20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:復讐者 作者:キョウ

第5回   違反
「・・・はあ」
 一回ため息をついただけなのに、私の何もない部屋にはやけに大きく聞こえた。
 とはいえ、疲れているのは本当だ。つい数分前にはセンパイの部屋で・・・これはさすがに思い出すのも恥ずかしい。でも確かにあったんだと実感できる。実際嬉しかった。セックスなんてもう5年以上やっていないから、あれは新鮮ではあった。まあそのこともあるのだけど、寝不足とか、事後処理なんかで疲れた体に鞭打って色々と動いたせいで、やけに体が重い。
 着ていた服や下着を洗濯用かごに放り投げて新しい服に着替える。
「うーさむっ」
 確か今日は一日オフのはず。ここ最近は任務の数がめっきり減っているから珍しいことではない。魔女達の件が終わってから早三ヶ月、昨日のように思えるほど刺激的な毎日ではあったが、こうして終わってみるとじつにあっけないと思った。
 あの件で負傷者はたくさんいたけれど、死んでしまったのは私一人だった。他の人は私のことは知らなく、知っているのはお嬢と光さんとセンパイだけだ。それでも私だけ、というのがどうも引っかかっている。それでももう終わったんだ。
 いまはこうして平和で静かな毎日を満喫することが最良の選択だと思う。
「これでいいかな」
 簡単にジーンズとシャツの上にカーディガンを羽織った。さて、今日はどうしようかな?と思っていると、ふとセンパイの顔を思い出す。急激に顔の熱が上昇するのがわかった。次会うまでのどうやってこの気持ちを受け止めようかと考え、一つ問題点が残っていることを思い出した。
 私は、ルール違反をした。一言で言えば、館とお嬢についてだ。別にセンパイとのことはいいのだ。しかし、どうして性別ごとに館が分かれているか私は知っている。それは、鬼の生態に大きく影響している。元々繁殖能力がないというのは、多少違う。繁殖能力が低いことよりも、その行為自体が危ないからだ。私も徐々に完全な鬼に成っているから実感している、人間の三大欲求が変化していることに。眠欲、食欲、性欲の三つに、殺欲が加わっている。それは、眠欲以外と深く関わっていた。そして、性行為、つまりセックスをしているときは、眠欲が眠っている間食欲が殺欲をバックアップしてしまう。最悪その欲求というか衝動に負けてお互いをお互いが食らい尽くしてしまうからだ。特に男性にそれは色濃く受け継がれているが私とセンパイはまだ人間の部分が残っているからその心配はしてはいない。だから、なるべく事後の証拠となるものを残したくないのと、私があの館にいた形跡を残したくなかった。
 でもこれで心配ごとはただ二つだけになる。そう、お嬢だ。お嬢の目がどこに向いているからわからない以上、これ以上の行動はかなり危険だ。もし、お嬢がこのことを知ったらと思うと、ぞっとする。もう一つは私だ。体自体は疲れているけれど、心はもうハッピーそのものだから、うっかり漏らしてしまわないように細心の注意が必要になる。
 センパイ?大丈夫、すっごくにぶいから。
(ん?)
 窓の外に何か黒いものが見える。はは〜ん。またこんなこして、悪い子だな。隠れているつもりなのだろうか、自慢のポニーテールが隠れていないっていうのに。
 わざと足音を立て、あたかも窓に用事があるように近寄り
「この覗き魔―!!」
 窓を勢いよく開けた。
「キャーー!!お、おちっ!落ちるぅい!」
 まさかばれているなんて思いもよらなかったのか、千早ちゃんは驚きのあまり、落ちそうになる。はしごからね。とはいってもまさか梯子を作ってまでこんなことをするほど暇なのだろうか。すこしあきれてしまう。
「なにくそぉぉぉぉぉ!」
 混乱しながらも体制と立て直そうと奮起する。両手に新たな棒を作り出し、なんとか踏みとどまると、まるで昔遊んだ竹馬のようにもとの位置にまでもどってきた。頼もしいなぁ。
「さ〜て、言い訳を聞こうじゃない」
 パキパキ・・・バキバキと指を鳴らす。
「ちょっと七ちゃん!?まじで怒っているの?あっあ、わかった。わかりました。今から言い分けさせてください」
「正座」
「ここで?」
 覗き魔は私が指をさした方向を見る。そこには梯子しかない。
「正座」
 反論は認めません!と言わんばかりに千早ちゃんを言い伏せる。すると、あっさりと、素直に言うことを聞いた。さて、どうやって梯子で正座ができるか・・・答えは梯子を二つよういした、でした。器用だねぇ。
「それで?どうして覗いていたのかな?正直に答えたらぶつのをやめてあげましょう」
「え!?答えても怒るの!?」
「そりゃあもちろん」
 にっこりと満面の笑顔で答えると、千早ちゃんの顔からさーっと血が引いたような顔をした。
「あーそういえば、お嬢が〜」
「嘘つかない!」
「きゃぁぁぁあああぁあいやあああぁぁぁ!」
 きっとこの叫びは東館全体に聞こえたのかもしれない。でもまあ、本当は怒ろうなんてこれっぽっちも考えていない。まえに私と先輩のデートの最後の一押しをしてくれたのが千早ちゃんだったから。
 さて、怒らないけれど、少しはお灸をすえないといけないな。一体なにしてあげようかな〜と考えているうちに、神楽さんがやってきては私と千早ちゃんをいじっていったのはすこし余分だったかもしれない。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 5137