ぽっかりと開いた天井。ここから上の階が見え、そこには特別なそれ達が4人もいた。 「死者に恐怖を抱かないなんて、本当にあの子の言う通りに普通の人間ではありませんね」 艶やかな声色。腰までありそうな髪型にスーツを着たのは、4人の内ただ一人の女性だ。 「どっちでも構わねぇ、こっちはただ喰うだけだからなぁ」 この標記な声はさっき喋った奴だ。声のイメージ通り、金髪にこいつもスーツ。まるでふざけたホストだ。 オールバックにダークコートの男とジーンズに銀髪にフードに銀色のファーがついたジャケットを着た男は何も言わない。両者は黙ってこちらを見続けている。 こいつらの共通点は二つ。黒色系の衣類を着用していることと形状の違うサングラスをしていること。だから全員の眼は隠れていた。 急に身体に負荷がかかる。この感覚を知っている。お嬢や鬼達が放つ敵意に近い。どいつが敵意を向けているかはすぐにわかった。ダークコートの男だ。となりの銀髪男はニヤニヤとオレを値踏みするように見ていた。 (こいつが一番強いのか) そう、喰う餌に敵意なんか向けるはずがない。だから女性とホスト風の男はオレの正体を見破ろうともしていない。 「戻るぞ」 低いバスの声。重厚な声のようにとても慎重だ。オレが特別な人間ではなく、普通の人間ではないと悟ったのだろう。さっきの奴の言葉では、こいつらの探し物はあくまで人間だ。 ガシャン!と後方の窓ガラスが割れた。振り向くと、そこには見知った連中がいた。 「やはり天野か。心!」 突如現れた心はオレの脇を駆けた。一番近いそれの肩に乗り、いつの間にか持っていた刀で首を跳ねる。そして首のないそれを踏み台にして上の階に跳んだ。 「おいおい、何だってんだ」 まさかのイレギュラーに戸惑いながらも金髪は危険を感じとり一歩前に出た。 心が上の階に跳ぶと、金髪は心目掛けて拳を振るう。意外にも動作が速い。オレ達に近いところがあるが、所詮は元人間で、速いと言ってもこちらからすれば標準だ。しかも心は不思議にも刀を瞬時に2本手にしている。右手にある刀が多少長い。右手にあるのが大太刀、反対が小太刀なのだろう。そして心は空中のまま身体を駒のように回転させた。 「グアアア!」 振るった腕だけではなく両腕を切断され、あまりの切れ味に切断面からは血がでなかった。 「オレ様の腕がぁ!・・・なんてな」 「なに!?」 声を出したのは心。しかしそう思ったのはオレを含めたこの階にいる全員だ。金髪の腕は、一瞬で元に戻った。いや、戻ったのではなく、あれは再生だ。何故なら切り落とされた腕がまだ空中に存在していたからだ。一瞬で再生するというのはどのようなことだろうか?オレには再生するやつなんて知らない。 「よっと」 回転が弱まり、まだ驚いている心の腹部ががら空きになっている。すかさず金髪は前蹴りを繰り出す。心は間一髪ガードが間に合ったが、衝撃で吹き飛ばされた。 「心!」 光は考える間もなく走った。 「行くぞ」 光の疾走と同時にダークコートの男が言い放つ。男は右腕を横に振るうとガラスが割れる音がした。 「まあ、仕方ないでしょう」 「ちっ、撤収だとさ」 「・・・」 4人は一斉に走った。光が跳び、上の階に着いた時にはすでに4人は外に飛び出していた。 「センパイも上に行きましょう。・・・センパイ?」 構わず外を見る。奴らは飛んでいた。もちろん比喩だが、家や電柱を踏み台にして移動する様は本当に飛んでいるように見えた。気がつけば、銀髪の男がこちらを・・・いや、オレ見た。眼が合うと、指を曲げて合図して笑った。 (やってやろうじゃないか) 「あ、センパイ!」 床を蹴る。垂直に跳び、崩れた天井の側面を足場に割れた窓に向かって飛んだ。 なにやら後ろから声が聞こえるが、無視。 (そうだ、それでいい) 脳裏に言葉がよぎる。オレの言葉ではないが、別に構わず挑発した奴の元へと駆けた。
|
|