三人は病院の敷地内に入る一歩手前で待機していた。 色は堂々と正面玄関の目の前に立っている。 咲夜は救急車が出入りする救急棟の出入り口の近くに隠れて待機。 境は門や扉と言った「出入り」する場所ではない場所。壁の外で待機している。その手にはロープが握られ、ロープの先は壁の向こう側まで繋がっている。 「境、いつでもいける?オーバー」 「ああ、いつでも上れるよ。オーバー」 「全くあれ本気だったのね。私はいつでもいけるから合図が出たらこっちにも合図頂戴よ。オーバー」 「OK、でもオーバーって言う意味あるのか?今携帯だし・・・オーバー」 「っっっ!いいじゃない!気分よ気分!じゃあまた後でね!オーバー!」 そこで通話が切れた。理不尽な事を言われた気がしたが、気にするのも面倒なので境は今の会話への思考をストップする。頭を切り替えた。 「さてどうするか」 時間を確認しロープを使い壁を登り始めた。 あと手を伸ばせば壁を登りきるところまできた所で携帯が震えた。右腕にロープを絡ませてロープを持ち、片手で携帯を操作する。 メールだった。そこにはこう書かれていた。
「スタート」
色は携帯をズボンのポケットにしまい、病院内に足を踏み込んだ。 周囲を警戒しながら歩く。色は堂々と進んでいった。誰かいればすぐにその存在がばれてしまうように、道の真ん中を歩いていく。丸腰だと言わんばかりの空手だ。 だがそんな事は意味がないように色はただ歩いていった。 しばらくすると病院入り口の前まできていた。 (ここまで何もなし?) すでに誰が出てこようとも中には入れる状況・・・というかすでに(自動)ドアを無理矢理開け中に足を踏み込んでいた。 正面を見ると完全に暗いというわけではなく、必要最低限人が数メートル先が見えるようにライトが左右の壁の下方から光が薄く照らしていた。 ドアを閉めると目の前にロビーが広がっている。奥には薬等を受け取ったり、案内を受けることができる窓口が設置されている。すこし歩くと広間の真ん中に大きな機械が3台ほど存在している。その機械には大きなモニターがあり、上には「御用の方は画面を押してください」と記されていた。横には差込口があり、保険書と書かれていたため、すぐに受付を簡単に済ませるための機械だと理解した。 (さあ、こっちだ) 色は機械を通り過ぎ、迷いなく奥へ進んでいく。 奥へ進むにつれ不信感を得ていた。この病院は始めて訪れているはずだったのにも関らず、自分がどの病棟のどの付近にいるのか何故か理解していた。 だがどこへ向かっているかは検討もつかない。それでも足は止まらない。 曲がるところへ来ると迷わずその方向へ進んでいき、歩いていくたびになんともいえないような確信感が色を襲い続けていた。 すでに頭のなかは当初の目的は薄れつつあった。けれどそう自覚しながらも、ある「病室」に向かう事になんのためらいもなかったのだ。
境は色からのメールを受け取った後すぐに壁を乗り越え敷地内に進入していた。 (さて、どこから入るか) すこし考えたがどうせ人なんかいない事に気がつくと噴出しそうになった。目の前には薄い窓ガラス。背中のバッグから窓を割る道具を持ち出した。その形は映画で使われていそうな特殊な道具だったが、境はそれを器用に窓に設置すると、鍵付近のガラスに直径十五センチ程度の穴を開けた。 静かに窓を開け建物の中へ音を立てずに入り込む。すぐさまズボンのポケットへ両手を滑り込ませた。ポケットから両手を抜く。左手に携帯、右手には携帯ゲーム機のようなものを取り出した。 (とりあえず奥だな) 携帯で時間をと電波を確認するとポケットにしまいこんだ。右手に持っていたものに電源をいれるとなにやら地図のような図面が映し出された。 (いくか) 方角を外の星をみて確認する。 境は迷わず歩き出す。手に持っている機械には点滅している光が6つ存在した。 時間を確認してから10分後には2時を回ろうとしていた・・・。
その頃咲夜は未だに外で待機していた。 「あの野朗・・・」 境は色君の院内の侵入と同時に計画が実行しているはずだ。なのに計画を実行に移した連絡が一向にこない。もう私が実行する予定時間を大きく20分ほどオーバーしていた。 三人が別れたのは敷地内の目前であったため、万が一の場合であっても敷地内には進入できるように準備はできていた。 そのため咲夜は境から受けるはずだった連絡をまつ以外行動の選択は残っていない。 しかし境は何故か咲夜にはその連絡をせず、先に侵入したため咲夜は待ち続けるハメになってしまった。もちろんそんな事は知らないが、あの二人が勝手に行動していることだけは簡単に予想できた。 「まず時雨・・・ぶん殴ってやる」 軽く身支度を整え咲夜も裏口から院内に入っていった。 「あれ?」 私の侵入経路は病院の裏側に存在する救急棟だ。拍子抜けもいいとこで、入り口には簡単に入る事ができた。なぜなら入り口である自動ドアは作動していたのだった。 (誰も・・・いないな、よし!) 特に考える事なく誰もいないリノリウムの廊下を走り出す。
意外にもこの病院を利用していたせいもあって、地形は大体把握していた。正面から入っている色君の大体の場所も、境がどこから侵入しているかわかっている。二人といかにはやく合流する場所がどこか素早く頭に入れ、目の前の道を曲がっていく。 元々この作戦とは簡単に言えば相手戦力の分散だ。 わかっている情報と言えば相手は二人、こちらは三人。それなら全員が別れれば少なくとも一人は自由に移動が可能だと判断した。そして最悪でも自由になった一人が紅葉を救出すれば半分は成功したと言える。だがこの作戦は致命的な欠点がある。それは誰かと遭遇したらその人物一人で足止め、または逃げなくてはならない点だ。まあそんなものは言わなくてもわかる。 だからこそその相手の一人と一度手合わせた咲夜は焦っていた。 (あの女の人はやばい、一刻も早く見つけないと!) 一度手合わせたからこそ咲夜はあの女性の危険性は十分理解しているつもりでいる。 色と境がであったという男の人の事は知らないが、少なくても逃がしてくれた事実がある。だがあの女性はそんなことはしない。 これは断言できた。だからこそあの女性が二人と会う前に合流する、または私自身があの女性と出会う事が必要がある。そうなれば少なくても二人が危険に冒される可能性はなくなる。 「・・・ちっ」 走りながら荷物の確認をし、拳をきつく握り締め廊下を駆け抜けていく。 咲夜が向かう場所はただひとつ。 (・・・時雨) 速く・・・早く見つけだしたい一心でその曲がり角を必死で曲がり、廊下を蹴り暗闇に紛れて行った。
色だけではなく境と咲夜の三人とも何の妨害もなくこの病院内に入り込めたのは予想外の展開だった。 病院に近付くだけでも過去二回にわたり妨害があった。だからここが最も重要な場所だと境と予想していた。 今回も妨害があると踏み、無傷ではたどり着けないと思っていた。でも予想に反しあっさりと入り込めたので驚いていた。 計画通りに物事が進んでいるのはいいことだ。 あまりの運のよさに、不安を感じずにはいられなかった。
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