走った。ただ走った。 横には境がいて、横顔はもう必死だった。 あの後境から知らされた。 オレ達4人の中で力を持っているのはオレと紅葉らしいということ。境と咲夜はただのおまけでしかないということ。 もちろんオレはそんなことないと思ったしそれを境にも伝えたけど、「何があろうと僕と咲夜はただのおまけなんだよ」と一点ばりだった。 その時の境の顔はたぶんこのことが終わってもオレは忘れない。 悲しさと怒りがまじった、境の顔を。 あの男が言ったことはきっと嘘だ。いつも境は冷静でいるけれど、咲夜といる時だけは違っていた。 いつも感情的で、それでいてきちんと他の事も考えていた。 まるで水が油のように決して交わることはないけれど、それは交わらないからこそ支えているようで、少し、ほんの少し胸が痛かった。 「ところで境君」 「あ?」 色は境をみるとおかしいを通り越して呆れてしまった。 たしかに並んで走っている。走ってはいるのだが境の走り方にはかなりの違和感があるのだ。 上半身が動いていない。 「お前ふざけてるのか?今頃エイトマン走法なんておっさんでも覚えている奴が限られてくるぞ!」 説明しよう! 8マン(エイトマン)とは週刊少年マガジンに1963年5月から連載された漫画、及び同作品を元に1963年11月8日から1964年12月31日までTBS系で全56話が放送されたSFテレビアニメ、およびそれに登場する主人公の名前である。 当時の小学生の間で流行ったこのエイトマン走法というのは上半身を走る時のワンシーンのような構えで止め、そのまま走る。といった極めてきもちわる・・・おもしろおかしい走り方である。 「もうしょうがないなぁ、じゃあ普通に走ればいいんでしょ!」 「ああ・・・ってお前携帯持ちながら走ってたのかよ!」 「ああ、だって腕時計持ってないし緊急だったからね」 境は手に持っていた携帯をしまい、正面を見据える。しばらくするといつもオレ達が別れる道、すなわち「分かれ道」が見え、そこには人が倒れていた。 「咲夜!」 境はその姿が咲夜だと確信を持って叫んだ。ここからだと誰かが倒れている、くらいにしか分からないはずなのに。そういえば確かここにはオレ達くらいしか人がいないはずだったな。 納得がいったが理解できなかった。 気づくまで周囲に人は存在していたと錯覚していたから。周囲に人が見えなくても、それを気にする事、気づくことができない。 近づくとそれは確かに咲夜だった。 境はすぐさま体を抱き上げると外傷を探し始めた。 「一応戦った後はあるが、気を失った原因は別のようだね」 などと冷静な判断をした。オレはその言葉に違和感を感じ、その違和感に気づくことができた。 何故「戦った」と言ったのか、どうして気を失った原因がわかるのか。 そして先ほどの携帯電話・・・。 少し考えれば簡単な事。ばかばかしく思うほど簡単なことで笑えてしまう。 境は相手と咲夜を戦わしたのだ。それも勝てるかどうかもわからないような相手に、だ。しかも自分は勝てないだの戦えないだの理由をならべて逃げたっていうのに、。 気づけばオレの右手は熱くなっていた。 境にではない。この感情はなにもできなかった自分自身に対して向けたものだ。 「おい、これからどうする?もうとっくに夜だぞ」 「とりあえず24時間開いてる店に運ぼう、話はそれからだ」 境は咲夜を肩に担いで運ぼうとしたけどうまく運べていない。境にそこまで力があるわけではないからオレも手を貸して二人で運び出した。 咲夜の体は思ったより軽く、オレが背中でおぶればもてるんじゃないかと思ったくらい軽かった。でも境の真剣な顔をみたらそんな気は無くなっていた。 影のせいで思い知った。オレ達は4人から3人になってしまったことを街灯が作る影がが物語る。 その影はまたいつもの4人に戻りたいと言っているように影が伸びていた。
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