何故だろう・・・?この場所を知っている。 オレは初めてのはずで、病院自体初めてのはずだ。 なぜオレはここまで迷わずこれた? 何故・・・どうして・・・本当に? この表札は・・・。
(ああ、そうかここは)
色はしばらく目の前の病室で立ち止まっていた。 病院内に進入してから真っ直ぐここに向かっていた。 たどり着いたのはとある病室。 色は中に入ることをずっとためらっている。 他の場所はわからない。だがここは知っている。 目の前の病室のドアの横の表札は色がよく知る人物の名前が書かれていた。
秋山 色取
ただその名前だけが重々しく書かれているだけだった。
「でも、確かめるだけでも確かめないと」 そして色はそのドアに手を掛ける。 (・・・おかえりイロト)
そんな声が中から聞こえた気がした。
◆◇◆
モニターには三つの光が映し出されている。 三つの光はかなり近い場所で光っている (これは、色か) 境は画面を見て歩いていた。色だと思われる光は他の二つの光とかなり接近しているため、走りだした。 (だが妙だな、なんであいつらは仕掛けてこない所か固まっている?もしかして休んでいるのか?いや、それこそ妙だ。休むなら片方は必ず起きているはずだし、今までからしてこちらが何かすればあいつらは何故かこっちの場所を把握してきていた。まさかこの世界ではオレ達とは違って行動するのになにかリスクを背負っているのか?例えば行動時間に制限があるとか・・・いやこんな考えは意味がないな。可能性の思案で無駄な考えだな・・・さて、そろそろか)
境は階段を上り終わると、目的の階に辿りついた。 (この階は・・・) 進入した一階もそうだったがこの階も、どの階も明かりは存在していない。廊下のかすかな明かり以外はなにもなかった。 明かりがないということは誰もいない。当たり前だ。 この世界が何も、誰もいないことはもう知っていることだったが、やはりこう何度も確認することになると気が滅入いる錯覚を覚える。 だがこんなことを考えている場合ではないことは百も承知している。 この階は見覚えがあり、この病院のこの階がどんな場所かもわかっている。 あれはもう終わっている出来事だった。さっきまでいた色自身があれを証明しているからこそ、こんな場所に一体何があるというのか? だからこそこの病院が怪しいと睨んだ時点からこの疑問は晴れてはくれない。それは今もだ。 たぶん咲夜も少なからず感じているはずだ。咲夜はここにはまだ来ていないから確証はとれない。 咲夜を待っている余裕はない。 走る速度を緩めず境は一番奥に存在している部屋を目指した。 目的の部屋には必ず色がいる。
何の妨害もなく病室に辿りつくと、病室は何故か開けっ放しになっていた。 境は慎重にその病室に足を踏み入れた。 病室がどんな意味があり、病室の表札にどんな名前が書いてあるかも知っている。 「色!」 部屋に入ると同時に境は叫んだ。 時刻はまもなく2時に達するまで秒針が真下に向いている。
◇
「クソッ!」 私は余計な時間を食ってしまい苛立っている。 急いでいたせいか簡単なことすら考え付かなかったからだ。 本当に簡単な話だ。 境は自分より先に建物内に侵入した。そして必ず行動に移している事くらい幼稚園でもわかるくらい簡単な話だった。 もうかれこれ10分は走っている。 距離にすれば3kmは越している。 だが息は上がらない。この程度で根を上げる様な鍛え方はしていないし、なによりこんな場所で疲れてなんかいられない。 一刻も早く合流しなければならないからだ。だから焦っている。もう焦るしかない。何故かあの二人の携帯には連絡がつかなかった。 もう何度もコールするが一向に出る気配がなかった。 この病院で他の手が係りといったら自分が利用している内科かあの人がいたあの場所しか思いつかない。 でもあそこはもう行く必要がないはずだし、何よりそこにあの女の人や紅葉がいるとは考えにくい。 (・・・いや、ちょっと待って。どうして時雨はこの病院が怪しいなんて言ったの?まずそこからおかしいじゃない。でも当の本人はそのことを気にしていないみたいだし何より何も言っていないよね・・・・あ、そっか、この世界との関わりが最も深いと考えられる人だものね。だったらここがあの人にとって大事な場所ならこの世界での大事な場所もここってことになるんだ) この場所の重要性に気づくことができて嬉しかったがすぐそんな感情はうせた。 思ったとおりならば、あの部屋が一番怪しいことになる。 「急がないと、二人が危ない」 踵を返し階段の方に足を向け、更に速度を速めた。 だがここでまた再確認するとまたへんな気分になった。 本当に私自身がおまけだということが。 (それでも私は・・・)
走りながらふと窓を見た咲夜の目には月が光っていた。 星の光で照らされた夜空を月が黒く光っていた。その姿はすでに夜の王様にふさわしく、まさに光を照らす闇そのものに見えた。 夜月を見ていたら、思わずここが現実ではないという事実に少し笑えた。 (私は、あの日を取り戻したい)
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