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作品名:復讐者 作者:キョウ

第12回   発見
 夜、仕事から帰る人や遊びに勤しむ人々が交差点をかい潜りながら店から店へ移動している。終わることを知らない人の流れにいい加減飽き飽きしそうだ。
ビルの屋上。
 コートの裾が大きく揺れた。2、3歩めば地上に真っ赤な芸術を彩らせるが、面倒。下を覗き込むと、人が気持ち悪いほどいる。数なんてわからない、大量にいるのだ。まるで地球に沸く蛆虫のよう。
「さて、行こうか」
 20階下にいる人の形をしたものと目があった。その時点であれは普通の人間ではないことが証明された。オレ達ならば髪型までわかるが、人間ごときにそんな芸当はできない。不可能だ。
神秘を学んだ者か人外のどちらか…会えばわかるだろう。大体の察しはついているがな。

 コートを翻してビルの屋上を去る。体が熱い。久しぶりに反撃ができる獲物だ、興奮しないわけがなかった。

                     ◇
 街灯、ただそれだけがこの場を照らす存在。人間が密集している道からを一つ外れれば、嘘みたいに寂しい場所にでた。現在はさらに奥へと進むと、人が住んでいるかわからない古い家が立ち並んでいた。
 ゴミ箱を蹴飛ばす音がした。夜だからか、今日がゴミの日だからかわからないが、ゴミ箱は空で、蓋だけが寂しくどこかへいってしまった。

 それは障害物を蹴り、壁にぶつかり、電柱をかろうじて避けている。そんな危なげな足取りで前へ進んで行く。こちらが追い掛けているのを気がついているはずなのに逃げているようには思えない。
 誘っているのか?それならば都合がいい。
 ただ歩いてはすぐに追いついてしまうからゆっくりと歩調を合わせた。
 そうしてそれは、あるビルの廃墟に侵入した。ここに来るまでに幾つか廃墟を通りすぎたのを覚えている。ならば、ここには何かがある。

 ビルの入口は、錆び付いた工事の看板と古くなった緑色のネットが転がっていた。足を踏み入れると、パキパキと散乱したガラスのカケラを踏む音がした。しかし、ゴミがあるのは入口周辺だけ、内部はゴミ所かコンクリートで固めた鉄柱しかなく、寂しいほどにさっぱりしていた。
 フロアの中央に立ち辺りを見渡す。誰もいない、何もない。辺りは薄暗く、外から微かに入りこんでいる街灯だけがビルを暗黒から救いあげている。
 2階に上がる。何もない。3階、4階も同様。
 5階に上がるとようやく何らかの気配を感じた。街灯の明かりではもう何があるのかわからない。ただ、そこに何かがある、その程度だ。
  前方からガラスが割れる音がした。同時に足音が響いた。何故ガラスを割ったのか、何故逃げ出したのか、わからない。
 身体を回転させながらホルダーにあるナイフを抜き、右腕を鞭のように振るった。
 先の音を囮に後方から飛び出したそれは、頭部の左目上がごっそりと切断された。 ボトリ、と柔らかいものが詰まった硬いものが床に落ちる。普通ならば即死が決まった一撃だが、それは速度が緩まっただけだった。
 回転速度を維持したまま、左足で蹴り飛ばす。
 コンクリートの壁に叩きつけられ、何かが砕ける音が複数鳴り床に倒れ込んだ。それは壁に手をつけ、立ち上がろうとする。しかしその腕は手首手前で曲がり、間接がもうひとつ出来上がっている。そして背骨が折れているのか、上半身が動かず、踏ん張る役目を持つ足の片方が真逆に向いていた。
 どうも呼吸はしないようだ。なるほどな。
 オレは不様なそれの半分だけの頭部をサッカーのように蹴る。ボールは勢いよく飛び、どこかへ飛んでいってしまった。ここまでしてそれはやっと活動停止した。
(さて、次だ)
 ガラスが割れた方向に足を向ける。数M進んだところで一枚だけ足りない窓ガラスがあった。ガラスの破片は内側にばらまかれている。窓ガラス越しに外をみると、入口付近に黒い何かがうごめいていた。
 ドン!と背後から轟音。左足を引き、腕を突き出した。蹴破ったようにドアが倒れこむが、腕一本で事足りた。
 腕を引き、慣性により一瞬宙に静止したドアをナイフで薙ぐ。
 綺麗に切れたドアの向こうから現れたのは目が血走り、ヨダレを垂らした汚らしいそれだった。
 首筋に向け、再びナイフを戻るように振るう。ドアを切断した空間をなぞるようにナイフが走り、それは二つに別れた。分かれた内の一つがこちらに落下したから、左足を一歩前に出して避けた。
  そこでようやくドアが床に叩きつけられた音がした。
 ドアの向こう側は、円形の木製テーブルがいくつか配置してあった。部屋の中心にきたが、壁側は暗くてよく見えない。
 急に視界が明るくなった。ああ、そういえば今日は半月。今まで雲のせいで隠れていたけれど、月はあったのだ。そうして、部屋が月光で照らされ、状況を理解した。
 左右、窓下、そしてドア周辺にそれらはいた。
 数にして・・・メンドクサイ。
 それらは威嚇するかのように喉を鳴らしている。まるで犬だ。
 だが、まさかこのためだけに誘ったのか?これが罠?笑いを通り過ぎて呆れてしまう。
 ナイフを逆手に持ち変えた瞬間、それらは一斉に飛び掛かってきた。
(遅すぎる)
 垂直に跳び、最初に襲い掛かったそれの頭を蹴り窓側に跳んだ。
  パラッ、と先程までいた場所に粉のような物が落ちた。
 一斉に襲い掛かったせいでそれらは一カ所にいた。外側のは危険を察知し、逃げるように壁側に跳ぶ。
 刹那、天井が崩れ、崩壊音が響きわたる。
 逃げ遅れた半数のそれらは下敷きになり、コンクリートの残骸に紛れた。
「おいおい、とびっきりのご馳走だなぁ」
 崩れた天井の上から標記な声がした。
 見上げると話すことができるそれ達はいた。


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