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作品名:夜明け 作者:キョウ

第14回   14
彼女達は色達と別れてから酷く落ち込んでいた
咲夜は境から聞いたここが元の世界ではないという事に関して困惑していた。
紅葉はすでに異変に気が付いてはいたが記憶が曖昧になっている気がしていた。ただ自信がなくさっき話すまで誰にも話す事なく過ごしてきたが、境の言葉で自分のおかしい部分が形作られたと同時に不安が込み上げてきていた。  
けれど、自分の気持ちに押しつぶされることはない。
一人で悩んでいた頃とは違う。今は仲間がいるから、隣に誰かがいるから。不安なのは自分一人じゃないから、共感してくれるだれかがいるから。
そんな一人ではあるが孤独ではない事実が彼女達を支えていた。
「ねえ紅葉」
咲夜は恐る恐る訊ねた。
「どうしたの?」
「一つきになった事があるんだけどいいかな」
「何?」
二人は真剣な表情を崩さないまま歩いていた。せめていつもの別れる道まで・・・。
「あのね、さっきの話は大体わかったんだ。でもね、本当に時雨の言った通りの事と私が思ってる事が辻褄が合っていて、本当なら私達4人と紅葉が言った数人しかいないわけじゃない?」
「うん、そうなるわね」
「な、ら・・・何で私達帰っているの?家には誰もいないのに・・・」
そこで紅葉は立ち止まる。いや、止まるしかなかった。
言われてみれば本当にそうだった。
何故帰るのか。家には父も、母も誰もいない。何故こんなわけのわからない世界にいるのにどうしてわざわざ一人になる選択をしたのか。
しかも4人の他には正体不明の二人だけではなく、他にも誰かがいるという可能性もあるといった状況だったのに・・・だ。
だが紅葉にはここで一つ疑問点が浮かび上がってきた。
それは、どうして咲夜に気が付いて、何故自分は今まで気付く事がなかったのだろう、と言ったものだった。
実際色と境がこの異常に気付く前にはすでに原因まではいかなくても「おかしい」事は気付いていたはずだった。
その事は今まで覚えていた。
どうしてこんな身近な事に気が付かなかったのか。ただ「おかしい」と感じただけで何がおかしいかわからず、おかしい事が何か、と考える事を放棄してしまった自分自身に対してだった。それが本当におかしく思えてしかたがなかった。
「ね・・・・じ!・・みじったら!」
ああ、何やら耳鳴りまで起こり始めたようだ。
「お〜い紅葉様〜生きてる〜?」
気が付くと咲夜が不思議なものを見たような顔をしながら私の顔のまえで手を振っていた。
「え?あ・・・咲夜どうしたの?」
「それはこっちの台詞だよぉ、いきなり立ったまま動かなくなるし、こっちの声まで聞こえないみたいだし、もしかして色君と離れて寂しくなった?」
「ち、違うから!そんなんじゃないこともないようなあるような・・・って違うからね!ただ考え事してただけだよ、そんなこと言ってると境君に言っちゃうよ?」
「へ?」
「私の前だけ境君の事を時雨って呼んでる事・・・」
「そんなこと言って」
「言って?」
「言ってます・・・申し訳ございません、紅葉さま」
咲夜は紅くなった顔で頭を下げた。
「うむ、よろしい」
「ところで紅葉、そろそろ分かれ道だよ」
「あ、そうだったわね。でもどうしようか、このまま家に帰っても・・・」
「紅葉?」
二人の先には確かにいつもの分かれ道が存在している。だがその道にたどり着くには目の前の女性を通り抜けるしかなかった。  
分かれ道の前に佇んでいる女性は二人が自分に気付くのを察し、歩み寄ってきた。二人はただ立ち止まっているしかなかった。
二人はこの女性を初めて見るはずなのに、何故か女性を見た瞬間感じた強さが何故か酷く心に響き悲しくなった。そしてただただ泣きそうになるのを耐えていた。
それくらいその女性は切ないほど凛としていた。
そのかすかな風で乱れる髪も、どこまでも完璧としかいえないような肉体も何故か悲しい。眼鏡で隠れているが焦点が合っていないのか、それとも全てを見ているかのような眼も悲しく見える。
全てが二人にとって、何故かその女性はどこまでも自身の全てを自身の全てで補っているように見えた。
互いにの距離は大体2〜3メートルくらいまで縮んでいる。見知らぬ人と会話するには十分な距離と言えた 。
だがその距離で止めたのは会話するためではなく、二人がやっと女性の存在を認めたから歩みを止めたようだ。
「さて、どうしましょうか」
携帯のアラームが両者の間で木霊する。誰が聞いても携帯だと分か。一番最初に通話のアラームに設定されているからだ。
女性は右手だけを動かし上着のポケットから携帯電話をとりだした。
「はい・・・・ええ、分かりました。なるべく早く回収します」
回収?二人はなんの事を言っているかまるで理解できない。
だが女性は何があっても回収とやらをすることだけは理解できた。何が起ころうとも、何が障害になろうとも事を済ませようとしている。何より済ませるだけの力をもっていることがわかってしまった。
すると今度は紅葉の携帯が鳴った。この着信音は色のものだ。
「紅葉?」
紅葉は色の声を聞くと先ほどと比べかなり落ち着きを取り戻していった。だが何故今このタイミングでかかって来たのか?その事を考えたらすぐに答えがわかってしまったが、今はその答えが正解ではないと信じたい。
まず確かめなければと思った。向こうに余計な心配をかけないように平静を装った。
「やっぱり色だ。どうしたの?」
「うん、繋がってよかったよ、いきなりだけど目の前に女の人いるよね?」
「う、うんいるけどこの人あの時私達が見た二人組の一人だよ 」
「うーん、いつか思い出せないけど、今日言っていた人だね。ごめん。ってこんな話しをしているばあいじゃない。早く逃げるんだ!多分向こうは力強くでも君を連れていく気だ」
「君ってもしかして私!?」
紅葉はまるで理解ができない。何故色がこちらの状況を把握しているのか。何故忘れているのか。何故私が狙われているのか。境君の話しではこの世界での重要人物は色だと言った。もし目の前にいる女性とあの時見たもう一人が私達の敵ならば色を狙うのではないか?
「ああ、たぶんだけどね、だから早く逃げろ!」
「話はよろしい?では話し合いで済ませたいので本題だけ、長月紅葉さん、私についてきて下さい。」
もう電話は途切れていた。電話が切れたのは女性のせいなのか?と変な気さえした。
また音楽が鳴る。このメロディは・・・。
「・・・紅葉」
咲夜のメール時の着信音だ。
咲夜は携帯をみるとすこし嬉しそうな顔をしたが、内容をみるとわずかだが真剣ですこし怖い顔つきになった。この顔を私は知っている。
それは咲夜がいつも私達には見せない顔。仲間ではないものに見せる顔。敵意とその敵に恐怖心を見せないようにするときの顔。それが咲夜の精一杯の虚勢というなの強がった表情だった。
「どうしたの?」
「うん、時雨からメール、私が紅葉を守れってさ、私なら・・・私だから紅葉を守れるみたい」
「守るって、私そんなに弱くないよ、それに」
「紅葉、とりあえずここから離れててよ、時雨達もこっちに向かっているみたいだからさ、携帯で落ち合ってね」
「でも咲夜・・・」
「大丈夫だって、紅葉の言いたい事はわかるよ?でも私を信じてよ」
咲夜の言葉には確かに恐れが見えていた。しかしそれよりも発した言葉に嘘偽りがないように自分に言い聞かせているようにも聞こえた。まるで頼ってもらいたい子供のように・・・。
だからこそ紅葉はここを咲夜に任せるしかないと思った。
咲夜の力を信じていないわけではいない。それよりも目の前の女性の怖さがはっきりと肌で感じ取る事ができているから。
それはもう本能に近いものかもしれない。やってみなければわからない。戦って見なければわからないといった、不確定要素なんてものを考える前に感じたからだ。
逃げろ、と。
互いの性能を測る以前の問題だ。こちらが海に走る船だとすれば。あちらは空を走る飛行機だった。船は空を飛べないし、飛行機も海は乗れない。
すでに勝負ということ馬鹿馬鹿しく思えることだ。
負けるとか、勝てないとわかっていてもやるしかない状況下に置かれれば、逃げる事をためらうことができるのが人間だ。
紅葉は携帯電話でいつでも色に連絡できる状態にした。
「う、うん、わかった。なるべく早く戻ってくるから」
その言葉を最後に紅葉は後ろに振り向くと、自らが考えうるもっとも長い距離を走れる全速力で駆け抜けていった。


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