どこかで見た。そう、見たことは覚えている。そこであることが起き、それを見た事を覚えている。 そこには人が集まっていて、車が止まっていた。ここから見えるのは、茶色の見覚えのある自転車がころがっていたけど、原型をとどめていなかった。あれ?誰かが絵の具を落としたようだ。一体誰が?それともあの・・・いや、そんな事よりもどうしてこの絵の具はこんなにも匂うのだろう?絵の具のにおいだけではない、こんなにも死の匂いが充満しているのだろう? どうして死が頭に浮かんのだろうか。考えようとしても考えるができなくて困った。だったら一体だれが?一体何者が?一体・・・・どうやって?いや、まさか、オレか?まさかね。
◇ 意識というものが始まり、最初に感じたものは肌にあたる空気だった。まずこのいつもと違う空気だとすぐ感じとり、自分はどこか馴染みのない場所にいるのだとわかった。 まだほかの事はできないが頭で考える事ができるようになった (誰かいるのか?) 自分のほかに誰かいる気配を感じる。不思議な事だった。近くにだれかがいるだけで、その人がそこに存在しているだけで、人は気配を感じ取ってしまう。見てもいないのになぜかわかってしまい、少し驚いた。 意識の中に新しいものが入り込んできた。どうやら目を開けたらしい。でも眼を開く速さはゆっくりだ。それはきっと視界に飛び込んでくるものをはっきりと認識、理解するために驚かないようにするためだと思った。 この部屋はどこだ? 見なれない光景を見ると次にどうしてこんな場所にいるのか思考をはりめぐらせてみる・・・が結局わかるわけもなく、誰かがいるという事実を思い出して顔を横に傾けた。 (懐かしくなって俺は実家に入った) そこには男女二人組がいて、こっちを見て何かを叫んでいる。 こちらに向かって泣きながらこう・・・。 オレを(俺を)呼んだ。 「色取(いろと)、眼が覚めたんだね」 「ここ・・・は?」 ああ、この声はとてもなつかしい響きだ。もっと見ていたかった、話を聞きたかった、声を聞いていたかった。だがこの身体はそれを受け入れず、再び意識が途切れる準備が進んでいった。 後になって思えば、あの時呼んだ名前は本当にあっているのか定かではない。でも結局自分自身では自分の存在を証明できる要素は何一つとして持ち合わせていなかったのも、また事実だった。
こうして、オレはひさしぶりの心地いい朝を迎えた・・・。
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