくな方向に進みませんね。あ、そうでした一応謝ります。私の上司が失礼を」 「えええええええ!」 二人は驚いた。この部屋に来て何回驚いたかわからないが、ここに来て一番のリアクションではないだろうかと思うくらい体を仰け反らせ、大声を上げた。 「だって、雪・・・さんは、あんなにこの人殴ったし、今も気絶させて無理矢理黙らせたし、普通に見てたら絶対雪さんの方が地位は上に見えるッて」 痛いところを突かれたようで守木雪は咳払いを一つついた。 「咲夜さん、それはまああながち間違ってもいませんが、この人が私の上司だという事には間違いはありません、先ほど申し上げましたように、私どもは医者です。一応この人はこの病院ではトップクラスの外科医なんですよ」 「「この性格で?」」 「・・・恥かしながら。この腐ったような性格ですが確かに腕は一流なのです。だからこそ私はこの人の部下・・いえ、助手とう言い回しが正しいでしょう。助手をしています。だからこの人が言っていたことは事実ですし、私はこの人がやろうとしていた事を手伝っていたに過ぎません」 「やろうとしていたこと?つまり計画・・・だよね?」 「先ほどの会話ではわかりま・・・いえ、何でもありません。」 言い終わる前に咲夜がすこし涙目になったので、守木雪は途中で止めた。そして「続けます」といい話を続けた。 「そうですね、一言いうならゲームクリアしてほしかったのです」 「??」 横で見ていた境は呆れていた。この人達がやろうとしていた事が大体理解できてしまったからだ。その面倒臭さに呆れ、さらにここまで話してくれたのに、いまだに理解できない咲夜の脳のキャパシティにもあきれ返っていた。 目の前の女性は「あれ?わからない?」といった感じで多少オロオロしてしまっている。 横の咲夜も同じように何がなんだか分からずオロオロしていた。実はこの二人は似たもの同士なのではないだろうかとすこし思えた。雪がこちらに助け舟を求めてきたのでしょうがなく答えることにした。 「つまり!色、紅葉さん、僕、咲夜の4人でさっきの桐矢絆・・・だっけか?そのこを倒してほしい・・・じゃないな、助けてほしかったんだろ?そのためにまずあなた達は色と紅葉に接触し、僕達4人にこの世界に不信感を植え付ける事が計画の第一段階だった。これでいいですか?」 「おお!なるほどぉ」 「いや、お前バカだろ」 「え〜、そんなことないって」 と咲夜は講義するが、雪が通じたことに胸を撫で下ろし安堵した仕草をみて咲夜は「がーン」と落ち込んだ。 この守木雪という女性は、たしかになんでもできる女性なのだろう。だが努力すれば何でもできるということは、努力してもできない、ということがわからないだろう。だからこそ説明しても理解できない相手に弱いのかもしれない。と境はすこし感じた。
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