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作品名:夜明け 作者:キョウ

第11回   兆し。

屋上に着くと境は空を見上げて佇んでいた。他の生徒は放課後のせいもあるけれど、基本的にここは限られた生徒以外立ち入る事ができないためオレ達4人しかいない。
空には月と太陽が重なりおうとしていた。その時間まであと5分ももたないだろう。
オレの後ろに紅葉と咲夜が手を握り合っていて、二人とも不安そうな顔をしている。まあオレ自身も不安が拭いきれてないので大層なことはいえない。
全員が屋上に入ると、咲夜はその扉を閉めるとガチャンと音がした。3人とも境が話し始めるまでその場に立っているしかない。境が大事な話しと言っていたが本当に大事な話なんだろうか・・・?
いやいや、今のあいつは本気なんだ。しかも自分自身色々と調べてきたじゃないか。でも肝心な部分はやっぱり覚えてないし、調べたことの詳細は全部境が所持している。
境は自らの腕時計を見た。その姿を見て、オレも腕時計を見ると時間は15時45分だった。
境はゆっくりとこちらに振り返る。まただ、またあの時教室でみた悲しそうな顔をしていて、口を開いていく。
「今から言う前に二つ、知ってもらいたいことがある。」
3人ともうなずいた、まさに重大発表って雰囲気で何かを言う気さえ起きないのだ。
「まず、これからずっと何かあったらオレに言ってくれ。もしくはメモに書き残しておいてほしい。何があってもオレ達4人は仲間であり続ける努力をしてほしい。この二つ」
なんだかものすごく恥かしいことを言っている。でも境自身もわかっているのか顔がものすごく赤いのがここからでもわかった。
でも・・・でも本当に境の言いたい事はオレも同じで、これからもずっと仲間であり続けたいと思っている。
誰か一人でも欠けるなんて想像はできそうもない。
後ろの二人も同じ思で、境には聞こえない小さな声で「うん」と言ったのを聞いたんだ。
そして空と・・・太陽が・・・月に侵食される光景が視界に入ってきた。
境はまさにこのタイミングを計っていた。空が暗くなった瞬間に話し始めたから。
「うん、最初にはっきりさせておこう。ここは現実の世界じゃない。そしてこの世界とこの月は大きく関係している。」
「え!?」
また3人の声が重なった。
な・・・なんだって!?いや、いつもの妄言か?そんな冗談が通じないギャグないぞ?
でも、だからこそギャグじゃない話しなんだろうか。いや、思い当たる節はいくつかある。
・・・・・・・・・・・え〜となんだっけ?
あ〜忘れた。やばいな。気が付くと境がこちらの反応を無視して話し始めていた。
「この現実じゃない世界には限られた人間しか存在を許されていない。これはさっき咲夜の言っていた誰もいないように感じるって言うのがこれに当たる。で・・・だ、限られた人間ってのにオレ達4人と他数名がいるはずで、他の人間は紅葉が知っている。紅葉、話してくれるか?先週の日曜日、色は誰と話していて、誰を見た?」
そこでみんなの視線が紅葉に注がれた。境のこの言葉に咲夜とオレは心底驚いた、だって何故紅葉が?一番関係していないと思っていたかった人物が重要な事を隠していたなんてまるで思ってもいなかったのだから。
境は紅葉に質問すると紅葉は急に言われてビクッと驚いた。でもまるでそう聞かれるのを待っていたかのように話し始めた。
後ろの月をちらりと見る。月はすでに半分もの太陽を包み込んで空の半分を紅く染め上げていた。
「うん、この前の日曜日の事。商店街のコンビニで白衣の二人組を見たのを覚えてる。その二人組は男の人と女の人だった。それから・・・どこだったかな、場所はわからないけどどこかの道の隅でその二人組をまた見て、その時に通路の間から誰かがでて来たの。でもそこから誰が出てきたのかは思い出せないよ」
境は紅葉の言った事に関してかなり満足というか理解し、納得したのかこれまで以上に真剣な表情をした。
「やっぱりそうだったか。3人共、もう時間がないが最後に頼みたい事がある。これはここにいる4人じゃないとできないことだ」
もう何度目かになるかわからない3人でのうなづきと相槌をした。
4人とも真剣だったが、それでも境の後ろに見える月の侵食はとまらない。もう少し、後ほんの少しで夜に変わろうとしていた。
「オレはこの世界からでたい。いや、みんなもそう思ってるはずだ。だからこの4人で解決したいから、この四人じゃないと解決できないはずだから協力してほしい」
境はオレ達に頭を下げて助けを求めてきた。それはオレが記憶している中で始めての光景で、それは後ろの二人も同じようで動揺した。
「これからオレ達はさっき紅葉が言った二人組と街全体の調査をしなければならない、以上だ。もう・・・・時間だ」
言い終わると空は真っ暗になっていた。月が太陽を完全に多いつくした証拠であり、夜の始まりでもあった。辺りは闇につつまれたがそこまで暗くはなっていない。しかししばらくすると完全に太陽は沈み、夜が訪れる。
「境、それでどうするんだ?正直俺にはさっぱりだったんが」
「やっぱりそうか。色は何を覚えている?」
境に促されて思い返してみた・・・一つだけ思い出せそうだ。
「え〜とこの世界は現実じゃない事」
「他には?」
「境が頭を下げた事くらい?」
本当にこれくらいしか思い出せない。他にも聞いた気がするし色々聞いた気がする。紅葉も何か言った気がする。身体は、耳は覚えてる。何かを聞いたことを覚えてる。何か熱いものが身体を駆け巡った事を覚えている。でもそれだけで後はわからない。そんな何も分からない自分自身に初めて苛立ちを覚えるほどだったが、何に対して苛立ったのかもすぐ忘れ、そんな感情すらもすぐに薄れた。
「咲夜と紅葉さんはどう?覚えてる範囲でいいからさ」
いつしか真面目モードから通常モードに切り替わっていた。疲れたのか、時間制限がついているかわからない。口調がもどるとさっきまで緊張していた二人もさきほどよりは多少リラックスできていることが感じ取れた。
「んとね、とりあえず全部覚えてるよ。この世界は現実じゃないってこと、この世界には数人しかいないってこと、私達で解決しようって境が言ってくれた事、そして月が関係しているって事、あってる?」
「うん、私も思い出せるのは咲夜と同じだよ、境君どうかな?」
それを聞くと境は「よし!」と軽くガッツポーズをして喜んだ。
一体なんなんだろ?何がどうしたって?オレにはさっぱりなんだが。小首をかしげるオレを?マークをつけながら見ている紅葉と咲夜。
「二人共、色はそれでいいの。色は大体の事は覚えていられないから放置してね。それもこれから説明するよ」
境は軽く深呼吸する。右手で顔を覆い尽くしていて表情はわからない。またあの状態になり、紅葉と咲夜の方を向いた。
「教室で紅葉がオレに言った事、つまりどうして色を学校の調査から外したかというと、今見た通りにどうしてこいつだけ覚えてないのかっていうはこいつがこの世界との関りがオレ達3人より深いからだ。故にここに関する重大な事だけを思い出すことができないんだよ」
「どーゆー事?」
紅葉と咲夜は理解するのに時間がかかるのか、二人は境にさらに分かりやすい回答を求めた。
「簡単な話だ。学校を例に出そう。高校の問題を答えられる奴は高校生以上、小学生の問題が答えられる奴は小学生以上の学力が必要だ。ある問題を解くにはその問題を知らなければならない。だがそれを教えてくれる先生がいないとだれも知らないまま。そして元々知っているやつ、つまりこの世界を作った奴という答えを知っていると言うのが色、お前だよ」
「つまり境君、色はこの世界の神様と知り合いなんだね?」
「そういうこと、だからその神様はこの世界を壊されたくないからあるルールを設けた、そのルールとはこの世界に関することを記憶し続けることができない。というルールなんだ。よってこいつは答えを知っているけれど、世界の存続のために記憶を操作されている」
「う〜ん、よくわからないけど、それはこれから理解していくね。それでこれから私達はどうすればいいの?」
「ふむ、そうか。まだ話したいことは沢山あるが、今日はもう暗いからこれで解散だ」
「あの〜みなさん、お話中申し訳ないのですが。話の流れがさっぱりで〜」
境と紅葉は二人してこっちを見ると同時にため息をついた。かなり失礼なのだが、意外に話についていけてない人がもう一人。
「お、咲夜どうした?もしかしてわからない?」
するとうんうん唸っていた顔を上げるとキョトンとこっちを見て「ふ〜ん」と笑った。すいません、わからないうえにむかつくのですが。
「色君ごめんね、そこで頭でも抱えててよ」
「・・・な!」
「境、大体話はわかったけど」
「え?咲夜話しについてきてたんだ、てっきり色と一緒に頭抱えてたと思ってたよ」
「ちょま!・・・境、そこ座れ」
「え?やだよ、なんで咲夜にって!こっちこないで!お願いだからさ!グエェ!」
咲夜はニヤニヤしながら境に近づくと境の左足にローキックが炸裂。続けざまに右足にローキックが決まり見事に「正座」の姿勢になった。
「さっきはよくもあんな事してくれたわねぇ、すっごい怖かったんだから!」
「いや、でも・・・・やっぱり怖かった?」
「謝れ」
「ぐはぁ!」
正座したまま頭を殴ると今度は「土下座」の形になった。見事に拳の音でゴン、頭とコンクリの音でガン、と豪快に音がなる。
う〜ん、人間の力って恐ろしい。
「ま、まあ二人とも、今日はこれくらいで帰ろうじゃないか。はっはっは」
すると後ろから肩をポンと叩かれた。
「色、君は全然話理解してないでしょ」
「う・・・紅葉さんそれはいわないお約束」
時間を確認するとすでに18時を回っていた。続きは明日の学校の放課後になることに決まりそれぞれの帰路についた。



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