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作品名:復讐者 作者:キョウ

第7回   平凡
「はははっ」
 自然と笑ってしまう。知らない人がみればきっと気味悪がるだろうが構わない。オレは今日この日をどれだけ待ちわびたことだろうか。
 五年。そう、あの年からずっと出ていなかったこの日をずっと待ちわびていた。
 先週のことだ。昼のワイドショーを見ていたのだが、その合間のCMでオレは驚きを隠せなかった。
 あの・・・あのグループの新曲がついにリリースされるというじゃないか!これはもう買うしかない。買うべきで買うことを決定し、買わなければならない。もう買う!買ってしまうしかオレには選択肢は残されていない。そうしてオレはCMを見た後、自転車をかっとばしてCDショップで予約をした。しかも!予約特典でシールがついてくるというじゃないか。なんて幸運、なんて幸福。ああ、神様。オレの高校生活にようやく光が差し込んできたみたいだ。

 あれはそう、先月のこと・・・・。
「合わないね」
 登校早々屋上に呼び出されたオレは、半年付き合った彼女から爆弾発言を食らった。あまりのショックに一日中授業をバッくれて屋上からグラウンドの花壇を見つめていた。そうして心を無にし、必死に少しずつ受け止めたおかげで、なんとか持ち堪えていた。飛び降りることもなくなんとか持ち堪えたさ。偉いだろう。
 でもその翌日。オレを振った子がオレの親友の翔と一緒に登校してきたとき、オレの何かが崩れ去った。彼女にじゃない、翔に対してオレは怒りや悲しみを通りこして絶望した。そしてオレは携帯のメモリーを全て削除した。
 くそっ。一回くらいやっておけばよかった。だからオレはまだチェリーなんだな。
 そんな人間不信に陥ったどん底から救い上げてくれたのがあの一つのCMだった。
 少々疑問などが残るがまあ結果オーらいだ。これから新しい人間関係を気づいていけばいいんだから。このCDと共に!
 矢でも鉄砲でももってこいやぁぁ!
 オレは、CDショップのドアを手を触れずに開けることに成功した。
 自動ドアだった。
 ウィーン(WIN)。
                     ◇
 「なあ良一」
 昨日買ったばかりのCDを早速ウォークマンに入れて昼休みにこのすばらしき音色を謳歌していると、親友“だった”翔がオレに声をかけてきた。
 聞こえているけれど、オレはイヤホンをしているから無視することにした。
「おい、聞こえているんだろ」
 ふん、当たり前だぼけぇ。無視だ無視。
「おいっ!聞けよ!」
 無理やりイヤホンを奪い取る。宙をまうソ○―のイヤホンは軽やかに揺れている。いや、イヤホンの機能じゃないけどな。だがさすがソ○―。ここまで技術が進歩したというのか。賞賛するぜ、全くな。
「で、なんだよ」
「ちょっとこいよ。すぐ終わるからさ」
「トイレか?」
「まあそんなところだ」
 かっこつけているのか、ふっと笑って教室をでていった。
 バイバーイ、と手を振って見送った。さて、次のトラック聞かないと。
「おまえも来るんだよ!」
 格好つけて出て行ったあと、半べそで戻ってきて叫んだ。なんだ、ついてきてほしかったのか、じゃあ先にいえってんだ。オレはエスパー伊○じゃあないから考えなんてよめないぞ。
 さて、ここで事情がさっぱりわからない諸君に説明してあげよう。中学からの付き合いでオレと一番仲がいいこの中川翔(なかがわかける)はいわゆる「親友」と呼ばれる存在だった。まあそれも過去の話さ。フッ。
 そんな翔のことを説明するのははっきりいって面倒極まりない。だからオレが定めた翔キーワードを紹介するとしよう。これだ、オ・カ・マ。
 勘違いしてはいけない。これはオレのためではなく、翔のためにだ。まあ翔が全校生徒に勘違いされてもいいと思っているやつは思う存分勘違いしてくれ。
 瞬間で横道にそれたな。じゃあ意味を教えよう。
 大きい、カレー、マザコン!この頭をつなげてオカマだ。
 以上、中川翔君についてでした〜。

 「着いたぞ」
 「おい、どこがトイレだよ」
 昼だというのに、空気は冷気を孕んでいてとても寒い。周りの木々の寂しさが、よりいっそう寒い気持ちにさせる。翔につれられてきた場所は、そんな校庭の隅にある林だの奥だった。このスペースは学校中でとても有名だった。主に男女の関係においてだ。
 「お前に会わせたい人がいるんだ」
 そういうと、翔の後ろからどこかでみたことがある女性とが現れた。
 大体予想はしていたとはいえ、まさか本当に会わせるとは思っていなかった。相変わらず翔はバカだ。きっとこの子とオレの関係なんて全く知らないのだろう。そうでなければ会わせたりなんかしないはずだ。さて、一体どうするかな。オレはかなり混乱しているし、彼女もうつむいたまま黙っている。
「初めまして。相田真穂です」
 意を決したようにいうと、オレはさらなる絶望を味わった。
 振ったあとにこうして現れるだけでなく、オレとの出来事をまるでなかったかのように振舞ったのだ。今ここでそれを承諾してしまったら、この半年間は一体なんだというんだ。オレが彼女にあげた気持ちも、彼女にもらった優しい気持ちも何もかもなくそうとするならば、あの気持ちは一体なんだというのだろう。オレは今どんな顔をしているのだろうか?泣きそうなのか、それとも・・・。
「翔、それだけか?」
 自身を守るために冷たい言葉を発した。
「あ、ああ。お前にだけは言っておきたかったんだ」
「そうか・・・うん、そうか。じゃあオレはこれで」
 グチャグチャだ。体も心もグチャグチャだ。歩き方を忘れたかのような足取りで教室にもどった。でも、どうやって戻ったのか覚えていない。ただわかるのは、先週買ったCDの音色だけが耳にひどく残った。

 そんな人生最大の屈辱と悲しみを味わった放課後、携帯電話がなる。開くと登録はされていないが、みたことがあるアドレスだった。そこにはこう書いてあった。
「ゴメンネ」
 オレにこれ以上なにを望むのか、さっぱりわからない。勝手に振っておいてあのときの気持ちをそのままにしておいたオレも悪いのかもしれない。でもいまここでさらに追い討ちをかけないでほしかった。オレが一体なにをやったっていうんだ。
 もう・・・オレを振り回さないでくれ。


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