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作品名:復讐者 作者:キョウ

第18回   追跡
 一歩、また一歩と足を踏み降ろすたびに、木製軋む独特の音が聞こえる。灯りは両脇に一定間隔で灯る蝋燭のみ。木製の建物に、火の光源はまるで、文明開化以前を思わせる。
 現在は私たち“管理人”が住む北館の地下5階。とはいっても、地下室があるのはこの階層のみ。地下に続く階段は一直線にここまで続いていた。
 通常ならばここにくることはまずない。来ることがあったとしても、あのお方の許可を取っていた。今回を除いては・・・。
 この事件は不可解な部分が多すぎる。街の異変。ぽつりぽつりと増えていく犠牲者。犠牲者の体に残る胸の傷跡。天野零と交戦したあの者たち。そして一番不可解なことは、あの方がどうしてあの許可を出したのか。
 (全ての鬼を使用する許可」
 これだ、これが一番おかしい。今までは私の管理する鬼、天野零、更科七、朝倉千早、獅堂暁、この四人で解決できない場合、もしくは適さない場合のみ他の鬼を使用していた。しかし今回は、今回だけは違う。何もわかっていない状態から全ての鬼を使用してもよいという条件。
 (思い違いでなければいいのですが・・・。)
 やっと目的の部屋にたどり着いた。ドアではなく襖。木のこすれる音と共に襖をゆっくりと開けた。
「これは・・・一体」
 五十畳はあろう広い部屋。その中心には、部屋全体を巻き込んだ繭。部屋には繭の一部があちこちに散乱している。それは、繭の中にいたものが外に出ている証拠。そしてそして、繭の一部と同じく部屋に散乱していたのは、大量で多種にわたる酒瓶だった。
 思わず生唾をごくりと飲む。心臓の鼓動がとても早い。おかしい。まだ先の話ではないのか?あのお方の復活は数百年かかると踏んでいたのだけれど、この事態は非常に不味い。確かに、ヴァルプルギスの夜を手に入れたため、五百年ほど復活が縮まるとは言っていた。しかし、これはではまるでだまされたようなものだ。
 それにしてもおかしいことがある。この部屋の出入り口は一つ。北館の地下室に繋がる階段ただ一つ。私は三日前を除いてここ数ヶ月は北館から外に出ていない。もし復活したのならばすぐ気が付くはずだ。ならば一体いつ?まさか三日前?いや、どうだろう・・・考えられなくもないけれど、あまりにも都合が良すぎる。あの時は天野零の暴走を感知したから出向いただけのこと。鬼の暴走はいつでもいつまでも突発的で、誰も予想はできない。でももし天野零を暴走・・・いや、誰でもいいから鬼を暴走させ、私を北館から出すために仕組まれたことだとしたら?
 思い切って一歩、部屋に足を踏み入れる。力の残骸が未だに色濃く残っている。ということはまだ復活からそう日にちが経っていないことになる。ふと、力の残骸が一つではないことがわかった。
(やはりあの方の目的は・・・)
 私は簡単に部屋を見渡し、この場所で起こったであろう出来事をできる限り調べ、部屋から出て行った。
 階段を上り戻る際、珍しく吐き気が私を襲い続けた。やっと地上にたどり着いたときには、汗がびっしょりと気持ち悪いほど出ていた。

                      ◇
 事件の依頼を任せてから早一週間が過ぎようとしていた。朗報はただの一つもない。天野零の暴走以来、何も変わってはいない。つまり、被害者が増え続けている、とういうことになる。実は、経若丸とお万に暗躍してもらってはいるけれど、これも収穫といえるほどの情報はない。
 たしか、神楽の報告によれば、天野零の瞳は片側だけ青眼に変化していたという。暴走時に片目だけ変化するというのは予想外でしたが、蒼眼に変化するのは文献と通りだ。眼が青く光るのは、異常な鬼である証拠。そして、このケース当てはまった鬼は過去から現在にいたる鬼の歴史の中でも三人しかしない。そう、純粋な人間が鬼に成るという極めて稀な存在。
 さらに、天野零は使える能力が増えたことも予想外。法則というものは基本的には存在しないけれど、一般的に鬼に与えられる能力は一つ。神楽光や秋葉空のようにすでに完成された絶対的な能力を持つ鬼。獅堂や桐ヶ谷のように能力自体が本人と同化している鬼。そして、天野零のように能力が成長、または近似能力の増加する鬼。これは稀に見るケースだ。また、天野零以外には、更科七もこれにあたる。
 ふと、天野零という存在に疑問を覚える。
(希少な出来事が重複しすぎている)
 一旦思考を停止する。天野零が私たちを裏切ることは、はっきりいってありえない。彼にはここ以外帰る場所なんてどこにもありはしないのだから。
 空を見上げると、丸々太った夜空の王者が悠々と、その姿をあらわにしている。
 あれは一体なんだろうか?月に、黒い染みのようなものがぽつぽつとある。
「お嬢、いるか!?」
 ドアを勢いよく開けたのは、私の直属の部下である経若丸(つねわかまる)だ。彼は肩で息をし、いつものような変な発音をしていない。さて、ということは・・・。
「敵襲ですか。あなたは、すぐさまお万と合流、そして十二鬼将を呼びに行かせなさい。伝令をすませたら、ガイのところへ行き、羅城門の封印と他鬼の下位への非難を」
「お、おう。」
 私に報告しにきたというのに、自体をまだ把握していなかったらしい。これではまだ安心できない。彼がこうならば、他に残っている者はさらに混乱していることだろう。
さすがの経若丸も驚いたのか、思わずたじろいだ。だがこれは非常事態だ。はっきり言おう。ここは、この場所は、襲おうなんて考えようとも思わない場所だ。なぜなら、結界によって、存在すら知られないようにしているのだから。だが現に今こうして、何者かがすぐそこまで迫ってきているという事実は飲み込まなければならない。よって、これを全力で排除しなければならないのだ。
「急ぎなさい!」
 机を叩きながら怒鳴ると、すぐさま部屋を出て行った。
 そして、経若丸と入れ替わりで北館の給仕の者が入ってきた。
「お嬢様!」
「今すぐこの館にいる使用人全員を“下位”まで非難させなさい」
「は、はい!かしこまりました!」
と、彼女もまたすぐさま駆け足で部屋をでていってしまった。
 さて、私も出向くとしよう。 
 もう大体わかってしまった。この襲撃も、今回の事件のことも、さらにあの時天野零と交戦した者たちの正体も。全て繋がっているようで実は何も繋がってはいない。これはたった一つの出来事を起こすためだけに仕組まれた事件。つまり、繋がっているのではく、全にして一。全体でみるならば、ほかの事件やあの者達は全てたった一つのできごとの要素でしかない。
 この館にあの方の気配は感じない。さらに範囲を広める。
 ・・・・。
 だめだ。この領域内にもいない。ならば、一体どこに行ったというのだろうか?だが私ではあの方を前にしてはなす術もないだろう。未だ未完成な私にとって、すでに完成したものに遠く及ばない。

 とりあえず、一番近くに掛けてあったコートを羽織、部屋をいつもどおりにでた。
「さて、まぬけな復讐者でも見物に行きましょうか」


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