4人はこの階の反対側の病室に飛び込むように入り込んだ。病室にはいくつかの椅子と、小さなテーブルと必要最低限の家具、そして奥にベッドがあった。 だがこの病室は他のところとは明らかに違った。まず病室が広い事があげられ、そして何よりここはすでに病室とはかけ離れた感じが漂っている。 ここのイメージは廃墟。そんな感想を誰もが思ってしまうほどここは人が生き、住むには適していない。病室に辿りついた4人のうち二人は、奥のベッドで寝ている人物を見て叫んだ。 「紅葉!」 「触るな!」 駆け寄ろうとする二人だったが、男の声が部屋に響いた。 「そう焦るな、この部屋は安全だ」 「どの口が言っている!この野朗ぉ!」 境は迷わず男に飛び掛る・・・が境は男の目の前に倒された。境を倒し、組みふしたのは女性だった。 「ぐっ・・・クソッ!」 「初花咲夜さんですね?あなたも動かないように」 「!?」 女性はこの部屋に入ってから一度も咲夜の方を向いてないのにもかかわらず咲夜の行動を把握していた。咲夜自身もそれを知っていたが、それでも動いて助けたい気持ちで一杯だった。 「まあ君も落ち着きなさい。さっき僕が言っただろう?ここが安全だって、現にわざわざ危険な場所に逃げるわけがないじゃないかな、そうだろ?時雨君」 「一体なんなの?説明してよ、境!」 「オレにも詳しくはわからん。少なくてもさっきの部屋よりは安全だってことは確実だ」 「でもさっきの部屋に色君を置いていったままじゃない!だったら色君もここに連れてこなくちゃ」 「咲夜、あの部屋は色の部屋だから大丈夫、それより」 倒れたまま顔をベッドの方に向ける。そこにはまるで死んでいるかのように紅葉が眠っていた。境の耳にはかすかに寝息が聞こえているので身の安全は確認できてはいた。 確認したところで安堵の息をついた境は、急に拘束されていた腕が自由になった。女性は境から離れてベッドを背に椅子に座った。その姿は紅葉を守っているかのようでもあった。 「とりあえず自己紹介しよう、僕は華霧冬至、冬至でいいよ。それでこれは」 自己紹介をすませると、冬至は壁にもたれかかった。 「守木雪と申します。とりあえずあなたは黙っていてください、ダメ人間の分際で生意気ですよ」 「ゴフゥ!」 女性は椅子に座ったまま自己紹介をしたけれど、何故か言い終わると同時に冬至と名乗った人物は腹を抱えてその場に倒れこんだ。一体どうやったのか、二人はまるでわからなかった。 「なあ咲夜?」 「何?」 「この状況さ、なんとなく見覚えあるのは気のせい?」 咲夜はビクッと体を震わせ「そんなことないよ」と言った。けれどその額には絶えず玉のような汗が流れ続けていた。 今までの咲夜の行いを思い返し目の前の二人を見ると「まあこんなもんか」と納得した境は苦笑するしかなかった。 「ま、いいけどな」 「それであなたたちは何か知りたいことはありますか?」 雪と名乗った女性は微笑ましい笑みを浮かべたままこちらを見ていた。境と咲夜はそろって乾いた笑いでごまかしたが、二人の耳は誰が見ても赤く染まっていた。 そんな二人を見てまだわらっていた彼女だったが、その足元には未だ腹を抱えている冬至が転がっていた。これは一体どんな関係を表した構図なのだろうか・・・。けどどちらが優位に立っているかが容易に想像できた。そんなことが分かってしまった境と咲夜はこの二人の関係に少なからず恐怖を覚え、また乾いた笑いをするしかなかった。 「お、おい雪」 「なんですか?」 「ガハッ!」 彼女は一瞬笑みを浮かべると、冬至を足で踏みつける。 「こんなことしている場合か!ほら、し、仕事だ」 はっと、我に帰えってきたかのように彼女は男から足をどけると、手をとり立ち上がらせた。冬至は白衣の汚れを軽く払ってとり、後ろにあるベッドの隅に腰を掛けた。 「それで?何から話そうか」 「まずこの部屋はなんだ?どうしてここに紅葉を置いていた?」 「ああそうか、さすがにそこまでは調べられなかったようだね。まあでも君たちではここまでたどり着いただけでも良しとしよう」 「だからここはどこだ?」 「ちょっと待って境!」 けんか腰で会話をしようとする境を咲夜は怒鳴って止めようとする。だがその後どうなるか容易にわかってしまった雪は、咲夜を羽交い絞めにした。 「ちょっとあなたねぇ!まだ私はあなた達が何者かわからないし、ここがどんな場所かもわからないのよ!?それを勝手にあなた達だけで話を進めないで!」 羽交い絞めにされても咲夜は止まらない。その様子から諦めたように守木雪は咲夜を解放し、ため息を一つついた。 「全くあなた達はこの子に話していないのですか?いえ、もしかして色君も紅葉さんにも話していませんね?」 「・・・へぇ〜、ふ〜んそうなんだぁこの非常時に隠し事ねぇ」 咲夜と守木雪は境と冬至の方に振り向く。男二人は見た、彼女達の後ろが揺れているように見えたのだった。それはあまりの迫力に空気が揺れていたのかもしれない。それともほかの何者かが見えたのかもしれない。ただ一ついえたのは、この病室において、男性陣より女性陣のほうがはるかに力をもっていることだった。実に恐怖。 「ちょっとおふた方!?今はそんな事で取り乱している場合じゃないだろ?」 「「そ・ん・な・こ・と?」」 「「ぎ、ぎゃああああああ!」」 最後に放った冬至の失言がトリガーとなった。境と冬至、咲夜と雪の声は重なり、部屋に男二人の叫び声がしばらく続いた。 この瞬間、皮肉にも4人の団結が少なからず固まったのだった。 そして、境は思った。 やっぱりオレの将来ってこうなるのかな・・・と。
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