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作品名:復讐者 作者:キョウ

第25回   任務
 籠原煌と戦闘という名の殺し合いを始めた吸血鬼の名前は命(メイ)というらしい。やっぱり元鬼のようだった。
 オレ達のような特別な鬼を除けば、通常の鬼(鬼自体が特別だが)には苗字がついていない。
 お万や経若丸のような意図して生まれてきた鬼を除けば、ガイさんやランさんのように基本的に二文字の名で構成されている。さすがに理由は知らない。
 そして、苗字が付いているのは管理人を含めた15人だけとなっていた。
 そんなただの鬼であったはずの命はいまや吸血鬼。血を吸う鬼。
 果たして十字架は効果があるのか?
 銀を恐れているのか?
 太陽を恐れているのか?
 果たして変身できるのだろうか?
 霧になることができるというのは本当だろうか?
 きっと今なら全ての人間が嘘だと主張しても信じてしまうのだろう。
 なんたって今のオレ自身がそんな想像から創造された超常現象なのだから・・・。

 さて、鬼の残骸から形成された吸血鬼である命は今現在その存在は四等分されている。全員同じ長い黒髪。全員同じ服装。全員同じ赤い両眼。
 オレには本物と偽者の区分なんてできるはずがなかった。
 なるほど、さっきの攻撃は籠原に対してではなく自らに対してだったのか。ならばあんなややこしい攻撃をしたことに合点がいった。広範囲で、視覚を奪い、行動力を制限させるようなことをしたのは今の状況を作りだすためだったのか。
「本番、スタート」
 四人の命は同時に言い放つと、また同時に両手を交差し、言語を発した。
「アウステル」
 疾風が三人を包み込む。
「内なる願望」
 三人の頭上に巨大な水槽が浮かび上がる。
「蘇亜」
 三人の両腕に鉄製と思われる腕輪が出現した。
「・・・・」
 オレの耳には声が届かなかったが、確かに何かを喋ったように見えた。それとも早すぎて聞き取れなかったのか、どちらにせよわからなかった。
「素晴らしい」
 四人にわかれただけではなく、その四人が同時になにかしらの力を発したにも関わらず、籠原と神楽光は素晴らしいと評価した。一体何がいいのかさっぱりだが、そんな評価をしてもいいのだろうか?油断こそ最大の敵だというのに。
「臆すな」
 今日初めて籠原が動き始める。ゆっくりと近付いていくと、手に持っていた大剣が二つに割れた。
 軽いという表現では表せないように、重力を感じさせないほど軽がると振り回す大剣。二つに割れて双剣にすることができる自在の大剣。まさかと思うがオレには一つ心あたりがあった。
「お嬢、あれってまさか」
「ええ、私が与えた魔剣ですが」
 お嬢は未だ無表情を崩していない。
「籠原自体が強いのにさらに強くしてどうすんだよ」
「確かに私が与えましたが作り出したのは籠原の管理者です。あれはあなたの持っている魔刃とは似ているようで全くの別物です。いい機会ですからじっくりと見ておきなさい」
「なんだ?それじゃああの吸血鬼が負けるって?」
「さあ、どうでしょうね」
 む、と思うが普通に考えればオレも同感だ。たしかにあの吸血鬼は強い。どんな魔法を使ったかは知らないが、四人に分裂し、その四人全員が全く違う属性の力を付与している。
 ん?魔法?
 自身の頭によぎった単語に疑問を覚える。
 でも・・・まさか・・・いや、まさかね。
 ドン!と籠原が急に真横に飛んだ。一直線に命に向かっていくその姿は鷹のようにさえ思える。
 (あれ?)
 籠原が向かっていくその先には三人の命がいる。四人ではなく三人。では一体最後の一人はどこに行ったというのだろか?
 籠原もそのことに気がついているだがお構い無しに三人のうち一人に切りかかる。
 命は籠原の双剣を拳で難なく受け止めた。
 拳・・・だと?まさか素手で魔剣に対抗できるのか?いや、違う。あれは素手ではない、剣戟がぶつかるその刹那、剣は命の拳が当たる寸前で金属音が鳴り響く。どうもあの鉄製の腕輪が関係しているのではないかと思われる。理由はないけれど、ただそう思った。
 ある命と拳が交わるとき、電流が襲い掛かる。
 ある命と拳が交わるとき、風が助力する。
 ある命と拳が交わるとき、水が保護している。
 ある命と拳が交わるとき、籠原は命を圧倒していた。
 命がどんなことをしようとも、籠原は力で粉砕していた。三人の命が同時襲い掛かろうとしても、籠原は無表情のまま応戦していく。
 激突するたびに衝撃がここまで伝わっている。オレがいうのもなんだが、命の身体能力はどこからどうみても通常の鬼と同等か、もしくはそれ以上だ。流れるような通常動作もさることながら、三人同時でようやくこじ開けた籠原のわずかな隙を突いた重い一撃も全てが鬼のそれだった。しかも生まれたときから鬼だったせいか、オレなんかよりもずっと体の動きや、戦闘時における全体的な動作に無駄がない。
 だがそんな命を籠原は上をいく。激突時を見る限り単純な腕力だけなら命と同じくらいだろう。だが、フットワークが尋常じゃあない。
 流れるようなとか、激しいとか、そんな曖昧な形容は言い表すことができない。ただ速く、軽い。特に驚くべきところがあの剣撃だ。命の不思議な拳との衝撃時、ぶつかったということは必ず一度は静止する。そんな当たり前のことを籠原は行っていない。いや、この表現はおかしい。なぜならば、動作といわれる、動くという概念には必ず動き始めと終わりが発生する。これはもう確定だ。そしてこの二つには例外なく静止、つまりその場に留まろうとする慣性の法則が発生している。それは動いてからも同義。しかし籠原はその動作がまるで見えていない。いつ右回転したのか、いつ左回転に変化したのかわからない。いつ止まったのか、いつ動き出したのか、まるでわからなかった。
 0と1しかなかったのだ。
 ゆえに籠原は三対一という絶望的な状況を苦もなくこなしていた。
 とはいったものの、この状況を作り出しているのは間違いなくあの魔剣だ。いくら籠原が速く動いたとしても、物理法則を無視しても、元から外れている攻撃から逃れる術はない。風や、雷といった瞬間速度だけで言えば確実に逃げ切ることなんかできはしない。そんな出来事をクリアしているのがあの魔剣だ。ここからでもはっきりとわかる。 あの魔剣で全ての力を切っていた。それこそ全てを・・・。

「そろそろよろしいでしょうか」
 お嬢を除く全員が振り向いた。
 声から察したとおり、そこには命がいた。命の横には大きな闇が出現していて、再び銀髪を担いでいた。
「天野零。あなたが連れて行きなさい」
「ああ?なんの話だよ」
 全く、意味がわからない。オレはそこまで感が鋭くないから必要最低限の単語を並べられても困ってしまう。
「朽木良一を人間世界に帰してあげればいいのです」
 朽木良一・・・それがこいつの本当の名前か。
「帰すっても、こいつはもう人間じゃないんだ。なら人間社会に戻したところでこいつに居場所なんかない」
 そうだ。オレと同じようにこいつはもう人間じゃない。だからこのままあんな場所に戻したって意味がない。それどころかあいつらのいいようにされるのが眼に見えている。
 そんなことお嬢はわかっているはずなのにどうしてこんなバカなことを言ったのだろう?それともお嬢には何か考えがあってのことか。
 オレの疑問に答えるようにお嬢はある人物の名前を呼ぶ。
「更科七」
 名前を呼ばれると、七は文句一つ言わずに足を前にだした。
 七?どうしてこいつが?七の能力は戦闘程度にしか向いていない・・・ああそうか、お嬢が何か仕込んでいるのか。
「もう、しょうがないなぁ。お嬢、これでチャラだよね?」
「帰ってきたら・・・ね」
「りょーかい」
 お互い顔をみずにそんなやりとりを交わした。なんだか知らないが、いつのまにか二人は仲良くなっていたみたいだった。
「まあいいけど。もしこいつが拒否した場合は?ああ、殺せばいい分けね。じゃあ七、行こうか。それと、命・・・だったか。そいつを寄越せ」
 ほれ、とオレは腕を伸ばしたが、一向にこいつは朽木良一と呼ばれた吸血人を渡そうとしない。それどころかオレに対して敵意をむき出している。両目もまだ赤い。
「あなたが、天野・・・零」
「なんだよ」
 丁寧に敵意を敵意で返したのに命の視線はオレを通り越していた。むかつくな。
「紅葉様。本当に信用できるのですか?」
「心配なさらずに。人間にとってそれが一番信用できる鬼ですよ。最も鬼から離れ、もっとも人間が理解できない鬼。そして最も人間に執着している鬼ですから」
「・・・だそうだ」
 お嬢の言い方にはすこし苛立つが、まあ“一番信用できる”の部分は素直にうれしい。だから今回は特別にお嬢の指示をすんなりと受けることにしたのだ。
 それがいくらわけがわからないことだとしてもだ。
 命はようやく納得したのか、突き出した腕に銀髪を乗せた。
 すこし重いがこの闇を通りすぎるまでの辛抱だと考えればそうたいしたことではないだろう。
 そういえば、この闇・・・何かに似ている。鬼道ではない、もっと前、もっと別の場所で・・・。そうか。
「預かるよ。ところでお前のその力、すこし前に見たことがあるな。教えて・・・くれないのね」
 力という単語を口にした瞬間、全身に重圧がかかった。どうも触れてはならない部分だったようだ。
「さて、じゃあ行くか」
 七、と呼ぶとオレの後ろをとことこと付いてきた。ふむ、まだオレの言うことは聞くのか。

 殺してしまえばいいはずの死者をどうして人間のもとに帰すのか?籠原と命の戦闘の行方。そしてオレ以外の全員が知っているこの状況の結末。
 などなど、オレは後ろ髪引かれる思いで闇をくぐりぬけていった。
 まあいい。まあいい。と物事に対して何回興味をなくしたのかわからないが、それもまあいい。
 別に死者の行く末なんてもとから興味なんてなかったのだ。死者に関わったところで生者が生き返るわけではないからだ。
 そう、オレはまだ引きずっている。もう人間に戻ったり、あいつらの助けをしようとは思わないけれど、手が届く距離にあるのならば手を伸ばしたい気持ちにはなったりするのだ。
 さて、久しぶりに人間の味方でもしましょうか。
 前回は完全に世界と自分のために戦ったのだから今回は人のために行動するとしようかな。
 あーダルイ。


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