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作品名:復讐者 作者:キョウ

第16回   邪魔
 誰もが自分が正しいと思っている。誰もが成功したいと思っている。誰もが報われたいと思っている。
 しかし、そうじゃないやつもいる。
 自分が間違っていると理解したうえで間違った行動をとるやつ。悪いと思っていながら悪いことをするやつ。
 そしてこいつは悪そのものだ。人間の悪を肯定し、それが自身の役目だと思っている奴。罵り、踏み潰し、絶望させる。狂っているやつは、自身を狂っているなんて思っていない。なぜなら、自分のとった行動を、肯定してくれるやつがいるなんて、本気で信じているからだ。だがこいつはさらにその上を行く。自身の行動に意味を求めない。だから、他人を求めない。ゆえにこいつは完成している。個としてすでに完結しているのだ。
 それが、桐ケ谷 冬至(きりがやとうじ)という存在。
「お前、なんでここにいる」
 敵意を殺意で返す。だがこいつにそんなことをしても威嚇にすらならない。
「邪魔だ」
 赤い鎌を振るう。鎌からは鎌同様、赤い液体が飛び散った。液体は宙で針状に変化し、オレを、そして銀髪を襲う。無数に、そして無限とも思える乱射はまるでマシンガン。誰でもいいから死んでくれ、そう言っているようでもあった。
 すかさず能力を発動。速度はもうどうにもならないから、針状に固定しているはずの力を奪う。しかし、液体に戻ることはなかった。
 どうやらすでに凝固してしまったらしい。硬さと脆さはないからあれ自体には大した威力はないが、そのあまりある速度のせいで威力は十分。ゴム弾程度の威力はあるとみると、命中時にダメージは残ってしまうだろう。
 オレは奴の能力を知っている。
“血”それが桐ヶ谷冬至の能力。手に持っている鎌を形作っているのも血だ。血を操り、血を支配する奴は、オレ達12人の中でもっとも狂っている。ゆえにもっとも殺人衝動、すなわち殺欲旺盛すぎるのだ。
 そんな奴だから危険度だけで言えば、あの神楽光や獅堂暁を勝るだろう。
 そして
「桐ヶ谷、お前・・・」
「盗鬼、その吸血人をよこせ」
 桐ヶ谷はオレの力の正体を知っている。だからやつとオレとの距離はオレの能力圏外にいる。
 ん?吸血人といった?それは一体なんだ?吸血鬼とは違うのか?そもそも何故お前がこいつのことを知っている?
 振り向くと、手をついてなんとか倒れそうなのを耐えている銀髪。その周囲には血が液状になって飛び散っていた。そうか、炎ならば固体は液体は還るのか。
 とは言っても、桐ヶ谷の実力と危険度を無視したとしても、銀髪はこちらを敵視し続け、逃げようともしない。でも殺される気もないようだった。
「テメェなんかにやれるかよ。消えな」
 銀髪を背に桐ヶ谷と対峙する。機会があるならば、オレですら殺そうとするやつだから不用意に背を向けるわけにはいかない。だが、ここで桐ヶ谷に獲物を横取りさせるわけにもいかない。
「そうか」
 コートから赤い液体の入ったビンを取り出し、上空へ放り投げる。
「血で血を流せ」
 上空にあるビンが真っ二つに割れる。液体はオレ達の上空を落ちることなく広がり、血の雨を降らせた。だが、その速度は先ほどと同様、すさまじい勢いで降り注ぎ、打撲になりそうなほどの激しい痛みに襲われた。
 これではオレの能力は関係ない。ただ速度を向上させているにすぎないのだから。
「があぁ!」
 後方で銀髪の悲鳴があがる。振り返ると、血という名の弾丸から身を守るための腕が、数箇所にわたり穴が空いていた。オレは能力でこの雨の真の威力は発揮させていない。しかし奴とは能力も、体の作りも違うのだ。身体能力が同等だとしても、強度まで同等とは限らない。
「な、なめるんじゃねぇ!」
 腕が炎を纏い、体全体から炎を発する。まるであいつ自身が燃えているようでもあった。銀髪の全力と思われる炎はすさまじく、熱がここまで届いている。その威力は降り注ぐ血を到達するまでに全て蒸発させ続けた。
 血の雨が降り止むと、銀髪は力を使い果たしたのか、その場に倒れこんだ。
 奴の周囲にはおびただしいほどの血。まるで奴自身の血のようでもあった。
 何かがオレの横を通り抜ける。
 赤いコート・・・桐ヶ谷!
 あの野郎、本当にオレを無視しやがった。しかも銀髪は瀕死の状態だというのに、オレには桐ヶ谷の銀髪に対する殺意が気持ち悪いほど伝わっている。
 桐ヶ谷を止めようと、足を一歩踏み出した瞬間。オレと銀髪との間に一本の雷が落ちた。桐ヶ谷はかろうじて回避したらしいが、衝撃と電流の範囲の広さによって吹き飛ばされている。
 ふいに空を見上げるが、雲ひとつなく、半月がただそこにある澄んだ夜空がそこには広がっていた。
 「急にいなくなったと思ったらこんなところにいましたか」
 またしても新たな奴がこの場に舞い降りた。
 腰まで伸びた黒絹の髪、闇に紛れるような漆黒のスーツ、全てを飲み込む暗黒のサングラス。あのビルに銀髪たちといた女だった。女の右手には鉄の腕輪がはめられ、腕輪からは眼に見えるほど多量の電流が流れていた。
 落雷を思わせる電流のせいか、オレの頭はひどく静かだ。だが、どうしても物事をかんがえようとはできない。動機は激しく、眼は無意識に見開き、ナイフを持つ手が熱い。
「はははっ!なんて幸福な瞬間だろう!一度に二つもの命を奪えるこの幸福。うれしすぎて、楽しすぎて気が狂いそうだ。ああ、悲しいなぁ。悲しいよ」
 側面から桐ヶ谷冬至の狂った笑い声が聞こえ
「とにかくこの場を離れますよ」
 正面からは女が銀髪の肩を持ちながらこの場を離脱しようとし
「センパイ!」
「桐ヶ谷のくそったれ」
「姉さん」
 オレをセンパイと呼ぶやつ。舌打ちをしながら文句をたれるやつ。シスコン野郎。そんな三人組はいつのまにか後方に迫ってきていて
(我慢するなよ)
 内部からの囁きをトリガーに、オレの沈下していた思考が再び動き出す。
「どいつもこいつ黙ってろぉ!オレのぉ邪魔すんじゃねぇぇぇ!」
 咆哮した。もう我慢できなかった。どうしてこいつらはいつもいつもいつもいつもいつも!毎回毎回毎回毎回!オレの楽しみを奪っていく!
 奪って、盗んで、与えて、また奪って。一体オレにどうしろと言うのか!
 オレを慕う七も、オレに命令するお嬢も、オレと戦いたがった銀髪も、みんなみんな、ハルオのようにオレの一部になってしまっていいっていうのか?
(そうだ、それでいい。こいつはプレゼントだ)
 もうこの声なんかどうだっていい。
 オレはオレのやりたいようにするだけだ。
 そうしてオレは一番近い距離にいる狂った鬼に向かって突進した。
 他の鬼とは異なる眼を光らせる。
 右目に青い、碧い、蒼い光を宿らせて天野零は暴走を開始した。



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